第29話 いきなり揉めた
受付嬢の1人であるナタリアさんが冒険者の一団に絡まれていたところ、俺はそこにゴーレムを使って介入した。
それによって件の男達を捕縛すると、連中は多少大人しくなるも俺の素性を聞いてくる。
それに答えたのは俺ではなかった。
「その男は"
そう言いながら姿を表したのは……ギルド長のフランチェスカ氏だ。
彼女は階段を降りてきたところのようで、そんな彼女に男達は問い質す。
「テメェはなにもんだ?」
「エルフではあるな」
「珍しいな」
「ナタリアほどじゃねぇがデカいな」
そんな言葉にフランチェスカ氏が答えた。
「私はこの冒険者ギルド・イスティル支部のギルド長、フランチェスカだ。これ以上揉め事を続けるのなら、ギルドの権限で町からの追放処分とすることになるぞ?」
「んだとお……?」
彼女の言葉にブロッグスは怒りの表情を見せる。
それを受けて……フランチェスカ氏は拳を突き出した。
するとその中指に嵌められていた指輪が輝き、直後に光の筋が男達へ走る。
バヂィッ!
「「「ギャァッ!」」」
おそらくは電撃だろうか。
それを食らった男達は目に見える怪我をしているわけではないが、
「う、ぐぐ……」
身体が麻痺しているのか、呻くことだけしかできていない。
そこで彼女は俺に向けて指示を出す。
「そいつらを地下牢に運んでくれ。少しの間反省してもらう」
「はあ」
ブロッグス達が暫く外に出てこれないのは好都合だ。
その間に今後のことを考え、必要ならばすぐに町を出てもいいからな。
というわけでその指示に従い、余分な氷の手をしまうと先導する彼女の後をついて行くことにした。
地下牢の部屋数はそれなりに多く、フロッグス達は1人ずつ分けて収監するように指示される。
氷の手で掴んだまま牢に放り込むと、連中はまだ動けないのか転がったまま俺を睨むだけだった。
「よし、行くぞ」
そうして収監作業が終わり、フランチェスカ氏と共に上の階へ戻る。
スカートは短くないが、目の前でフリフリさせられるお尻を見ながら階段を上がると……
「ナタリア、ついて来い」
「は、はい!」
スペアの制服に着替えて戻ってきていたらしいナタリアさんに声を掛け、更には俺にもついて来るよう言ってきた。
「詳しい話は私の部屋でしよう」
俺はその言葉に頷くと再び彼女について行き、階段を上がると3階の一室へ通される。
「どうぞ」
「はあ、どうも」
通されたのはフランチェスカ氏の執務室のようで、仕事用の机以外に来客用のソファとテーブルなども置いてあった。
俺はそこでソファへと座らされ……隣にナタリアさんが座らされる。
何で?
そう思っていると、向かいの席に座ったフランチェスカ氏が口を開く。
「まずは……手間を掛けたな、感謝する」
「あ、ありがとうございました!」
彼女に続きお礼を言ってくるナタリアさん。
「ああ、いや別に」
そんな2人に見過ごそうとしたことが少々後ろめたく、用件がそれだけであればさっさと帰りたいと思いながらそう返す。
するとそれを察したのかは不明だが、フランチェスカ氏が若干前屈みになり話を始める。
「君はまだ冒険者ではなかったな。ならば詳しくはないのだろうが、最近ああいった連中が増えてきていてな」
「はあ」
「原因は少し前に発見された遺跡で、様々な事情で稼ぎやすいからと腕に自身のある冒険者はそこに集中しているのだ」
「あぁ……それで地方にはあのぐらいの連中を止められる冒険者が減っている、と」
「まぁ、そういうことだな。警備の者もいるが、無理に対処はしなくていいと言ってある」
それで怪我でもされると、対処できる問題にも対応できなくなるからか。
そう言うと彼女はナタリアさんに謝罪する。
「済まなかったな、ナタリア」
「ああ、いえ……」
ナタリアさんもその辺の事情はわかっているようで、危ない目に遭った当人であるにも関わらずフランチェスカ氏を責めることはなかった。
そこで俺は問い質す。
「処罰として冒険者を辞めさせることはできないんですか?」
「それは可能だが、そうなるとそういった連中は盗賊になりかねん。その土地を持つ国に対して一定の影響力があるとは言え、治安が悪くなることをわかっていてその処分を下すのは国との関係が悪くなる。それはギルドとしてはよろしくない」
「なるほど」
その話に納得していると……彼女は俺に提案する。
「そこでだが……ジオ、冒険者の監視役になる気はないか?」
「監視役ぅ?」
いきなりの申し出に俺は戸惑う。
こちらとしては適当に稼ぎ、適当に暮らしたいのだが。
監視役などになったら他の冒険者に目を光らせなければならないだろうし、揉め事が起きた際にいきなり呼び出される可能性もある。
面倒だな。
そう思っていたことを察してか、彼女はその職務内容を説明する。
「常に他の冒険者の動向を気に掛けろというわけではない。問題のある冒険者の情報があればその事実を確認して対処すればいいだけだ」
「その事実確認に時間が掛ることもあるでしょう?面倒なことに変わりはないんですが……」
「ぐ」
呻く彼女に俺は続ける。
「それに、何の実績も信用もない俺をそんな役につけていいんですか?」
そこには明確に答えるフランチェスカ氏。
「実力に関しては先ほどので十分だろう。別に恩を売ろうと思ってやったわけではなさそうだしな」
「それは、まぁ……」
自分の手続きを進めたかったぐらいの気持ちはあるが、恩返しの期待をした覚えはない。
しかし……もっと相応しい人間がいるのではないか?
「ですが、冒険者に大きな影響力がありそうな……それこそS級の人とかに任せられないんですか?」
それに彼女は首を横に振る。
「S級は数が少なく、ギルドとしては有事の際に対処できなくなることを避けるためになるべく動かしたくはないのだ」
現在、S級と認められている冒険者は世界で12人しかいないのだそうだ。
"有事の際"というのはS級でなければ対処できない事態のことらしく、それに対応できなくなる可能性は極力低くしておきたいのが冒険者ギルドの方針であるとのこと。
そこはフランチェスカ氏も改善したいらしいのだが……そんな彼女は身を乗り出して話を進める。
「別にギルドの職員になれと言っているわけではない。普通に冒険者として活動し、その中で問題のある冒険者の情報が入り次第それを優先して対応してくれればいい」
あくまでも問題のある冒険者がいればってことか。
その話を理解はできるのだが……
「重要な点が3つあります」
「何だ?」
「1つはその活動範囲です。この町だけのことなのか、他の町に対してもなのか」
「あぁ、可能であれば近場の町全体を担当してほしいのだが」
「そうですか。ではそれに係る2つ目なんですが……貴女にそこまでのことを決められる権限があるんですか?」
これは重要なことだ。
監視役に任命されたからとその活動に従事していたのに、先方から「そんな話は聞いていない」と問題のある冒険者と喧嘩両成敗のようなことになっても困るからな。
それを聞くとフランチェスカ氏は自信あり気に頷いた。
「それは問題ない。私はこのコルドール王国東部辺境一帯において顔役のようなものだし、どこもこの問題には頭を悩ませている。君の登録証には任命者として私のことも記載しておくので、他の町でも問題なく監視役として動けるはずだ」
「ならいいんですが……」
そう納得する俺に、彼女は3つ目の重要事項を聞いてくる。
「それで、3つ目は何だ?」
「ああ、単純な話なんですが……監視役としての報酬はどうなります?」
「ああ、確かにそれは重要だし避けられない話だな。えーっと……」
そこで若干言い淀むフランチェスカ氏。
何だ?と思っているとこちらを窺うように答えてきた。
「その、基本的には監視役として動いた分だけということにしたいのだが……」
つまり基本給は0ってことか。
青いゴブリンの査定に高額を付けたことから、ギルドに金がないわけでもないはずだが……
そこについて尋ねてみると、こんな答えが返ってくる。
「解体場では面子もあってああ言ったが、地方の予算はな……有事の際は本部が補填してくれるのだが、苦しいわけではなくとも抑えられるところは抑えておきたい。それで青いゴブリンの報酬があり余裕のある君をという部分もある」
世知辛いな。
まぁ、青いゴブリンの件が本部に"有事"だと認められるかもしれないそうではあるが……
とりあえず500万は入る予定なので困りはしないが、やる気としてはどうしても下がる。
「はぁ、そうですか」
「……」
スッ、トットット……ポスッ
そんな俺の心情を察してか、彼女は席を立つと……俺の隣、ナタリアさんの反対側に座ってきた。
「えーっと……?」
どういうことだ?と思っていると、フランチェスカ氏は俺に身を寄せてくる。
「私の身体に興味があるのだろう?触るぐらいならいつでも、というのではどうだ?」
「そこまでするぐらいならご自分で、って考えないんですか?」
「この町だけならともかく、他の土地もとなるとな……それに通常業務もそこまで暇ではない。遺跡に冒険者が集中している分、魔境への対応が遅れ気味になっているからな。このままだと国から苦情が出てもおかしくない」
そういう事情もあり、自分が対応しようとしても難しいということか。
先ほど見せた電撃を見ると、彼女に実力がないわけではないだろう。
立場上動きづらく、単純に人手不足で信用できる存在に任せたいということかな。
俺としては悪くない話でもある。
ギルドがその立場を保証してくれるだろうし、そうなれば俺やララの素性を必要以上に調べようとする者も出にくいはずだ。
そう考えていると……俺の手が掴まれ、フランチェスカ氏の胸に押し当てさせられる。
ムニュリ
「ど、どうだ?」
「……結構なものをお持ちで」
ナタリアさんほどの大きさはないが、少し固めながらも大きく張りのある良い感触だ。
「そうか。なら……」
ムニムニムニムニ……
その感想に気を良くしたのか、彼女は俺の手を動かしグニグニと自分の胸を揉ませてきた。
美女にここまでされれば悪い気はしない。
自分に都合のいい話でもあるし、こんなサービスもあるのであれば……と思っていると空いていた手を反対側から掴まれた。
「えっ?」
ふにゅん
当然反対側にいたのはナタリアさんであり、驚いている間に俺の手は彼女の胸に触れさせられていた。
その意図を視線で問うと、彼女は赤い顔でそれに答える。
「先程のお礼でもありますけど……わ、私のもいいですから」
「お、おう……」
何だこの状況。
いきなりほぼ初対面の女2人の胸を揉むことになってるんだが。
いやまぁ……リスクがなかったわけでもなく、今後のことを含めてのことなのでただの対価ではあるか。
ならばと俺は自分の意志で手を動かしてみる。
モミモミ……
ムニュムニュ……
「んっ……」
「……」
2人は顔を赤くしながらも、拒むことなく好きに揉ませてくれている。
そこでフランチェスカ氏は交渉がまとまったと判断したのか、俺の手を受け入れたまま話を進めてきた。
「んっ、ふぅ……それで……いい、かな?」
「まぁ、はい」
そんなわけで。
俺は冒険者ではあるものの、"監視役"として素行の悪い冒険者の抑止力にもなることにした。
最後に1つ質問する。
「そう言えば、"
「"手"を沢山出していたところから付けた二つ名だ。ギルドが認めた二つ名があると威厳が出て仕事はやりやすくなるはずだ」
自分の感覚だとそれ自体にそこまでの効果があるのかは疑問だが、真面目にそう答えられたのでこちらの世界では効果があるようだ。
微妙に恥ずかしいんだがなぁ……まぁ、いいか。
それを確認すると納得し、俺は部屋を退室したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます