第21話 調査開始

身支度を整えて朝食を取ると、まずは村長の家へ向かうことにする。


共に朝食を取ったリンダ達も一緒に家を出ることにし、リンダだけが報告役としてついて来ることに。


まぁ、村長の家が彼女の家だしな。


他の2人がそれぞれの家へと帰っていき、3人になった俺達はすぐ近くにある村長の家へ。



キィッ


「ただいまー」



自宅だからか躊躇なくドアを開け、帰宅の声を奥へ投げ掛けるリンダ。


その声に応じて、妙齢ながらもリンダに似た女性が姿を現した。


似ているだけあって美女ではあるものの、少々複雑な表情をしている。



「おかえりなさい、リンダ。えーっと……そちらが?」


「ええ。ジオさんと護衛のルルさんよ」


「ああ、そうなのね。初めまして、リンダの母でカリンです」


「初めまして、ジオです」

「ルルです」



リンダの紹介に俺達が名乗り合っていると、そこに村長のラジル氏が奥から出てきた。



「おう、帰ったか。で……ジオだったな、何か用か?」



リンダを見て彼女の帰宅を確認した彼は、俺達に来訪の意図を尋ねてくる。


俺は依頼の件で聞きたいことがあると返した。



「ゴブリンが出る場所を聞いておこうかと。一応、村の周囲は全部見ておくつもりではありますが」


「あぁ、言ってなかったか。連中を見たって話はどれも村の北側だ。昨日リンダ達が襲われたのも北側だったしな」



件のゴブリン達があの魔境だった森から来ていた場合、連中はそのまま西へ逃げていたことになるな。


いや、ここ暫くは見かけていなかったらしいし、やはりあの魔境から逃げてきた連中である可能性が高いのか。


道中でこの村の南側に抜けている可能性もあるが、今のところは北側でしか目撃情報はないようだ。



「わかりました。とりあえず北側から調査してみます」


「ああ、頼んだ。昨日お前が狩った分で全滅してりゃいいんだがな」


「そうですね。見つからなかった場合はどうしましょうか?」


「2,3日……できれば5日ぐらいは調査を続けてほしいんだが。今のところは人に被害は出てないし、このままなら腹を空かせて畑を荒らしに来るだろう。それがなけりゃ近場にはもう居ないと思ってもいいだろうからな」



なるほど。


魔物すべてが食事を必要とするわけではないと聞いているが、食事を必要とするのであればそのための行動を起こすのが自然だな。


今は秋口らしくもうすぐ収穫の時期であり、畑には作物が程よく実って連中にとっても絶好のタイミングだろう。


腹を空かせたゴブリン達がそれを見逃すはずがなく、畑を荒らしに来ないのであれば連中は近くに居ないということになるということだ。


そう納得している俺にラジル氏は言葉を続ける。



「もちろん、その間も食事との世話もさせるつもりだが……リンダ、構わないか?」


「ええ、望むところよ♪」



父親の言葉にそう返し、更には俺へ身を寄せてくるリンダ。


その様子にラジル氏は頷く。



「ふむ。随分と身綺麗にしてもらっているし、は良かったようだな」



リンダが入浴によって綺麗になっていることから粗雑な扱いを受けておらず、尚且つリンダ本人が俺を気に入っている様子で彼は安心したようだ。


それを聞いてか、最初は微妙な表情で俺達を出迎えた彼女の母親も表情が和らいでいる。


彼女もラジル氏同様に娘の扱いを心配していたのだろう。


そんな不安が消えたところでラジル氏が言ってくる。



「で、どうだ?本人ものようだし、村にいる間の世話には問題ないはずだが」


「まぁ、急ぐ旅でもないので構いませんよ」


「そうか!なら準備をしておこう!」



こうして……俺の返答に気を良くした彼とその妻子に見送られ、俺達は村近くのゴブリンを調査しに出発するのだった。




まずは聞いていたとおりに村の北側を調査する。


村を西側にある出入り口から出て北側へ徒歩で進み、森に入ったところで護衛として土の球体型ゴーレムを出す。


万が一、ララが敵を見逃してしまった場合の備えである。


ゴブリンの目撃情報があったことと昨日のリンダ達の件で、村の人達には森に近づかないようにと厳しく伝えられているそうだ。


なので人目をあまり気にしなくてもいいのだが、村の外の人間が森に入ってくる可能性もあるので人型のゴーレムを使うのは控えておくことにしたのである。


同様に、飛んでいるところを見られる可能性があるので徒歩で調査を進めていた。


ララに聞いた限りでは飛べる人間などいないようだしな。


そうして俺達は歩を進め、東西に進路を変えつつ北へ向かう。



「反応はある?」


「いや、ないな」



ララの言葉に俺は首を横に振って答えた。


俺には魔物の持つ魔石を感知する力があり、数百mは離れていても感知できる。


魔物の方も同じぐらいの距離で人間を感知できるようだが……今のところはその反応がまったくない。


昨日の連中で全滅したのか?


魔境から出ていないゴブリンもいただろうし、この周辺にいた連中の数はそこまで多くなかったのかもしれない。


少しの間だけ宙に浮いて確認すると、村からは……5kmぐらい離れたか。



「この辺りまで来て見つからないんなら、こちら側にはいないのかな」


「そうね。途中まであった連中の痕跡も見なくなったし」



ここで俺はふと気づく。



「そう言えば……目撃情報はあっても、襲われたって話は昨日のリンダ達の件だけだったな」


「そうね」


「そうなると昨日の連中以外にもゴブリンがいた場合、ゴブリンを始末した現場を見れば北側が自分達にとって危険だと判断しないか?」


「あぁ、別の方向に逃げていてもおかしくはないわね」


「だよな。連中は夜に動くことも普通にあるし、俺達が寝ている間に北側からは逃げたのかもしれない」



それなら俺の魔石感知に引っ掛かっても、就寝中で連中に気づけなかった可能性はあるからな。


まぁ、単純に村を大きく迂回して俺に感知されなかったのかもしれないが。


とにかく、ゴブリン達がまだいたとしてもそれは北側ではないだろうと判断し、俺達は村の南側へ向かうことにした。





村までは真っ直ぐ戻り、村の南側へ出たらまたジグザグに調査を始める。


暫くして……村から3kmほど南下した辺りで俺は足を止めた。



「っ!いたぞ」


「やっぱりこっちだったのね。数は?」


「見つけたのは1つだ。向こうもこちらを感知したからか南に逃げた。1対2じゃ分が悪いと判断したのかもしれないな」


「このまま追う?」


「そうだな。魔境でなくても魔物は生まれるんだし、時間を掛けるほど増えてしまうかもしれない。それなら少ないうちにすべて始末しておいたほうがいいだろう」



この意見にララは賛同する。



「人間の女を襲っても増えるしね。リンダが襲われたのもで数を増やそうとしたのかもしれないし、被害者が出る前に片付けておくほうがいいと思うわ」


「よし、じゃあ追うとするか」


「まだ貴方が分かる範囲にいるの?」


「いや、奴はもうその範囲から出てる」


「なら足跡に注目しないと。途中で逃げる方向を変えているかもしれないし」



そう言って地面に注目するララだったが……



「いや、大丈夫だ。小型のゴーレムで追跡させてある」



"格納庫"から出すのも直接操るのも自分から100mの範囲だが、その後の命令に従って自動で動く分には今のところ距離の限界を感じていない。


なので100mギリギリの距離に小型の球体型ゴーレムを出現させ、感知していたゴブリンから50mの位置まで接近しろと命令を設定しておいたのだ。


土で出来たそれは命令通りにゴブリンを追跡しており、ゴーレムであることから俺の感知範囲外でも動いていることが把握できていた。



「いつの間に……まぁ、都合が良いからどうでもいいわね。でも一応は足跡に気をつけていきましょう。途中で別のゴブリンと合流しているかもしれないし、何か罠を張られているかもしれないから」


「あぁ、その可能性はあるか。まぁ、ゴーレムのほうはそれなりに魔力を入れておいたから時間を掛けても大丈夫だろう。気づかれて壊されようとしてもしばらくは耐えられるはずだしな」



連中は攻撃や妨害をされない限りゴーレムを敵だと認識しないようだし、近づくだけの追跡ゴーレムに危害を加えることもないはずだ。


なので俺達は足跡や罠に気をつけながら、じっくりと逃げたゴブリンの後を追うことにした。





更に暫くして。


警戒を強めながらゴブリンを追跡しているゴーレムを追っていると……その動きが小さくなったことを感知する。


そのことをララと共有すると、彼女はその場所の予想を立ててきた。



「巣穴にでも到着したってことかしら?」


「どうかな。連中はこっちに来て2,3日だろうから巣と言えるほどのものはまだないんじゃないか?」


「確かにね。でも洞穴でもあればそこに集まってたりするのかも」


「それはあるか。まぁ、何にせよ罠の警戒をしながら進むだけだが」


「ええ。逃げたってことは北側に人がいることを知ったでしょうし、放っておけばいずれは村に来てしまうものね」



そうか、追っている奴は元々南側にいたゴブリンで、北側に人間がいることを知らなかった可能性もあるのか。


だが、俺達の存在を感知したことで少なくとも2人は人間がいることを知ってしまった。


となればララの言う通りにいずれは村の人間や作物を狙うかもしれず、ここで放っておくことはできなくなったわけだ。


まぁ、元々放っておく気などなかったが。




そうして追跡型ゴーレムの場所へ近づいていくと……3体ほどの魔物を感知し、その直後に向こうからいくつものゴブリンの反応が近づいてきた。



「気づかれたな。お出迎えが来てる」


「どうやって人間に気づいているのかしらね?」



俺の言葉にそう返しながら戦闘準備を整えるララ。


背負っていた剣は森の中で振りづらそうだが、あの剣と彼女の力なら大木ごと切れてしまうので倒木に警戒しなければ。



「ギャギャァッ!」

「ギャギィィッ!」



そんな声を発しながら、30体ほどのゴブリンが駆け寄ってくる。



「全部ノーマル級かな。周囲の警戒を頼むぞ」


「了解」



人目があることを危惧して自動で護らせるような人型のゴーレムを使えないので、護衛はララに任せて迫りくるゴブリン達に対処しなければならない。


俺は連中の足元に小型の魔石を出現させ、即座に窒素のゴーレムとして生成し周囲の酸素などを除外させる。



「ギッ!?」

「ググギ……」

「ガッ、グェッ……」


バタバタッ


「よし」


「呼吸を出来なくしてるっていうのは聞いてたけど、何が起きてるのか知らないと怖いわねこれ」



ゴブリン達は全員がその場に倒れ、満足して頷く俺にララはそう呟くと提案してくる。



「これで全部だとは限らないし、ゴブリン達がいたらしい場所は調べておいたほうがいいんじゃない?」


「そうだな。じゃあ、を回収するのは帰るときにやるか」



彼女のごもっともな提案に俺はそう答え、討伐証明の回収を後回しにして先へと進もうとしたそのとき……



ビュッ、ドズッ!


「「っ!?」」



護衛用の球体型ゴーレムが弾けたように飛び、見えない何かに勢いよく直撃した。

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