第53話 護送車を作る

商隊の護衛達が一斉に盗賊となり、それらを俺とララで制圧した。


その処遇について話し合った結果、俺が荷車を作って連中を運ぶことにする。


普通は時間や物資のこともあり、街などが近くにない限りは始末していくらしい。


しかし、俺としてはそうする気にならなかった。


好き好んで人を殺したくないというのもあるが、それについては必要があれば実行するつもりではある。


人型の魔物は殺してるし、殺すという点では今更だからな。


では、何故ここで始末しないのかと問われれば……利用するためである。


盗賊となったサベリオ達はイスティルに居た冒険者だ。


となれば俺のこともある態度は知っていたはずなのだが、それでも行動を起こしたとなると俺の力を過小評価していたということだろう。


まぁ、直接見ていなければ仕方ないとも言える。


とは言え、今後も似たようなことがあれば面倒だし未然に防げるのなら防ぎたい。


そこで俺は自分の力を誇示することにした。


連中を生かしたまま町へ運び、衛兵に引き渡して然るべき処分を受けさせる。


それで人の記憶や公的な記録に残し、下手に仕掛けてくる者が少なくなるようにするつもりなのだ。


必要以上に自分を強く見せるつもりはなかったが、なめられた結果面倒なことになる可能性のほうが高そうだからな。




というわけで……拘束したサベリオ達はララに監視してもらい、俺はその場を離れて荷車の作成を始めた。


もちろんゴーレムスキルを使って作成するので人に見られるわけにはいかず、かなり森の奥へ入って作成する。



「この辺でいいか」



俺は人気のない場所でそう呟くと魔石を出現させ、周囲の木を次々と加工していった。



バサバサッ、ベキベキッ、メリメリ……



様々な音を鳴らしながら木は形を変え、しばらくするとそこには檻に車輪が付いたようなものを完成させる。


床と天井は普通に板張りだが、壁はすべてが格子になっていた。


中が見えなければ30人以上の盗賊を捕らえていることが外からわからないだろうし、それでは俺の目論見が達成できないからな。


その人数を入れておく分、荷台は大きくなってしまい8輪となった。


それはいいとして、どうやって次の人里まで移動させようか。


俺の勝手でやっているわけだし、商隊の馬車に引かせて進みを鈍らせるのは良くないよな。


そうなるとララに頼むのも手ではあるが……これだけの荷車に30人以上を乗せてとなると、身体能力を強化するスキルを使ってもらうことになるだろう。


あのスキルは使うと腹が減るらしいし、無限に使えるわけではない。


そのスキルを使って荷車を引かせれば、先程のような事態のときに対応できなくなる可能性が高くなってしまう。


仕方ない、俺が魔法と称して氷の手で移動させるか。


魔力は予定外に消費してしまうが、最悪の場合は商隊が商品として運んでいる魔石を使わせてもらおう。


護衛の報酬と相殺でもいいし、足りなければその分は金か何かで補填すればいい。


そんな感じで護送用の荷車を用意した俺は、それを大きな氷の手に乗せて商隊の下へ戻った。





「あのー……これ、今作ってきたんですか?」



驚きと困惑の表情でそう聞いてきたのはメルクスだ。


他の商会員だけでなく、囚われているサベリオ達までもが似たような表情をしているが……それだけの物を作って来たからだろう。


荷台の表面は滑らかになっているし、かと思えば車輪には滑り止めの凹凸が加工されている。


強度に関しては問題ない。


各所は部品ごとに分かれており、それぞれに魔石が組み込まれたゴーレムなので破損したとしてもその都度修復されるからな。



「まぁ、詳しい話は連中を乗せてから」



そう返したところにララが聞いてくる。



「これ、私が引いて行くの?流石に日中ずっとは無理よ?」


「いや、氷の手で引いて行くよ」



その返答に彼女は小声でさらに質問してきた。



「魔力的には大丈夫なの?」


「まぁ、なんとか」



それには商隊の荷物を当てにしていることも含めて答え、ララには主に警戒を頼んでおく。



「……わかったわ」



少し考えると彼女はそう返し、サベリオ達を荷車へ乗せる作業に入る。



「あ、ではこちらの者にも……」



それを見てメルクスが商会員達に手伝わせ、それが終わると移動を再開することになった。





ガラガラガラガラ……

カッポ、カッポ、カッポ、カッポ……


「はー……しかし、急造にしては立派な荷車ですねぇ」



移動を再開すると隣のメルクスに護送用の荷車について説明し、それを聞いて彼は感嘆の言葉を口にする。


俺達は最後尾に位置した護送用の荷車の上に乗っており、ララが周囲の警戒と同時に後ろからサベリオ達の監視も行っていた。


中が見えるような形の意図に納得したメルクスは、そこで俺の魔力について心配する。



「これが"見せしめ"になって人に襲われることはなさそうですが、魔力のほうは大丈夫なのですか?」


「余裕があるとまでは言えませんが……」



イスティルで多少は補給しておいたし、すぐにどうにかなるほどではないが……人はともかく、魔物は荷車の中を見ても躊躇なく襲ってくるだろうからなぁ。


なのでそう返すと彼は言う。



「ですよねぇ。荷物に魔石はありますが、それをそのまま使えるわけではありませんし……」



おっ、これは提供してもらえる流れか?


一般的に魔石の用途はマジックアイテムの動力なので、ここで俺に提供しても役に立たないと考えているようだな。


ならば……



「いえ、これは内密な話なんですが……実は俺、魔石を魔力として吸収できるんですよ」



そう言って俺はノーマル級ゴブリンの魔石を手の上から消してみせた。


実際には"格納庫"へ収納しただけなのだが、他人からはその区別がつかないはずだ。


それを見たメルクスは素直に驚く。



「ええっ!?あっ!す、すみません!」



思いの外大きな声が出た自覚はあったようで、すぐに謝罪してきた彼は魔石の提供を申し出てきた。



「そうだったのですか、でしたら荷物の魔石をお使いください。特に珍しい物はありませんし……あっ」


「どうしました?」



何かを思い出したらしいことについて尋ねると、メルクスは気まずそうに言ってくる。



「あの、1つだけ残しておきたいものがありまして……冒険者ギルドのギルド長からお預かりしているもので、"遺跡"にいらっしゃる彼女の師匠にお渡ししなければならないのです」


「へぇ、何か特殊なものなんですか?」


「ええ。どうも姿を消すゴブリンの物らしく」



ああ、俺が納品したものか。


フランはあれを自分の師匠とやらに送っているらしいが……何故だ?


そこでメルクスがその理由を俺に話す。



「買い取りに大金を支払ったので、その危険性を認めてもらってギルドの予算を調整してもらうとか」


「あぁ、そういうことでしたか。となるとその師匠とやらも冒険者ギルドの関係者なんですか?」


「そうですね。"遺跡"に近い街のギルド長だそうで、S級2位というのもあってギルド全体でも発言力があるようです」


「なるほど」



そこまでは聞いてなかったな。


必ずギルドに顔を出せと言われたのはその辺りのこともあったからか。


そう納得すると俺は返答する。



「まぁ、その魔石についてはわかりました。こちらとしてはおそらくどの魔石でも構いませんので、必要な場合に使わせてもらえれば結構です」


「はい、では他の商会員達にも言っておきますね」



こんな感じで魔石の提供をしてもらえることになり、ある程度は魔力に余裕ができたことに安堵しつつ荷車を進めることができた。





日が沈みかけた頃、今日の野営地に到着する。


少し遅めなのは見通しの悪い森を抜けておきたかったからだそうで、森から少し離れている開けた場所が本日の野営地とされた。


商会員達が急いで野営の準備を始める中、俺は自分の荷車に乗せたサベリオ達の様子を確認する。


ララが最後尾から見張っていたのもあって大人しくはしていたが……



「「……」」



やはり大人しくしているな。


そう思っていると賊の1人が口を開く。



「お、おい。ちょっと用を足したいんだが……」



縄で手を拘束しているので、自力での排泄が難しく俺へ申し出たのだろう。


漏らせと言ってもいいが……臭いなどが嫌だな。


というわけで俺は答える。



「あぁ、いいよ」


「え?」



あっさり了承した俺に男は驚くが、そんな男の足に白い手が現れ掴みかかった。



ガシッ


「っ!?これはっ!」


「逃がすつもりはないんでね。あぁ、手は自由にするし外に出してもやるからサッサと済ませろよ」


ガタッ、キィッ



言いながら俺は荷車のかんぬきを外し、格子状のドアを開けて外へ出ることを促す。



「……」



男は恐る恐る荷車を降り、それに合わせてララが近づくと手の拘束を解く。



「い、いいのか……?」


「まぁな」



武装は拘束後に商会員達の手で解除させてあるし、こちらを攻撃してくるにしても即死させられるようなものは持っていないはずだ。


スキルや魔法を使える可能性は……そんなものがあればとっくに使っているだろうしな。


というわけで、手の拘束が解かれた男に俺は言う。



「ほら、歩こうとしてみな?」


「……」


グッ


「っ!?」



俺の言葉に男は歩こうとしたが、白い手に掴まれた足は全く動かなかった。


それで逃げられないとわかった男は素直に用を足し、再び手を拘束されると大人しく荷車に戻る。



「他にも用を足したい奴は言ってくれ。逃がしはしないが出させてはやるから」


「じ、じゃあ……」

「お、俺も……」



その言葉に数人が続き1人ずつ対応すると、一段落ついたところで終わりにして夕食のほうに移った。



「終わりましたか。ではどうぞ」


「「頂きます」」



メルクスに迎えられた俺とララは用意された食事を貰い、今夜も交代で夜番を行うことを伝えて商隊は夜を迎える。


当然のようにサベリオ達の食事はなく、その夜はいくつもの空腹の音が聞こえてきたのだった。

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