ダンジョン一軒家
ちびまるフォイ
マイホームおすすめダンジョン
「ついにマイホームを手に入れたぞ!!」
念願かなって都心に一軒家を手に入れた。
夢の生活を続けていると嫌なニュースが飛び込んでくる。
『〇〇地区では、闇バイトと見られる集団が確認され
新しめの一軒家を見つけると押し入ってくる事件が多発しています』
「どうしよう……うちが狙われたら……」
防犯グッズでも用意しようかと思ったが、
一軒家を買った直後にそんな追加費用はない。
できることといえば「襲われませんように」と祈るだけ。
なんとも心もとない。
「ああ、この家が最初から防犯を考えられていたらなぁ」
そんなことを思いながら仕事のために家を出た。
仕事を終えて家に戻ると、そこはもう家じゃなかった。
「なんだこのダンジョンは!?」
自分の家があった住所には、一軒家ではなくダンジョンができていた。
どっかの誰かが勝手に作ったのか。
「と、とにかくまずは不動産屋だ!!」
『もしもし?』
「実は家がなくなって……ダンジョンになってるんです!!」
『ああ、もしかしてマイクロ・コンピュータのせいじゃないですか』
「マイクロ……?」
『あなたの家は自立思考・自律進化を促す
マイクロ・コンピュータが壁や床をはじめ全面に内蔵されています。
それにより家が急激な進化をしたものかと』
「ダンジョンになれなんて願ってないですよ!?」
『それに近しい希望を、家に要求したのでは?』
「あっ……」
家では繰り返し近くの強盗事件ばかりを見ていた。
それを見ている自分の独り言も防犯のことばかり。
それを聞き届けた家がある種完璧な防犯システムを内蔵したダンジョンへと自律進化したらしい。
電話を切ってからダンジョンに向かう。
どうやら家の主には問題なく作られているようで、
最深部のリビングまではなんの困難もなくたどり着けた。
「まあ……見てくれは違和感あるけど、住めるしいいか……」
できなくなったのは友達を呼ぶことくらい。
友達がいないことに気づいてからは少し泣いた。
翌朝、外の騒がしさで目が覚める。
「うーーん……なんだ? 声がする……」
ダンジョンののぞき窓から外の様子を見ると、
家の周囲にはひとだかりができていた。
「見てください。突如、住宅街に出現したダンジョンです!」
TVリポーターはカメラの前で熱弁している。
若者たちは度胸試しとばかりにダンジョンへ不法侵入。
「おいおいおい。俺の家なんだけど!?」
どう見てもダンジョンなのでそんなことは外の人に伝わらない。
続々と足を踏み入れては、ダンジョンのトラップに追い返される。
挑戦者をことごとく追い返す鉄壁の防犯にレポーターはヒートアップ。
「この難攻不落のダンジョンの奥には、いったい何があるんでしょう!?」
「俺だよ!!!」
自分のツッコミも届かない。
ダンジョンの噂は瞬く間に全国に広がり、観光スポットと貸した。
地質学者、血気盛んな若者、話題性に引き寄せられたやじ馬。
彼らの誰ひとりとして、これが一軒家の進化した姿だとは思えないだろう。
昼夜問わず挑戦してくるので家にいるのに落ち着かない。
「最近ずっと眠れてないなぁ……。
いっそ入口を閉じて誰も入れないようにするか……」
そんなことをすれば入ることも出ることもできない。
自分はこの
世界遺産として保護でもされれば、
安易に挑戦されなくなるだろうとも思ったが、
もとが一軒家なので登録はことごとく拒否された。
新しい一軒家を買うのもできないし、
別の場所に住むことも考えたくない。ローンだってある。
「はあ……誰にもこない場所で、静かに暮らせたらなぁ……」
そんなことを願いながら耳栓をして眠った。
そうでもしないと、針床トラップの作動音で夜な夜な目が覚めるから。
翌日は日が高くなってから目が覚めた。
「ふわぁ……よく寝た。こんなにゆっくり寝たのは久しぶりだな」
いつもはダンジョンのトラップ音や、挑戦者の声などで目が覚める。
今日は太陽の明かりや暖かさで自然に目が覚めた。
こんなのは家がダンジョン化してはじめてのことだった。
「さて、今日はどんな様子だろう」
外にいる挑戦者の様子を見た。
挑戦者はいなかった。
あるのはどこまでも続く砂漠の風景だった。
「え!? ど、どこだよここ!?」
砂漠の中心にダンジョンが移動していた。
あわてて家を出た。人どころか町すらない。
「やたら静かだと思ったら……。いったいなんでこんなことに」
振り返るとその理由がすぐわかった。
もとは一軒家だったダンジョンはさらなる進化をしていた。
「あ……足が生えてる……」
ダンジョンの横からは4本の足が生えていた。
よくよく見れば砂漠には歩いてきたであろう足跡が残っていた。
「家……お前、まさかここまで歩いてきたのか」
自分が寝ている間に家はふたたび進化をして足を生やした。
そして夜の間にこの誰もいない砂漠まで移動してきたのだろう。
そんなことをした理由には察しがつく。
「お前、俺が家の中で静かに暮らしたいと言ったから
進化して静かになれる場所に連れてきてくれたのか?」
ダンジョンは嬉しそうに炎の吹き出しトラップを作動させた。
「ありがとう。おかげでよく眠れたよ。
それじゃ、元の場所へ戻してくれ」
ダンジョンの中に入ると、足がうごいて元の住所まで進んでいった。
二度寝して目が覚めたときにはまた元の場所へ戻った。
それから数年後。
家からは小さな別荘が生まれ、今はその
「はやく大きくなって、暮らしやすい家になれよ~~♪」
ダンジョンで暮らすのも悪くないなと思った。
ダンジョン一軒家 ちびまるフォイ @firestorage
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