第41話 ゴーレム通信
ゴーレムのケイロンをエルゼリアの護衛につけることとし、エルゼリアも俺達の宿に移ると護衛体制が整った。
あとはエルゼリアを脅迫した連中が捕まれば解決となるのだが、その日の内にギルドから連絡が来る。
「あぁ、その2人がエルゼリアを脅迫したうちの2人だったんですか」
「ええ。そのようです」
ギルド長のフランチェスカ氏から伝言を持ってきたミリィさんによれば……エルゼリアを襲って捕まった連中の件を冤罪だと言ってきた2人は、彼女を脅迫した3人のうちに含まれていたそうだ。
捕らえた日のうちに白状させた方法が気になるが、敵の数が1人だとわかって多少は安心……できないな。
捕まっている2人が事実を言っているとしても、残りの1人が誰かに助力を求める可能性があるからだ。
なので警戒態勢は緩めず、襲撃はあるものとして動くことにする。
ただ、エルゼリアに生活費を出している俺としてはこの件が長引くのは困るんだよな。
今は余裕があるとは言え、敵が遠くに逃亡でもしたらいつまで金を出し続けるのかという話になってしまうからだ。
彼女とはヤる事もヤッてある程度の情も湧いているし、ケイロンからの魔力補給要請に応じられるとなれば生かしておきたいので途中で放り出したくはない。
なのでミリィさんにギルドで補填してくれないかと言ってみるも、ギルド長に伝えてはみるが難しいだろうと返された。
というわけで……こちらでも早期解決に向けて動く必要があると判断し、外出する際にはエルゼリアとケイロンの2人だけで動いてもらうことにする。
これはつまり、敵を誘い込むために護衛を少なく見せてようと考えたわけだな。
1日で町の治安に影響が出るぐらいには俺の実力が知られているようだし、ララまで付いていれば敵は警戒して出てこないだろう。
なので俺はマントで全身を隠し、ララと共に少し離れた位置から見ておくことにする。
普通なら危険ではあるがケイロンは全周囲を警戒でき、護衛対象のエルゼリアもゴーレムになっているので俺が彼女の魔石に十分な魔力を込めれば即死でない限り大丈夫なはずだ。
そんな提案に、当のエルゼリアは乗り気だった。
「生活費に悩む必要がなくなるとは言え、襲うと宣言した連中が野放しなのは気が休まらないしね」
「そうか。こうなるとなるべく外出したほうがいいのかもしれないが……」
「じゃあ、町の外に出る依頼でも受けようか?」
「いや、それだと俺と
「あぁ、それもそうね。でも別行動に見えるぐらい離れてればいいんじゃない?」
「そうなると姿が見えないぐらいの距離になるだろうし、ゴーレムとして位置はわかるが状況の把握ができない」
敵が魔石を持っていたとしてもどんな行動を起こしているかがわかるわけではなく、視認できなければどうしても対応が遅れてしまう。
となればダメージを負ってその修復に魔力が消費されることでしか襲撃を把握できない可能性があり、こちらの対応が遅れることになる。
それを懸念点として挙げると彼女は胸を張って言う。
「一気に核の魔力使い切るほどの攻撃を受けなければ大丈夫なんでしょ?」
「普通のゴーレムならそうだが人間の場合は試してないし、治るとは言え傷を負ったときの痛みがないとは限らないぞ?」
「あぁ、なるほど。じゃあ町の中だけにしましょう」
俺の言葉に納得したエルゼリアは、流石に痛みを感じることは避けたいのか彷徨くのは町の中だけに留めることを決めた。
ザワザワ……ガヤガヤ……
田舎の方とは言え収穫時期で人通りの多い町の中。
敵を誘い込むことに決めた後、その日のうちにエルゼリアとケイロンが連れ立って外を歩き、俺とララが少し離れて彼女達を尾行することにした。
昨日の今日で敵が動くか?と思わなくもないが、森でエルゼリアを襲った連中が捕まった当日に動いてきたわけだしな。
というわけで俺達は町の中を歩き、敵の襲撃を待つことにする。
前を歩くエルゼリアは屋台や露店に並ぶ料理や食材を指して何かを話しており、どうやら彼女はケイロンに食べ物の説明をしているようだ。
ゴーレムであるケイロンに食べることが出来るわけでもなく、それを聞かされて彼女?がどう思っているのかと疑問に思っていたのだが……そこで頭の中に声が響く。
(興味深いのだぜ?)
えっ
声質や口調からケイロンの発言だと思われるが、50m近く離れているにしては聞こえるはずがない音量だ。
何故聞こえるんだ?と思っていると再度彼女?の声が聞こえる。
(マスターが指示を出したりゴーレムの状態を把握するのに使っている通信手段を使っているのだぜ)
え、そんなことができたのかよ。
まぁ、理屈はわからなくもない。
ゴーレムの位置や魔力の状況を把握できるということは、何らかの手段でその情報が俺に送られているということだろう。
となれば、自我を持つゴーレムであるケイロンならその手段で意思を伝えることもできるというわけか。
(そうそう。そういうことなのだぜ)
だったら森の外で尾行しているとは思われないほどに離れていても、敵に襲われたらお前から状況を教えてもらえたんじゃないか?
(可能ではあるのだぜ。ただお勧めはしないのだぜ)
何故だ?
(エルゼリアの安全が最優先なら、対応が遅れる方法は避けたほうがいいのだぜ)
なるほど。
自分の存在のためエルゼリアを絶対護ると言っていたし、だから話し合いの最中にはこの通信手段のことを言う必要がないと判断したのか。
(そうだぜ。いま教えたのは聞かれた気がしたからつい答えてしまったのだぜ)
あぁ、これはゴーレムの性質かな。
ケイロンに対する疑問が問い掛けと同様に扱われ、俺に従おうとするゴーレムとしてそれに応じてしまったのか。
ただ、問い掛けているわけでもない内心にも彼女?は反応しているようだが……
(あぁ、それはマスターが私を通信相手と認識したからだぜ。お喋り相手だと思っていれば普通に会話しているように聞こえてしまうのだぜ)
電話が繋がっている状態のようなもので、問い掛けていなくてもこちらの声が聞こえるというわけか。
("でんわ"って何なのだぜ?)
あ、不味い。
つい出てしまった言葉だが、それを知らないケイロンが疑問に思ってしまったようだ。
(何か問題のある言葉なのか?)
あると言えばある。
冒険者ギルドで何らかの特殊な通信手段が使われていると聞くし、それに類する手段があると知られれば質問責めに会うだろう。
それだけならともかく、代替手段が生まれることを許さないと判断されれば命に係るかもしれない。
情報の伝達速度が重要である、と理解している人ほど動かせる人員が多そうだからな。
まぁ、こちらで電話を作るのはまだ難しいだろうから大丈夫だとは思うが。
するとケイロンが反応する。
(ああ、"でんわ"って通信手段のことなのか。でもゴーレムが声を届けられる時点で目を付けられそうではあるのだぜ)
ん?お前から俺に伝わるだけならそこまで危なくないんじゃないか?
(そうでもないのだぜ。ゴーレムは理解できないだけで音を受けてはいるから、それをマスターが送れと指示しておけば送られてくるのだぜ。なので他人に知られれば盗み聞きを疑われそうなのだぜ)
うぇ、そうなのか。
俺の行動が偶然にも何かと噛み合った場合に、ゴーレムから声を受信できることが知られていれば確かに盗み聞きを疑われるだろう。
これは秘密にしておかないと。
(わかったのだぜ)
それを指示だと受け取ったのか、ケイロンも俺の方針に従うようだ。
まぁ、俺に何かがあれば彼女?も困る……あれ、あいつにとっていなくなると困るのはエルゼリアだな。
俺はあいつの動きを強制するだけの存在だし。
となるとケイロンがそれを不満に思うかもしれず、彼女?が俺を意図的に排除する可能性があるのか?
そう思っていると当のケイロンがその疑問に答える。
(いやいや、それは大丈夫なのだぜ。不安なら命令の1つとして"マスターに危害を加えることを一切禁じる"と設定しておけばいいのだぜ)
あぁ、それもそうか。
とりあえずはそれで安全を確保できそうだし、すぐに設定しておこう。
そうしてゴーレムが声の通信もできることを知り、ケイロンの反乱に対する安全も確保すると残る問題に対応する。
それは通信の開始方法だ。
勝手に通信が始まり、俺の内心がずっとケイロンに伝わるのは困るからな。
それにも命令を利用することにし、接続に"コールスタート"とキーワードを設定してそれまで通信が始まらないよう制限をかけることにした。
切断に関しては俺が指示すればよく、これで前世のことまで漏れることはない。
漏れたところで彼女が第三者に伝えることは出来ないが、下世話なことを考えたりもするのでそれを他者には知られたくないからな。
(えー、もっとマスターのことを知りたいのだぜ)
そう言われてもなぁ。
大体、俺の内心は伝わっているのにお前の内心が伝わってこないのは不公平だろう。
(それはゴーレムとして送る内容を選べるからなのだぜ。マスターは私の内心が知りたいのか?)
……言われてみればそこまで知りたいわけでもないな。
自分を騙そうとしてくる相手なら知りたいと思うが、基本的には他人の心の内など知りたくはない。
内心で良く思われていてもそれに気付いていないフリをしなくてはならず、悪く思われていれば単純に気分が悪いからな。
とにかく、新たにゴーレムの機能が判明したことに満足したし通信を切るか。
(あ、だったら必要に応じてこちらの音声を送れという命令もしておいて欲しいのだぜ)
あぁ、そのほうが都合はいいか。
異常事態が起きた場合に状況を把握しやすくなるだろうし。
俺はその提案を了承し、通信を切るとエルゼリアの護衛に集中することにした。
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