第34話 初仕事の報告

初仕事の帰りに、森の中で男の集団に襲われていたエルゼリアを発見した。


どうやら魔法使いではないことがバレたらしい。


幸いまだではあったらしく、俺はすぐに男達を氷の手で拘束した。



「くっ、離しやがれ!」



そう喚く男達の口を追加で出した氷の手で塞ぎ、連中を無視してエルゼリアに声を掛ける。



「大丈夫か?」


「え、ええ……ありがとう」



助かってホッとしたらしい彼女はお礼を言うが、手で隠しているとはいえ胸や股間が露出したままだ。



「とりあえず服を」


「あっ、うん」



彼女は赤い顔で服を直し、転がっていた杖を拾うと改めてお礼を言ってくる。



「コホン。その、本当にありがとう。助かったわ」


「偶々だ。とりあえず町に戻ろうか、こいつらの処分をギルド長に任せたい」


「そうね。好き勝手触られたことはきっちり証言してやるわ」



そう憤るエリゼリアを連れ、後ろからララに監視させつつ俺達は町へ帰還した。





ザワザワ……



仕事を切り上げる時間なので町の門には通過待ちの列ができており、氷の手で拘束した男達を運んでいる俺はかなり目立っていた。


目立つのは別に好きじゃないし、男達を浮かせているので魔力的に早く町の中に入りたい。


とはいえ列を離れて先頭に行っても列に並べと言われる可能性があり、俺は大人しく順番を待つことにした。


するとエルゼリアが提案する。



「門に行ってこいつらのことを言ってみるわ。もしかしたら先に入れてくれるかもしれないし」



そう言って彼女は列から離れ、門へ走るとその先で検問の担当者にこちらを指差しながら話していた。


程なくしてその話が終わると、エルゼリアは走って俺達の下へ戻って結果を伝える。



「逃亡の可能性もあるから先に入れてくれるって」


「ああ、そうなのか」



俺としては満足な結果だったが、彼女にとっては不満だったらしく愚痴ってくる。



「町の衛兵に対応してもらえないかって聞いたんだけど、冒険者のことはよっぽどのことがない限り冒険者ギルドに任せるんだって。私にとってはよっぽどの事なのに……」



まぁ……事が済んで男達が満足しても、その後に通報される可能性を考えると始末されていたかもしれないからなぁ。


一般人なら話は違ったのだろうが、今回は冒険者同士だったから町とはしては介入しないということなのだろう。


冒険者の対応に町が消極的なのは、魔物の相手を冒険者に任せたいというその立場によるものだな。


ただ、そうなると俺の役職は結構重要なんじゃないだろうか?


なのによく知りもしない俺を採用したなぁ、ギルド長。


実力があって性格がまともならってことだったんだろうが、その性格を把握するには日が浅すぎるだろうに。


まぁ、こちらとしては都合が良いからやるだけやるか。


そんなことを考えつつ列を離れて門へ向かうと、検問の担当者が俺に確認する。



「そいつらが犯人か」


「ええ」


「そうか。では登録証の確認を」


「はい」


「……なるほど。通っていいぞ」



俺が出した登録証には"冒険者ギルド監察役"と書かれており、それを見た担当者は前を開けた。


その後にエルゼリアの登録証を確認してもらい、ララの通行料を払うと門を通過して冒険者ギルドへ向かう。





ザワザワ……



途中でララを宿へ帰らせ、その後に冒険者ギルドへ到着すると表側から入る。


仕事上がりの時間だからか、ギルドの受付には報酬の手続きや預けていたお金を引き出しに来た冒険者で混んでいた。


そんな中、氷の手で拘束した男達を連れた俺達が入るとすぐに気づかれ道を開けられる。


門からここまでもそうだったが、やはり目立ってしまっているな。


さっさと用事を済ませよう。


そう思った俺は受付の警備員に男達のことを伝え、ギルド長へ伝えに行ってもらった。


すると警備員はすぐに戻ってきて、男達を牢へ入れてからギルド長に直接報告するよう伝えられる。


それに従い男達を地下牢へ入れると、エルゼリアを連れてギルド長の部屋へ向かった。



コンコン


「入れ」



その声に応じて部屋に入ると、ギルド長のフランチェスカ氏が俺達を迎える。



「話は聞いた。そちらが被害者本人か?」


「はい」


「エ、エルゼリアです!」



緊張しているのかエルゼリアがそう名乗ると、フランチェスカ氏は彼女に事の経緯を一通り聞く。



「……なるほど。あとは犯人側にも聞いて処分を決める。ジオ、ご苦労だった」



エルゼリアの証言はあくまでも彼女の主張でしかないが……先に街の外へ出ていたことは門で聞けばわかるだろうし、あの連中をわざわざ冤罪で犯罪者にする理由はない。


更に言えば彼女にあの男達をどうにかできる力はなく、となれば連中が一方的に襲ったのだと考えられる。


そんなわけでフランチェスカ氏は概ね事実だと受け取りつつも、万が一冤罪だった場合のことも考えて連中にも確認すると言っているようだ。


それがわかっているからかエルゼリアも疑われているとは思っておらず、とりあえずは事が片付いてホッとしていた。



「じゃあ、失礼します」

「失礼します」



俺達はギルド長の部屋を出ると、今日の成果を換金するために解体場で査定してもらいに行く。


その道中、俺が背負う革袋を見てエルゼリアが聞いてくる。



「食べられるような獲物を狩ったの?」


「いや、魔物ばかりだな」


「じゃあ、討伐証明の一部分だけでその量になったと」


「まぁ、そうだな」


「ハァァ……良いわねぇ、景気が良くて。こっちは薬草の採取すら難しくなるかもしれないのに」



彼女がそう言うのは、自分が魔法使いではないことがあの連中以外にも漏れている可能性があるからだ。


連中に襲われたのは俺達が引き上げる途中で夕暮れ前だし、それまでの間に仲間以外へ伝えた可能性がないとは言えない。


だからこそ、エルゼリアは今後の金策に頭を悩ませているようだ。


そんな彼女に提案する。



「家族の下に戻ったらどうだ?」


「うぅん……こんな事があったんだからそれも考えないといけないんでしょうけど、なんの成果もないっていうのはねぇ……」


「そうは言ってもスキルを得る方法なんてわからないだろ。それが叶ったとしても望んだようなスキルになるとは限らないだろうし」


「ぐ……」



返す言葉もないのか、エルゼリアは呻くだけに留まり解体場まで黙り込んでいた。




そうして解体場に着くと……エルゼリアは薬草の査定だけなのでカウンターの方へ向かい、俺はしばらく順番を待ってから査定のブースへ案内される。


今回の査定担当は中年の男であり、数には驚かれるも特殊なものはなかったので何事もなく査定を終えた。


その後、表の受付へ向かおうとすると途中にエルゼリアが立っていた。


彼女は俺を見つけて手を振ったので、何か用があって俺を待っていたようだ。



「どうした?」


「いやほら、助けてもらったお礼が必要かなって」



これまでのことを鑑みると、ここでは助けられたら相応のお礼をすべきだという考えが一般的なのだろう。


まぁ……前世にいたような「助けてもらって当たり前」という考えの人もいるのだろうが、少なくともエルゼリアはララやナタリアさん達と同様の考え方であるようだ。


ただ、彼女は懐に余裕がないはずなので断っておく。



「いいって。そんな余裕ないだろ」



そう返すとエルゼリアは顔を赤くする。



「それはお金なら、ね。でも他の形でなら……どうかしら?」


ピラッ、ムニュウ……



言いながらマントの前を開け、手で胸を持ち上げてみせる彼女。


裸にされていたので見てはいたが、中々の大きさであることが再確認できた。



「身体でってことか?止めておけ、襲われたばかりだろうに」


「だからこそよ。今までは大した男がいなかったからにはならなかったんだけど……」


「俺を気に入ったと?」


「ええ。実力があって、ギルドからの信用もあるぐらいには人柄も良いんでしょう?」


「実力はまぁそれなりかもしれないが、人柄についてはどうだろうな。ギルドは丁度いいのがいたから冒険者のお目付け役にしただけだろうし」


「あぁ、そうなんだ。でも自分で自分の人柄が良いって言えないぐらいにはまともな性格なんじゃない?」


「そこは……人によるだろ」



"いい人"を自称する人間が本当にいい人であるということもあるだろうからな。


そう言うとエルゼリアはこう返してくる。



「でしょうね。でも黙っておけばができるのに、それを止めさせようとしてるじゃない。それは私のためなんでしょ?」


「それは、まぁ」


「そういうところも気に入ったのよ。それで気に入った男がいたんだから、どこかの賊に奪われるよりはってね」


「えぇ……?連れの女がいるのは知ってるだろ」


「恋人ってわけじゃないんでしょ?だったらいいじゃない」


「それはそうだが……」



魔法やスキルを覚えたいと頼まれた際にララとの関係性を教えていたが、それが裏目に出てしまったか。


普通ならここで断る理由としては貞操観念ぐらいしかないのだが、聞く限りではこの世界において気に入った相手と交わることに躊躇はないようだからなぁ。


まぁ、魔物という危険な存在によって生存本能がそうさせているのかもしれない。


これまでの相手もそうだったし。


さて、どうするか。


エルゼリアは美人だし、無理にでも断りたいというわけではない。


あちらも俺がそう思っていることは目線でわかっているだろうし、だからこそ身体でお礼をと言い出したのだろう。


そんな彼女が身を寄せてくる。



「……ね?♡」



積極的とはいえ話を聞く限り未経験であることはわかっており、相応に緊張していることも見て取れる。


それなりに勇気も必要だったんだろうし、ここで断るのも可哀想か。



「わかった。じゃあ頂くとしよう」


「っ!ええ、その……が、頑張るわ!」



エルゼリアはその答えに緊張しつつも、気合を入れているのか胸の前で拳を握ってそう返した。





エルゼリアとの話が済むと、ナタリア達受付嬢が並ぶフロアに出る。


そこはやはり混んでおり、何処も同じぐらいの列が出来ていたので……俺はどうせならとナタリアの列に並んだ。


エルゼリアはなるべく早く順番が来ると読んでか、新人らしい冒険者が多い別の受付に並んでいる。


俺が並ぶと周りの目がこちらに集中し、前に並ぶ冒険者が声を掛けてきた。



「あ、あの……」


「ん?何か?」



前に並んでいたのは新人なのか若い男で、用件を聞くとそれに答える。



「いや、良ければ順番をと思いまして……」



単に順番を譲ってくれようとしているようだが、俺の力を見ていたか聞いたのだろう。


気を遣われているにしても犯罪者を捕らえていたときとは違ってそこまで急ぐわけでもなく、監察役という立場上もあって変に借りを作るのはよろしくない。


というわけでこの申し出を断ることにする。



「いや、特に急ぐわけでもないからいいよ。それに特別な理由がない限りは順番を守らないと、決まりが意味のないものになってしまうからな」



その言葉に周囲の人達は目を丸くし、前に並ぶ男は少し固まると言葉を返してきた。



「は、はあ……その、決まりに厳しいんですね」



どうやら力で我儘を押し通すというのがよくあることだったらしく、そうではなくルールを遵守する俺を意外に思ったようだ。



「まぁ、納得できればな。意味がわからず、従うと損をするような決まりには従わないかもしれないが」



土地ごとの風習もあるだろうし、その辺りは状況で変わると答えておく。



「は、はぁ。じゃあ……」



それに相手は納得したらしく、彼は前を向いて順番を待つことにしたようだ。


その後しばらくして、俺の順番が回ってくる。



「いらっしゃいませ、お疲れ様です♡」



先ほどまでも愛想は良かったが、それ以上に満面の笑みで俺を迎えるナタリア。


そんな彼女に査定表を提出すると、その手を撫でながら内容を確認する。



「あら、随分と張り切られたんですね。こんなに討伐するなんて」


「まぁ、初日なんで様子見のつもりだったんですが、森の奥に入ってみたら向こうから向かってきたんで」


「ああ、この時期の魔物や動物は冬備えで活発になるからでしょう。だから今日は強い魔物に遭遇する若手の方が少なかったんですね」



どうやら、俺達が森の奥で狩りをしたことで若手が危険な魔物と遭遇することが少なかったらしい。


ん?


エルゼリアを襲った連中だって、普通は魔物を警戒しないわけにもいかなかったはずだ。


となると……俺が魔物を減らしたことであの現場が安全になり、それを好機と見て彼女を襲ったのかもしれない。


俺のせいとまでは言えないはずだが、そう考えるとお礼を貰うのが少々気不味いな。


俺は報酬の手続きをするといくらかの金を引き出し、出口で待っていたエルゼリアと合流すると彼女の宿へ誘われる。


そこで先ほど推察したことを伝えるが……



「話を聞かれてたんだからあの場じゃなくてもいずれ狙われてたわよ。そもそもあの場で話すことにしたのは私だし、それに助かる状況で襲われたんだから逆に良かったんじゃない?」



と返され、俺がエルゼリアからのお礼を貰うという予定に変更はなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る