第27話 ギルド長の査定

認識できないゴブリンモノを鑑定されるが、鑑定したゴロンド氏によると自分だけでは評価を決められないとのことだった。


その結果、彼はここのギルド長に評価を決めてもらうと言い出したのだが……正直面倒ではある。


ここのギルド長ということは立場が一番上の人物だろうし、冒険者ギルドの影響力を考えるとかなりの権力を持つはずだ。


一地方の支部とはいえギルド長という立場に就けた人物なわけで、相応にやり手な人物であると予想される。


その人柄がわからない内に接触するのは危険だろう。


俺としては名を上げたいわけでもないし、そんなリスクを負うぐらいなら普通のゴブリンと同じ評価でも良いのだが……


そんな考えが顔に出ていたのか、ゴロンド氏はこの件を下手に偽らないほうが良いと釘を差してきた。



「下手な誤魔化しはしねえほうが良いぞ。少なくとも俺は自分の仕事として事実を報告するし、その上でお前が変に逃げりゃ何か疚しいことをしたんじゃねえかって疑われちまうからな」


「ぐ」



それで俺のことを嗅ぎ回られ、ララの素性にまで調査が及ぶと厄介なことになるな。


となれば、大人しく応じて穏便に済ませておいたほうが得策か。



「わかりました。で、どうすればいいんですか?」


「おう、普通に対応すりゃ別にどうってことはねえさ。とりあえず報告してくるから待ってな」



そう言うとゴロンド氏はブースを出ていき、俺とジェミナは2人きりとなった。


すると……彼女は媚びを売るように俺へ擦り寄ってくる。



ススッ


「いやぁ、見かけによらずやるんですねぇ」


「そうは見えない、と?」



どうせ暇なので相手をしてみるが、それに対してジェミナは取り繕うように答えてきた。



「いや、弱そうってことじゃなくてですね、こう……好き好んで戦おうって感じの人には見えませんでしたから」


「ああ……まぁ、そういう性格ではありませんからね」



良く言えば穏やかに見えるということだろう。


実際、初めてゴブリンから襲われた時には戦う力がなければ逃げに徹していたはずだしな。


そこで魔石を拾っていたのは運が良かった。


運だよな?


そもそも、自分が魔石を感知できることに気付いたからこそ拾っていたわけだし。


……まぁ、いいか。


そんなことを考えていると、ゴロンド氏が使っていた鑑定のマジックアイテムが目に入る。


数があるとは聞いているが、貴重であることに違いはないだろうに置いていったのか。


ジェミナがいるからだとは思うが……丁度いい。


聞きたかったこともあるし、時間潰しの世間話として聞いてみよう。



「あの、鑑定のマジックアイテムって人に対しても使えるんですか?」


「え?ええ、可能ですよ。魔物だけじゃなく宝石やマジックアイテムなどの色んな物を鑑定できますし、その中に人間も含まれてますね」



人間も鑑定可能だったか……これはますますララをギルドに近づけられないな。


俺は質問を続ける。



「じゃあ、勝手に他人を調べることができるってことですか?」



そう聞くとジェミナは少し難しい顔をした。



「やろうと思えば、まぁ……でも正しい位置で、結果が出るまでに時間が掛かりますから簡単ではありませんよ?」



なるほど、鑑定には条件があると。


続けて彼女は補足する。



「あと、鑑定のマジックアイテムは使用者として登録してある人しか使えませんから、その人が協力しない限りは無理なんじゃないですかね?」


「ああ、そうなんですね」



これは朗報だ。


鑑定のマジックアイテムを使えるのが限られた人間のみなら、勝手に鑑定をされる可能性はかなり低くなる。


逆に、こっそり借りて自分を鑑定するというのも難しそうだが。


まぁ……今のところ、自分を鑑定する優先度は低いから別にいいか。


この数日、危ない目には遭ったがその分もしている。


ゴーレムを作る能力のお陰で稼ぐ方法もある程度の目処はついているし、多少の不便に耐えられればこの世界もそこまで悪くないのではないかと思えてきたからな。




そうして暫くジェミナと雑談をし、受付に彼女の友人がいることなどを聞いているとブースの入口がノックされる。



コンコン


「はーい」



それにジェミナが答えるとゴロンド氏が姿を現し、その身を横に退けて後ろにいた人物へ前を譲る。


そこに現れたのは……



「君がジオか。私はこのイスティル支部のギルド長、フランチェスカだ」


「おぉ……」



大きな胸を突き出し、腰に手を当てた美女だった。


白い肌で金髪をポニーテールにしており、タイトスカートのスーツ姿で仕事がデキそうな雰囲気だ。


ここまで普通の人間しか見ていなかったが、ララの知人にエルフがいるとは聞いている。


なのでその存在自体には驚かなくとも、実際に見ると……様々な作品の中でしか知らなかった存在と直接会えて中々の感動を覚えた。


そんな俺に彼女は注意する。



「エルフが珍しいのはわかるが……あまりジロジロ見るものではないぞ」


「あぁ、失礼しました」



ごもっともな指摘に謝罪する。


珍しいということは、この世界のエルフはあまり人間と関わらないタイプなのだろうか?


だとすると、なぜ人間と接することが多いはずの冒険者ギルドの支部長に?という疑問が湧くのだが……まぁ、立ち入ったことを聞いて機嫌を損ねるのも良くないな。



「えっと、それで査定の方は……」


「うむ。それなのだが……」



さっさと本題へ入った俺に気を良くしたようなフランチェスカ氏だったが、その答えには少々悩んでいるようだった。


胸を持ち上げるように腕を組み、右手の人差し指をこめかみに当てている。


その姿を眺めていると、彼女は今回の査定が難しい理由を口にした。



「最下級なのに厄介な能力を持つ、という魔物の評価は難しくてな。まぁ、基本的にはその影響力で評価するのだが……」



そう言うとフランチェスカ氏はテーブルに置いてあった鑑定のマジックアイテムを持って青いモノに向ける。


そのまま鑑定結果が表示されるまで待ち、先程見た通りの内容が表示されるとこちらを向いた。



「完全認識阻害か。人知れず女や物を奪うことができ、数を好きなだけ増やせるとなればその影響力はかなり大きいものだと考えられる」


「はあ」



この流れだと10万や20万どころではなさそうだな。


そう期待しているとその査定額が提示される。



「というわけで……500万コール辺りでどうだろうか?」



お、予想の何倍もの額だ。


それは嬉しいことなのだが、変に貰いすぎて後々この件を持ち出されるのも困る。


なので俺はゴロンド氏にこの額が適正なのか確認する。



「ゴロンドさん、これは適正な額なんですか?」


「ん?まぁ、おかしな額じゃねえな。コイツを狙って狩るのは難しいだろうし、近くにいるのがわかっててもその一帯を焼き払うぐらいしなきゃならなかっただろう。その手間暇と戦力を考えれば安いもんじゃねえかな」


「なるほど」



どうやら適正な査定額だったらしいことに安堵していると、フランチェスカ氏がクスリと笑って俺に言う。



「フフッ。貸しを作っておいて後々面倒事を押し付るとでも思ったか?」


「あー、いや……」


「安心していい。地方の一支部とは言え、予算はそれなりにあるからな」



まぁ、国や商人ギルドに大きな影響力を持っている以上、資金も潤沢ではあるのだろう。


なら、有事の際に戦力を確保するにもその資金力で何とかすればいいか。


そう納得していると……彼女は腕でグイッと胸を持ち上げて見せた。



「必要なら……君はでも釣れそうだしな♪」


「……」



くっ、見抜かれていたか。


まぁ、女は視線に敏感だと聞くしな。


この世界に来てからこっち、女に飢えるような生活ではないんだが……気をつけたほうが良いか。




そうして、フランチェスカ氏の評価により青いゴブリンを討伐したことへの査定額が決まり、他のゴブリンの査定額も含めた査定表が出来上がった。


仕事が終わったフランチェスカ氏とゴロンド氏はブースから去り、残ったジェミナがこの後の流れを俺に説明する。



「じゃあ、この査定表を持って表の受付に提出してください。ジオさんの場合は登録もご一緒にということでしたので、査定表にそのことも書いておきましたからそちらも対応してくれるはずです。その手続きをされなかったらご自分から言ってください」


「……わかりました」



説明の内容自体は問題ないのだが、その最中から彼女の距離が近くなっていった。


今では隙間がなくなっており、腕に胸を押し付けてきている。


これは……



「あのー……近くないですかね?」


「そうですねぇ。お嫌ですか?」



堂々と認め、それが嫌なのかと聞いてくるジェミナ。


これ自体が嫌なわけではないのだが、変に裏があると困るので確認する。



「何が目的で?」


「別に深い意味はありませんよ?大金を稼がれたのでお食事でもってだけで」


「それだけなら別に良いんですが……いつもこんなお誘いをしてるんですか?」


「いいえ?普通は1人でこんなに稼ぐ人っていませんからねぇ。大抵は複数人で報酬は山分け、それにその報酬を得るまでに掛かった費用もあって1人当りはそこまで大きな額になりませんから」


「なるほど」



つまりはまぁ、珍しく大金を稼ぐ奴がいたから集ろうってだけか。


わかりやすいし、彼女の容姿も良い方なので受けても良いのだが……一旦保留とさせていただく。



「今日のところは来たばかりで疲れてますし、護衛にも査定結果を伝えなきゃならないんで」


「あぁ、女性の護衛がいらっしゃるんでしたね。私としてはその方がご一緒でも構いませんが……まぁ、お金の話は身内だけのほうが良いでしょうし、今日のところは引き下がっておくとしましょう」



そう言いつつ俺から身体を離すジェミナと別れ、俺は受付のある冒険者ギルドの表側へと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る