第34話
「蛍」
「はい」
兄は私のそばに近寄ってから、髪を撫でた。
日焼けした肌。鍛えられた体。黒髪に黒目。すっきりとした印象を与える目の形が薄く睫に縁取られ、下から見上げると精悍で整った顔立ちが際立って見えた。
兄は私とあまり似ていない。
人に言わせればよく似ているらしいけど。
心配性でシスコンでやさしくて時々天然は兄が、本当は今も私が一人暮らしをしていることをよく思っていないのは知っていた。知っていて知らないふりをしている。春名さんが私を見る視線に、嫉妬の色が含まれているのことも知っていたから。
「取りあえず、眞夏くんのことは任せる。俺が横からどうこう言ってもあの子は聞かないだろうし、蛍の言うことも一理ある」
「うん」
「でも間違いがないとは言えないから十分気をつけること!」
「……一応、オトウトだよ。眞夏は」
「一応な」
はああ。とため息をついた兄に苦笑して、
「ありがとうお兄ちゃん」
と笑えば「くっ」と何かに耐えるような表情をした。
「いつも俺はその顔に騙されるんだ……。お前まじで気をつけろよ!男なんで年中やることしか考えてないんだからな!」
「それっておにいちゃんのこと?」
「俺は違う」
本当に?と疑いの視線を向けると、ああもう、と誤魔化すように頭を撫でられた。
……私も大概、この人のこれに弱いんだよなあ。撫でられた箇所がふわふわと熱を持ったのを自覚して内心ため息をついた。
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