第44話 護衛任務完了
深夜、数人の男達が動き出した。
それはA級下位の冒険者であるブロッグスのチームと、彼らを味方に引き入れた男である。
その目的はエルゼリアを拉致してジオから身代金を奪い、更にはエルゼリアを始末して自身の仲間を釈放させるためだった。
そんな男達は衛兵の巡回を警戒しつつエルゼリアの宿へ向かうと、従業員に小金を渡して聞き出した彼女の部屋へ静かに向かう。
目的の部屋に到着し、男達の1人がドアに耳をつけるとエルゼリアの在室を確認した。
「……」
コクッ
「……」
コクッ
それぞれが無言で頷き合い、別の男が部屋の鍵を解錠する作業に入る。
カチャカチャ……カチッ
「ふぅ……」
音に気を遣い少し時間を掛けて解錠が済むと、エルゼリアを捕縛する道具を使用する準備を整えた。
縛るためのロープに、口を塞ぐための布類。
そしてそれらを使うまでの間、彼女が目を覚ました場合に備えて脅すための刃物などを手に掴む。
「「……」」
コクリ
ブロッグス達は再度頷き合うと、ドアノブを握って静かにドアを開いた。
カチャッ、キィッ……
問題なくドアは開き、男達は暗い部屋の中に侵入する。
部屋は暗いがベッドの位置も従業員から聞き出しており、仮にもA級の冒険者であるブロッグス達は多少ながらも暗闇での行動経験もあったので問題なくベッドへ向かうことができた。
「スゥ……スゥ……」
女の寝息が聞こえ、男達はそれが狙っている対象であると判断して捕縛のために近づく。
だが……
ピシッ
「「っ!?」」
男達の足がそこで止まる……いや、
原因は不明だが足が床から離れなくなり、その異常事態にブロッグス達は動揺した。
「「っ!っ!?」」
流石に声は出していないがお互いの状況を確認するような気配をさせ、全員が自分の足元に手を伸ばす。
すると……床が異常に冷たくなっており、ツルツルとした感触が手で確認できた。
「「っ!?」」
それが氷であると認識したその瞬間、男達は背後からその姿を灯りで照らされる。
そこにいたのは武装した数人の男達と……この俺、ジオだった。
「ご苦労だったな」
「どうも」
冒険者ギルドのギルド長室にて、深夜ながらもきっちりとした服装のフランチェスカ氏に迎えられた。
今はエルゼリアを拉致しに来たブロッグス達を逮捕し、収監作業を終えたところである。
「今回は職員も目撃者になっているし、言い逃れはできないだろう」
「まぁ、そのために自分で始末せず報告したので」
連中の密談を聞いた俺は、その場で手を下すことなくギルドへ報告した。
人間を殺害するという行為に躊躇したのもあるが……連中がエルゼリアの拉致を計画していたことは俺とケイロンしか知らず、俺が手を下したと思われた場合にその説明をしても俺が言っているだけという形になるからだ。
文明レベル的にそれが通る可能性は高くても、俺が個人的な理由で連中を始末したと思う人が出てこないとも限らない。
必要であれば
その手段を個人的な理由で使う人間だと思われるのは心外であり、ならばとそんな憶測が生まれない手段としてギルドを利用したのだ。
法で裁かせることができるのなら、そのほうが俺の精神的負担は少なく済むしな。
なのでギルドへ報告して人手を借り、俺の部屋に潜ませておいてブロッグス達の襲来を待っていたのである。
ちなみに……エルゼリアの部屋で寝ていたのはシーツを被ったケイロンで、エルゼリア本人は俺達と一緒に待機していた。
もちろんギルドから借りた人員に戦力的な期待はしておらず、彼らには連中の犯行を証言してもらうだけでいいと言って捕縛は俺が担当することに。
暗い状態で捕縛する必要があり位置の調整が必要な"氷の手"は使えなかったので、床全体を薄く水で覆って凍らせ、それで動きが止まったブロッグス達を"氷の手"で拘束した。
万が一逃げられた場合のために連中が密談していた宿へ魔石を投げ入れておいたが、フランチェスカ氏が気を利かせて衛兵を宿の周辺に潜ませておいてくれたので捕縛後の移送も問題なく済んだ。
逃げられたら盗聴してあの宿へ戻っていないか確認したり、あの部屋に何か連中につながる手掛かりがないか調べるつもりだったのだが……後で回収しに行かないとな。
一先ずの報告が済むと、フランチェスカ氏は連中の処遇について話し出す。
「詳しく取り調べをする必要はあるが……犯行を持ちかけた男はエルゼリアを襲った犯人だろうし、ブロッグス達も短期間に連続しての犯行だからな。反省の色なしと見て刑罰も相応に重くすることになるだろう」
「その辺りには詳しくないんですが、具体的にはどんな罰が?」
「ああ、君はそういう事に縁遠い人間なのだな。わかりやすいところだと危険地帯の鉱山送りか……あとは危険が伴う実験などだな。どちらにせよ奴隷にはなるだろうが」
前者はそもそも危険であろう鉱山での採掘作業であるが、その上でさらに危険な鉱山もあるらしい。
魔物の存在が影響しているのかな?
後者の実験というのは、魔法やマジックアイテムの実験なのだそうだ。
新しく開発する魔法や"遺跡"から持ち帰られたマジックアイテムの効果を試すというもので、その価値を見極めるために人体実験を行う場合もあるのだとか。
その中には命に係るようなものもあり、最初から危険が予想されるものには犯罪者として奴隷になった者が
普通の奴隷は基本的に安い労働力扱いで、雑に扱われはするが無駄に減らすようなことにはならないそうだ。
まぁ……
そんな話を聞き、エルゼリアの護衛任務について確認する。
「それで、エルゼリアの護衛についてはこれで終わったということになるんですかね?」
「そうだな……もう2,3日は様子を見るが、その間に何事もなければ今回の任務は完了ということにしてもいいだろう」
ブロッグス達や連中を誘った男の逮捕を公表し、それで動く者が現れればそいつも警戒するべきだということらしい。
2,3日で見極められるのかという疑問に思ったが、少なくとも今夜の連中は現行犯だということでとっとと刑罰を下して外へ送り出すのだそうだ。
逮捕から服役までが異常に早い。
まぁ、前世に比べると尋問の手段に制限は少なそうだし、犯罪者にも人権がなどと言う人は少ないようだからな。
なので白状させるのに時間はあまりかからず、とっとと聞き出してさっさと"お勤め"に出せるということにようだ。
冤罪が怖いな、気をつけないと。
宿へ戻るとララ達に迎えられる。
「おかえり」
『おかえりなのだぜ』
「おう、ただいm……」
「おかえりっ!」
ガバッ、ギュッ
「お、おう」
中でもエルゼリアは、俺に飛びついて抱きしめてくるほど熱烈だった。
今回の件は一旦片付いたわけだが、ある程度はちゃんとした宿でも情報が漏れて襲撃が起きたという事に不安を感じているようだ。
もちろんその情報を漏らした従業員も処罰されるとは思われるも、だからといって他の従業員が同じようなことをしないとは限らないからな。
その様子にララとケイロンは気を遣ったのか、新たに用意された部屋へ入っていった。
エルゼリアの部屋は襲撃された現場でもあるし、ブロッグス達は現行犯だが夜が明けてから一応の捜査があるために封鎖されている。
なのでララ達はそちらの部屋に入り、俺の部屋にエルゼリアをということなのだろう。
その気遣いに乗らせてもらい、俺は彼女を自分の部屋へ連れ込んだ。
「……」
ランプの明かりの中で、俺達はベッドの縁に並んで腰掛けるが……エルゼリアは無言で俺の胸に抱き着いたままだった。
俺も彼女もゴーレム化で体力的な問題はないし、好きなだけこのままでも構わないと言えば構わない。
そう思っていると……不意にエルゼリアは顔を上げた。
「わかってはいたけど、結局は力がないとこんなものよね。魔力があっても使えないんじゃ意味がないし」
「……」
否定はできない。
前世だって法だ金だと言っても、最終的には力で言うことを聞かせていたわけだしな。
極端な話、法があっても力がなければ遵守させることはできず、金があっても万人が従うとは限らないので結局は力で押さえつける。
こちらの世界ではそれがより顕著であり、ララのように力がある女はともかく直接的な暴力に対抗できる力がない者は力がある者に頼るしかない。
それを何とかしようとしたエルゼリアは魔力が無限かのように湧いてくるという特殊な力があるとわかってもそれを活用できず、今は諦めたような顔で俺を見上げてきている。
そんな彼女に俺はある提案した。
「じゃあ"遺跡"にでも行って、エルゼリアが使えそうなマジックアイテムを探してみようか?」
「えっ!?」
俺の提案に驚くエルゼリア。
マジックアイテムは高価だと聞くし、"遺跡"で手に入れるとしてもその確率は低いのだと思われる。
そんなマジックアイテムを自分のためにという俺の提案は、彼女にとって都合の良すぎる話なので驚いているのだろう。
「そこまでしてもらうのは……対価として差し出せるものなんて私自身ぐらいしかないし、だったらそもそも貴方のものになって護られるのと大差がないからそっちのほうが簡単じゃない?」
「まぁ、それなら"遺跡"に行く必要もないし確かに簡単ではあるんだろうけど……エルゼリアは自分で力に対抗できる力が欲しいんだろう?」
「それはそうだけど……」
「なら気にするな。元々俺達はこの町に長く留まるつもりはなかったし、"遺跡"には少し興味もあったから行ってみようかとは思ってたんだ。いつまで掛かるかって問題はあるが、それまではケイロンを置いていけば大丈夫だろう」
「ケイロンを?いいの?」
「ああ。エルゼリアがいればあいつはずっと活動できるから、俺の代わりに冒険者の監視役をやらせることもできるだろうしな」
ケイロンが一時的に俺の戦力から外れるのは少し残念だが、この町の治安が良くなってきているとは言えまだ放っておける段階でもないからな。
それに距離を試す必要はあるが、"遺跡"からでも通信できれば何かがあっても対応できる。
俺の話を聞き、エルゼリアは再度確認をしてくる。
「本当にいいの?」
「ああ。ただ、エルゼリアにとって有用なマジックアイテムが必ず手に入るわけじゃないからな。ある程度探して難しそうなら諦めてもらうぞ」
「十分すぎるわ。でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
「んー……」
そもそも、ララのこともあり1つの土地に長居するつもりはなかったので、その辺りのことも考えての提案だったのだが……
「まぁ、エルゼリアを気に入ったからかな」
エルゼリアは現状の不満を言葉に出すだけではなく、自分で努力して改善しようとしていた。
前世では俺自身もそうだったが、口に出すだけで大して努力していないやつはいくらでもいる。
それに比べると彼女は苦境にあっても足掻いていたし、それが好ましく思えたのは事実なのだ。
そんな俺の言葉に、エルゼリアは薄暗い中でもわかるほどに顔を赤くして答える。
「っ!?そ、そう……じゃあ、それに応えないわけにはいかないわね」
ガバッ
「おっと」
言うと同時にエルゼリアは俺を押し倒し……そのまま、朝遅くまで俺に
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