第14話 "主"の防具
「んん……」
目を覚ますと俺の上には天井があった。
ただしそれは元の世界にある自分の部屋や病室のそれではなく、暖炉で燃え続けていた炎に照らされて石で出来ていることが見て取れる。
では俺がどこで目を覚ましたか。
答えは岩壁の中である。
境核を手に入れたことで魔力に余裕が出来たので岩壁の一部をゴーレム化して空洞を作り、更には部屋に改装してその中で過ごすことにしたのだ。
その理由は……隣から伝わる人肌の熱と柔らかさの持ち主だ。
「ンウン……♡」
もちろん、それはララことラズライザである。
目が覚めたわけではないようだが、彼女はそんな声を発しながら俺に身体を擦り寄せてきた。
その身体は全裸であり、こちらも同様であるので俺達を遮るものは存在していない。
そんなララと身体を重ねることになり、それを心置きなく楽しむため岩壁に部屋を作ったというわけだ。
部屋の中には暖炉を作っていて、もちろん通気口も作ってあるので煙はそこから外へ排出されている。
ちゃんと出入口や窓もあり換気は問題なく、裸で過ごすのだからと薪を遠慮なく焚べていた。
他には石でベッドのような高さの土台を作り、その上に草から収集した繊維で作ったマットレスのような物を敷いてある。
マット状に圧縮した繊維を布で包み込んだだけではあるが中々良い寝心地であり、彼女と共にその感触を堪能させてもらった。
そんな俺達はお互いの身体も堪能し合ったというわけだな。
実年齢で言えば歳上であるはずのララだったが、一応は経験値のある俺がリードすることになった。
……まぁ、それで
あの身体能力で腰を振られたので、それはもう大変だった。
ララは筋力だけでなく体力もあったので、何度も要求されてヤり続けたからな。
そのせいで俺の身体には彼女の握力などによる痣がいくつか出来てしまい、そこで俺自身もゴーレム化して回復できないかと試すことにした。
結果それは上手くいき、ゴブリンの投石によって出来ていた足の痣も含めて治すことができたのだ。
体力と
俺も楽しんだからいいんだけどな。
そんな事を思い出しつつ隣を見ていると……ララも目を覚ましたようだ。
「ンンゥ……んあ?」
「おはよう」
「………………っ!?」
サッ!
俺が声を掛けると、彼女はサッと手で自分の顔を隠した。
耳が赤いのは暖炉の灯りのせいではなく、昨夜の痴態を思い出したからだろう。
しばらくそうしていたララだったが、そろりと手を退けて赤い顔を俺に見せた。
「お、おはよう。その……昨夜は大変お恥ずかしい姿を」
「確かに恥ずかしい姿ではあったな」
「う」
「だがまぁ……俺はそれを楽しんだし、見たのも俺だけだから別にいいだろ」
俺の言葉に彼女はバッと抱き着いてくる。
バッ!ムニュリ。
「良かったぁ、嫌われてなくて」
「嫌ってたらあんなに付き合わねぇよ」
ペチンッ
「アンッ♡」
俺は言葉を返しながら抱き返すと、ララの後ろに回した手で彼女のお尻を軽く叩く。
そんな俺に彼女は笑顔で声を上げ、それが本日の活動を開始する合図となった。
一応の身支度を整え、とりあえずは朝食を取ることに。
魚の塩焼きが主になるのだが、そこには少しだけキノコが追加されている。
これは昨日ここへ戻って来る途中にララが近くで見掛けた物で、食べられるからと先ほど彼女が1人で取ってきた物だ。
川を越える際にゴーレムで運んであげようとしたのだが、ララはこのぐらいなら余裕で飛び越えられると言って飛び越えていった。
それ自体は良かったのだが……彼女が身に着けているのはワンピースとサンダルのみであり、飛んだはいいが落下の際にワンピースの裾が思い切り捲れ上がったのだ。
その結果ララは綺麗なお尻を晒すことになり、無事に戻っては来たがそれを恥ずかしく思ってか誤魔化すように魚を貪っていた。
「ハグハグハグ、ゴクッ。ハグハグハグ……」
「……よく噛んだほうが良いぞ」
「んぐっ。わ、わかってるわよ」
そう言ってペースを落とす彼女に言う。
「もっと恥ずかしい姿を見せてるだろうに」
「見せようと思ってない時のほうが恥ずかしいのよ。してる時は貴方だって恥ずかしい格好をしてたわけだし気にならな……くはないけど、まぁそこまで恥ずかしくはなかったわ」
「まぁ、それもそうか」
わからなくはないのであっさり納得した俺に、一旦食べるのを止めた彼女が今後の予定を聞いてくる。
「……ふぅ。それで、今後はどうするの?」
「ララ次第だな」
「私次第?」
「ああ。君は有名だったんだろう?やはり君の姿が30年前のままだというのは、今生きている人が覚えていて気づく可能性が高いと思うんだが」
「似た他人だとは思ってくれないかしら?」
「そう思われたとしても全く同じ顔じゃあな。噂が広まって君を骨にした連中へ届く可能性はある」
「それは……確かに」
ララは俺の言葉に納得し困った顔をする。
そんな彼女に一応の案を出してみる。
「だからまぁ、バレ難い格好でも出来れば何とかなるとは思うんだが」
「変装ってこと?」
「ああ。材料さえあればある程度は自由に服なんかを作れるからな。ただ、肝心の顔を隠すとなればどうやったって目立ちそうなのが問題か」
「頭まで含めて、全身を鎧で覆うっていうのはどう?世話役兼護衛ってことで」
「まぁ、顔を隠すのならそれが無難か。だが全身の防具を作るとなると……材料は木と石しか十分な量を確保できないぞ?」
「石製はともかく、木製の防具自体はそこまで珍しくないはずよ。金属製に比べれば軽くて安いしね。まぁ、割れたりするから強度は落ちるけど」
若手や金のない冒険者は武器を優先するため、防具に関しては直接攻撃を受けなければ良いという考えでそういった物を使うのだとか。
ちょっと余裕が出てくると表面に硬化させた革を使った物や革をメインとした防具になり、もっと防御力を求める場合は金属製になるらしい。
そんなわけで……ならば木製の防具を作ろうかと思っていると、ララが思い出したように言ってくる。
「あっ、あれは使えないかしら?」
「あれって?」
「昨日の"主"が使ってた防具よ」
「いや、大きさが合わないだろ」
"主"と思われるゴブリンが着用していた防具は、身長3mはあったであろう奴の体格にピッタリな物だ。
なのでその半分ほどの身長である彼女の体格では使えないと思ったのだが……そこでララはこんなことを言い出した。
「あれが普通の防具だったらね」
「ん?普通と普通じゃない防具があるのか?」
そう聞いた俺に彼女は説明する。
「ほら、マジックアイテムと言われる物があるのは話したでしょ?」
「あぁ、言ってたな」
「あの防具がそれだって可能性があるのよ。あれだけ育っていた境核なら、自分を守る者に何らかの恩恵を与えていた可能性が高いわ。でも"主"自体は特殊な力を持っているようには見えなかったし、だったら物を与えたんじゃないかと思うのよ」
「え、境核が意思を持ってるのか?」
「はっきりそうだという話は聞かないけど、自分を守ろうとする魔物にはそういう事があると言われているわ。だとしたらあれがマジックアイテムで、着る人に大きさを合わせてくれるかもしれないわ」
どうやら、マジックアイテムの武具にはそういった物があるらしい。
自分を育てる代わりに成果物を
まぁ、魔物や魔法が存在するという世界なわけで、魔石が意思を持つこともあるのかもしれない。
そんなララの話を聞き、とりあえずは川へ移動して試してみることに。
「じゃあ……まずは洗うか」
「着けるのは私なんだし、私がやるわ」
そう言ってくる彼女だが、俺はそれに対して首を横に振る。
「いや、いい。川でそのまま洗うと毒を持った魚が寄って来るかもしれないし、ヒレに毒があるなら危ないだろう」
「それは、まぁ……だったら桶でも作ってもらえればそこで洗うわよ?」
「それより早く終る方法がある」
変装する事自体が自分の都合だからか何とか手伝おうとする彼女にそう言うと、俺は魔石で川の水を収集した。
ジャババババッ
「で、これを……こうだ」
ズバァァァッ!
集めた水の塊から帯のように水を噴出し、それが防具に当たるとその部分の汚れが落ちていく。
これは高圧洗浄……簡単に言えば物凄い勢いで水をぶつける洗い方だな。
素材によっては使えないが、硬いはずの防具なら多少強めでも問題はないだろう。
本来は洗剤を使ったりするのだろうが、今あるのは灰ぐらいだし仕方がない。
そうして"主"が使っていた防具をついでに剣も含めて洗浄し終えると、付着していた水分を収集して乾かしララに渡す。
「こんな方法で……まぁ、水を掛けて汚れを落とすこと自体は普通にあるんだし、それを勢いよくやれればこういうことができてもおかしくはないわね」
「魔法でやってる人はいなかったのか?」
俺の言葉で彼女は誰かを思い出したようだ。
「あぁ……そう言えば、エルフの知人は魔法の扱いに長けていたから似たようなことをやってたわ」
「へぇ、エルフか。見たことないな」
ファンタジー作品によく出てくるような長命な人種なのだろうか?
聞けばその予想は当たっていたらしく、血統によるが人間に比べれば確かに長命であるそうだ。
だとしたら30年前の姿であるララを見て、すぐに彼女だと気づきそうな気もするが……それを聞くとこう返される。
「私をエルフとは違う人間だとわかっているからこそ、彼女は私が30年前の姿のままでいるはずがないと思うんじゃないかしら?」
「なるほど」
ラズライザ本人ではなく、娘やそれに近い年齢の親族だと思われるということらしい。
ん?となると……エルフの外見は年齢に見合わず若く見えるということか?
そのエルフがどんな外見なのか気になるな。
そんな疑問を持った俺に、彼女は複雑な視線を向けてきた。
「美人だけど気位が高いから、会ったとしても変な目で見ないほうがいいわよ」
「そうか、気をつけよう」
そう返す俺にララは少し頬を染める。
「その……
こう言ってくるということは、どうやらその知人は相当に美女であるらしい。
気位が高いというぐらいだし権力者かその親族で、問題を起こせば面倒な事になるのだろう。
それは避けたいので気をつけないと。
そしてララの発言がどういう意味なのか明らかなので、俺は言いながら身を寄せてくる彼女に
身体を回復させたことで体力も
とは言えそのまま
「まぁ、必要になったらな。とりあえず防具のほうを試してみようか」
「あ、うん」
そう応えた彼女は"主"が装備していた防具を装着してみたのだが……
「……特に何も起きないわね」
ララの言う通り、防具は何の変化も起こさなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます