第3話

「おい!優志。」


「え?!」


「お前うなされてたぞ。大丈夫か?」


夢…か。そうだよな。


「…あぁ。悪い夢を…見てたみたいだ。」


スキー場に向かうミニバンの後部座席に座っていた俺は、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


痛いくらいカラカラに乾いた喉にペットボトルの水を流してから額に手を当てると酷く汗をかいていて、ポケットからハンカチを取り出して拭うと、微かに土汚れがついた。



「え…?」

「どうした?」

「いや…何でも…」


(…現実なわけないか)

土汚れなんかで胸騒ぎがするのは、

変な夢を見たせいだ。


見て見ぬ振りをしてハンカチをくしゃっと丸め、

ポケットに突っ込んだ。




2列目の席に座っていた鷲見は俺を起こした後、坂井とヒソヒソ話をしながら二人で笑い合っている。

多分、2人は付き合ってるんだと思う。


なんの報告も受けてないけど。


俺には言いづらいんだろう。

中学生の頃、俺が坂井のことを好きだったから。


でもそれは昔の話だ。

俺達はもう大人で、

なんなら俺は明日で26歳になる。いい大人だ。


初恋の子と親友がそういう仲だって知ったところで不貞腐れたりしないのに。



運転は阿部、助手席には阿部の彼女(誰さんだっけ?さっき紹介されたのにもう名前を忘れてしまった。人の名前を覚えるのは苦手だ。)が座っている。


真黒なストレートヘアが印象的で、

白い肌がまるで作り物のように綺麗な女性だ。

いかにも着物が似合いそうな彼女はこれからスキー場に行くというのにラフな格好ではなく、

レースの襟がついたクラシカルなワンピースを着ている。


「阿部ー。あとどれくらいでスキー場に着くんだ?」


「うん。もうすぐの筈なんだけど、なんかナビが調子悪くて。」


阿部はミニバンを路肩に停めてスキー場のルートを再検索しはじめた。


「この道、さっきも通ったみたい。でも一本道だったよね。側道に入らなきゃいけなかったのかな?」


坂井がスマホの地図を阿部と鷲見に見せながら困惑したような顔でそう言った。


「あー。うんでも、側道なんてあった?」


阿部がナビの地図を拡大しようとした時、助手席の彼女はスッと腕を上げて指を刺した。


その方向に細い脇道があるにはある。


けど、スキー場への道がそんな細い獣道の様な側道の先にあるとは思えない。



「いや。ちゃんと道を調べてから行こうよ。」



そう言った俺の言葉はみんなに聞こえていない様で、誰からも返事は返ってこなかった。



阿部は無言でハンドルを切り、脇道に向かい始めた。いつもはうるさい鷲見も坂井も急に黙り込み、車内はシーンと静まり返ってしまった。





















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神隠 柚子香 @yuzunoka

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