第31話 ハメられたっ!
イスティルという町に到着した初日。
色々あったが冒険者登録を済ませるも、その場の流れで素行の悪い冒険者の監視役になってしまった。
まぁギルドに任命された形だし、その立場から俺やララの出自を下手に探ろうとする奴が出にくくなるだろうと思って引き受けたのだが。
その後に宿へ戻ってララに事情を話し、彼女もそれについては積極的に協力する姿勢を見せたので良しとする。
で、その冒険者ギルドで人気の受付嬢であるナタリアさんから夕食に誘われることとなり、2人きりは誤解で絡まれそうだからと彼女の友人で解体場に務めるジェミナも一緒なら……とお誘いを受けることになっていた。
人前で顔を晒せないララには宿で過ごしてもらうことにし、俺は待ち合わせ場所である冒険者ギルドへ到着する。
ザワザワ……ガヤガヤ……
「……」
中に入ると昼間に来たときよりも混んでいた。
ギリギリまで稼いできた冒険者達が、一斉に押しかけてきているからだろう。
このぶんだと……護衛依頼など、全ての冒険者が査定を必要とするわけではないだろうが、解体場のほうも混んでいるのではないだろうか?
この世界における時間とは、どこかの教会が保有しているマジックアイテムの時計により計られたものであるそうだ。
それが冒険者ギルドの特殊な方法で各地へ伝えられ、ギルドが1時間毎に規定の回数だけ鐘を鳴らす。
その鐘が鳴るのはもうそろそろで、それはナタリアさんの終業時間のはずだが……彼女は人気らしいし、時間通りに上がれるのか不明である。
予定よりも早いということはなさそうだし、まずは解体場へ行きジェミナの様子を見てみるとするか。
解体場へ行ってみると……予想通りというか、予想以上に混んでいた。
そしてやはり血の匂いが強く、それは多くの冒険者達が魔物の素材や討伐証明としての部位を持ち込んでいるからだろう。
その様子に食事会は遅れるか延期かな?と思っていると、肩を叩かれて声を掛けられる。
「こんばんはー」
「ん?誰?……いや、ジェミナさん?」
声を掛けてきたのは普通の町娘らしい格好の女性で、大きくクリッとした目を露わにしていた。
その服装から顔もスタイルも良く見え、俺が知っているジェミナは目元を隠していたので一瞬誰だかわからなかったのだが……声に聞き覚えがあったのでそう返してみる。
するとそれは合っていたようで、彼女はニコリと微笑んで答えた。
「そうですよー。一瞬気付きませんでしたね?」
「ええ。仕事中とは少し雰囲気が違いましたので」
「でしょうねぇ。ほら、仕事中は割り当てられてる区画で周りからは見えないじゃないですか。そうなると誘ってきたり触ってきたりするのが出てくるんですよぅ」
「あぁ、そういったことを減らすために顔を分かり難くしてるんですか」
「そういうことです。こっちはギルドの職員ですし、下手に手を出せば相手はギルドから罰を受けることになります。よほど気に入らなきゃ
「顔を隠してもですか」
「ですね。体型を隠せるような格好じゃ仕事がし辛いですし」
「そうなると……仕事以外でも目を隠しておいたほうが良いんじゃないですか?」
「同じ人間だとわからないほうが良いんですよ。外で目を付けられて解体場で手を出されるかもしれませんので」
「なるほど」
解体場が騒がしいとは言え、流石に
となれば手を出されるとしても触られる程度に収まると考えられるが、人目に付き難い場所を避ければいい外より被害に遭いやすいということかな。
そう思っているとジェミナがため息をつく。
「ハァァ……だから作業着も大きめのやつで少しは体型を分かり難くしてるんですけどねぇ」
「どうかしました?」
「ああ、いえ。この町に来て間もないらしい冒険者達からちょっと手を出されかけまして」
「えっ?それは……大丈夫だったんですか?」
その問いにジェミナは微妙に言いづらそうな顔で答える。
「まぁ、大丈夫といえば大丈夫なんですが……口を塞がれて机の上に押し倒されましたね」
「えっ」
冒険者
もしかすると……本当は大丈夫ではなく、俺に心配させまいとしているのかもしれない。
そんな心情が顔に出ていたのか、それを見た彼女はすぐにその推察を否定した。
「あっ、本当に大丈夫だったんですよ?暫く身体を触られてましたけど、受付の方で騒ぎを起こしたA級が誰かに抑え込まれて牢屋に入れられたって話が聞こえてきて、そこでその冒険者達は自分達も捕まるのを恐れてそれ以上のことは諦めたんです」
「その時点でも捕まるんじゃないですか?」
「証言だけでは難しいですね。まぁ、触られる程度ならマシなんですが……どうせならその
スッ
そこを強調してくるということは、それが俺のことだとわかっているのだろう。
その答え合わせをするように彼女は言った。
「ナタリアから夕食のお誘いを聞いて知りました。偶然ではあるんでしょうけど、ありがとうございました♪」
ああ、俺がジェミナも誘ってもらうことにしたから知られたわけか。
偶然には違いないのでお礼を言われるのは複雑な心境だ。
「まぁ、お気になさらず」
「……」
ススッ
そう返すと彼女は更に距離を詰めて囁いた。
「いえ、今夜は私も
何やら意味ありげに言われたが、そんなジェミナはもうすぐ時間だからと俺を受付側へ案内した。
ギルドの受付側には職員用の出入り口があり、その前でジェミナと一緒に待っているとナタリアさんが出てくる。
「お待たせしました」
「いえ」
制服から着替えたらしい彼女はやはり普通の町娘のような格好で、腹部までを覆うケープを纏っていた。
俺はそんな彼女に確認する。
「混んでいたようですが、上がって良かったんですか?」
「ええ。規定の時間が来れば受付の終了を告知できますので、それ以降は並ばれても対応しないことになっております」
そうしないと冒険者がいなくなるまで仕事が続いてしまうということで、彼女の受付はそういう体制になっているそうだ。
すべての受付がそうなっているわけではないのは、夜間は客が減るので開いている受付も減らすからで、それは人気のある受付嬢の上位者から受付を閉めるらしい。
そうでない他の受付は普通に夜勤の人が入るそうだ。
「あぁ、そうでしたか」
それを聞いて、ナタリアさんに対応してもらえなかった冒険者に恨まれる可能性が少し下がって安堵する。
少しだけどな、逆恨みする奴はするだろうし。
今もチラチラと見られてはいるのだが……ジェミナのお陰かデートなどの誤解はされていないようで、特に絡まれることなく済んでいた。
そこでジェミナが移動を促す。
「さ、立ち話してるとお店が埋まっちゃうかもしれないから行きましょ?」
「そうですね」
「ええ、そうね」
それに俺とナタリアさんが応じ、俺達は食事をする店へ移動を始めた。
到着した先は少し上等ぐらいの酒場がある宿だ。
お値段も少し上等だからか、時期的に混んでいるとはいえ空いたテーブルがないほどではなかった。
店内に入ると店員が待機しており俺達に対応を始める。
「いらっしゃいませ。お食事ですか?お泊りですか?」
それにはナタリアさんが答えた。
「とりあえずお食事で。個室は空いてますか?」
「はい。何名様でしょうか?」
「3名です」
「承知いたしました。ではご案内いたします」
どうやら、ナタリアさんは俺が他の男に絡まれる可能性を考慮してくれていたようだ。
そんな流れで個室へ通され、注文した料理や酒などが届くと食事が始まる。
「では……今日はありがとうございました。存分に召し上がってください♪」
「私も偶然ではあるけどありがとうございました。さ、飲んでください。空いたらお注ぎしますからね♪」
「はぁ。では頂きます」
俺は2人の言葉を受けて食事を始め、貴重で高額らしい香辛料や砂糖を使った様々な料理を楽しんだ。
当然お喋りなどもあり、俺の出自などは聞かれなかったのだが……
「ジオさんはどんな女性がお好みなんですか?」
などと、期待を込めた目で聞かれたりした。
俺は適当にはぐらかすも、2人が胸を寄せたりして強調したそこに目を向けていたのはバレているだろう。
まぁ……どちらも嫌な顔はしておらず、別の話題に移ったので問題はないようだ。
そもそも、ナタリアさんに限って言えば俺を狙っているかのような発言をしていたしな。
そうして時間が進むうち……そろそろ食事も終わりかな?という頃、飲みすぎたのかジェミナが酔い潰れてしまった。
「うぅ~ん……」
「ジェミナ、大丈夫?」
「……ダメ~」
「もう、仕方ないわねぇ」
ジェミナが動けそうにないことを確認したナタリアさんは、そこで俺に彼女を運ぶことを手伝ってほしいと言い出す。
「ジオさん。申し訳ありませんが手伝っていただけませんか?」
「それは構いませんが、どちらまで?」
「こういう事がたまにあるのでここの部屋を取ってあります」
「いつの間に……」
「この子のことを思い出して注文のときにしておきました」
「あぁ、そうでしたか。じゃあ俺が運びますよ」
ジェミナは大柄でもなく完全に眠っているわけでもないので、支える形であれば俺1人でも問題なく運べるだろう。
前で抱えるか後ろに背負ってもいいが、万が一落としてしまう可能性を考えるとな。
というわけでナタリアさんが食事の精算を済ませ、彼女に先導されて俺はジェミナを横から支えながらついて行く。
そうして着いたのはダブルベッドが置いてある部屋で、ジェミナ1人に寝かせるには広いベッドだった。
ここしか空いてなかったのか?
「よっと……」
「えい」
ムニュン
「うぉっ?何です?」
そう思いながらジェミナを寝かせると、後ろからナタリアさんが伸し掛かってきた。
彼女はドア付近で待っていたはずだがそのドアは閉じられ、持っていたランプはそのドア近くの棚に置かれている。
通路は電気の照明を使っているわけでもなかったので薄暗く、ドアが閉じられたことによる灯りの変化に気づかなかった。
その灯りでドアを見ると水滴型のレバーが倒れており、ご丁寧に鍵も掛けられているようだ。
これは……ハメられたか?
そう思っていると、俺の下にいたジェミナが俺の首に手を回してきた。
スッ、グィッ
「んふふ……♡」
その顔に赤みはあるがそれは酔いによるものだけではないようで、先程とは違い意識がはっきりしている。
それに応じてかナタリアさんも手を俺の前に回し、遠慮がちにではあるが股間を撫でてきた。
そんな彼女達が俺を誘う。
「
「お嫌でなければですが……どうぞ
まぁ、ご馳走と言うからにはあくまでもお礼としてのことだろうし、タイプは違えど2人が美女であることに違いはない。
今後ギルドでの関係もあり、彼女達の面子を潰すのも良くないし……
というわけで、俺は2人を並べて交互に愉しませてもらうことにしたのだった。
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