第4章:新たな水路
エミリーの評判は、バーミンガムの運河地区全体に広がっていった。パブは、単なる酒場を超えた場所となっていた。
教育の機会を求める者、技術的な相談をする者、労働問題について話し合う者――。様々な人々が集まり、新しい知識と考えを分かち合う場所として機能し始めていた。
「こんな場所を作ってくれて、ありがとう」
若い女性工場労働者のメアリー・コリンズが言った。彼女は、エミリーの読み書き教室の生徒の一人だ。
「私がしたのは、ただ、場所を提供しただけです」
「いいえ、あなたは希望を与えてくれた。私たちにも学ぶ権利があると」
その言葉に、進は胸が締め付けられる思いがした。
かつての自分は、女性との関わりを恐れ、バーチャルな世界に逃げ込んでいた。その原因となった過去のトラウマ――厳格すぎる女性教師による心理的虐待の記憶が、今でも時折よみがえる。
しかし、エミリーとして生きる中で、女性たちの強さと優しさ、そして彼女たちが直面する困難を、身を持って理解するようになっていた。
「実は、新しい学校を作りたいと思っているんです」
エミリーは静かに語り始めた。労働者たちの子供や、働く女性たちのための、夜間学校の構想だ。
「でも、資金が……」
「それなら、私たちで少しずつ積み立てていけばいい」
メアリーは即座に賛同した。その言葉に、他の女性たちも頷く。
その提案は、予想以上の広がりを見せた。運河労働者たちも、我が子の教育のために協力を申し出た。さらに、エミリーの提案書に感銘を受けた運河会社の幹部たちからも、支援の意向が示された。
しかし、その動きは同時に、反発も生んだ。
「伝統的な価値観を破壊する」
「無用な知識は労働者の心を毒する」
「秩序が乱される」
保守的な層からの批判は強まっていった。特に、女性が教育を施すことへの反感は根強かった。
そんな中、思わぬ援軍が現れた。
「私が、校舎として使える建物を提供しよう」
運河技師のロバート・スティーブンソンだ。彼は、エミリーの知識と情熱に感銘を受けていた。
「これは運河を守ることにも繋がる。教育を受けた労働者は、より安全に、より効率的に働ける」
その言葉は、反対派の批判を和らげる効果があった。
こうして、バーミンガム運河夜間学校は現実のものとなっていった。
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