第55話 護衛の補充
"遺跡"へ向かう途中でファースレイという街に到着し、道中で護衛から盗賊になった連中を冒険者ギルドへ引き渡した。
それにより、ギルド長のガイラス氏から減った分の護衛を補充してはどうかと提案される。
俺が魔石を吸収することにより魔力の補給をできることは、捕らえた盗賊連中の護送をするためにベルウェイン商会へ明かす必要があった。
なのでその事自体は秘密にするのも難しいだろうと考え、俺は護衛の補充を承諾する。
「では、受付のほうで護衛の依頼を……」
冒険者ギルドのギルド長室にて。
ベルウェイン商会の商隊を率いるメルクスがそう言うと、そこでガイラス氏がそれを引き止める。
「あぁ、ちょっと待ってください」
「なんでしょう?」
「実はですね、今この街には"遺跡"から一時的に帰ってきている冒険者がいまして」
「……」
スッ
ギルド長の発言に彼の隣にいるマリベルが目を細めた。
なんだ?と思っている間に話は進む。
「ほう、"遺跡"からですか。一時的にということは、向こうへ戻られる予定だということでしょうか?」
「ええ。向こうじゃ大手のグループに所属して幹部になっている者なんですが、仲間というか部下達を連れて帰ってきておりましてね」
「その方をご紹介いただけると?」
「はい。受けてくれるとは限りませんが、口添えはさせていただくつもりです」
「人数は何人ぐらいでしょう?物資の都合もありますので確認したいのですが」
「本人を含めて21人だったはずです。そちらを襲った連中は30人を少し超えるほどでしたので少なくはなりますが、その冒険者はA級中位の実力者ですので戦力に不足はないかと」
へぇ、A級の中位か。
ララがA級の下位だったから、彼女以上の実力だということになるな。
部下もいるそうだし、連携は上手くやれそうなので戦力的には問題ないだろう。
"遺跡"で活躍する大手グループの所属であれば、途中で盗賊になったりする心配もない。
そう判断した俺はこちらを窺うメルクスに頷き、それを受けて彼はその冒険者達に取り次いでもらうことを決めた。
しばらくして。
宿に戻った俺達の下へ冒険者ギルドから連絡が入り、あちらが推薦した護衛候補の冒険者と会うことに。
もう暗くなるので明日になるかと思われたが、先方は今からでも構わないとのことだった。
よほど腕に自信があるのかな。
まぁ、こちらとしても先を急いでいて都合がいいということで、メルクスと共に指定された飲食店へ向かうことにする。
かがり火やランタンが目立つほどの暗さの中、到着した俺達の前にあるのはごく普通の飲食店だった。
キィッ
ワイワイ……ガヤガヤ……
入ってみれば……外観通りに酒場と言うより飲食店で、比較的きれいな内装になっている。
いくつものテーブルにはそれを囲む客がおり、賑やかではあるも穏やかだ。
冒険者らしき集団も居るが……特に揉め事を起こすでもなく、大人しく飲食を楽しんでいる。
そんな中、女性店員が俺達に寄って来た。
「いらっしゃーい!お2人?」
トトッ、プルンッ
彼女が足を止めると大きめの胸が揺れる。
中々の美女であり、他の女性店員も見れば平均レベルは高いことがうかがえた。
結構大きな街だけあって飲食店は多く、なので給仕の仕事も多くなり手を選別することもないかと思ったのだが……街が大きければ人も多く、やはり接客業ともなると外見で選ばれることになっているようだ。
そんなことを思っている間に、メルクスが目の前の女性店員に対応する。
「待ち合わせでして、冒険者のベルガさんという方とお会いする予定なのですが」
「あぁ!はいはい、でしたらこちらでーす!」
用件を聞いた店員は合点がいった顔をすると、俺達を店の奥にあるドアの前まで案内した。
「ベルガさんはこちらの個室におられます。ベルガさーん!」
コンコンコン
そう言いながらノックした店員に、部屋の中から応じる声が聞こえてくる。
「なぁに?」
「待ち合わせだというお客様が」
「あぁ。お名前は?」
「あ、何でしたっけ?」
振り向いて尋ねてくる店員にメルクスが答えた。
「ベルウェイン商会のメルクスです」
その声は部屋の中にも届いたようで、店員が伝える前にドアが開かれる。
カチャッ、キィッ
「お待ちしておりました。"
そう名乗って俺達を迎えたのは……何故かドレスを着ていた女だった。
個室に入り、店員に注文をすると席に着く。
「改めまして、ベルガです」
「メルクスです」
「護衛のジオです」
正面の席に着いたベルガさんは長くて暗い青の髪を途中から三つ編みにしており、それを肩から前に垂らしている。
彼女が会釈をするとその三つ編みが大きく膨らんだ胸に沿って前に流れ、体勢を戻すと元の位置に帰っていく。
その胸を始めとして身体を包む薄いピンクのドレスは、下品すぎない程度だが大きく胸元が開いていた。
なんでドレスなんだ?
そんな疑問を抱いていると彼女が話を進める。
「それで、"遺跡"の街まで護衛をと聞いておりますが」
「はい。護衛対象は私を含めて……」
メルクスが商隊の構成を伝え、それを聞いたベルガさんは軽く頷くと質問してきた。
「こちらは私を含めて21人ですが、見ての通り私も含めて全員女となっております。それでも構いませんか?」
「はぁ、こちらとしては構いませんが……女性であることに何か問題が?」
メルクスのその返答に、ベルガさんは少し意外そうな顔をして言葉を返す。
「問題はありますね。女ばかりですと、どうしても力は男に劣ると見られますので」
「あぁ……簡単に言えば侮られる可能性が高くて、盗賊や知能がある魔物に襲われやすくなるのではないか、と」
「そういうことですね。それでも我々で構わないのでしょうか?」
値踏みするかのような目で問いかけてくるベルガさんに、メルクスは少し考えるとそれに答える。
「そうですねぇ。ギルド長の推薦ですし、"金戦華"のことは少し聞いたことがある程度ですが……"遺跡"では女性のみでありながら、多くの成果を上げて大手のグループになっているとお聞きします。その中で幹部にまでなられている上にA級中位ともなれば実力は十分でしょうし、部下の方達もこの街まで無事に到着されているそうですから問題はないのではないでしょうか?」
「では、我々が女であることに不安はないと?」
「んー……戦力的にはありませんね」
「……」
メルクスの返答を受け、ベルガさんは彼をじっと見つめると……フッと力を抜いた表情を見せた。
「フゥ、本気のようですね。では、そちらがお望みなら護衛はお受けします」
「おお、では是非とも」
「わかりました。では報酬の話ですが……」
先ほどのやり取りからすると、やはり女であることが冒険者としての信頼性に影響しているのだろうと思われる。
彼女が言った通り、力仕事が主だろうからな。
魔法やスキルがあるのならその差を埋めたり上回ったりできるのだろうが、それも一般的に持っている力ではないだろう。
その影響で雇用主に侮られ、報酬をケチられたりなど待遇に問題のあることがあるのかもしれない。
それを裏付けるように、メルクスの発言にベルガさんは驚いた顔をする。
「あぁ、水や食料はこちらで持ちますよ」
「え?費用を出していただけるのですか?」
「費用も出しますが、運ぶという意味でもありますね」
「いや、21人分ですしそこまでしていただくわけには……」
待遇の良さに驚いたようだ。
商隊である以上は商品で荷台を埋めるのが普通だろう。
そこで護衛の荷物を積んでしまえば商隊の利益を損なってしまうと考えてか、ベルガさんは遠慮しているようだった。
そんな彼女にメルクスが答える。
「大丈夫です。こちらのジオさんは魔法で水を大量に出せますので、そのぶん荷台が開くのですよ。なので、そちらによほど大食らいの方がいらっしゃらなければ問題はありません」
これは事前にメルクスと話していたことだ。
魔石を吸収できることを教えたので、ならば水は俺が出すことにして荷台を空け、護衛達の荷物を載せてあげれば早く進めるだろうと提案したのである。
その提案について、ベルガさんは俺に聞いてくる。
「ジオさんはギルド付きの監視役でもあるとお聞きしておりますし、実力は確かなのでしょうけど……その、馬の分も含めれば相当な量の水を出していただくことになると思います。それでは護衛として戦力にならなくなったりはしないのでしょうか?」
当然の疑問、というか懸念点だ。
魔力というリソースを戦闘以外のことに費やしてしまえば、どうしたって護衛としての行動に影響が出ると思うだろうからな。
その点についてもメルクスとは話してあり、彼にはこの街や道中で魔石を仕入れてもらうことになっている。
もちろん荷台を圧迫しないよう、事前に吸収してしまうので荷馬車の運行に支障は出ない。
ただ、魔石の購入費用については俺の報酬から天引きとなっており、それで足りなければ俺が支払うことになっている。
どうせ俺は魔石を必要とするし、自分で購入などすればマジックアイテムを持っていると誤解されてそれを奪おうと襲われかねない。
となれば魔石は他人に仕入れてもらい、外部の人間にはその用途が売買であると思わせるほうが都合は良いのである。
まぁ、売買した記録がなければメルクスやベルウェイン商会が怪しまれると思うが、どこにも使った様子がなければ調べようもないだろうからな。
というわけでベルガさんの問いに答える。
「問題ありませんよ。俺の魔力は豊富ですし、それに護衛も十分な実力を持っておりますので」
「は、はぁ……」
納得していなさそうな顔だ。
まぁ……俺達に十分な力があるといっても、彼女はそれを聞いているだけだからな。
ここで俺は思いついた。
ベルガさんはA級中位だというのだし、昔の話だがA級下位だったらしいララと手合わせをさせてみれば良いのではないだろうか?
近い実力であればその程度を把握しやすいだろうし、安心してベルウェイン商会の護衛を引き受けられるかもしれない。
正体を隠しているララではあるが、現代で活躍している冒険者なら気づかれないだろうからな。
問題は場所か。
冒険者ギルドにはちょっとした訓練場があるものの、ギルドに30年以上勤めている人がいればララに気づいてしまうかもしれない。
となると……実戦を想定して、などと理由をつけて街の外でやらせるか。
俺は早速提案してみる。
「では、俺の護衛と手合わせしてみませんか?」
「手合わせですか。それは構いませんが、日程の方は大丈夫ですか?」
問われたメルクスがそれに答える。
「物資の仕入れもありますし、少しぐらいは問題ありませんよ」
それを聞いたベルガさんが俺に答える。
「ではお受けしましょう。ただ……私がA級中位だということはお伝え下さいね?」
そういって手合わせを受けたベルガさんの顔には、実力に裏付けされているであろう自信が表れていた。
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