第15話 では

「これ、マジックアイテムじゃないのかしら?」


ガチャガチャ……



全くサイズの合っていない防具を装備し、金属同士が当たる音を鳴らしながら調べているララ。


境核を守っていた"主"と思われるゴブリンが装備していた防具なのだが、彼女がマジックアイテムなのではないかと予想したそれらは何の反応も示さなかった。


マジックアイテムであれば、装備した者に丁度いいサイズへ変化する物もあるそうだ。


それを期待していたらしいララは、予想が外れて残念そうにしながら防具を脱ぐ。



カチャカチャ……カチャッ


「ハァ、マジックアイテムだと思ったんだけど……」


「違ったものは仕方ない。防具に関しては俺が木で作ろう」


「ごめんね、余計に魔力使わせて」


「これぐらいはいい。境核の魔力はまだまだ残ってるしな」



ララの肉体を取り戻すのに境核の魔力はかなり消費したのだが、それは境核の割合で言うと半分ほどに留まっていたのだ。


なので俺は必要な物を作るのに惜しいと思うほど魔力に余裕がないわけではなく、彼女の身体に合わせて木製の鎧をゴーレムとして作成する。



メキメキメキ……


「ンッ……」



樹皮を除いた木材が粘土のようにララの身体を覆い、その身体を這い回るような刺激に彼女は小さく声を上げた。


そんな中で完成した木製の鎧は頭部・胴体・前腕・脛を覆う物となっており、ララの要望で動きやすさも求めた形となる。


衝撃を直接受けないように内部は少し空間が空くようにしていて、更には通気性も考慮し小さな穴が至る所に開いていた。


そのせいで強度は多少落ちるのかもしれないので……そこは小さめだが多くの魔力を含んだ魔石を埋め込んでおき、ゴーレムとしての回復能力でカバーすればいいか。


木製の物なら一度形を決めた時点で形状の維持には魔力を消費しないしな。


一旦鎧を脱がせると、もう一工夫してからサイズの微調整を行う。


肌に当たる枠の部分に草の繊維で作ったクッション材を仕込んだので、これで擦れたりしてもある程度は肌が傷つくのを防げるだろう。


兜も同じような構成であり、違いがあるとすれば口元が開いていることだろうか。


これはもちろん食事をする際に兜を脱がなくてもいいようにするためだったのだが……これらの防具についてその構成の意図を説明すると、ララは俺に抱き着いてきて躊躇なく唇を重ねてきた。



ガバッ!


「ンッ♡」


レロレロ……


「んぐ!?」



兜の構造を早速利用してそのまま暫く口内を蹂躙され、満足したのか離れた彼女に俺は尋ねる。



「いきなりどうした?」


「嫌だった?」


「そういうわけじゃないが……」



そう返した俺に、ララはモジモジしながら先程のキスについて説明した。



「細かい所にも私を気遣う細工がしてあるでしょ?だから嬉しくてしたくなっちゃったのよ」



前世の様々な製品は消費者を気遣った物が多く、それが重要だという認識があったのでそうしただけなのだが……


この世界でそこまでの意識を持つ人がいないわけではないにしても、その数はまだ少なかったようだ。


なので"自分の為を思って手の込んだ細工をしてくれた"、ということが嬉しかったらしい。


全部ゴーレムのスキルで作ったので大した労力はかかっていないのだが、それを言うと



「私のことを思ってっていうところが重要なのよ♡」



と言ってまたキスをされることになった。




そうして防具について一段落が付くと、話は武器の方に移ることとなる。


ララは剣であれば良いという。


ゴーレムとして作るのであれば木製でも使えなくはないのだろうが、やはり本来の強度もあって威力は控えめとなるだろう。


石製で作るにしても、重量と切れ味のバランスを考えるとイマイチだ。


そこで"主"が持っていた剣を持たせようとする。


"主"の体格に合った結構な大きさの剣で、彼女の身長を優に超えるぐらいはあるのだが……試しに持たせて振らせてみても筋力的な問題はなさそうだった。



「でも、私が使っていいの?」


「俺は剣なんてまともに使ったことないしな。ゴーレムに使わせてもいいが、あっちはどちらかと言うと防衛に使いたいからな。それなら剣でなくてもいいし、ララに使って貰うほうが戦力の無駄にならないだろう?」


「そう……じゃあ、ご期待に添えるよう尽力するわ」



納得したララに"主"の剣を持たせることが決まったので、それを収める鞘を木製で作ることにする。


その大きさから基本的には背負うことになりそうだし、筒状の物では抜くことができないだろう。


なので先端から数十センチを残して鞘に剣の刃が通る程度の切れ込みを入れ、そこを通して出し入れをできるようにした。


これでララの装備については一通り揃い、自分の分も用意してからふと気づく。



「なぁ、街に出入りするときは顔を見せなくていいのか?」


「村ぐらいの規模なら大丈夫だと思うわ。ただ、町以上の規模だと見せることになるでしょうけど」


「じゃあララは町に入れないのか」


「止められそうな場合は……こう、冒険者の私とかけ離れた格好をできれば誤魔化せるんじゃないかしら?」


「かけ離れた格好って?」


「旅をしてきたという設定になるでしょうし、使用人の格好でどこかの良家に仕えているメイドってことにでもすれば」


「顔を隠す必要があるだろう?使用人の格好だと不自然じゃないか?」


「家によるけど、使用人に手を出されてお家騒動になるのを避けるために顔を隠してる場合もあるわ」



更には、顔だけでなく体型まで隠すような服装をしている場合もあるらしい。


詳しいな……そういった家と近い関係だったのだろうか?


まぁいい、とりあえず使用人として顔を隠す格好でも不自然でないことには納得した。


ただ……



「それだと、そんなララを連れている俺が良家の子息ってことになるじゃないか」


「別にいいんじゃない?貴方って割と育ちが良さそうだし」


「そうかぁ?うーん……」



俺の言動からそう感じたらしいが……もちろん、前世の俺は良家の御子息だったわけではなくごく普通の家庭だった。


それでもそう見えるのは正確か、もしくは日本の教育水準や国民性によるものだと思われる。


まぁ、それで通用するのなら構いはしないのだが……



「そうなると護衛役が足りなくなるな。何処かのお坊ちゃんとメイドだけの組み合わせなんて、悪い奴からするといい獲物にしか見えないだろ」


「まぁ、そうね」


「じゃあ、余ってる"主"の防具をゴーレムに着せて護衛ってことにするか」


「町の出入りでバレちゃうけどいいの?」


「構わないよ。要は戦力がちゃんとあるって見えればいいんだからな」



魔法などが存在することは一般的に知られているらしいし、ゴーレムを作る能力もそれに類するものだと言い張れば異質な存在として排斥されることもないだろうしな。


"主"の防具は、体格3mを超えていたゴブリンに合わせたようなサイズである。


となればそれを着せるゴーレムもその体格になるわけで、そんな奴がいれば下手に手を出してくるやつは中々出てこないはずだ。



「そう?ならいいんだけど……」



それを説明してララが納得したので、その防具を着せるためのゴーレムを土で作成して"格納庫"へ仕舞っておく。


常に出しているのは魔力を無駄に消費するからな。


そうなると……剣と同じようにゴーレム化できなかった防具は普通に運ぶ必要がある。


ララは自分が運ぼうかと言ってくれたのだが、彼女も護衛ではあるので無駄に荷物を持たせて敵襲への対応が遅れるのはよろしくない。


というわけで、木で荷車を作って運ぶことに。


森を出るまでは浮かせて移動させ、その後は俺が引くことにしよう。


ゴーレムとして動かすわけではなく、普通の荷車として引くのであれば魔力の消費は抑えられるからな。


ここまで決めたところでララが兜を脱ぎ、気乗りしなさそうな顔を自分で指しながらで提案してくる。



「ねぇ……ゴーレムの形を自由に変えられるんだったら、私の顔を変えることもできないかしら?」



俺が様々な物を作り更には"主"の防具に合わせてゴーレムを作ってみせたことで、いっそ自分の顔を変えれば正体がバレる心配もなくなるでは?と思いついたらしい。


それは俺も一瞬考えはした。


しかし……その提案は却下する。



「ダメだな。可能だとしても元に戻せるとは限らない」



彼女の表情からすると、言ってはみたものの気は進まなそうだし、必要がなければ顔を変えたいとは思わなかっただろう。


それに変えることができたとして、何かしらの異常が発生するかもしれないしな。



「あぁ……その可能性があるのね。元に戻せないことは別に構わないんだけど」



異常が発生する可能性に言及するとそう返してくるララだったが、俺はそれに首を振ってこう返す。



「いや……せっかくの綺麗な顔だ。にその顔が見れなくなるのは惜しいんでな」


「っ!?」



俺の言葉にララは一瞬硬直する。


そして……その硬直が解けたと同時にこちらへ飛びついてきた。



ガバッ!ギュッ!


「ンフフフフ……♪もう、それじゃあしょうがないわね♪」



完全に俺の都合しか言っていないのだが、やはり美しい顔には愛着があるようで。


それを褒められたと受け取り一気に顔を赤くして上機嫌になった彼女はそう言うと、俺に顔を近づけて熱い視線をぶつけてくる。



「はい、じっくり見て♪何ならもいいのよ?ンー……」



ララは唇を差し出し、軽く開いて舌を蠢かせて見せてくる。


その様子に唇だけでは済まなそうな予感があり、俺は一応確認しておくことにした。



「……出発は急がなくていいのか?」



そう聞くと彼女は少し考えてこう答えた。



「んー……私はあのときの村がどうなってるか気になるぐらいで、そこから先の目的はないから数日遅くなるぐらい問題ないわ」



特に目的はなく、最寄りの村についてもすでに30年ぐらい経っているのなら……向かうのが数日遅れたところで状況は大して変わらないと考えているらしい。



「なら……出発したらは減るかもしれないし、もう1日だけここで過ごすか」


「ええ、そうしましょ!ンー……」



俺の返答に再び唇を差し出してくるララ。


その笑顔は完全にヤる気であり、こちらも乗り気になったのでこう返す。



「では……いただきます」


「はい、どうぞ♡」



こうして、俺達はもう少しだけここで過ごすことになったのだった。

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