第54話 ファースレイ到着と賊の引き渡し

サベリオ達の襲撃から一夜明け、ベルウェイン商会の護衛は俺とララが正式に受けることとなった。


手続きは次の街に到着してからということになるが、現場で直接依頼を受けることはそれなりにあるので事後にギルドで対応してもらう体制があるそうだ。


信用できる相手でないと手を貸したのにその手続きをしない、食い逃げのようなことをされる場合もあるらしい。


まぁ、問い詰められて刃傷沙汰になる可能性があるので、それに対応できる戦力がない限りはちゃんと手続きをするのが無難だとされているようだ。


ベルウェイン商会の場合は"遺跡"まで遠出して自前の戦力がない上に、俺達以上の戦力を雇うぐらいなら普通に俺達との護衛手続きをするほうが安く済む。


こちらも法外な金額を提示するつもりはないと言ってあるしな。


そんなわけで……商隊の護衛となった俺とララは捕らえたサベリオ達を連れ、翌日の夜明けとともに野営地から出発した。





ガラガラガラガラ……


「……」

「……」



開けた街道を無言で進む。


ララには最後尾でサベリオ達の監視と後方の警戒を任せてあるので、俺は車列の中間に位置するメルクスと同じ馬車の荷台に乗って周囲の警戒をしていた。


護送車を"氷の手"で引いているのでそちらの魔力量も気にしなくてはならないが、そちらは見ていなくてもわかるので警戒に集中できている。


そんな中でも俺は一定の距離で地中に魔石のゴーレムを埋め続けており、ケイロンとの通信実験を行っていた。



(そんな事があったのかー)



ついでに護衛が盗賊になったことを伝え、それを聞いた彼女?はそんな反応をするとこんなことを言い出す。



(じゃあ、ギルドに報告しておくのだぜ)



万が一逃げられる可能性もあるし、そのほうが良いかとは思ったのだが……ここはそれを止めておく。



待て、それだとこの通信のことがバレる。


(マスターはこの通信のことを秘密にしておきたいのか?)


そりゃあな。これを使っての連絡員なんて頼まれると面倒だ。


(ふむ。まぁそうなると"遺跡"に入る機会を削られそうか。わかったのだぜ)



そうしてケイロンを納得させると、通信実験と共に現状の説明を終えて通信を切った。





昼休憩を挟んで進行を再開すると、夕暮れ前に次の街に到着する。


その街はファースレイと言ってこれまでで一番大きく、それ故に中へ入る人達も多く検査を受ける列は複数あったがどれも長かった。



ザワザワ……



俺達はそのうちの1つに並び、護送車の中にいる男達が注目される中で商隊の1人が門へ走った。


サベリオ達は食事を与えておらず逃げられる可能性は低いが、捕らえている人数が人数なのでその処理には人手が必要だろうと考え事前に伝えておくそうだ。


その連絡を終えて戻ってきた商会員が門での検査に街の衛兵が増員されるとメルクスに伝え、順番が進むごとに門で待ち構える兵士が増えていった。


そうして俺達の商隊に順番が回ってくると、商隊の代表者であるメルクスが検査の担当者に対応する。



「担当のフレットです。貴方が商隊の代表者ですか?」


「はい。ベルウェイン商会のメルクスと言います」


「盗賊になって襲ってきたという護衛達を捕らえてあるそうですが……」


「はい、あちらの荷車です」



そう言ってメルクスが商隊の最後尾にある護送車を指し、フレットさんが増員された兵士達を向かわせて囲ませた。



「彼らのギルド証は回収されてますか?」


「はい、こちらに」



2人の話は進み、メルクスは拘束時に回収しておいたサベリオ達のギルド証をフレットさんに渡す。



「……確かに人数分ありますね。彼らを捕らえたのは?」


「そちらのジオさんとその護衛のルルさんです。ジオさんはイスティルでギルドから冒険者の監視役を任され、何件もの問題を解決しておられます」


「ほう、監視役に?」


「ええ。そう長く滞在されていたわけではありませんが、その結果イスティルの治安は良くなったのです。その影響で居づらくなった冒険者が町を出ようとして、そのついでに……といったところかと思われます」


「なるほど……まぁ、その辺りのことは本人達からも聞くとしましょう」



そう言うとフレットさんは他の担当者達と共に商会員や商隊の荷物を検査し、それを終えると護送車の方へ向かう。


俺とメルクスもそれに同行すると、まずは護送車を引く大きな"白い手"について尋ねられた。



「……あの、これは?」


「俺の魔法で作り出した物です。こういう風に」


ゴポポッ……ピシッ



フレットの前に拳を突き出し、魔石を握り込む形で水のゴーレムを球体で出すとそれを氷に変化させる。



「な、なるほど。しかしそれでこの人数が乗る荷車を引いてきたとなると相当な魔力が必要だったのでは?」



それ自体には驚きつつも納得した彼だが、やはり荷車を引くことによる魔力の消費量が気になったようだ。



メルクスには魔石を吸収できるということにしてあるが、それが公になると魔石の窃盗を疑われた場合に無実の証明が難しい。


"格納庫"の中を確認してもらうには最低でも相手にゴーレムとなってもらう必要があり、それを秘密にしている以上は中に入れられないからだ。


というわけで……俺は魔力を多く持っていることにするしかなかった。



「まぁ、魔力が多い方なので」


「そうでしたか……あぁ、では賊を連行します。始めてくれ!」



一瞬何かを思案したらしいフレットさんだったが、すぐに仕事へ戻り兵士達に指示を出す。


それに応じて兵士達は護送車の入口付近に人垣を形成し逃さないようにすると、1人ずつ外へ引きずり出して連れて行く。


今回はイスティルのときと違って人数が多いが、街の規模に合わせてこの街のギルドは大きいのでそちらで取調べされるらしい。



「処分は取り調べの結果次第になります。ギルドへの報告はこちらからもしますが、そちらでも連中が依頼を放棄したことなどを伝えて違約金などの処理を行ってください」



そう言ってフレットさんは俺達を街の中へと通し、次の通過希望者への対応を始めたのだった。




その後、街へ入ると商隊の行きつけらしい宿へ向かうとそこに商会員や馬車などを預け、メルクスと共にこの街の冒険者ギルドへ向かう。


ララはなるべくギルドへ近づかないようにしているので宿で待機させておいた。


荷物は宿に雇われている人が警備しているので見張る必要はなく、商会員の護衛が割り当てられた部屋に居るだろう。


ギルドへ向かう道すがら、俺はメルクスに護送車の処分について聞いておく。


空になって軽くなったとは言え、あれをずっと運ぶつもりはないからだ。



「あの、檻の荷車を処分したいんですが」


「あぁ、そうですか。この街ならいい値段で売れると思いますよ」


「売れる?」



俺としては廃棄のつもりだったのだが、この街では需要があるらしい。


その理由は今回のように多くの犯罪者を運ぶ機会があるからで、街が大きければ人は多く、人が多い分だけ犯罪者も多いからだそうだ。


ならばと俺はメルクスに護送車の売却を頼み、彼がそれを快諾したところでこの街の冒険者ギルドへ到着した。





ワイワイ……ガヤガヤ……



サベリオ達のこともあって街へ入るのに時間がかかっており、依頼を終えて報告に来ているらしい冒険者達でごった返している。


一応順番は守っているらしく、受付の前には列が形成されているが……どこの列も長い。


受付は報告か依頼を発注するために代表者だけが並ぶものであり、それでもこの人数だということは冒険者の数がそれだけ多いのだろうと思われる。



「どこに並びます?」

「こちらへどうぞ」



俺がメルクスに聞くのと同時に、その声は隣から聞こえてきた。


声の主を見てみると……そこには職員の服を着た女性が立っている。



「失礼。私はここの職員でマリベルと申します」



中々の美女だな……いや、まだ10代に見えるから美少女か?


身長は俺より頭一つ分ぐらい低く、暗めの青っぽい短めの髪で……身長の割には出る所が出ていて目立っている。


イスティル支部のナタリアほどではないが。


そんな視線に気づいてか、彼女は俺から少し離れると奥の階段へ誘導する。



「東門の方から報告が来ており、逮捕者は地下牢へ収容されました。詳細は奥で」



どうやら俺達が宿に居た間にサベリオ達の件は処理されていたらしく、俺達のことも外見でわかるように伝えられていたようだ。


なので俺達はマリベルの誘導に応じ、その後姿を追いかけて階段を上がった。




案内された部屋は3階の一室で、ドアの前に到着するとマリベルがノックをする。



コンコンコン


「お連れしました」


「おう、入れ」



その声に応じてドアが開かれ、マリベルに促されて入室した。


中は結構な広さで執務用の机以外に応接用のソファとテーブルもあり、書類や本の棚と金庫なども置かれている。


その執務用の机にいたのがこの部屋の主だったようで、坊主頭の筋骨隆々な男だった。


見た目は完全に武闘派だな。


そんな彼は立ち上がるとこちらへやって来て……頭を下げた。



スッ


「ベルウェイン商会ですな?このファースレス支部でギルド長を務めているガイラスです。今回はこちらの不手際でご迷惑をお掛けし申し訳ない」


「え、あ、はい。いや、ギルドの不手際というわけでは……」



全体的に強面の男からいきなり謝罪され、戸惑ったメルクスはあちらを慮った返事をする。


しかしガイラス氏は続けた。



「いや。"遺跡"のせいでもあるが、たちの悪い冒険者が増えたのはギルドの管理体制が甘いからだ」



"遺跡"に有力な冒険者が取られ、低ランクの冒険者でも数が減るのは困るというのが地方の冒険者ギルドの現状だ。


そのせいで罰則が甘くなり、調子に乗って悪さをする冒険者が生まれやすくなっていると聞く。


ランダムに発生する魔物や"魔境"といった存在がある以上、ギルドがそういった体制になってしまった事自体は理解できなくもないが……それで被害を被る人が出るのはなぁ。


そう思っているとガイラス氏は俺に目を向ける。



「お前さんがジオだな。イスティルから連絡は来ている」


「はあ」



イスティルのギルド長であるフランが、近場のギルドに俺が冒険者の監視役になったことを連絡すると言っていたからな。


すると彼は続けてこんなことを言ってくる。



「できればこの街でも活動してほしいんだが……」



そんな彼をメルクスが止める。



「あの、ジオさんには当商会でこの先の護衛をという話になっておりまして……」


「あぁ、そうでしたか。ならば仕方ありませんな。ですが減った分だけ護衛の補強は必要ですな?」


「それは、まぁ……どうします?」



ガイラス氏の問いに俺を見るメルクス。


俺が魔石を吸収できることは、彼や他の商会員に明かしている。


それを外部へは秘密にしているので、むやみに人を増やさないほうがいいのではないかと考慮して聞いてきたのだろう。


大型の魔石などは価値も高く、それが消えたりすれば魔石を吸収するという俺が犯人だと疑われやすくなる。


それを考えるとやはりこの事は秘密にしておきたいが……ここで人を増やさないというのも、それはそれで不自然ではあるんだよな。


この先は護送車を引いていく予定がなく、魔力の消費は抑えられるはず。


となれば、街を出る前に十分な量の魔石を確保しておけば、他人に魔石を吸収している光景を見られることもないだろう。


というわけで……俺はメルクスに護衛の増員を視線で許可したのだった。

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