第5話

なんで来たのか、言う気がないならこれ以上問いただしても無駄だろうと思った。取りあえず、風邪引かないようにしてもらわないといけない。

6月とは言え、雨が降れば寒い日だった。





「……お風呂入る?」



声をかけると、鬱陶しそうに横目で見られる。

意味わかんねえ、とその視線が雄弁に物語っていた。


「あんたさ」



あんたって。




「うん」


「いきなり来たやつに風呂とか貸すのかよ」


「風邪引くよ。そのまんまだと」




傘ささないで来たんでしょ?と聞くと、ちっと舌打ちした後、「シャワーだけ借りる」と言って、立ちあがって廊下に消えた。




「………、」




外を見やれば、相変わらず雨が降っている。少し迷ってから、やっぱりお湯溜めのボタンを押した。


肩にかけていたトートバッグから携帯を取り出して、親から連絡が来てないか見たけど、特にこれといったものはなかった。うーん。あんまり関わりがない私のところに来るくらいだから何かあったことには間違いない。



家出だろうか。逆にこちらから実家に連絡を入れた方がいいのか少し迷ったが、やめておくことにした。



眞夏は、お兄ちゃんのお嫁さんの弟だ。


お兄ちゃんとお嫁さんはまだ結婚二年目で、新婚と言うこともありふたりで睦まじく暮らしている。眞夏は父親とふたりで暮らしているらしい。


らしい、というのはそのお父さんというのが結婚式にも顔を見せずに昼間から酒を浴びるように飲む人というので、会ったこともないから。



顔も知らない眞夏の父親に連絡することは、なんとなく躊躇われた。

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