第3話 越後の魂に導かれて

 学が、活動を始めた当初は、自信満々だった。

 「私は、彼らを指導している。」

 ほこらしげに、えつっていた。


 しかし、支援員や事業所Mの職員たちは、冷めたかった。

 「指導するのは支援員の役目です。あなたは言われた通りにすればいいのです。」

 さらに、時には、こう𠮟責された。

 「何度言ったら分かるんですか!」

 学は支援員の言葉を、盲目的もうもくてきに受け入れることに、強い違和感いわかんを覚えた。それでは自分らしさを、失うと感じ、「指導」という言葉を「アドバイス」と言い換えて支援員たちと距離を置いた。


 当然ながら、学は、支援員たちの指示に従わないので、干され、無言の圧力にさらされて孤独だった。


 それでも、抵抗勢力の圧力に立ち向かい、この話を進めたかった。

 なぜゴウ、イナズマ、コトゲの三人に深く関わろうとしたのか?

 彼らは、それぞれ異なった性格を持っていたが、その中に成長の可能性があると、学は感じていたからだ。

 しかし、誰も彼らに目を向けることなく、彼らの存在は見過ごされていた。


 適切な指導を受けてこなかった彼らには、学習の習慣がなく、ただ漫然まんぜんと時間が、過ぎていくばかりだった。


 その姿に学は、あわれを感じた。


 地元には縄文・弥生時代の遺跡が残る「越後の里」がある。

 そこには昔から重要な魂が宿り、この地を守っているとされていた。

 学は、それこそが「越後の魂」だと信じていた。

 なぜ、自分に何の利益もない彼らのことに関わるのか。

 それは、理屈ではなく、ただ「越後の魂」があるとしか言いようがなかった。



   混乱


 それから2週間が経ち、「とある事業所M」で学は、5つの挨拶を彼らに習得させ様と働きかけていた。しかし、「はい」と「ありがとう」の区別はつくものの、「ありがとう」と「お願いします」の違いが理解できず、苦労していた。


 そこで学は、「こういう時は『お願いします』と言ってください」と指導したり、「今のは『はい』です」と伝えたりしていた。

 最も困ったのは、作業工程において、商品の転送や受け取り確認の際に必要な「はい」「お願いします」「ありがとう」の言葉が、なかなか発せられないことだった。


 学は「もう一度聞きます」と繰り返し、返事をもらうまで根気強く続け様とした。しかし、キョに、施したような技術を、彼らのような高レベルな人たちに用いると、かえって拒絶される。実際、学は、彼らから無視された。


 彼らに受け入れられるためには、工夫が必要だった。

 学は、時間を稼ぎながら、適切な対処法を見つけるため、忍耐強く粘る必要があった。それは、彼の人生経験が答えを導くことを知っていたからだ。

 学は思った。

 ——これは、彼らの人生を歩むうえで、重要なことだ——

 

 その考えに基づき、彼らに頭でなく体で、感覚で覚えさせる方法を模索していた。その核心は、機能的な表現を何度も繰り返すことだった。


 学は様々な方法を考えた。しかし、彼の編み出す手法は、彼らにとって、良いことかもしれないが、必ずしも彼らが望んだ事では、なかいかもしれない……。


 

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