襲い来る天使
「丸ごと全てなくなっただと!? 馬鹿な!」
たとえミサイルを打ち込まれて大破したとしても発信器は残るような設計になっている。緊急時自制して分散するからだ。それさえもないという事は、ステーションまるまる一つが全て同時に消失したということになる。さながら巨大な生物に一飲みされてしまったかのように。
「大尉から連絡です、自分が戻るまで現場で待機せよとのことです」
「待機なんてしていられるか! それは他のステーションと同じ結末になるだけだ!」
同じことが起きたのではないかという直感だ。最初はほんの小さな違和感、何かがおかしくなりやがてシステムのエラーになり原因を調査している間に丸ごとやられた。
「各パイロットは即発進しろ!」
ビジターの命令に一気に慌ただしくなる。戦闘機から調査用小型探査機まで、割り当てられた役割の機体に全員が飛び乗りすぐにステーションから飛び立った。
「温度、ガス、光量、なんでもいい。何か気がついたことがあったら報告を!」
「ラジャー!」
情報収集と警戒のために一斉にステーションの周辺に散っていく。ほんの少し沈黙が下りたが。
「え、あ? なに?」
「どうした、レオン!」
「ひ、あ、あああ!? 天使だあああ!」
音声はすぐに途切れた。何度呼びかけても部下のレオンから応答がない
「レオン機、ロ、ロストです」
オペレーターが震えながら報告する。部下の死に一瞬感情が揺らぎそうになったがすぐに頭を切り替えた。
「場所は!」
「あ、PJ653、KGQ4556……これは。カイパーベルトとの直線上です!」
アイリスがあったところからこのステーションへの一直線の線上にいたレオン。つまり、カイパーベルトから何かがやってくる。ステーション八つを滅ぼした、恐ろしい何か。
「全員カイパーベルトの直線上から離れろ!」
今の通信はすべてのパイロットに聞こえている。放射状に散ってすぐに戦闘配備になるものの。
(おかしい、何かに気づいたのなら先に報告をするはずだ。驚いた声が先に来たという事は、戦闘機のシステムでは何も捉えられなかったのか)
「ヴァーチェ、データに異常は」
『ありません』
ステーションのAIは常に周辺のモニタリングを続けている。何かあればすぐにアラートを出すので、今まで沈黙してきたということは何も異常がないということ。同じだ、レオンと。
つまり肉眼で確認した、もう目の前に来ているのを自分の目で見て驚いたということだ。何が来るのか? いや、レオンは確かに言っていた。
天使。
『現時刻をもってすべてのシステムをダウンします』
「ヴァーチェ!? 何を言ってるんだ!」
突然のAIの勧告に全員が混乱する。ステーションでAIの機能が停止するというのは、ステーションはただの金属の塊になったということになる。各戦闘機は個人の操縦で何とかなるものの、AIのバックアップ前提で訓練されているため生存率が著しく低下した状態だ。
「本当に未知の生物からの攻撃なのでは!?」
「落ち着け! もし仮にそうだとしても俺たちはまだ生きてる!」
悲鳴のようなオペレーターの声に、ビジターはなるべく怒鳴りつけないように気をつけつつ励ますように言った。
「俺たちはAIに依存して生きてきたが、AI稼働停止訓練を受けてきたはずだ。全員訓練通りに行動しろ、指示は俺が出す」
力強いビジターの声にようやくほっとした様子でオペレーターも返事をした。AIに依存して生きてきた者たちにとってリーダーというのは必須である。
(ここから文字通り、俺の言葉一つに八十九人の命がかかってるわけだ)
ビジダーとてステーション生まれの三世、皆と思考力はそう変わらない。こういう時頼りになるのは、自分の意思で苦境を乗り越えてきた二世の世代。ここでは大尉なのだが。
(大尉?)
自分の思考にわずかに違和感を覚えた。そうだ、先程のヴァーチェの言葉。あれは突然トラブルが起きてダウンしたのではない。
(予定されていたプログラムを遂行するときの言い方だ!)
その決定権を持っているのは、施設最高責任者。
「クソ、嵌められた!」
「え!?」
「レスカ、ドルモのクソ野郎に通信しておけ! 最後の時が気色悪いテメエと一緒じゃなくてよかったってな!」
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