第16話 魔境だった森 to 村だった場所

ザパァッ!


「ふぅ」



立ち上がったララが、お湯を滴らせながら俺の前で裸体を晒す。


彼女は顔だけでなく身体もメリハリのある美形であり、状況によっては手を伸ばしていただろう。


しかし今は存分に手を出した後なので、が反応しないわけではないが明日のために自粛する。


そんな俺に、彼女は湯船の縁に腰掛けて微笑んできた。



「フフッ♪我慢なんてしなくていいのに」


「明日は出発するつもりだし、そろそろ寝ないといけないからな」



周囲は真夜中と思われるほどの暗闇に包まれており、昼間から休憩を挟みつつも結構長い間愉しんだ。


なので俺は最後に入浴をと考えて木で浴槽を作ると、水のゴーレムをお湯にしてその中に注いだのである。


この温度変化が"操作"のうちに入るようで、逆に冷やして氷にすることも可能だった。


まぁ、実はその氷を使ってララを刺激したりしたほうが先だったのだが。


更にはタオルも草の繊維で作成しており、お互いの背中を洗ったりもした。


まぁ……お互い最終的に背中だけでは済まず、その結果浴槽のお湯は2杯目になってるんだけどな。


そうして洗い終えた身体をララは惜しげもなく見せつけ、再び俺をヤる気にさせようとしている。


十分にさせたはずだが、彼女は底なしだったらしい。


30年分の様々な肉体的欲求はまだまだ解消されていないようだ。


そんなララは体力も俺よりあるし、彼女に付き合うのなら自分の身体をゴーレムとして回復させる必要がある。


で魔力を使いすぎていざという時に足りなくなれば後悔しそうなので、今回は本当にここまでとするつもりだ。


それは彼女もわかっているらしく、それ以上のはしてこなかった。


最後にお湯をシャワーのように操作して身体を洗い流し、ある程度の水気をゴーレムとして回収すると使用済みのお湯と共に川へと流す。


その後はタオルで作ったバスローブを着て大人しく就寝した。







翌朝、上機嫌のララに熱いキスで起こされた。



チュウゥ……


「んむ?」


「ぷはっ!ふぅ、起きた?」


「あぁ、今日も機嫌は良さそうだな」


「まぁね。昨夜のお風呂のお陰か調子がいいの♪」



この世界に入浴文化がないわけではないがサウナ形式が一般的なようで、浴槽にお湯を張るということは基本的にしないそうだ。


ずっと昔の話になるそうだが……これは主に冒険者など、汚れたまま浴槽に入る人が多かったからそうなったらしい。


川などで沐浴する感覚のまま入浴していたのだろう。


汚れが下流へ流れる川ならそれでもいいのだが、流れがあっても遅い浴槽には汚れが長時間残ってしまうからな。


その結果、サウナで汗を流して最後に水を被るという形になったようだ。


他人が入ることのない、自分だけの浴槽を持っている人はお湯に浸かる入浴方法を使うらしいが、そういう人は基本的に権力者か裕福な家のみであるとのこと。


ララはお湯に浸かる形の入浴が初めてだったらしく、調子がいいのはその効果だと考えているようだ。


まぁ……それぞれに良さはあるのだろうが、彼女には昨夜の入浴が合っていたということかな。




食事を済ませて身支度を整えると、俺達は"主"の防具類を積んだ荷車に乗り込んだ。


境核は俺が手に入れ、この森は魔境ではなくなった。


しかし魔物が全滅したわけではなく、森を出るのが目的の俺達は襲撃されたくないので空を飛んでいくつもりなのである。



「食糧よし、荷物もよし……」


「護衛兼使用人兼愛人よし♪」


「……」



最終確認をする俺にララはそう言って自身を指した。


愛人にした覚えはないが……ヤることはヤッているので否定が難しい。


ここで恋人などと言わないのは、俺がそういった相手を現時点では望んでいないと察しているからだろう。


この世界における自分の立場というか、存在がよくわからないからな。


細かいことを気にせず、普通に過ごせばいいのかもしれない。


しかし、万が一元の世界に帰ること可能だとわかった場合のことを考えると……そのとき俺はどちらを選ぶのか。


それがはっきりしない以上はな。



「ハァ……出発するぞ」



というわけで。


俺はララの言葉に溜め息をつくと、荷車を自分達ごと空へ上昇させた。






「わぁ……いい景色ね」


「だな」



100mほどだが空へ上がると2人揃って地上を見下ろし、その光景をしばらく眺める。


ララは高い所も平気なタイプのようだ。


俺は飛行機や高層ビルで多少は慣れているが、別に得意というわけでもない。


しかし、今飛んでいるのは俺自身の力によるものであり、魔力が尽きない限りは墜落の危険もないので気楽にその光景を楽しめていた。


森は広大に見えるが、もっと上昇すれば狭く感じそうでもあるぐらいか。


その中には大きく開けた場所があり、あそこが境核と"主"のいた場所なのだろう。


視線を動かせば俺達が泊まっていた岩壁がある。


高かったはずの岩壁を見下ろす形となり、その全貌を見るとこの岩壁はそこまで広い範囲に存在するわけではなかったようだ。


と言っても、数百mじゃ収まらないほどではあったが。


俺はそれを確認すると、ララに最寄りの村があったはずの方角を示してもらうことにする。


すると彼女はある方向を指した。



「あっちよ。というか川にそって下ればいいはずよ」


「わかった。落ちるなよ」


「はぁい♪」







やはり川沿いにあったらしい人里へ、しばらくララの言う通りの方向へ進むと……村が見えてきた。


しかし……遠目ではあるが人影は見えず、周囲を囲っていたであろう丸太の柵はその役目を果たせないほどに破壊されている。


なので地上へは降りずにそのまま進み、村の上空へ到着した。



「これは……人が住んでいるようには見えないわね」



"村らしきもの"と表しただけあってその一帯はボロボロになっており、建築物からは襲撃された様子が見て取れる。



「ちょっと見てくるわ、貴方は上で待機してて」


バッ!



魔石の反応はなかったので魔物はいないものと判断し、村を調べようと思い荷車の高度を落とすとララがそう言って飛び降りた。


その行動に一瞬驚きはしたが……彼女の身体能力なら問題ないか。


鎧の下に着ている服は捲れて困るようなワンピースではなく、厚手の生地で作った長袖のシャツに裾の長めなズボンだしな。


ついでに下着も作ってあげており、ブラは丈の短いランニングシャツを前で靴紐のように留める形で、パンツも両サイドで留める紐パンとなっている。


ゴムがなかったから仕方ないのだが……とにかく、そうしてララは動きやすい服装になっているのでその身体能力を存分に発揮できるはずだ。


なので俺は大人しく待つことにし、空中から周囲の警戒をしておくことに。




しばらくして。


何件かの家だったものを見て回るも生存者は見当たらず、多くの血の跡と少数の亡骸を見ることになった。



「外の畑も荒れてたし、このぶんだと魔物に襲われたみたいね」



一応は安全の確認ができたとして俺も地上に降り、人目がないのならと兜を外したララに1つの廃墟を案内されながら状況を聞く。


血痕の数の割に人の亡骸が少なかったことから、避難できた人もいたか……人を食らうような魔物に襲われたのだろうと推察された。


畑だったであろう場所も含めて、周囲は荒れているだけでなく雑草が生い茂っているので、襲撃を受けたのはかなり昔のことなのだろう。


上空から見ていなければただの草原にしか見えなかったんじゃないかな。


この状況にララは複雑な表情を見せた。



「私を骨にすることへの協力者がいたのは確かでしょうけど、多くの人は無関係だったと思うのよね。あの森が魔境になってるんじゃないかって予想はされてたんだし、もっと早い内に別の誰かを呼ぶか別の土地へ逃げればよかったはずなのに……」



そう言った彼女に俺は自分の推察を話す。



「ララが誰かと接触して事情を話されたら犯人側の連中は困るわけだし、そうさせないためにあの魔境に対する依頼は何らかの妨害をされていてもおかしくはない。それで魔境の詳しい状況を把握できず、村の避難が遅れたのかもしれないな」


「う。それって、私のせいってことじゃ……」



俺の言葉に悲しそうな顔をするララだったが、俺はそれを即座に否定する。



「それは違うな。原因はララを嵌めた連中……いや、それを画策した連中だ」


「……そうね、ありがとう」



きっかけが自分であることは確かだと思っているからか、完全に納得したようではなかったが……少しは気が楽になったらしい彼女はそう言って微笑んだ。




さて、村の状況が判明したところで今後の行き先について相談する。



「え?町に行くんでしょ?」


「そのつもりではあるが、なるべくならララの顔が知られていない土地がいいだろう?」


「それはそうだけど……」


「それで聞きたいんだが、この村は国の端にあるって言ってたよな?」


「ええ」


「だったら国の中心部とは逆の、別の国に行くってことはできないか?」



ララが有名だったとはいえ、国外であればその効力はいくらか薄れるはずだ。


そう考えて提案したのだが、そんな俺に彼女は首を横に振る。



「ここは国の東の方だけど、更に東へ行っても海になってるのよ」


「へぇ。海の向こうに別の国はないのか?」


「あるにはあるけど……」


「なら船でもあれば海を渡れるのか」



空を飛んでいくのは一般的ではないのだろうと思いそう呟くと、ララは疑問の表情を浮かべて俺に言う。



「え?、向かうのなら西から陸路でというのが常識でしょ?」



どうやら海の向こうとは陸続きであるらしく、しかし海を越えてというのは非常識なことのようだ。


俺にはこの世界の常識などないので、適当に誤魔化して詳しく聞いてみる。


どんな影響があるかわからないし、元いた世界のことを話す気はないからな。



「いや、そういった知識には疎くてな。なんで海を越えないんだ?船ぐらいあるだろう?」



水に浮くぐらいのことはただの丸太でもできるので、元の世界じゃ紀元前からあったらしいと何処かで聞いた。


どのぐらいの技術かは知らないがこの世界にも製鉄技術があるぐらいだし、それによって作られた金具を使う複雑な構造の船があってもおかしくはない。


そう考えて聞いてみると、ララは若干呆れ気味に答えてきた。



「船はあるけど……陸地の近くで漁をするか、陸地に沿って別の土地に物を運ぶぐらいよ」


「陸地から離れられないってことか?」


「ええ。だって海にも魔境が発生するんだし」


「えっ」



あぁ、あれって陸地だけじゃなかったのか。



「ということは……」


「そう、境核だって海の中だから回収もできない。つまり私達がいた森のように境核が育ってて、それを守護する"主"も予想できないほどに成長してるはずよ」


「なるほど」


「それに境核は魔物が移動させられるでしょ?だからどこが魔境になってるかわからないし、下手すると複数の魔境が密集してその辺りが大変なことになるらしいわ」



聞けば、魔境同士が近くにあるとその間で争いが起きることもあるらしい。


冒険者ギルドの資料では縄張り争いだと記録されているそうで、その結果勝った方は負けた方の勢力を取り込んでいると推測されているのだとか。


推測に留まっているのは確認ができていないからだろうが……その場合に境核がどうなっているのか気になるな。


俺が複数の魔石を1つにまとめられるように、境核同士でくっついたりしているのだろうか?


まぁ、それは置いておいて。


そういった事情もあり、すぐに逃げ込める陸地の近くしか船を使うことができないのだそうだ。


例外として、マジックアイテムの中には魔物を寄せ付けない領域を作る物があるそうで、それが結構な広範囲だからと船団の中心において漁をすることは可能であるらしい。


しかしその効果故に多くの魔力と大きな出力が必要であり、ある程度の大きさがある魔石を確保できたときにしか使えないようだ。


その辺りの事情を理解して考える。


俺には境核の魔力があるし、飛んで海を越えることも考えられなくはない。


しかし、どのぐらいの時間が掛かるかもわかっていない以上は魔力切れを考慮しないわけにもいかず、途中で墜落して海の藻屑になるのは御免である。


その結果……俺は決めた。



「よし、じゃあ西へ向かうか」

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