第12話 境核の守護者

広範囲に球体の土ゴーレムを配置して魔石の反応が多い方へ進んでいると、それを阻止しようとしてか魔物達はこちらへ向かって来るようになった。


ここにきてゴーレムを危険だと認識したらしく魔法を使える者も出てきたのだが、使ってくる魔法が火の魔法だったのであまり効果がなく進行を続けられる。


そう思っていると……しばらくして、先頭でゴーレムが粉々になりつつ吹き飛ばされて宙を舞った。



ドォン……


「っ!?」



距離があるので音は小さかったが、逆にここまで聞こえてくるほどの威力ではあったようだ。


球体のゴーレムは窒素のゴーレムを備えており、魔物が接近すれば周囲に窒素を集めて魔物を窒息させるのだが……窒息する前に吹っ飛ばせるような奴が現れたのか。


こういう相手に今の戦い方は少し都合が悪い。


球体のゴーレムは10m以内の魔物へ接近するように設定してあるし、その対象が呼吸をしないか我慢できれば対処できてしまうのだ。


どうしたものかと考えていると、同じようなことが続けて2箇所で起こるようになった。


最低でも3体か。


森の中で見通しは悪いのだが2箇所目は偶然見えており、コマンド級のゴブリンより2回りは体格の大きいゴブリンが球体のゴーレムを蹴り飛ばしたところだった。


その3箇所に近い場所で次々とゴーレムが破壊されていく。


窒息が効いていないというよりは……その範囲外から飛び込んで、ゴーレムを蹴り飛ばすことでその影響を回避できているようだな。


窒息エリアはゴーレムを中心として形成されているわけだし。


まぁ対処法は考えてあるのでそれを用意しつつ、あのゴブリン達の体格をスケルトンに伝えて情報を聞いてみよう。



「デカいな。コマンド級以上だ」


「(そうなるとジェネラルやキングでしょうね。そのぐらいの体格ならジェネラルだと思うわ)」


「そうか……そう言えば、キングでも複数いるのか?名前的には1体しかいないように思うんだが、階級は強さで分けられてるだけなんだよな?」


「(ええ、複数いることもあるわね。キング級を倒したところで魔境は魔境のままだし、結局は境核を壊すか持ち出さないといけないから。1体しかいなかったとしてもそれを倒してお終いにはならないわ)」


「なるほど。まぁ、何にせよ向かってきてる奴らは片付けないとな」



そう言うと俺は護衛として傍に置いているゴーレムへ指示を飛ばし、こいつを通して他のゴーレム達に別の動きをさせる。


進行を停止させるとジェネラル級ゴブリン達を包囲して等間隔に配置させ、一斉に窒素のエリアを複数が重なるように隙間なく作り出させた。


これは向かって来ている事がわかっている相手にしか使えない手ではあるが、呼吸さえするのであれば敵陣に突っ込んできている連中は前後左右の何処に逃げようと酸欠になるはずだ。


全てのエリアで複数のゴーレムで窒素のエリアを形成していれば、1体を破壊されてもそのエリアは維持されて窒息するだろう。


これで殺せるのであればそれでいいが、ダメだった場合はまた別の手を考えないとな。


そうしてしばらく様子を見ていると……姿が見えていた1体は異常を感じたのか後方へ下がろうとするも、飛び退いた場所がまだ窒素のエリアだったのでそこで倒れた。


よし、ジェネラル級にも酸欠は有効だったか。


そいつが倒れるとその方面では球体のゴーレムが吹き飛ばされることはなくなり、そのエリアではあいつが1人でゴーレムを破壊していたのだと思われる。


他の2箇所も同じぐらいのゴブリンが1体で暴れていたとは限らないのだが、そちらでもゴーレムが破壊されることはなくなっていた。


酸欠で倒れる前に退避できた可能性もあるので、これまでよりも慎重に進行を再開する。




そうして進んでいると大物のゴブリンが倒れたことを確認できた地点に到着し、その姿を間近で見ることになった。


身長は少なくとも2m以上あり、かなりマッチョなゴブリンだ。


奥へ向けてうつ伏せに倒れているのだが下半身に腰蓑を着けており、そのせいで股間のモノも中々の大きさであることがわかってしまった。


いや、見たくはないのだが……スケルトンがソレを指して言う。



「(魔石だけでは何を倒したのかわからないけど、こういうある程度は断定できる物を証拠として提出すれば規定の報酬が出たりするわよ)」



彼女が言うには人を性的に襲う魔物がいるらしくゴブリンもその一種だということで、中でも上級のものを倒したことが証明できれば女受けが良いのだそうだ。


悪くはない話だが……ゴーレムを使えば触れずに済むとしても、"格納庫"に入れておきたくない。


そう言うとスケルトンに諭される。



「(人里に行くならあったほうがいいと思うわよ。少なくとも一定の実力がある証明にはなるし、それは境核でもいいのだけど私の身体を取り戻すのに使い切ってしまうかもしれないから……)」


「なるほど。変に絡まれづらくなるんなら……仕方ないか」


「(私がやろうか?)」


「ゴーレムにやらせるからいいよ。んな汚いもん、女なら触りたくないだろ」


「!」



俺がそう答えるとスケルトンは一瞬動きを止め、「(そうね)」と返して俺に任せた。


そうして一旦進行を止めるとゴーレムでゴブリンのモノを回収し、他の大物が現れたはずの場所も調べることにする。


結果、ジェネラル級と思われるゴブリンから3本のモノを回収した俺はそれらを"格納庫"に仕舞い、再度境核を目指して進み出す。




その後も続々とゴブリン達は現れ、それらを殲滅して大物のモノを増やしながら進んでいると……とある存在を感知した。



「やけに強い反応だな。もしかしてこれが境核か?」



見通しが悪いのでその全貌はまだ不明だが、少なくとも今までとは比べ物にならないほどの強い反応を感じる。


ただそれに比べれば小さいが、ジェネラル級のゴブリンよりは明らかに強い反応も近くにあった。


スケルトンに聞いても自分にはわからないと答えるのでとりあえず進むと……その先には開けた場所があり、そこには直径が10mは超えていそうな魔石とそれを護るように立ちはだかる大きなゴブリンがいた。


その奥にはコマンド級以下のゴブリン達もおり、しかし加勢するわけではないのかその場所はかなり遠い。


あぁ、倒されるとこちらの戦力になることがわかっているから避難させているのか?


魔境の核であろう魔石はとりあえず置いておくとして、今は大きなゴブリンに集中する。


ジェネラル級のゴブリンよりも体格が良く、身長は3mほどに見えるのだが……その体格に合った剣と防具を装備していた。


金属製だと思われるそれらには白地に金色の装飾がされており、その外観からすると俺のイメージでは"聖騎士"と言えそうなものである。


俺がそこを気にしていたところ……森から広場へ出てこない俺達に痺れを切らしてか、奴は剣を構えて向かってきた。


こちらを既に認識していたはずのこいつが待ち構えていた以上、開けた場所よりは攻撃を捌きやすいと考えていたのは正解だったんだろうな。



「ギュグォォォォッ!」


ドドドドド……


「っ!?」



突っ込んでくる奴に狼狽えるスケルトンがこちらを見るが、それに対して俺は準備していたゴーレムを作動させた。



フッ


「グギィッ!?」


ヒュウゥゥ……ドォンッ!



武装したゴブリンは突然現れた大穴に落下し、20mほど下の地面に激突したようだ。


この穴はドリル状にした魔石のゴーレムを地下から追従させていたもので、あのゴブリンの姿を視認したときから俺との間にある土地を地下までゴーレムとして支配下に置き、タイミングを見て"格納庫"に収納して開けたものである。


ジェネラル級との戦闘経験から窒息がすぐには効かず、その前に窒息の原因であるゴーレムを破壊される恐れがあったために足止めが必要だと考えてこうしてみたのだ。


もっと深く出来たのかもしれないが、その分だけ魔力を消費してしまうからな。


しかしそのせいかゴブリンは死んではおらず、穴の中を覗いてみると……



「グギギギギ……」



と、唸りながらこちらを見上げている。


壁蹴りでもして上がってきそうだな、と思っていると地上に残っていたコブリン達が向かってきた。



「「ギギャアァァッ!」」


ゴロゴロゴロッ


「グッ」

「ギェッ」



もちろんそれらは球体型の土ゴーレムと窒素のゴーレムで始末し、すぐに武装したゴブリンに対応する。



「グオォォォッ!」


ダンッ、ダンッ、ダンッ



うお、本当に壁を蹴って登ってきた。


奴はもう少しで上がりきりそうだったので、俺は水のゴーレムを出してそれを妨害する。



ドドドドド……


「グボォッ!?」



この水は川から集めておいたもので、この穴の半分ほどを満たす量になった。


水を集めるだけなら魔力的なコストは低いし、持ち運びは"格納庫"に仕舞っておけばいいから多めに用意しておいたのだ。


一応は自分で飲んだり洗い物をするためだったんだけどな。



バシャバシャッ、バシャッ


「グッ、グガボッ……」



武装したゴブリンは何とか穴から出ようとするのだが、先程の壁蹴りは崩れたりして滑りやすくなっており難しく、イルカのようにジャンプするのも人型のあいつには難しいはずだ。


金属製らしき鎧も着てるしな。


なので溺れるまで待とうとしたところ……奴は剣を壁に突き刺して体を持ち上げた。



ガッ、ガッ!……ザクッ!


グィッ



そのまま壁に刺した剣に乗り、それを足場にして飛び上がろうとするゴブリン。


壁が崩れにくい深さまで刺したのもあるのだろうが、あの体格が上に乗って飛ぼうとするのであれば曲がったり折れたりする可能性がある。


そうでなくてもそのまま地上に上がってくるとなれば……あの剣を手放すことになるよな?


仕方ないと割り切っているのか、剣がなくても俺を始末できると考えているのか。



「グギギギギ……♪」



あー……両方かな。


もうすぐ俺を殺してやれるという喜びからか、奴は笑みと笑い声のようなものを溢すのだが……それを俺が許すはずもなく。


ぐっと力を込めていよいよ飛ぼうとしたその時、奴の足場は消え去った。



ザバァッ!


「ゲバッ!?」


バシャバシャ……



再び水の中に戻った奴は、不可思議なこの状況に辺りへ目を巡らせる。


しかしどこにも奴の剣は見当たらず、その原因が俺だと予想したらしい奴は溺れながら俺を睨む。


奴の予想は正解であり、俺が奴の剣が刺さっていた場所の土をゴーレム化して"格納庫"へ入れたのだ。


最初は奴の剣自体をゴーレム化しようとしたのだが何故か実行できなかったので、それに使おうとした魔石を剣が刺さっている土のほうに使ったのである。


その結果奴の剣は水の底に沈み、これで上がってくることはできなくなったと思っていると……



「グオォッ!」


ダンッ!



水面で暴れていたゴブリンは俺が剣を沈めたことで出来た壁面の窪みに手を掛け、身体を持ち上げると更には足も掛けて飛び上がってきた。


マジかよ、頭良いな。


いや、俺が抜けていたとも言えるのだが。


そうして地上に戻りかけたゴブリンだが……そこで俺は元々穴の中にあったはずの土をそのまま奴の頭上に出し、それを落下させて水の中へと叩き落とした。



ドドドドッ!


「グガァァァッ……」



降ってくる大量の土で水の中へ戻るゴブリンはその姿が見えなくはなるが……ここで手を緩めるつもりのない俺は土を落とすのを止め、窒素のゴーレムで水面から地上までの酸素を排除する。


これで奴が剣を回収してまた上がってこようとしても窒息させられるだろう。


もちろん、まだ地上に戻って来る手段を隠し持っている可能性があるので、それに備えてもう1つ手は残してあるが。


しかし……



ザバァッ!


「ガッ!?グギギ……」



境核を護っていたゴブリンは水面に上がってきたがそこで呼吸ができなくなり、程なくしてそのまま水に浮くだけの存在になった。

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