第37話 護衛任務発生

ちゃんと目を覚ましたエルゼリアは身支度を整えると、待たせたままだった宿の人に応対する。



カチャッ、キィッ


「お待たせしました。それで何の御用でしょうか?宿代はちゃんと……」



金銭的にそろそろ厳しいと言っていた彼女だが、流石に宿を追い出されるのは不味いからと支払いを滞らせたりはしていないらしい。


その代わりと言っては何だが食費はかなり削っているらしく、昨夜の休憩中は"格納庫"にゴーレム化して入れておいたいくつかの食糧を提供すると貪るように食べていた。


その後は元気になったからか、再開時にはを貪っていたが。


そんな彼女の問いに、宿の人は首を横に振る。



「いえ、そういうわけでは。こちらの方が」


スッ



その言葉に合わせて死角から姿を現したのは、冒険者ギルド職員の制服を着ていた女だった。



「朝から失礼します。私は冒険者ギルドから参りました、ミリィと申します」



そう名乗る彼女はスラッとしたクール系の美女であり、肩ほどまでの茶髪を揺らして頭を下げる。


それに俺達も名乗ってみせると、ミリィさんは宿の人を仕事に戻らせてから用件を言った。



「昨日のエルゼリアさんの件でお話がありまして。部屋の中でお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」



恐らくは、森での件を冤罪だと言ってきた連中がいるのだろう。


町の中でエルゼリアを襲った連中が早速動いたわけか。



「失礼します」


ギッ……



狭い部屋にミリィさんを入れると椅子に座らせ、俺とエルゼリアはベッドに座って詳しい話を聞く。



「では早速ですが……エルゼリアさんが襲われた件で、逮捕された男達は冤罪であるという通報がありまして」



予想は当たり、あれが同意の上であったという情報が入ったらしい。


エルゼリアはもちろん否定する。



「いえ、同意なんてしてません。それに昨日ギルドから帰る途中で襲われまして、その連中が森での件を冤罪だということにしろと脅迫してきてまして」



それを聞いてミリィさんは眉をひそめる。



「脅迫、ですか?」


「ええ。顔を隠した3人組で、話したのは1人だけですが……断ったらナイフで刺されました」


「えっ!?本当ですかっ?」


「ええ、実は……」



エルゼリアは驚くミリィさんに脅迫の件を説明したのだが、それを聞いた彼女は不思議そうにエルゼリアの身体を見回す。



「ご無事のように見えるのですが……」


「これを見てもらえれば」



エルゼリアは革袋から大量の血で濡れた服を出して見せた。


これは俺の力で綺麗にすることもできたのだが、被害を受けたことの証明としてわざとそのままにしておいた物だ。


鑑定のマジックアイテムが存在するので、染み込んだ血が本人のものであることは証明できるだろう。


それを見てミリィさんはエルゼリアの体調を心配する。



「この出血だと……お怪我の方は大丈夫なのですか?」


「ああ、それは……」



聞かれたエルゼリアは俺を見た。


ゴーレムの件は言えないので、誤魔化し方は俺に任せるということだろう。


すぐに嘘だとバレるだろうし、治療院で治癒魔法を受けたというわけにもいかないからな。


というわけで……



「ああ、"遺跡"から持ち帰られたらしい魔法薬を使いまして」



と言っておく。



「……」



するとミリィさんは目を細め、やや冷たい目をする。



「朝からご一緒なのは……その代価として、ということですか」


「えっ?……あっ!?違います!それは私の方から!」



彼女の発言で俺がその代価として身体を要求したと思ったらしいことを察し、エルゼリアが慌ててそれを否定する。



「あら、それは失礼しました」



その様子から事実であると察したのか、ミリィさんは俺に謝罪した。


傷を瞬時に治す魔法薬は相当に貴重であるらしく、大変高価でありこんな宿に泊まっているエルゼリアに金銭で支払えるとは思えなかったのだろう。


そう思ってもおかしくはないので俺はそこまで気を悪くしたりしておらず、彼女に話を進めることを優先させた。



「それはいいんですが、冤罪だと言ってきた連中は誰だかわかってるんでしょうか?」



そう聞いたところ、意外な言葉が返ってくる。



「あ、はい。捕らえてありますので」


「「えっ」」



俺とエルゼリアの声が重なった。


その反応にミリィさんは事情を説明する。



「ジオさんは森で犯人達を捕まえてから、ギルドに運ぶまで口を塞いでいたわけですよね?」


「そうですね。五月蝿かったんで」


「それは門の検問でもそうだったと確認が取れまして。なのでエルゼリアさんが襲われたことを知っている時点で、すでに捕まっていた犯人達の内部情報を知ることができる立場……つまり仲間なのではないかという疑いがあるとギルド長が」


「あぁ……なるほど」



確かに、犯人達の口は塞いでいてエルゼリアの服も直させていた。


その状態で第三者には何があったのかわかるはずもなく、それを知っていればグルであると疑われるのは当然か。



「じゃあ、今日ここに来たのは……?」


「確認のためですね」



ギルドとしてはエルゼリアや俺を疑っているわけではなかったらしく、一応の確認として話を聞きに来ることとなったらしい。


しかし、ミリィさんは難しい顔をする。



「ですが町の中でも被害に遭われたとなると、それはそれで対応しなければなりません。新たに捕まったのは2人組でエルゼリアさんのお話とは1人違いますし、残りの1人を探して逮捕する必要があるでしょうからギルドへお越し頂けますか?」



残りの1人がエルゼリアを再び襲撃してこないとは限らない。


となればその妖精に答えない理由はなく、俺達はギルドへ出向くことになった。





「おはよう。朝から悪いな、ゆっくり余韻に浸りたかっただろうに」


「お、おはようございます……」


「おはようございます」



先に事情を伝えに戻ったミリィさんから聞いたのか、ニヤリとしてそう言ったギルド長ことフランチェスカ氏。


それにエルゼリアは顔を赤くしながら挨拶を返し、続いて俺も普通に挨拶を返すと本題に入る。



「さて……エルゼリア、町の中でも襲われたそうだが」


「はい。ミリィさんにも説明しましたが……」



エルゼリアはミリィさんにした説明をギルド長にもすると、それに合わせて血塗れの服も証拠品として革袋ごと提出する。



「ふむ……一晩経ってもこの重さか。ミリィ、鑑定のマジックアイテムを」


「はい」



受け取った革袋の重さで出血量を察し、ギルド長はミリィさんに言って棚から鑑定のマジックアイテムを用意させた。


そうして手順通りに鑑定が開始され、1分後に出たその結果は……



「エルゼリアの血だな」



当然ながら本人の血であるというものであり、それをもって彼女が脅迫に遭ったことにも対応してもらえることになる。



「まぁ、森での件を冤罪だと言ってきた2人組は既に捕らえてあるので締め上げればいいとして……問題は脅迫してきた連中だな」


「そうですね」



脅迫してきた3人組の中に冤罪であると言ってきた2人が含まれているとは限らず、とりあえずは別物として扱う。


エルゼリアが死んでいると思いこんでいれば用がないとして再び姿を現すことはないだろうが、生きているとなればまた脅迫してくる可能性がある。


捕らえた連中から脅迫してきた連中のことを聞くとして、それまでエルゼリアをどうするかという話になった。


そこでギルド長は俺に命じる。



「では、犯人が判明するまで彼女の護衛を任せる」


「それは構いませんが……他の仕事はいいんですか?」



俺は冒険者を監視するという役割を請け負っており、所謂不届き者の冒険者に対処して報酬を得ることになっていた。


そうなると……報酬は別にいいのだが、不良冒険者への対応が遅れるかできなくなる。


そう思って聞いてみたところ、ギルド長はニコリと微笑んでそれに答えた。



「フフッ♪実はすでに君の効果が出ていてな。相当数の問題が減っていると報告があった」


「はぁ?」



1日しか経っていないのに?と思ったが……魔物と戦う冒険者だけあってそれなりの危機感は持っているらしく、受付嬢であるナタリアの件とエルゼリアの件で俺の実力がある程度伝わって大人しくなっているらしい。



「なるほど……まぁ、護衛の件はわかりました」


「ん?報酬の話はまだだがいいのか?」


ムニュリ



俺が護衛の件を了承すると、ギルド長は腕で胸を持ち上げてそう言ってくる。


身体で支払ってもいいということなのだろうが、部下のミリィさんもいるので控えていただきたい。



「……」



ん?


また冷たい目で見られているかと思ったのだが、今回はさほど悪い感じで見られているわけではないようだ。


まぁ、俺から要求しているわけではないからだろうけど。


さて、報酬のことだが……護衛をするとなれば外へ稼ぎに行けないが、先日の青いゴブリンの報酬もあるのでよほど長期間にでもない限り金銭的な問題にはならない。


それをわかっていてギルド長は金銭以外の報酬で予算からの出費を抑えようとしているのかもしれないが、それで都合よく使われすぎるのも困る。


身体で払うと言えば、俺がそれを遠慮してタダ同然で使えると誤解されそうだしな。


エルゼリアやミリィさんの目は気になるが……ここはハッキリ言っておこう。



を報酬だというのであれば遠慮なく頂きますよ?いいんですか?」



自分としては半ば脅しているぐらいのつもりではあったのだが、それに対するギルド長の答えはこうだった。



「構わんよ?何なら手付けで挿れていくか?」


ギッ……スッ



ギルド長はそう言いながら椅子から立ち、スカートを捲って紐パンを見せてくる。


……黒か。


前回は胸を揉ませてきたし、この分だと本当に身体で報酬を支払う気であるようだ。


仕方ない。


あくまでも今回は偶然こうなっただけだし、次からは事情に納得できなかったら断るようにすればいいか。


そう決めてギルド長の部屋を去ろうとする。



「とりあえず護衛の件は引き受けます。では」



そんな俺にギルド長は声を掛けてきた。



「期待してるぞ、な♡」



その言葉を背に、俺はエルゼリアを連れて部屋を出るのだった。

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