第46話 旅支度……の前の一幕

"遺跡"へ向かうことになった後、エルゼリアとケイロンはフランチェスカ氏と共に冒険者ギルドへ向かい監視役としての手続きをすることになった。


俺はそれに同行しなかったのだが、その理由は歓楽街にある。


もちろんその地域特有のサービスを受けるためではなく、あそこにある一つの宿に用があるからだ。


その宿はエルゼリアの拉致を目論んでいたブロッグス達が密談をしていた宿であり、そこに仕掛けておいた魔石を回収するのが目的である。


万が一逃げ帰られた場合にとそれまで盗聴に使っていた魔石と入れ替えたのだが、暖炉に仕掛けてあったので灰と一緒に回収される可能性があった。


その魔石は一つにまとめた魔石から分離させた物で、ギルドなどに持ち込まれると普通の魔石ではないと鑑定されてしまう恐れがある。


そうなるとその出所を探られるだろうし、未知の魔物が出現したのではないかと騒ぎになるかもしれない。


すべて可能性の話ではあるが、余計な騒ぎを起こしたくはないのでこうして歓楽街へ向かっているのである。




そうして歓楽街に入ると目的の魔石を探す。


探すと言っても目で探すわけではなく、探そうと思えば感知できるのでそう時間はかからない。


あぁ、やはりというか移動してるな。


目的の魔石は元あった部屋ではないどころか宿からも離れた場所にあり、誰かに暖炉から持ち出されたのだと思われる。


問題はあの魔石の現状だ。


操作の有効距離内にあれば"格納庫"へ仕舞うことはできるが、消える瞬間を見られたり気づかれたりするのはよろしくない。


消える魔石があるなどという話が広まれば魔石のチェックは厳しくなるだろうし、それで鑑定のマジックアイテムを常用することにでもなれば時間と金が無駄に掛かってしまう。


その負担が冒険者ギルドに掛かるか冒険者に掛かるかはわからないが、どちらにしても良いことにはならないだろうからな。


なので俺は目的の魔石から周囲の音声を受信し、回収しても問題ないかを確認することにした。


すると……その音量から魔石は人に持たれているようで、おそらく2人の会話が聞こえてくる。



「ルーマ!これはどこから持ってきたの!?」


「そ、それは……」



問い質す女性の声に、言い淀む子供らしき声。


どうやらルーマという子が俺の魔石を見つけて持ち帰ったらしく、その出所を女性が聞き出しているようだ。



「魔石なんて町の中で持ってるのは冒険者か商人ぐらいでしょう?どっちもお金に変えるんだからその辺に落としたりしないでしょうし、盗まれたって言いがかりをつけられるかもしれないのよ?」



なるほど。


女性の方が咎めるような声なのはそれを警戒してのことか。



「うう……」



ただ、そのせいでルーマという子のほうは言いづらくなっていそうだが。



「だ、だったらすぐに売っちゃえば……」


「どこに売る気よ!アンタぐらいの子がどうやって手に入れたのか、どこに持ち込んだって疑問に思われるし盗んだと思われたら大変なことになるのよ?」



前世にあった少年法があれば子どものやったことだからと罰は軽くなるかもしれないが、ここまで言われているとなるとそれはなさそうだ。


女性はさらにこうも言う。



「それが広まりでもしたら自分が盗まれたって言い出す奴もいるでしょうし、衛兵に訴え出ない代わりにって何を要求されるかわからないわよ?」



そこまで言われては流石にまずいことをしていると思ったのか、ルーマという子は魔石を手に入れた経緯を語り出す。



「いつもの仕事で暖炉の灰を掃除したらその中にあったんだよ。そんな所にあるから捨ててあるようなものだと思って……」



事情を聞いた女性はため息をつく。



「ハァァ……あのねぇ、アンタはまだ客を取れないからってあの宿で雇ってもらってるのよ?そこでこんな真似しちゃダメじゃない、ちゃんと宿の人に言わなきゃ」


「うぅ……」



話の内容からすると子どもの方も女の子かな?


まぁそれはいいとして、こちらとしては宿の人にあの魔石を渡されるのは困るところだった。


宿の人があの部屋の利用者を確認し、ブロッグス達だとわかればギルドへ持ち込まれていただろうからな。


そうなるとエルゼリアを拉致しようとしていた連中だし、あの魔石が何か特殊な物だと疑われて鑑定されていたかもしれない。


すぐに回収しなかったのは俺の落ち度だし、こちらとしてはルーマという娘に感謝の情も湧いてくる。


となれば彼女が問い詰められているこの状況も申し訳なく、俺は2人のもとへと向かうことにした。




到着したのは2階建ての集合住宅のような建物だった。


まぁアパートだな。


魔石の反応はその一室にあり、俺はその部屋のドアをノックする。



コンコンコン


「はーい」


キィッ



ノックに応じてドアは開き、そこで姿を現したのは……昨夜、ケイロンに接触してきた男を追跡中に知り合ったミリーナだった。


昨夜は薄着で扇情的な姿だったが、今は普通の町娘といった出で立ちである。


そんな彼女も俺のことをちゃんと覚えていたようで、訪ねてきたことに対して不思議そうに聞いてきた。



「あら、ジオじゃない。どうして家に?」


「えーっと……ちょっと探し物をしててね。それがこの部屋にあるみたいなんだが……」


「えっ?うちに?」


「ああ。見た目は魔石なんだが、ちょっとしたマジックアイテムでね」


「えっ……」



俺の言葉に顔色を悪くするミリーナ。


彼女は俺が"千手のジオ"だということをわかっており、治安が改善してきていることから冒険者の監視役としての力も大まかにわかっている。


そんな俺の物を、しかもマジックアイテムを家族もしくは同居人が盗んだとあっては気が気でなく、何かの間違いであってほしいと一縷の望みを託して確認してきた。



「え、えっと……ほ、本当にうちにあるんですか?」



状況が状況だけに、敬語で尋ねる彼女に俺は答える。



「ああ。それは自分の場所を俺に教えてくれるというものでね、だからここにあることがわかってるんだよ」



そう言うと俺は魔石を操作し、宙に浮かせると部屋の奥から俺の下へ移動させた。



スーッ、ポトッ



眼の前で魔石が俺の手に落ち、それを見たミリーナは俺の言うことが事実だと理解して……勢いよく土下座をする。



バッ!


「申し訳ございません!その、衛兵に訴え出るのはご勘弁を……」



そう言った彼女の横に一回り小さな女の子が同じように土下座した。



タタタッ……バッ!


「わ、悪いのは私です!すみませんでした!」



この娘がルーマというのだろう。


ぱっと見た限りでは14,5歳で、ミリーナほどではないにしろ十分な成長をしていることはこちらへ向かってくる際に見て取れた。


この世界の常識としてはほぼ成人の扱いだし、そもそも少年法がないのならその罰は罪相応のものとなる。


それでも自分が悪いのでありミリーナに非はないと言うところから、それだけミリーナを大事に思っているということだろう。



「ルーマ……いいのよ、下がってなさい」


「良くないわ!私がやったんだから!」



土下座の体勢で言い合う2人だが、俺はそんな彼女達に割って入る。



「あー、待った待った。別にどうもしないって。俺がサッサと回収しなかったのが原因だしな」


「いい……んですか?」

「……」



顔を上げて聞いてくる2人に、俺は魔石を仕掛けた理由として部屋に対する目印だったと説明した。


そこで昨夜は立て込んでいて回収が間に合わなかったのは俺の都合だったとも言い、責める気は一切ないことを伝えると2人は大きくため息をつく。



「「ハァァ……」」



2人は安心したようだし、魔石の回収もできたので俺はお暇しようとする。



「じゃあ、俺はこの辺で……」



そう言って部屋を出ようとすると、そこでミリーナが俺を引き止めた。



「待って!」


「え、何?」



振り返った俺に彼女は言う。



「その……ルーマが勝手に持ってきたことに違いはないんだし、何のお詫びもなく帰すのは申し訳ないわ」


「そう言われてもなぁ」



こちらとしては好都合だったのだし、それでお詫びを貰うというのは気が引ける。


しかし魔石を調べられると困るという事情を話すわけにはいかず、どう断ろうかと考えていると……



モゾモゾ……サッ


「ふぅ」



ミリーナは服を脱いで下着姿になった。



「え、お詫びってそういう形?」


「ええ。昨夜は時間がなかったみたいだけど、今は大丈夫?」


「急ぐ用事はないが……」


「じゃあシましょ♪こっちだって何の代償もなくお咎めなしは不安だしね」



なるほど。


魔石を盗んだこと自体が事実である以上、そのことを衛兵に訴え出られる可能性を極力小さくしておきたいわけか。


しかし……



「でもほら、ルーマちゃんもいるし」



盗聴で聞いた限り彼女はのようだし、それを理由に辞退しようと試みる。


するとそのルーマも服を脱ぎだした。



「っ!」


バッ!



彼女もミリーナ同様に下着姿となり、服の上からでもわかっていたが一回り小さいながらも十分な起伏のある身体を俺に曝した。



「わ、私が原因なんだし私がお相手するわ。お姉ちゃんは私に体を売らせたくなくて頑張ってるけど、いずれは同じ仕事をすることになるでしょうし」


「ルーマ……」



聞けば彼女達は姉妹で亡くなった両親の借金があるらしく、その返済のために稼ぎの良い仕事をしなくてはならなかったそうだ。


そこでミリーナは効率の良い娼婦となり、ルーマが同じ仕事をしなくても済むように努力していたらしいが……



「効率が良いといっても利子があるし、全部返すのにいつまで掛かるかわからないでしょ?決心がつかないからまだお客は取れないってことにしてるけど、それもそろそろ通じなくなりそうだし」


「え、何かあったの?」



ルーマの発言にミリーナが問い質す。


それにルーマは言いづらそうに答えた。



「心配させないようにって言わなかったんだけど……宿の主人も含めて、何人も「まだか?」って言ってきてるんだよね。宿の主人に至っては雇ってあげてるんだから最初の客にって言ってきてるし、軽くだけどしょっちゅう胸やお尻を触られてるし」


「ハァァ!?あのオヤジ……」



ルーマの話を聞いて怒るミリーナ。


それは妹を思ってのことではあったが、別の事情もあったらしい。



「雇ってやる代わりにって月1はタダで相手してやってるのに……」



どうやら普通の職場はそうそう雇用枠が空くものではないらしく、そこにルーマをねじ込むためにミリーナはここでも体を張っていたようだ。


その上でルーマにも手を出そうとしていたから宿の主人に怒っているというわけか。


するとそのルーマが俺に身を寄せてくる。


それにより、張りのせいかミリーナより若干硬い感触が俺に押し当てられた。



スッ、ムニッ


「そこでなんですが……どうせなら初めては良い人がいいかなぁって思いまして」


「悪人のつもりはないが、善人のつもりもないぞ俺は」


「私の盗みを許してくれましたし、昨夜はお姉ちゃんに触っただけで1万コールも渡したんでしょう?それに町の治安も貴方のお陰で良くなってるそうですし十分良い人ですよ♪」


「うーん……」



どれも俺の都合でやっているようなものなので、そこで評価が上がるのは複雑な気分だな。


と言ってもその説明をするわけにもいかないし……


年齢を理由に断ってもいいが、そうなるとここに来るまでの村で相手した娘には彼女と同年代の娘もいたし、そのことを聞いた場合にそれが嘘だったと知ってショックを受けるかもしれない。


あの村々からこの町へ来る人間がいないわけではなく、その可能性は十分にあるからな。


なので断り方に頭を悩ませていると、今度はミリーナが背後に周って胸を押し付けてくる。



ムニュリ


「本人がここまで言ってるから貰ってあげて。昨夜貰った分だと思えばいいし、これからのことを考えれば最初ぐらいは気に入った相手と……ね?」


「む……」



そう言われると断るのは難しいな。


こちらの世界では法に触れるでもなく、外見的に幼すぎるということもないので好みの範囲外というわけでもない。


その上で請われてというのであれば……と思っている所にミリーナがさらに押す。



「貰ったのは一晩どころのお金じゃなかったし、もちろん私もお相手するからね♡」



そこまで言われれば頑なに断るのも申し訳なくなり、俺は2人にお相手をしてもらうことにした。

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