第10話 冒険者ギルドの前情報
ズシャァッ!
川を飛び越えてきたコマンド級のゴブリンがそんな音を上げて着地する。
奴はあの川を飛び越えられるだけの身体能力があったらしい。
それを見て、俺は即座に川の向こうのリーダー級ゴブリン達を始末する。
「ギッ……」
「グェ……」
バタバタッ
「ッ!?」
今回は数が多かったことから広範囲を効果対象とする必要があり、大きめの魔石に多めの魔力を込めて設置しておいた。
その魔石を使い昨日と同じように酸欠で殺したわけだが、いきなり倒れだした仲間達にコマンド級のゴブリンは驚いている。
俺の隣りにいるスケルトンも口に手を当てて驚いているようだ。
それはさておき、今は気を取り直してこちらへ向かってきたコマンド級に対応する。
「グオォッ!」
再び雄叫びを上げて突っ込んでくるコマンド級。
川を飛び越えたのもあるが下位の連中に比べるとその動きは速いので、聞いていた通りに上位種は実力が上なのだろう。
そんな相手に俺は土の人型ゴーレムをけしかけた。
ズンズンズン……ズザッ、ガシッ
「ガァァッ!」
ドガッ!
向かってきた土のゴーレムを無視しかけるコマンド級だったが、掴み掛かられたことで敵と認識したらしく奴はゴーレムを思い切り殴る。
核として使っている魔石がリーダー級に近いものだったからかそのダメージは大きく、もう2、3発も受ければ形を維持することができなくなるだろう。
というわけで、俺は追加でコマンド級の背後に2体のゴーレムを"格納庫"から出撃させた。
1体は土の人型ゴーレムだが、もう1体は水球のゴーレムだ。
魔力の消費を抑えるため、もちろんまともに戦わせる気はない。
ガシッ、ガシッ、ザボッ
「グギギ……ゴボボッ!?」
2体の土ゴーレムでコマンド級の動きを抑えさせ、水球のゴーレムで奴の頭部を包みこんだ。
呼吸を阻害するという点では窒素を集めて酸欠にするのと同じだが、あれは何かしていると気づかれればその場から飛び退いて回避される可能性があるからな。
土のゴーレムで動きを抑えはしたがそれを振り解くかもしれず、窒素のゴーレムを大きくしてその範囲を広げれば自分にも影響が出てしまう。
ならばと、奴の頭部に追従するよう命じた水球のゴーレムを使うことにした。
これなら確実に水球が原因だとわかるだろうし、原因がわかっていればそれを排除しようとする可能性が高いと思ったのだ。
「ガババッ、ガボッ」
ブンッ、ブンッ
土のゴーレムに捕らわれたコマンド級のゴブリンは、その頭部を覆った水球を振り解こうと頭を激しく振っている。
あいつ個人の事情なのかもしれないが、コマンド級にリーダー級2体を振り解く力はないのかな。
そして水球ゴーレムは奴の頭部に合わせて張り付いくように動き、コマンド級ゴブリンの動きは次第に小さくなっていった。
「標的の頭部を覆い続けろ」という"命令"は有効に働いたらしく、俺が逐一操作しなくても敵に取り付き続けることができるようだ。
どこまで細かい命令ができるのかは更に検証を進める必要があるな。
程なくしてコマンド級のゴブリンは全く動かなくなり、念の為にと石で作った丸鋸のゴーレムで首を落とす。
そのままこいつを始めとしたゴブリン達から魔石を回収し、ついでに鉄分や塩も幾分か回収した。
残った死体は土を魔石で収集して掘った穴に放り込み、その土を戻して埋めておく。
そうして後始末を終えると野営地に戻って休憩した。
「ハァ、数が増えて後始末に時間がかかるな。埋めに行く場所もどんどん遠くなるし……」
そう呟く俺にスケルトンが筆談で教えてくる。
「(1日もすれば消えてなくなるはずよ?昨日倒した分はもうしばらくすれば消えるんじゃない?)」
「え、そうなのか?じゃあ魔物から皮や骨を回収しても消えるのか?」
「(あぁ、回収したものは残るわね。魔石だって残るんだし、理由はわからないけどそれと同じようなものかしら?)」
「そうか……まぁ、理由がわからないのはともかく残るのなら良かった。魔石もそうだが魔物の素材で稼ぐつもりだったからな」
俺は無一文だし、人里へ入るときにお金が必要であればそういったもので入れてもらえないかと交渉するつもりだったのだ。
とりあえずはその考えが有効だとわかってホッとしていると、スケルトンは俺の今後について聞いてきた。
「(魔物の素材で稼ぐっていうことは、貴方は冒険者なの?)」
「なった覚えはないが……何をしたら冒険者ということになるんだ?」
そう聞くと彼女は少し驚いたような反応をする。
「(えっ?冒険者ギルドに登録すれば冒険者ってことになるはずだけど、ということはまだ登録をしてないのね)」
「あぁ。そもそもゴーレムを作れる能力を使えるようになったのは昨日だからな」
「(だったら冒険者ギルドについて教えておきましょうか。受付で長居してたら受付嬢を口説いてると思って絡んでくる人もいるから)」
うぇ、そんなのもいるのか。
この世界に来た経緯が経緯だし、事前に聞いておいたほうが良いだろう。
なので一通り聞いてみたところ……冒険者ギルドという組織は中々の大きさであることがわかった。
どこで発生するかわからない"魔境"に柔軟な対応をできる戦力が必要であり、そのために冒険者ギルドは各地へ支部を置いているので大きな影響力を持っているという。
そうなった背景としては……国などの統治者が他者に対する防衛力としての人手を魔物に割きたくないからで、損失があっても自前の戦力が減らないから都合がいいと考えているらしい。
それだけこの世界の国家間や領土間の争いが起きやすいそうなので、そこで冒険者の存在は都合がいいと考えるのもわかる話ではある。
そういう事情があって冒険者ギルドには国も強く出られないようで、実力者だからといって無理に雇い入れようとはしないそうな。
まぁ……そう仕向ける場合もあるそうだが、そうなったらギルドに言って止めさせることができるらしい。
冒険者ギルドがその土地から撤退し自前の戦力を投じることになれば、どうしても攻められやすくなってしまうので基本的にはそれで収まるそうだ。
例外もあるにはあるようだが、それでスケルトンは実力者であっても1人で活動できていたのかな。
で、そのギルドに登録する場合は少量の血を名前と共に登録すればいいらしく、それは何らかのマジックアイテムで管理されるとのこと。
更には別のマジックアイテムで各地に情報共有されるようで、支部さえあれば冒険者としての証明は登録時に発行されるギルド証で可能だそうだ。
そのギルド証は基本的に同じ材質のプレートらしいが、冒険者の中でも高いランクや特殊な技能を持っている者は少し変わった材質の物を持たされるのだとか。
色々と優遇措置はあるも、そのぶん難題を押し付けられることもあるらしい。
俺は普通のでいいな。
そして今の話に出てきたランクについては……完遂した仕事の難易度や数によってギルドが独自に決めるもので、F級からA級までそれぞれ下位・中位・上位と分けられているらしい。
その上にS級というのもあるらしいが、その中では1位2位3位……という格付けがされているそうだ。
そこで気になった点について聞いてみる。
「お前はどのランクだったんだ?」
「(Aの下位よ。基本的に1人で動いていたってこともあるけど、こなせる数が少なかったからね。実力的にはもっと上でもおかしくはなかったけど)」
「ふーん」
特にそこまで興味があったわけでもないのでそんな反応だったのだが、それを疑われていると思ったのか彼女はすばやく言葉を書き連ねる。
「(いや、本当だからね?S級の人にも認められてはいたんだから!)」
「別に疑ってねぇよ。俺は上位を目指してるわけでもなく稼げればいいし、やろうと思えば冒険者じゃなくても稼げるからそこまで気にしてないだけだ」
ゴーレムの作成能力で物の加工が容易であれば、様々な物品を作って売り捌くこともできるだろうからな。
俺にもっと知識があれば化学製品なども作れたのかもしれないが、そういった知識は生憎あまり残っていないので基本的に簡単な加工に留まるだろう。
まぁ、それでも全く稼げないことはないだろうし、無理なら魔物狩りで稼げばいいからな。
それを言うとスケルトンはこんなことを言ってきた。
「(貴方なら普通にA級ぐらいはいけるんじゃないかしら?)」
「どうでもいいな。強いのはゴーレムであって俺自身じゃないし、無理する必要もないから高ランクを目指すつもりはない」
「(そのゴーレムを作るのも使うのも貴方でしょ?だったらそれは貴方自身の力だと思うのだけど。そうでなかったら魔法使いは自分の力でその地位にいることにならないし、いい装備を手に入れたから活躍できたって人も実力じゃないってことになるわ)」
「あー……魔法使いはともかく、いい装備を手に入れただけの奴はそうなんじゃないか?」
「(いい装備だからって使いこなせるとは限らないし、ランクが高い人は努力したうえでその地位にいることが多かったわ。まぁ、使いこなせなくても強力な武器なんて物もあったけど)」
「なるほど……武器が良いだけで高いランクの奴もいた、と」
「(いなくはなかったわね。そういう奴ほどそのランクが自分の実力によるものだと思い込んで、調子に乗ってやたらと誘ってくるのよねぇ……)」
そう書きつつ首を横に振るスケルトン。
彼女もそういった手合に目をつけられてウンザリしてたんだろうな。
となれば他人に絡んでくる可能性も高いだろうし、受付に長居すれば危険だった可能性が高い。
受付の担当者に男が居たらそちらへ行けばいいのだろうが、そういった場所では揉め事を起き難くするために女が対応している場合が多いかもしれず。
やはりここで聞いておけたのは俺にとって好都合だったな、冒険者ギルドへ行くことになったら気をつけよう。
そうしてギルドについての話をしばらく聞き、良い時間になったので就寝する。
翌朝。
眠る必要がないらしいスケルトンに見張りを任せ、夜襲の合間を睡眠に当てていた俺は3度目の目覚めを迎えた。
昨夜はあの後2度目の夜襲があってからは平穏が保たれており、それ以上の目覚めた回数は用を足しに起きた分が足されているだけである。
そんな俺にスケルトンが声をかけてきた。
「(おはよう。薪が少なくなってるけど……)」
「あぁ、おはよう。薪は出すよ、ほら」
フッ……カランカランッ……
"格納庫"からゴーレム化していた木材を出し、そこから程よい大きさに分割していく。
ある程度の薪を積み上げ、その後に魚を出して調理すると朝食を取った。
そうして行動準備を整えた俺は、スケルトンから森で採れる食料を教えてもらいつつ境核を探してみることにする。
食料調達はスケルトンに一任したかったが、長期間別行動を取ることになったらどうするのかと言われて教えてもらうことにしたのだ。
ごもっともなご意見でしかなかった。
そんなわけで……境核があったと思われていた場所へ向かい、しばらくして少し開けた地点に到着する。
「反応がないからそうだとは思ったが……特に何も無いな」
ここまで襲ってきたゴブリンはコマンド級までで数も少なく、スケルトンに聞く限りでは境核のある場所として手薄すぎるとのことだった。
最初から境核の位置がここではなかったか、もしくは別の場所へ移送してあるのだろう。
「魔石の反応は……知ってるものしかないな」
スケルトンにコマンド級までのゴブリンしかいないことを伝えると、彼女は少し腕を組んで考えた。
「(格が上がれば武器や魔法を使う者もいるはずよ。それが一切いないとなると……境核を護る態勢を整えているのかもしれないわ)」
「えぇ?魔境ではそれが普通なのか?」
するとスケルトンは否定する。
「(いいえ。基本的には境核の存在を脅かす者が現れた場合に取る行動ね)」
「となると、誰か境核を狙って来てるってことか?それは困るな」
そう返すとこんな言葉が返ってきた。
「(どうかしら。少なくとも貴方は私が久しぶりに見た人間だから、いま防衛態勢を取っているとなれば原因は貴方じゃないの?)」
「えぇ……何なら境核をゴーレム化してさっさと逃げるつもりだったんだが」
「(それは難しそうね。昨夜の襲撃回数が少なかったのは防衛に戦力を集中させたからだったのかも)」
「あー、それはあるか。だとしたらその点は好都合かもしれないな。連中が多い方へ向かえばいいってことだろうし……」
「(貴方は魔物を倒した分だけ戦力を増やせるわけだしね)」
「そういうことだな。とりあえずは……人里とは反対の方に向かえるか?」
「(いいわ、こっちよ)」
境核を破壊や奪取されたくないのであれば人から遠ざけたくなるはずだ。
その指示で進行方向を決めるスケルトンについて行ったその先で……俺達は巨大な魔石を見つけることになった。
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