第26話

「……あお、」


「そっか、じゃあこれにしよ」



私もこの百均で買ったのと言いながら、同色の箸やフォークにまで手を伸ばす。


次々と籠に入れるなかで、蛍はたのしそうな声で俺に話しかける。



時折見せる笑顔はやはり、やさしいものだった。



「コップとか歯ブラシとかタオルとかも買いたいね、眞夏選んで」


「……何言ってんのあんた」



これで十分なのに。



「え、だって泊まるんでしょ、これからも」



不思議そうに言う義理の姉は躊躇うことなく次の商品棚に移動していく。それに付いて行きながら「ほたる、」と呼びかけると「なあに」と答えるものの、視線は商品に向かったままだ。そんな蛍を他の客がチラ見していく。


ざっくりとしたカーディガンを羽織った蛍は、髪の毛を結い上げていた。化粧っけのない顔にはいつかのリップが朱色を乗せている。さっきから何人かにちらちら見られているのに気付いていないんだろうか。無防備に俺に見せる笑顔は、何人かの視線を釘付けにしていた。ふと、優越を感じた。こいつは俺の義姉なんだよ。見てんじゃねえばーか。

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