第39話 ゴーレムの能力とエルゼリアの能力

エルゼリアの護衛をする話の流れで、ララがいた"魔境"で手に入れた鎧をゴーレムに装備させてみることに。


それを町の南にある森の深くで実行したのだが……そのゴーレムはこれまでと違い、俺の指示もなく動いた上に言葉まで発した。



『大丈夫だ。私は味方なのだぜ?』



その内容は自分が味方であるというものではあるものの、こちらとしてはそれを鵜呑みにはできない。


ゴーレムの核となる魔石の魔力状況はまだ把握できているが、勝手に動いている時点で安心するわけにはいかないのも当然だろう。


恐らく……これはマジックアイテムだと思われるあの鎧の影響であり、となれば何が起きてもおかしくないからな。


なので俺達は警戒態勢を取り続けていると、ゴーレムは軽く手を上げて再び言葉を投げかけてくる。



スッ


『いや、マスターとはラインが繋がったままだし、やろうと思えば私を強制的に止めることができるはずなのだぜ』


「っ!?」



何処かで聞いたことのある口調が気になるも、ゴーレムの言葉に俺は奴を操ってみた。



「えーっと、じゃあ……」


ザザッ、スッ……


『ん?これは何なのだぜ?』



俺がやらせているのは、相撲の土俵入りで見ることのあるポーズである。


何と言うのかは知らないが……両足を開いて屈ませ、腕は大きく左右に開いて両手の平を上に向けているアレだ。


武器を持たず、正々堂々戦う意志を表しているとかなんとか。


まぁ、少なくともこの土地では見ないであろうポーズとして採用した。



「「?」」



ゴーレムだけでなくララとエルゼリアも知らないポーズのようなので、このゴーレムが俺の意思で操作できていることは確実なようだ。


となればこのゴーレムが不味い行動を取ろうとしても止めることができるわけで、それ自体は良かったのだが……



「で、これって何なの?」


『何なのだぜ?』



ララとゴーレムがポーズそのものに興味を持ったらしい。


しまった、日本固有のものを表現すれば事実を説明できないじゃないか。


やらせた本人が知らないとは言えないし、俺は適当に誤魔化しておくことにする。



「えーっと、どこかの土地で豊作祈願の儀式としてやってるとか聞いたような……」


「「『へぇー』」」



エルゼリアも疑問に思っていたのか3人が揃ってそんな声を上げたが、どうやら不自然には思われなかったようだ。


実際に相撲も豊作祈願の儀式だったらしいし、こっちの世界だってそのぐらいの儀式はあってもおかしくはないのだろう。



スッ


『お、もういいのか?』


「ああ」



俺はゴーレムを直立の体勢に戻すと考える。


この件はこれでいいとして、問題はこのゴーレムの扱いだ。


わかってはいたが、やはり町中で扱うのは難しい。


大きさはともかく、自分の意志でも動けるとなると何をしでかすか予想できないからな。


というわけで、このゴーレムはただの水に戻すつもりである。


だが……俺が自身のスキルについて把握していないことをコイツが知っているかもしれず、であればそれを聞き出せるいい機会なのかもしれない。


となれば、ゴーレムでなくなることを隠してその辺りのことを聞いてみるか。


自我を持っているのならそれを失うのは嫌がり、何か情報を持っていても教えてくれなくなりそうだしな。



「それで……ゴーレム、お前は俺のスキルについてなにか知っているか?」


『ん?詳しくは知らないのだぜ。ただ……』


「ただ?」


『ゴーレムは基本的に1つの命令と1つの条件しか設定できないけど、自我を持つ私にならもっと複雑な命令を設定できるのだぜ』


「ほう……」



なるほど。


自我を持つことにより、記憶力や判断力が通常のゴーレムとは異なるということだろう。


それ自体は都合が良く、状況によっては再びコイツを作成して使うことも選択肢に挙がる。


だが、それ以上のデメリットがあれば話は別だ。


魔力の消費量が増えたりして稼働時間が短縮するとか、こちらの命令を拡大解釈して意図しない行動を取ってしまうとか。


後者についてはそれを防ぐため、前世での契約や規約のように細かな命令を設定することが必要になるだろう。


それを許容できるかは……やはり状況次第になるが。



『どうだ?なのだぜ』


スッ



頭部は兜に隠れている上にそもそも顔がないので表情は不明だが、その言葉と若干胸を張っていることから自身の性能を誇っているようだ。


そんなゴーレムに俺は答える。



「ああ、凄いな。じゃ、ただの水に戻していいか?」


『ちょっと待つんだぜ!どうしてそうなるのだぜ?』



俺の発言に慌てて聞き返してくるゴーレム。


もちろん俺は答えてやる。



「いや、デカいし」


『いやいや、"格納庫"に仕舞っておけばいいのぜ?』


「ああ、"格納庫"のことも知ってるのか。でも中でお前が勝手に動くかもしれないだろ?だったら何を仕出かすかわからないし入れておきたくないんだが」



"格納庫"の中では素材をゴーレムにしたり、変形させたりすることができる。


つまりゴーレムを操ることが可能なわけで、となれば自我を持つゴーレムも中で勝手に動けてしまうかもしれない。


それが睡眠中など、俺の気づかないうちだと対処のしようがないからな。


その説明をすると、ゴーレムは激しく首を横に振る。



ブンブンブンッ


『いやいや、何かあれば消されるとわかっているのに勝手なことはしないんだぜ?』


「意図的ではなくても事故は起こるだろ」


『それはそうなんだけど、動くなと命令しておけばいいのだぜ』


「それは"命令を実行している"ということになって魔力を消費するんじゃないのか?」


『う』



"格納庫"の良い所は重量の負担がないことと荷物が嵩張らないこと、そして仕舞ってあるゴーレムの魔力が消費されないことである。


自我がなければ命令せずともじっとしているし、無駄に稼働時間を減らしてしまうこともない。


しかし、目の前のコイツは動くなと命令すれば稼働時間はどんどん短くなり、必要なときに魔力の補充から始めることになるわけだ。


だったらただの水のゴーレムに戻しておき、必要なときに再び変形させるほうがコストは掛からない。


その点を否定できないのか、ゴーレムは一言呻くと腕を組んで首を傾げる。



『うーん、困ったのだぜ。勝手に動けるのをそこまで警戒されるとは』


「いや、やろうと思えばお前は簡単に人を殺せる力があるからな?警戒するのは当然だろう」


『それもそうか。だったら人に攻撃するなと命令すればいいんじゃないか?』


「魔物にだけ対応させるってことか。それでも結局は勝手に動くのを制限して魔力を無駄に消費することに代わりはないし、必要なときに作り直したほうが都合は良いんだが」


『ぐ』



やはり反論できずに呻くゴーレムだったのだが、そこでコイツは気になることを口走った。



『うぅ……そこの娘が魔力をくれれば気にしなくてもいいのに』


「そこの娘?」


『そっちの、鎧を着ていないほうだぜ』


「え、私……?あっ」



ゴーレムが言っているのはエルゼリアのことらしく、言われた彼女は一瞬驚くも何かに気付く。



「それって、私がゴーレムになってるから持ってる魔力のことじゃない?でも貴方に使われている魔石よりも小さいし、怪我を治すのに使ったから量も少ないはずだけど……」


『ん?いや、それとは別の魔力だぜ』


「別?」


『ああ。君は魔力を多く持っているのだぜ』


「えっ!?そうなの?」



突然の朗報に喜ぶエルゼリア。


だが、それはすぐに落胆へと変わってしまう。



『でも、君にそれを使う方法がないのだぜ』


「えっ?どういうこと?」


『魔力がどんどん湧いてくるけど、君はそれを自力では使えないのだぜ』


「それって……魔法を使えたとしても?」



その問いに、ゴーレムは魔法の概念を確認してから彼女に答える。



『魔法……あぁ、人が魔力をいろんな形に変えて使うやつか。あれを使えたとしても君自身の魔力は使えないのだぜ』


「ど、どうして?」


『どうしてと聞かれても……』



その理由はゴーレムにもわからないようだが、そこで静観していたララが口を開いた。



「私の知る限りだけど……魔法は体内に魔力を運ぶ道と、実際に魔法を外部へ放つ出口のようなものがないと使えないそうよ。貴女もそれらがないんじゃない?」


「えぇ……じゃあ魔力があっても意味がないってこと?」


「全く無いとは言わないけど……使う人の魔力を吸い上げて動くマジックアイテムなら使えるんじゃないかしら?」



ララの言葉に俺は希望が見えたのではないかと思ったが、当のエルゼリアは入手が難しいからと肩を落とす。



「マジックアイテムって高価な物ばかりじゃない?"遺跡"や"魔境"で見つかっても、大抵は自分達で使うか権力者に売られる物だし……」


「まぁ、それはそうね」


「ハァァ……」



2人の話を聞いて、俺は鑑定のマジックアイテムを思い出す。


確か……あれは人の手で作られた物らしいが、魔石を使うタイプだったよな。


人の魔力を利用するタイプは作れないのだろうか?


まぁ、作れても今のところは鑑定のマジックアイテムにしかならないのだろうが……


そんなことを考えているとゴーレムが口を挟む。



『そこで私なんだぜ。君がゴーレムになっていることで、私に魔力を渡すことができるようになっているのだぜ』


「ん?どういうことだ?」


『ゴーレム同士なら魔力のやり取りが可能なのだぜ』


「ゴーレム同士ならってことは、それはゴーレムとしての魔力じゃないのか?だとしたらやり取りできるのは魔石に残っている魔力だけで、エルゼリア本人の魔力は別だろう」


『フッフッフ……そうとは限らないんだぜ』



ゴーレムは不敵に笑ってそう返す。



「どういうことだ?」


『確かに、ゴーレム同士でやり取りできる魔力は核となる魔石に残っているものだけだぜ』


「じゃあ……」


『でも、それは普通のゴーレムには判断力がなくて魔石の魔力しか送れないだけで、人としての判断力がある彼女は人として持っていた魔力を選んで送ることができる……かもしれないぜ』


「そこは断言しないのかよ」


『人がゴーレムになっていること自体が異常なのだぜ。だから可能性があるとしか言えないのだぜ』


「それもそうか……じゃあエルゼリア、試してみるか?」


「ええ。他に使う機会が来たときのためにも確かめておきたいわ」



そうして、本人が乗り気だったので試してみたところ……おかしなことになった。



『ふふん、どうなのだぜ?』



そう言ってポーズを取るゴーレム。


そのポーズは女性モデルが取るようなものであり……ゴーレムはそれが似合う、一般的な身長と女性の体型になっていた。

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