第11話 人海戦術ならぬG海戦術

この森が魔境になった原因の境核という魔石を手に入れるため、それを狙う理由であるスケルトンの案内で森を彷徨っている。


時折襲ってくるゴブリンはいたが……やはり戦力は境核の防衛に集中させているのか、コマンド級以下のものしか現れずその数も少なかった。


そんな連中の魔石を回収しつつ歩を進めていると、これまでとは違う魔石の反応を感知する。



ガサッ



足を止めてその反応に集中し、それをスケルトンに伝えておく。



「……コマンド級よりは上の反応があるな。大きく違うわけじゃないから境核ではないと思うが」


「(だったら単純に上位者というだけかもね。数はどう?)」


「多いと言えば多いな。100は居そうだ」



そう答えると彼女は筆談の指を走らせ、その反応がある方向に境核が存在する可能性を伝えてきた。



「(今までにない反応があったのならその方向に何かがあると思うわ。そちらへ進んで上位者が増えたり、もっと上のゴブリンが出てくれば境核に近づいていると思っていいんじゃないかしら)」


「段々戦力が大きくなっていくのか?最初から強い奴が出てきて片付けたほうがいいだろうに」



成長要素があるゲームなどなら最終的にはクリアをさせたいのだろうし、すぐにゲームオーバーとなるような敵を出したりしないのが普通である。


だが今現在、俺が置かれているこの状況は現実でありゴブリン達がこちらに気を遣う理由はなく、自分達を殺して境核を手に入れられるほどになるまで俺の成長を待つ必要もない。


なので敵であるこちらの戦力が段階的に上がるのを見逃すことに疑問を抱く俺だったが、それに対してスケルトンは肩を竦めてみせた後に筆談で返してくる。



「(上位者はそこまで成長するのに時間が掛かって数を増やしにくいから、下級の魔物で片付くのならそのほうが都合はいいって考えてるんじゃない?)」


「あぁ、向こうも成長するのか。でもこの森は30年も放って置かれてたんだろ?だったら上位者も十分増えてるんじゃないか?」


「(それはそうでしょうね。でも成長に時間が掛かることをわかってるからこそ、上級のゴブリンになるほどなるべく減らしたくないと考えているのかも)」


「ふーん……まぁ、なくはない話か」



下級のゴブリンで敵に何らかの損害を与えられれば、上位者の出番が来たときには有利な状況になっているかもしれないしな。


もちろんそれは敵を成長させることにもなるんだろうけど、そこは敵の成長具合を見て対応を変える可能性もある。


などと考えつつも感知したゴブリン達の反応を気にかけているのだが……これまでとは違ってこちらへ向かってくる様子がないな。


それをスケルトンに伝えてみると、彼女は腕を組んで考え込んだ後に自分の予想を述べる。



「(囮や罠の可能性があるわね。そこへ私達を誘い出して、控えさせておいた援軍で取り囲むつもりなのかも)」


「どうだろうな?魔石の反応を見るに伏兵はいないようだが」



その疑問で彼女はある可能性に言及した。



「(これまでに遭遇した上で逃げられたゴブリンはいない?)」


「え?どうだろうな、分かる範囲で逃がした覚えはないが……どうしてそれを聞くんだ?」


「(襲撃の際に貴方がいつも迎撃準備を整えていたことが向こうに伝わっていれば……逆に攻めさせようと、一部をわざと孤立させているのかもしれないわ)」


「それが連中の罠だと」


「(ええ。他の戦力を離れた場所に置いて、頃合いを見て参戦させる可能性はあるわ)」


「俺から逃げ切れたか、俺に気づかれない奴がいたとしたらその可能性はあるな。だったら……乗ってやるか」


「?」



俺の発言で疑問を抱いた様子のスケルトンにあることを確認をする。



「お前って魔物ではないんだよな?」


「(そのつもりではあるけど……断言はできないわ)」



まぁ、気づいたら骨になってたんだから自分ではわからないか。


聞けば、彼女はゴブリンに追われることがあるそうだが、その姿を見るとゴブリンはガッカリして去っていくらしい。


ふむ……



「なら、先ずは試しておくか」


「?」



俺の言葉に首を傾げる彼女の存在を確認するため、護衛として出していたゴーレムの命令を変更する。


これまでは攻撃を防ぐために"時速20km以上で接近するものを防げ"というものだったが、新たな命令は"10m以内に居る魔物を捕らえろ"というものだ。


これでゴーレムがスケルトンを捕らえなければ、彼女は魔物ではないということになるのではないだろうか。


もちろんそれで確定できるという保証はないのだが、少なくとも俺がやろうとすることの障害にはならないだろう。


そうして試してみた結果……



「……」


「……?」



ゴーレムはスケルトンに反応せず、近場に魔物もいないからか何の反応も示さなかった。


ただ、命令の設定が上手くいかなかった可能性もあるので、俺が感知していた魔物の方へ操作して向かわせてみると……



ガシッ


「グギャアッ!」


ジタバタ……



俺が操作を止めた途端、ゴーレムは10m以内に居たノーマル級のゴブリンを捕らえた。


再び操作しそいつを始末させてからこちらへ戻らせても……スケルトンには反応せず。



「とりあえず、ゴーレムには魔物だと認識されないようだな」


「(それは嬉しいわね。魔物でないのなら、身体が戻れば人間に戻れそうだし)」


「だな。そのためには境核を手に入れないと。というわけで……」



俺は準備を整え、考えていたことを実行する。






ゴロゴロゴロゴロ……

ザザッ、ガサガサッ……メキッ



土の球体型ゴーレム達が一定間隔で広がり、森の中を転がって前進していた。


それは直接操作しているゴーレムに連動させた300体ほどの数になっており、命令としては自身から10m以内にいる魔物へ接近することを直接指示よりも上位に設定してある。



「ギッ……」


ドサッ


「グェ……」


ドサッ



直接指示に従って進行するゴーレム達は指定範囲に入ったゴブリンへ接近し、近づかれたゴブリン達は次々と倒れていった。


囮と思われた連中も、そこに後から参戦しようとしていた連中もその中に含まれている。


倒している方法は例の酸欠だ。


球体型ゴーレムの外周部に核とは別の魔石を埋め込んであり、魔物へ接近すると酸素のない空間を発生させる窒素のゴーレムとなってゴブリンを窒息死させる。


基本的に連中がゴーレムを敵だと見ていないからやれる方法だな。


このような方法を取っているのは自動で実行される"命令"が1つの条件と1つの行動しか設定できないからであり、加えて俺が直接操作できる距離は100m以内だということでこういうやり方になった。


これならば俺が直接出した指示を中継するゴーレムの存在で100mよりも広範囲にゴーレム達を配置して運用でき、指定した状況に応じて魔物を酸欠で殺すことができるというわけだ。


golemゴーレムの頭文字を取って、人海戦術ならぬG海戦術とでも言おうか。


人型ならそのまま人海戦術でも良かったのだろうが、複雑な動きをさせる分だけ魔力の消費が激しくなるから球体にしてあるんだしな。


この運用なら呼吸をするわけでもないスケルトンが巻き込まれても平気だったとは思うのだが、状況によっては彼女が被害を受けそうなゴーレムの使い方をするかもしれないからこうなったのだった。




倒したゴブリンからは魔石を回収し、魔力切れでゴーレムに損失が出ればそれを利用して補充する。


そうして魔物の反応が多い方へ進む俺に、スケルトンは周囲を警戒しつつゴブリンの死体から魔石を回収する作業をやっていた。


自分の身体のためでもあるし、何か手伝いたいと言い出したのでやらせているのである。


彼女の身体を取り戻すのは俺のためでもあるので不要だとは言ったのだが……まぁ、公正・公平を重んじるらしいので何もせずにはいられなかったようだ。


で、広範囲に広がったゴーレム達と共に魔石の数が多い方へ進んでいると、ゴブリン達の魔石の密度とそれぞれの魔力が多くなっていくのを感じた。


それを伝えるとスケルトンは警告する。



「(気を付けて。出発前にも言ったけど、上位種になると武器や魔法を使ってきたり特殊な能力を持っている者もいたりするわ)」



まぁ、そうだよな。


最初に遭遇した奴だって武器として木の枝を持ち、その後に野営地を襲ってきた連中も投石という手段を取った。


人の形をしてるんだし、人と同じようなことをしてきてもおかしくはないか。


となれば罠も警戒すべきだろうけど……ゴーレムを先行させているので落とし穴のような、自動で作動するものは回避できるだろう。


そうなると特殊な能力に関しては事前に準備できることはないので、やはり飛び道具や魔法を警戒すべきかな。


この世界の常識が俺には不足しているので、武器ならともかくファンタジー特有のものには取れる対応が限られる。


さてどうするか……





しばらく進行を続けると、転がってくるゴーレムに石斧や矢が飛んでくるようになった。


基本的にはゴブリンに敵だと見なされないゴーレムも、流石にゴブリンを殺しながら進んでいれば無視はされない。


それで動きが鈍るようなゴーレムではないが、ダメージを受けた分だけ稼働時間は短くなってしまう。


なので俺が保有している魔石の消費も早まりはするも、殺したゴブリンから魔石を回収することでその損失を抑えられていた。


結果こちらの進行速度は衰えず、この状況を危機と見てかあちらは新たな戦力を投入してくる。



ボゥッ!ボゥッ!


ドッ、ドッ



先頭のゴーレム達に対し、その向こうから火の玉が飛んできはじめた。


遠い上に見通しも良くなかったので少ししか見えなかったが、攻撃を受けたゴーレムの魔力が回復することによって少し減ったのは把握できる。


魔力の消費が少しで済んでいるのは、土のゴーレムにとって火の玉がそこまで有効ではなかったからだろうか?


それをスケルトンに尋ねると、



「(土のゴーレムに火を当ててもほとんど効果がないと聞くわね。まぁ、鉄を溶かすぐらいの火力だと倒せるそうだけど)」



と返される。


これがゲームによくある魔法的な属性の話ならわかりやすいのだが、どうも現実的な影響力による結果の話であるようだ。


つまり火の魔法に水の魔法をぶつけても、火力が高ければ水でどうにかなるわけではないということらしい。


ただ魔法的な要素がないわけではなく、魔法の火は普通の水では消えにくかったりもするそうだ。


色々あるんだなぁと思いつつも、ゴブリンは火の魔法しか使ってこなかったので問題なく進行を続ける。


すると……しばらくして、前方でゴーレムが唐突に吹き飛んだ。

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