第20話 一夜明けて

「で、こうなっている……と」


「ああ」



翌朝。


俺の部屋を訪れたララは室内の光景に微妙な顔をする。


そこには昨夜の3人が裸でベッドに寝ており、白い液体で顔や髪を汚していた。


3人も相手をするのなら、と頑張り……頑張りすぎた結果である。


揃って安らかというか満足気な顔をして眠っていたので、俺が無理に要求したわけではないということはわかってもらえたようだが……彼女は兜を被っていることを確認して俺に言う。



「まぁ、私が口を出すことではないけど……お礼というだけで誘ってきたわけじゃないのかもしれないわよ?」


「どういうことだ?」


「昔聞いた話ではあるんだけど……スキルはともかく、魔法の才能は遺伝する可能性があるからって貴族が魔法使いとの子どもを作ろうとする流行があったらしいのよ」


「へぇ。まぁ、使えれば便利ではあるだろうからわからんでもないが」


「まぁね。でも問題があって」


「どんな?」


「それが同意の上でなら別に良かったんだけど、優秀な魔法使いが生まれた家はどうしてもこう……国が認めている家格とは別の、存在そのものの格が高く見られるようになったらしくてね」


「あー、少なくとも普通の人にはない力だろうからな。そうなってもおかしくはないか」


「ええ。それで格下だと思っていた家が上に見えるようになった貴族はそれが許せなくて、そういった家は相手が貴族でなくてもいいから身内に優秀な魔法使いを作ろうとしたのよ」


「それは……一般人にも手を出すようになったとか?」


「そう。優秀な魔法使いなら身分に関係なく狙われるようになって、交渉して同意を得てからという場合もあったらしいけど中には無理矢理にということもあったそうよ。魔法使いが男なら子種だけで済んだりしたらしいけど、女の場合は実際に産まされるわけだから……」



彼女の言う昔とは、少なくとも30年以上前のことだろう。


聞いた限りではあるが、当時の医療技術は前世に比べて明らかに遅れていたのだと思われる。


そんな環境で出産となれば命の危険は大きかっただろうし、それが同意なく行われていたのなら反発の声も多かったはずだ。


その予想は当たっており、当時優秀で有名だった魔法使いの女がどこかの貴族に狙われたのをきっかけに冒険者ギルドが行動を起こしたらしい。


この状況が是正されなければギルドは冒険者を引き連れて国外へ出る、と国へ訴えを起こしたそうだ。


そうなると国は魔境を始め各種脅威に手持ちの戦力で対応しなくてはならなくなり、外圧や治安維持に当てる戦力が減って困るわけで。


結果、冒険者ギルドの要求を飲むことになった国は同意なく魔法の才を持つ子どもを作ることを禁じ、貴族家に魔法使いが生まれるとその母親に同意があったかなどの調査が入ることになったそうな。


それで事は収まったわけだが……ララが言葉を続ける。



「貴族がそこまでして血筋に魔法使いを取り込もうとしたという話は大きな話題性があったし、当事者の証言もあったから一般にも魔法の才能が遺伝する可能性のことを広めてしまったのよ」


「あぁ。それで彼女達も魔法使いの子どもを望んでいるかもしれない、と」


「ええ。そういう素振りはなかった?」


「んー……なくはない、ぐらいかな?」



中に出してもいい、ぐらいの感じだった。


そのお言葉に甘えて中に出しはしたが……当然ながらは小さめの魔石でゴーレム化してから回収済みであり、だからこそ遠慮なく出させていただいたのである。



「そう。まぁ、貴方の力が魔法だとは断言できないのだけど……そのことは話してあるの?」


「いいや。聞かれなかったし、魔法使いの子どもを望んでるなんて聞いてなかったからな」


「なら大丈夫ね。魔法使いではないからって騙されたと言われても、そこで責めてくるということはあちらだって黙って魔法使いの子どもを作ろうとしてたことになるでしょうし」


「まぁ、確かにそうなるか」



そう納得する俺にララは頷き、その目線をベッドのリンダ達に向けた。



「じゃあ、この件はそれでいいとして……随分わねぇ。帰すのが遅くなっちゃうんじゃない?」



彼女達はそう言われるぐらいに俺が出したモノで汚れている。


から回収した分はベッド脇においてある桶へ放っていたが、直接発射した分は着弾した箇所にそのままなのだ。


それで染め上げたと言われるほどなのが頑張り過ぎた結果である。


もちろんこのまま帰すつもりはなく、俺はララになるべく大きい桶を持ってくるように頼んだ。



「お湯を用意してあげるのね。浴槽は……出せないか」


「ああ。どこから出したのかって話になるだろうからな」



これは魔法使いだと思われているからというのもあるが、聞く限りでは何処かから物を出し入れする魔法などないらしいからだった。




そうしてララは俺の要望を聞き、確かになるべく大きい桶を持ってきた。



「これでいい?」



その桶は直径2mほどもあり、部屋の入口をギリギリ通せるぐらいである。



「デカいな。何に使うんだ?」


「洗い物でしょ?商人なら身綺麗にしておくでしょうし、服や他の洗い物に使うんでしょう」



なるほど。


人が浸かれるほどのお湯を張るには浅く、基本的には洗い物にしか使えなさそうだしな。


そこで1つ気になることが。



「この村には川なんてあったか?使った水はどこに流してるんだ?」



井戸があることは聞いており、そこからの水を使っているのはわかっている。


しかし、今のところは魔境だった森を出てから川を見かけた覚えはない。


というわけで排水の処理が気になり、俺はララにそう聞いたわけだ。


そんな俺に答えたのは……ララではなく、背後から聞こえたリンダの声だった。



「大体は畑に撒いてるわよぉ……ファ、アァァ……」



夜更かししたせいで今までは俺達の会話にも眠ったままだった彼女だが、やっと起きたのか話の最後だけ聞いたらしく眠そうに答えてくる。


となると石鹸などは使っていないか、使っていても畑に悪影響の少ないものだということか。


問題になっていないのならそういうことなのだろう。


そう納得して彼女に声を掛ける。



「おはよう、リンダ」


「おはよう……」



リンダ達は昨夜がだったらしく、それを考慮して俺は頑張った。


その成果もあって彼女達はを十二分に楽しむことができ、楽しみすぎて疲れたのでここまで起きなかったのだろう。


その中で、彼女達の俺への話し方は酔いが覚めても砕けたものになっていた。



「んん……」

「んふー……」



他の2人も起き出したようだ。


そんな彼女達に魔法を使っての入浴を提案した。



「え、いいの?これからゴブリンの調査でしょ?」



リンダは魔力の無駄な消費に気を遣い、昨日自分達が運んできた水でいいと言って断ろうとする。


季節的にまだ冬ではないらしいが、朝はそれなりに冷えているし水もそれ相応に冷えているはず。


寝た仲ではあるし、境核の魔力にはまだ余裕があるので……



「調査で困るほどは使わないよ。まぁ、この桶に入ってくれ」



と言って、まずはリンダを桶の中に入れた。





シャァァァ……


「ハァァァ……」



頭上から降り掛かるお湯に、リンダは桶の中で自身を洗う。


そのお湯は俺が"格納庫"から出した水のゴーレムの一部であり、お湯にしたその塊へ手を突っ込んで魔石を握り隠していた。


こうしたほうが魔力の効率がいいからだと言ってあるが、実際には魔石を使っていることが秘密だからである。


出したモノをから回収したときも、魔石はなるべく小さくして見つからないようにしていたからな。


そうして……最初は遠慮していた彼女だが、その気持ちよさに遠慮する気はなくなったようだ。


頭から洗い始め、徐々に下へ洗い進めていく。


当然のことながら、リンダの身体を流れたお湯は落ちた汚れと共に桶へ溜まる。


それを俺は魔法として操り、お湯だけを頭上へ戻してまた降らせていることにしていた。



「ンッ……」



要所要所でそんな声を漏らしつつ、彼女は身体を洗い終える。


最後には身体の表面に残る水分をも元の塊へと戻し、同様に残りの2人もシャワーを浴びさせた。


そうして入浴を終えたリンダ達は……綺麗になった身体を俺に見せつける。



「どう?前よりキレイになったんじゃない?」

「スッキリしたぁ……」

「ほら、この辺なんてどうですかぁ?」


プルプル……



彼女達はそう言いながら、手で胸を揺らしたりしてアピールしていた。


俺も同じ様に入浴をしようとしていたため全裸であり、そんな姿を見せられればしていることが彼女達には明らかである。


そんな中で、ララがこんなことを言い出した。



「どうせなら洗ってもらったら?」


「「「!?」」」



良いアイディアだと思ったのか、その発言で目が妖しく光るリンダ達。



「ルルさんの言う通りね。スッキリさせてもらったんだし、今度はジオにしてもらいましょう」

「そうだね」

「そうですね」



その会議は誰一人異議を唱えることなく、俺の前で即座に始まり終わってしまった。


まぁ……ララが言ったのだし、何か深い意味があるのかもしれないので乗っておくか。



「……洗うだけでいいからな?」


「「「わかってるわかってる」」」



そう返してきた彼女達だったが……その手はを熱心に洗い、最終的に俺をさせたのはララだった。


彼女の提案は深い意味があるわけではなく、単なるリンダ達への対抗心だったようだ。



「ご馳走様♡」



そう言って彼女が唇をチロリと舐めたところで入浴は終わり、俺達は朝食を取ってゴブリンの調査へ向かうことにした。

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