第40話 護衛体制の構築
"魔境"で手に入れた鎧の実験で作成したゴーレムは、エルゼリアの魔力供給により自力で形を変えられるようになった。
その結果……ゴーレムはララと同じぐらいの背格好になり、鎧もそれに合わせた大きさとなる。
この鎧は人間に反応しなかったが、やはりサイズを調整する能力もあったようだな。
ただ、ララをそのまま参考にしたわけではないらしく、兜の下から見える白い髪は少しはみ出す程度の長さである。
髪まで作り込んでいるのならと兜の面を上げて顔を見てみると、真っ白ながらも細かく作り込まれていた。
当然その顔は動かずマネキンのようなので兜の面を下ろし、再度その鎧姿を全体的に確認する。
「……」
そこでゴーレムはポーズを変え、前屈みで胸を強調した。
スッ
『どうだ?なのだぜ』
スタイルを自慢したいようだが、鎧を着ているので特に何とも言えないな。
なので俺は別方向で感想を述べることにした。
「いや……自力で形まで変えられるようになるとは思わなかったな」
『フフフ、変形は操作の一部なのだぜ。私は自分で自分の体を操作できるし、十分な魔力があれば変形も問題なく可能なのだぜ』
「十分な魔力ねぇ。じゃあ、エルゼリアから魔力を貰えないと無理だってことか」
『少しぐらいなら可能だけど、核になっている魔石の魔力を使いすぎるのは私にとって命を消費するようなものだぜ』
「なるほど」
人間で言えば、怪我をしてでも身体に無理をさせるようなものか。
まぁ、魔力さえ補給できればすぐに回復する分だけ気軽に使えそうではあるが。
人間なら回復するのに時間が掛るしな。
そう思っているとララが口を開く。
「ねぇ、その大きさで女の体型になれるんだったらエルゼリアの護衛をさせても良いんじゃない?」
「あぁ、確かに」
これまでその案を採用しなかったのは主に大きさが問題だったのだが、それを解消できるとなればゴーレムに任せてもいいのかもしれない。
意思の疎通も出来るし、ゴーレムではなく人間の護衛だと誤魔化せるだろうしな。
俺はエルゼリアに確認する。
「エルゼリア、魔力の使いすぎで体調に問題は出てないか?」
「えっと……何ともないわね」
魔力を使いすぎると体調を悪くするらしいのだが、彼女にその類の症状は出ていないようだ。
それについてゴーレムが言及する。
『体調が悪くなるのは魔力が減るからじゃなく、魔法を使うことで身体に負担が発生するからだぜ』
「え、そうなのか?」
ゴーレムの発言を受けてララとエルゼリアに聞いてみると、彼女達は揃って頷いた。
「そうらしいって話は聞いたわね、昔だけど」
「私も、魔法使いになろうと思って色々と調べたときに聞いたことがあるわ」
ララの話は30年ほど前のものなのだろうが、エルゼリアも言っているということは定説になっているのだろう。
更に聞けば……その負担とは頭痛や吐き気らしく、頭を使うことと魔力を身体に巡らせることが原因なのではないかと言われているそうだ。
『だから、魔力が減っただけのエルゼリアが体調を悪くすることはないのだぜ』
2人の話を聞き、そう言って胸を張るゴーレム。
別にコイツが偉いわけではないのだが……気になった点について質問する。
「人の言葉もそうだが、その知識は何処から来たんだ?自我があるというだけでは説明がつかないと思うんだが」
その問いにゴーレムは腕を組み、頭を傾けて考える仕草を見せると俺に答えた。
『んー……それはわからないのだぜ。この鎧の力なのかもしれないけど、1つのマジックアイテムに3つも4つも特殊な効果があるとは思えないのだぜ』
ないとは言い切れないらしいが、基本的にはメインの効果とサブの効果があるぐらいなのだそうだ。
このゴーレムが装備している鎧の場合、恐らくは自我を得るほうがメインでサイズの自動調整がサブだろうとのこと。
それはあくまでもゴーレムの推察だと言うが、ララとエルゼリアもその説を推した。
「サイズの調整はマジックアイテムならあってもおかしくはない、ぐらいにはあることだから」
「それも十分凄いとは思うけど、ゴーレムが自我を持って会話できるようになるほうが凄いと思うし」
「そうか……」
まぁ、これに関しては考えても確かな答えは出ないだろう。
なので俺はこのゴーレムの処遇を考えることに。
表情は動かないしどうせならゴーレムであることを隠しておきたいので、ララと同じように兜の面は下ろしておいてもらうとして。
口調は変だが会話に支障のあるレベルではない。
問題は声そのもので、少し籠もっているがそれは面を下ろしているからだと言い張れば良いか。
となると……コイツをエルゼリアの護衛にできない理由はなく、俺はエルゼリア本人に確認する。
「じゃあエルゼリア、別行動を取る場合はコイツを護衛に付けるってことで構わないか?」
「ええ、私としては構わないわ」
続いてゴーレムにも確認する。
「お前も、それでいいか?」
『構わないんだぜ。せっかくの自我を失うのは嫌だし、そのためにもエルゼリアは絶対に護るのだぜ』
「そうか」
別に俺が命令すればいいのでゴーレムに確認を取る必要はなかったが、魔力の供給源であるエルゼリアを自主的に護ろうと思っていることがわかり任せられると判断できた。
そこでエルゼリアがゴーレムに歩み寄る。
「そう言えばちゃんと名乗ってなかったわね。エルゼリアよ、よろしくね。えーっと……」
『ん?どうかしたのか?』
エルゼリアに応えようとしたゴーレムだったが、言葉に詰まる彼女へ首を傾げて問い掛けた。
それを俺も疑問に思っていると、エルゼリアはクルッと俺に顔を向けて尋ねてくる。
「ねぇ、この子の名前はどうするの?」
「あっ」
そうか、呼びかけることもあるだろうし名前が必要か。
うーん……俺が適当に決めてもいいが、自我と知識があるとなれば自分で考えたいと思うかもしれない。
それをゴーレム自身に聞いてみると、
『じゃあ……ケイロンで』
と、どこかの神話で聞いたことがあるようなないような名前を挙げた。
まぁ、聞いた気がするのは前世でのことだし、この世界には関係ないだろうから別にいいか。
不味かったら変えればいいしな。
「じゃあ、よろしくねケイロン」
『おう、よろしくなのだぜ』
というわけで……エルゼリアはゴーレム改めケイロンと握手を交わし、正式に護衛として受け入れたのだった。
その後に町へ戻ると、門で1人増えていることに突っ込まれる。
もちろんケイロンのことだ。
俺はそれに遅れてきた仲間だと返し、ギルド長の名前が入ったギルド証の効果もあって町の中へ連れ込むことが出来た。
『おー……』
何処からか知識を得ていながらも、町の様子を知るのは初めてなのか興味深そうな声を漏らすケイロン。
同時に辺りを見回しながら歩いているが、こいつに目があるわけではないのでこれは人間らしい振る舞いを演じているだけである。
それは俺が人間を演じるよう命じてあるからなんだけどな。
とはいえ、人や馬以外に建物やその辺に置いてある物もわかっている動きを取ってることは不思議に思う。
その点は森から町へ帰る道中で気になり尋ねてみたが、本人からすると"全周囲が見えている"としか言えないらしい。
疑問は残るが護衛としては有用だし、デメリットがあるようでもないので気にしないことにした。
そうして俺の宿へ戻り、屋台で買い込んだものを食べながら今後の話を進めていく。
「モグモグ……じゃあ基本的に俺とルルもエルゼリアについているとして、狙われてるかもしれないとなると外へ稼ぎにもいけないよな?」
「あむっ、ングング……外を出歩けるようにするための護衛じゃないの?」
俺の質問にエルゼリアはそう返すが、それにはララが返答する。
「モグモグ……ゴクッ。いえ、護衛がついているとはいえ出歩かないのが最善でしょう。貴女を襲って捕まっていないのがあと1人だとしても、そいつに協力する者が他にいないとは限らないわ。私達は決して護衛の経験が多いわけじゃないし、なるべく慎重な態勢を取るべきだと思うわ」
ララは30年前にも冒険者をやっていて護衛経験はあるものの、ソロだったこともあり多人数を望まれることが多い護衛依頼はあまり受けられなかったらしくそう話す。
30年前という部分をぼかした彼女の話を聞き、水で食べていたものを流し込んだエルゼリアが気まずそうな顔をする。
「ゴクッゴクッ、プハァッ……でも、そうなると宿代や食費がちょっと厳しくなるんだけど……」
「そんなに?」
「そんなによ」
聞き返すララに重々しく頷くエルゼリアは、俺の奢りで買った屋台の品を掻き込むように食べていた。
厳しいとは聞いていたし、昨夜の休憩中に提供した食料もがっついてたからなぁ……
そこで彼女に提案する。
「んー…………仕方ない。俺が持つからこの宿に移らないか?」
「えっ、いいの?ここのほうが高いんだけど……」
「敵についてはすでに捕まってる2人から情報を引き出せるだろうし、そんなに長く掛かるわけでもないだろう。俺はこの町へ来る前にある程度稼いでいて多少は蓄えがあるから問題ないよ」
生活費の面倒までみると言う俺に申し訳なさそうなエルゼリアだったが、ついでギルドへ経費として請求してみるからと言っておいた。
ギルドの予算的が厳しいとはいえ、人一人分の請求ぐらいは通るかもしれないしな。
それが通らなかったとして、金が尽きても稼ごうと思えば稼げるからやはり問題はない。
なので金よりも護衛のしやすさを優先して提案したわけなのだが、エルゼリアはその提案を受け入れることにした。
「じゃあ、申し訳ないけどお世話になるわ。えっと、その……代わりにと言っては何だけど、私を好きにしていいからね?♡」
ララの前ではあるも彼女が俺と恋愛関係にあるわけではないと知っているからか、目に情欲を込めてそう言ってくるエルゼリア。
「……」
そんな彼女にララは食事の手を止め、兜で目は隠れていたが無言で視線を向けているようだった。
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