第57話 手合わせの終了とレベルについて
ララとベルガさんの手合わせが始まり、タイミングを図って少し見合っていた2人だが……先に動いたのはベルガさんだった。
「ふっ!」
ザッ!
ララが持つのは長大な両手剣なので、ショートソードの二刀流である自分のほうが素早く動けると判断したようだ。
見物人がいるこの状況で負けてしまうと、自分のみならず所属している"金戦華"の評判にも影響する可能性がある。
それを避けるためにも、先手を取って有利に事を運ぼうとしているのかもしれない。
そんな彼女は左右から次々と剣撃を繰り出すが……
ギンッ、シュッ、ギャリンッ!
ララはその攻撃を最小限の動きで、受け、躱し、受け流す。
「……」
ベルガさんは大手の冒険者グループで幹部を務めているそうだし、あの動きから見ると納得できる程度の実力はありそうだ。
純粋な身体能力以外に、何かスキルでも使っているのかな?
少なくとも、イスティルで雇われた護衛達に比べると明らかに上回っているように見えた。
そんなベルガさんの剣だがララにはまともに当たらず、それを見た隣のギルド長が驚いている。
「おいおい、ベルガは身体能力を強化するスキルで並の男数人分の実力があるってのに……」
おお、ベルガさんも身体能力を強化するスキルを持っていたのか。
それでもララが動じずに捌いているのは、現時点では自身に迫るほどのものでもないということだろう。
彼女はA級下位だったと聞いているが、A級中位だというベルガさんは小手調べの段階なのかもしれない。
そう思っていると彼女は不意に飛び退り、ララと距離を取って足を止めた。
「フゥ、フゥ……貴女、只者じゃありませんね」
まだ全力ではないのだろうが、呼吸を乱すベルガさんはララの実力を測りかねているようだ。
そんな彼女にララが答える。
「まぁ、色々と事情があってね」
「なるほど、訳ありということですか。その剣も明らかに普通の物ではないようですが、マジックアイテムですか?」
「これも訳ありね。出所は秘密だけど」
「そうですか……」
スッ……ジャリンッ
ベルガさんは再び仕掛けようとしてか、2本の剣を交差させると軽く擦り合わせた。
すると……
ボッ
「っ!?」
ベルガさんの剣がどちらも炎を纏い、それを見たララは警戒を強める。
剣に入っている溝がぼんやりと光っているように見えるが、あの剣はマジックアイテムだったのだろうか?
ララもそう予想したようだ。
「それ、マジックアイテムだったのね」
「ええ。この炎は魔力によるもので、触れれば簡単には消えません。なので……軽い火傷で済むうちに降参してくださいねっ!」
ザッ、ボボボッ!
ベルガさんが再び攻撃を始め、炎を纏った剣がララを襲う。
それを彼女はとりあえず剣で防ぐことにしたようだが……2人の剣が接触する。
ギャリリンッ
フッ
「えっ!?」
ララが自身の剣で受けたのだが、そこで驚いたのは仕掛けたベルガさんのほうだった。
彼女の剣が纏っていた炎が消え去ったからだ。
それに対して、ララは特に驚いた様子でもない。
その理由は予想できた。
「どうして炎が……?」
「詳しく調べたわけではないけど、この剣は魔法の効果を打ち消すみたいね」
ベルガさんの問いに答えたララの言葉に、あの剣が俺の能力で操れなかったことを思い返す。
あの剣はスキルだけでなく、魔法の効果も受け付けないようだ。
「くっ、ならっ!」
ジャリンッ!ボッ!
ここでベルガさんは再び剣に炎を纏わせ、片方の剣をララの剣に触れさせないように攻撃を仕掛ける。
しかし……
ガッ!ガッ!……シュッ!
ララは大きな剣にも関わらず素早く2本の剣を弾き、剣の炎を消すと今度は自分自身の姿をその場から消す。
スッ
「っ!?」
その姿が現れたのはベルガさんの背後であり、彼女が気づいたときには既に首筋へララの手刀が触れていた。
「全く敵わなかったわ」
あの後ベルガさんは降参し、ララと手合わせをした感想をそう述べる。
その隣では……彼女の妹であり、ギルド員でもあるマリベルさんが悔しそうにララを見ていた。
「ぐ……」
「こら、そんな目で見ないの」
それを窘めたベルガさんがララに尋ねる。
「ルルさん、少なくとも私よりは身体能力強化のレベルが高いのね。おいくつなのかしら?」
「……レベル?」
首を傾げて聞き返すララ。
それは俺も同様であり、俺達の様子にベルガさんが質問を重ねる。
「えっと、自分を鑑定してもらったことがないのかしら?スキルや魔法の適性があれば、その度合に応じたレベルが表示されるはずだけど」
「ほう」
彼女が言うのは冒険者ギルドで鑑定のマジックアイテムを使って調べることなのだろうが、総合的なレベルはなくとも特殊能力についてはレベルがあるのか。
"完全認識阻害"という能力を持っていた、青いゴブリンのモノを鑑定したときは表示されなかったんだがな。
その点について聞いてみると、こんな答えが返ってくる。
「あぁ、能力によってはレベル自体がないこともありますね。有名なところだと"不朽"でしょうか」
「不朽?」
「ええ。木の魔物が持っている能力で、殺さない限りは朽ちないという能力です。その影響で放っておくと際限なく成長し、非常に危険な魔物になると聞いています」
なるほど、自然に枯れないので成長し続けるということか。
危険度が上がるのも当然だな。
にしても……"完全認識阻害"にレベルが表示されなかったのも、度合いがないからだったということか。
"完全"というところが重要だったのかもしれない。
まぁ、レベルがないからと言って気は抜けないってことだな。
そう思っているとベルガさんがララに聞く。
「ギルドで鑑定してもらったら?レベルによっては最初から高いランクで登録できるわよ?」
身体能力の強化という能力であれば汎用性が高く、ある程度は難易度の高い仕事もこなせると判断されるからかな。
しかし、正体を隠しておきたいララは当然ながらそれを断る。
「別にいいわ。登録するつもりはないから」
彼女がそう答えたところ、今までの話を聞いていなかったかのようにギルド長が口を挟む。
「ハッハッハ!まさかA級中位の相手に勝つとはな!まぁ、あの動きを見てベルガが弱かったと思うやつはいねぇだろうし、いい人材も見つかっていい事ずくめだな!」
ギルド長は機嫌良さそうにそう言うが……俺は尋ねる。
「いい人材って?」
「いや、ルルって言ったか。冒険者じゃねぇって聞いたが、少なくともA級相当の実力者が新しく見つかったんだ。性格的にも問題はなさそうだしよ、だったらせっかくだし冒険者登録させてってくれよ。優秀な冒険者を見出したとなりゃ本部からの評価も上がるしよ」
「えっ」
それはまずい。
ルルを名乗るララは冒険者として登録しているし、そのデータが残っていれば正体がバレる。
彼女は自身の生存を隠しておきたいのだし、新たに登録をという流れは都合が悪いのだ。
だからララはさっきも登録するつもりはないと言い、暗に鑑定するつもりもないと言っていたのだが……どうするかな。
するとララがそれに返答する。
「お断りするわ。私はジオのためにしか動くつもりはないし、冒険者として依頼を受けるつもりはないから」
それを聞いてギルド長は俺に尋ねる。
「おいおい、お前さんはF級だよな?ランクの高い依頼を受けられねぇし、戦力としてはその娘を持て余してんじゃねぇか?」
「別に、適度に稼げて生きていければいいんでね。戦力に余裕があるのは良いことでしょう?」
「それはそうだが……」
「まぁ、評価に関しては諦めてください」
そう言った俺に、ギルド長は顎に手を当てて言葉を返す。
「いやぁ……ハッキリ言って、それはついでだからいいんだがよ。いきなりA級としては登録できねぇが、鑑定して身体強化のレベルが分かればそれ次第でA級相当の仲間がいるってことになるしお前さんにも好都合だぜ?お前さんが監視役って言ってもまだランクが低いからよ、それで商隊の護衛だった連中は盗賊になったようだしな」
「えっ?」
どうやら、盗賊になったサベリオ達の取り調べでそういった話が出ていたらしい。
俺の影響で街から出ようとしていた連中だったはずだが……俺の力を恐れたというよりは、あくまでも治安の良くなった街に居づらくなったというだけなのかもしれないな。
俺がA級の連中を捕縛したことは知られていたはずではあるものの、実際に見ていなかったことと俺のランクが低いことから誇張された噂だと疑っていたようだ。
うーん、まだアピール不足だということか。
エルゼリアの件は2件とも依頼というわけではなく、俺のランクにはあまり影響がなかったからなぁ。
まぁ、この街から出発するときにはベルウェイン商会から指名依頼を受ける形になるし、"遺跡"までの道中で立ち寄る人里で1,2件ずつでも依頼を受けていくことを考えよう。
とりあえず……ララを冒険者として登録させる気はないと言っておき、この場での用事は済んだということで街へ戻ることにした。
街へ入るとギルド長は名残惜しそうに冒険者ギルドへ帰っていったが、マリベルさんはベルガさんと共に俺達の宿へ着いてくる。
そうなった理由は……手合わせを見ていた観客だ。
あの後、2人の戦いを見てララと彼女を連れている俺を勧誘しようとする冒険者や商人が出てきた。
その数が結構多く、いちいち断るのが面倒なのでベルガさんに協力してもらったのだ。
大手のグループに所属している彼女が、俺達を勧誘している最中だと見せかけて他の勧誘を防ぐという形である。
それに加えてギルド員のマリベルさんが同行することになり、これで一見すると冒険者ギルドが間に入った公式な交渉であるかのような体裁になった。
マリベルさんが協力するのは、手合わせの件が広められたことを俺達に連絡しなかった落ち度によるもので、それを追及したベルガさんに言いつけられたからである。
ただ、その点で言うとメルクスも怪しいんだよな。
商人であれば情報に敏感だろうし、手合わせの件が広まっていればその情報を入手していたのではないだろうか?
その疑念を抱きつつ宿に戻ると、食堂で部下の一部と席に着いていた彼がいた。
「ん……?あぁ、おかえりなさいお2人とも。ベルガさんとマリベルさんもご一緒なのですね」
「ええ、まぁ」
「お怪我などはなさそうですが、手合わせのほうはどうでしたか?」
ララとベルガさんの様子を見てそう聞いてくるメルクスに、俺は手合わせの件が広められていたことについて問い質す。
「ララが勝ちましたよ。それは良いんですが……手合わせの件が広まって観客が来るのを知ってませんでしたか?」
「あぁはい、知ってましたよ」
彼があっさりと認めたので問い詰める。
「俺達に言わなかったのは?」
「えーっと……」
微妙に気まずそうなメルクスが答えた。
「夜に部下をギルドへ向かわせて、引き渡した賊からの情報を教えてもらおうとしたんですが……その時にはもう手合わせの件も広まっており、お2人もすでにご存知なのではないかと思いまして。部屋に行って確認しようかとも思いましたが、その時にはもう
「「っ!」」
「「……」」
俺とララは一気に気まずくなり、ベルガさん達に目を向ければ頬を赤く染めている。
こっちのせいだったか……
しかしここで疑問が残った。
「朝にでも教えていただければ良かったのでは?」
朝食は一緒に取っていたので、その際に確認することは可能だったはずだ。
その問いにメルクスが答えた。
「確かにそうですね。ですが……私としましては、お2人の力をもっと広めるべきだと思いまして」
「あぁ、ギルドに使いを出したんでしたっけ。サベリオ達の話を聞いてのことですか」
「ええ。連中に他の仲間や盗賊の繋がりがある可能性を確認させたのですが、その際に連中が事を起こした最終的なきっかけがお2人の実力を誇張された噂だと思っていたからのようでしてね」
「……なるほど。その必要があるということは、連中には繋がりのある盗賊がまだいるってことですね?」
「ええ。どの程度の繋がりなのかはわかりませんが、少なくとも自分達で消費しきれない分を取引する相手がいたようです」
それで俺とララの実力を広める必要があると判断したか。
まぁ、俺としてもその必要はあると考えていたところなので、メルクスが観客のことを伏せていたのは不問にしよう。
「わかりました。俺もそれ自体は必要だと思っていましたから」
「申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げたメルクスだが、頭を上げるとベルガさん達が一緒であることについて尋ねてきた。
「それで、ベルガさん達がご一緒なのはなぜでしょう?」
そこで俺はその経緯を説明したのだが……それを終えたと同時にマリベルさんが頭を下げる。
バッ!
「その……私も同行させてください!」
「「はぁ?」」
そのお願いに、俺とメルクスの声が重なった。
変幻G在! ~ゴーレム頼りで異世界サヴァイヴ~ いけだけい @ikedakei0312
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