第24話 町へ向かえば絡まれる?
再び一夜が明け、俺は自分の寝室で目を覚ます。
周りには5人の女が転がっており、当然のように裸で眠っていた。
昨夜も頑張ったことで彼女達は白く汚れているが、実に満足そうな寝顔をしている。
追加された2人も裏返ったカエルのようなポーズで顔を蕩けさせていたし、期待外れだとは思われなかったはずだ。
一応の面子を保てたことに安心した俺は、彼女達の入浴準備をしておこうと部屋を出る。
ララは……まだ起きてないか。
彼女は顔を晒せないので昨夜の
まぁ、埋め合わせは今度
そうして入浴準備を済ませ、しばらくして起きたリンダ達を洗うと食事を済ませて身支度を整える。
今日はもうこの村を発つつもりだ。
リンダ達からはこの村への定住を
俺はまだ自分の状況を把握しきれていないし、ララをこの辺りに留めておくのは彼女の生存を良く思わないであろう連中にバレる可能性が高くなるからな。
出発の準備を終えた俺達は、村長であるラジル氏に挨拶へ向かった。
昨日のうちに今朝には村を出ることは伝えてあるが、黙って出ていくのは礼儀に欠けるだろう。
なので顔を出した俺達に、やはりラジル氏は引き留めたそうにしていた。
「リンダも含めて世話役を全員娶っても構わんぞ?」
「No.」
もちろんきっぱり断った。
リンダ達が嫌なのではないがこの土地を離れたほうがいい理由もあり、更に言えば俺の力には魔石を必要とするのでその調達が安定しないこの村では幾分不便だからである。
そんなわけで、別れの挨拶を済ませた俺達はリンダ達に見送られてこの村を離れた。
少し時間が経ち、荷車を引くララに冒険者ギルドの鑑定について相談する。
「鑑定か……どうする?」
「どうするって、何が?」
「いや、もしも人に対してまで使えるんなら正体がバレるんじゃないか?」
「あぁ、確かにその可能性はあるわね。じゃあ冒険者ギルドがない土地に行く?」
「それはそれで不便そうなんだよなぁ。自分達じゃ調達できない物もあるだろうし、それは色々と不便だろう?」
「それはそうでしょうね……お酒もないし」
ボソッと付け足された酒に俺は反応する。
「そんなに酒が好きか」
「好きよ。貴方と寝ることぐらいには」
どちらの様子も見ていると……確かに同等そうには思えるな。
しかし飲み過ぎは良くなさそうだが、それを聞くと彼女は笑ってこう返す。
「フフッ♪心配してくれるのは嬉しいけど、私のスキルは身体能力を上げるしそのお陰で病気にも強いのよ。酔いだってスキルを使えばすぐに覚めるしね」
「なるほど。なら、心配するのは酔ったまま寝入って何かをされることだけだな」
「そういうことね。骨にされるのはもう御免だわ」
苦々しい感じでそう言ったララだが、雰囲気を一変させてこう続けた。
「貴方にいやらしいことをされるのはいいんだけどね♡」
パンッ
防具を着けていてアピールしやすいのがそこだけだったからか、彼女はそう言いながら自分の尻を軽く叩いてみせる。
あれだけ飲酒と同等にハマっているようなので、他の女と楽しんだ後の
そこまで気を遣うつもりはなかったが、視えないゴブリンの存在で考えを少し改めた。
あんな能力、使う奴によっては危険極まりない。
同じとは言わずとも強力な能力を持つものは人にも魔物にもいるのだろうし、そうなると味方が多いに越したことはないだろう。
ララは1人で冒険者をやれていたぐらいの実力があるわけで、その上俺に恩があって裏切る可能性も低い。
ならば機嫌を取っておき、味方のままでいる可能性を高く維持しておこうというわけだ。
まぁ……それがなくても彼女の性格上、悪事でも働かなければ俺と敵対する可能性は低いんだがな。
そう決めると俺は彼女に答える。
「なら、今度寝てたら
「えー?どうせなら起きてるときに来てよ」
暗に寝込みを襲うと言ってみると、ララは足を進めながらそう返す。
そりゃそうか、ヤること自体を楽しみたいわけだからな。
「わかったよ。で、鑑定の件に話を戻すんだが……聞いた限りでは冒険者ギルドでしかやってないらしいから、ララがギルドに近づかなければ大丈夫なのかもしれないな」
「あ、そうね。ということは持ち出せないような物を使うのかしら?」
「サービスとして普及してるみたいだから色んな土地のギルドでやってるんだろうし、絶対に持ち出せないってわけじゃないだろう。まぁ、どんなものか実際に確認して対応を決めよう」
「わかったわ。じゃあ冒険者ギルドがある土地についたら私は一旦宿に待機ね」
「ああ、そうしてくれ」
戦闘力が重要な冒険者という存在が集まる場所なのだし、その中には協力なスキルを持つ者もいるだろう。
それらと敵対しないとは限らず、できれば付いてきて欲しいところだったが……仕方ないか。
そうして今後の方針に多少の変更がなされると、俺達は
その後に5日ほどを掛け、もう1つの村を通過して進むと町が見えてきた。
全体が石造りの高い壁で覆われ、今までに見た村とは明らかに雰囲気が違っている。
町が近いということもあり、俺は荷車から降りてララの隣を歩いていた。
「あれがイスティルよ。途中の村で聞いた限り、名前は昔と変わってないみたいだし」
「町の名前が変わることがあるのか?」
「なくはないわね。町の名前が統治者に因んだものだったりすると、その統治者が変われば変えられたりするみたいだけど」
「へぇ……じゃあ、あの町の統治者は変わってないってことか」
「代替わりぐらいはしててもおかしくないけどね。代わってなかったら70歳を超えてるでしょうし」
どうやら、ララはあの町の30年前の統治者を知っているらしい。
まぁ、会ったことはなくてもそのぐらいの情報は耳に入るか。
そんなことを考えていると……ララが期待の声を上げる。
「んーっ♪やっとお酒が飲めるわ♪」
「いや、2つ目の村でも十分飲んだだろ」
2つ目の村でも収穫期を狙う魔物や動物、それに盗賊が出るかもしれないからと警備を依頼された。
収穫で警備が手薄になるか、警備を厚くして収穫が遅れるかだったようだ。
こちらとしても食糧の補給が必要であり、ララに至っては村を助けたそうにしていたので引き受けた。
ゴーレムの力を使えば収穫を早く終わらせることもできたが、念の為ただの魔法使いということにしているので警備を手伝うことに。
ただ、長居はできないということで2日だけの話だったところ……2日目に村は襲撃される。
現れたのは3頭ほどの猪だったがその大きさはどれも人の身長を越え、ちょっとした小屋なら入りきれないほどの巨体だった。
地響きを鳴らしながら訪れた猪達に、俺はやむなく大きな落とし穴を掘って連中を捕らえ、更には水攻めで溺れさせて始末する。
猪達は魔石を持っていなくてもその足音や振動で察知できてはいたのだが、思ったよりも進行速度が速かったので急遽その対応となったのだ。
使えるのは水の魔法だけだと言ってあったので、瞬時に大穴を掘ったことがどう思われるか気になったが……奥の手を隠しておくのは当然のことだということで、特に悪く思われることはなく魔法の一種として認識された。
まぁ、巨大な猪を運ぶのが面倒だからと村へ提供したのも影響したかもしれないが。
その結果か……多少の食料と金銭が報酬ということになっていたのだが、追加の報酬として夜には4人ほどに
そんなわけで。
その際にララはまたしても大量の酒壺を空にしていたので、今はそこまで酒に飢えていることもないはずなのだ。
しかし彼女はこう言った。
「あるんだったら飲みたくなるのがお酒でしょ?1人のときは周りを警戒して控えてたけど、今は貴方がいるし安心して楽しめるからね♡」
兜で目元は見えないが……思いっきりウィンクでもしていそうだな。
女1人で飲めば男が寄ってくるし、それを警戒して存分に楽しめていなかったらしい。
それは気の毒だな。
なら……仕方ないか。
「飲むのはいいが、1人で飲むんだったら他人が居ない場所で我慢しろよ?」
「はーい♪」
そんなやり取りをしつつ、俺達はイスティルという町へ向かって進み続けた。
イスティルに近づくと、徐々に通行人が増えてくる。
各地からの収穫物が商品として運ばれてきたり、これから仕入れに行ったりするようだ。
ゴーレムに魔境で入手した鎧を着せて護衛とする話もあったが、ララのことを考えるとできるだけ目立たないほうがいいのでその案を見送って正解だったな。
そんな中、ある人物から声を掛けられる。
「ん?アンタ商人?」
「……」
「ちょっと」
「……」
ガシッ!
「ちょっと!アンタのことよ!」
「え?」
今のところ、俺は商人になったつもりはない。
なのでその声が自分に向けられたものだとは思わず無視していたのだが、肩を掴まれてまで言われれば流石に自分へ向けられたものだと認識せざるを得なかった。
俺は魔法使いを装うために軽装で、町が近いこともあり自分で荷車を引いている。
それは揉め事が起きる可能性を考慮してのことで、きっちり武装したララをすぐに動けるようにと護衛として付けていれば……そう思われてもおかしくはないか。
で、その態度からすると声を掛けてきたのは気の強そうな女だったのだが、俺が彼女を見たときにはすでにララが背中の大剣を抜いて突きつけていた。
視えないゴブリンの件もあり、護衛としての働きに熱が入っているようだ。
ララの行動で声を掛けてきた女は多少勢いを落とすも、やはり気が強いのか引き下がりはしなかった。
「な、何よ!無視するからでしょ!ちょっと気になったから聞いてみただけなのに!」
ララの雰囲気が若干ピリつく。
「気になった?……どういう意味かしら?」
俺が逆ナンでもされていると思ったのだろうか?
ここまでの道中で何人もの女を相手にしても機嫌を損ねることはなかったが、それはお礼というか報酬だから別扱いなのかもしれない。
そう思っていると、声を掛けてきた女が用件を口にする。
「どういう意味って、着てる服の生地が良さそうだったから……」
やはり逆ナンではなかった。
どうやら服の生地に注目されたようだが、これは森で集めた草の繊維から肌触りの良い物を使っただけである。
織り方のせいか?
詳しいわけではないが、前世で通気性と丈夫さを両立させた服の生地を再現してあったので、その辺りが気になったポイントなのかもしれないな。
とりあえず危険性はないようだし、ララには落ち着いてもらうことにする。
「ルル、剣を引け」
「……」
スッ……
俺の指示にララは無言で剣を引く。
「ハァ、ちょっと声を掛けただけでなんでこんな目に遭うのよ……」
「無理に引き止めようとしたんだから、警戒されるに決まってるでしょ」
「ぐ」
ララの言葉で悔しそうに言葉を詰まらせる彼女は……腰ほどまでのウェーブが掛かった金髪で、ララの外見と同じぐらいの年頃に見えた。
服装や持ち物からすると魔法使いのようだが、ゆったりした服の上からでも中々良いスタイルをしていることが窺える。
気は強そうだが理不尽というほどでもなさそうだし、一般的な感性を持っていれば素直に美少女だと評価されるだろう。
そんな彼女は気を取り直し、当初の目的を果たそうとする。
「コホン。それで、アンタは商人なの?」
「いや、冒険者になろうと思ってイスティルに向かうところだ」
「え、そうなの?その割には軽装だけど……アンタも魔法使い?」
「どうかな。それらしいことはできるが、魔法を見たことがないからなぁ」
「あぁ、比べる対象がなければわからないでしょうね」
俺の返答にそう納得する彼女。
そこで俺は提案してみる。
「アンタ"も"ってことは、君も魔法使いなんだろう?なら簡単なものでいいから見せてくれたりしないか?」
別に断られてもいいと思い、そう軽く聞いてみると……
「え゙っ?」
彼女は何故か顔を引き攣らせた。
何か不味かったか?
ララに聞いた限りでは、依頼で臨時に組むこともあるのでお互いの力量を確かめることは普通にあったそうだが。
この30年でそういうやり取りはやらなくなったのだろうか?
だが命が掛かっている仕事なわけだし、組むことがある可能性を考えるとお互いの実力は把握しておくべきでは……ん?お互い?
そうか。
一方的に見せろではなく、こちらからも見せなければフェアじゃないな。
ただ……俺が使えるのは魔法ではないだろうというのが大方の予想であり、魔法と称して見せるのは明確に相手を騙すことになる。
これまでは魔法"のようなもの"としか言っておらず、魔法と称して披露するのは少し気不味いんだよな。
それにここは人通りも多いので、中には俺が操るものは魔法ではないと看破する者がいる可能性もあった。
というわけで、俺は彼女への要請をキャンセルする。
「あぁ、すまない。いきなりだったな。別にどうしてもってわけじゃなかったから聞き流してくれ」
「え、えぇ……ふぅ」
俺の言葉にホッとしたような顔をする彼女。
ふむ。
彼女は1人のようだし、ララと同じくソロでの活動が主だったのかもしれない。
となれば手の内を晒したがらないのも納得だ。
盗賊の討伐も冒険者の依頼としてあるそうだし、人を相手にする可能性があるのなら相手に対策されることを危惧するのも当然だろう。
そう納得した俺は町へ向かうことを提案し、彼女も「え、えぇ。そうね」とそれに賛同したのだった。
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