第8話 肉体交渉
「(何でよ!こう……流れ的に良いよって言うところじゃない!?)」
俺の野営地で滞在の許可を得ようとするスケルトン。
そんな彼女に俺はノーを突きつけ、それに対して彼女が筆談で抗議してきた。
俺は拒否する理由を説明する。
「いや、俺は好きでここに居るわけじゃないし、準備ができたら人里へ向かうぞ。寂しいからってそれを妨害でもされたら困るからな」
あくまでも、ここに滞在しているのはこの世界の人間と無難に接触するための準備をしているからだ。
元の世界では死亡している可能性があり、そうなるとこちらで生きていくことになる。
その生活基盤を問題なく構築するため、俺は自身の戦力である黒い玉を稼ぎ衣服なども整えようとしているところなのだ。
ん?
あっ、今着ている服のことを忘れてた。
これのこともコイツから人に伝わると面倒ではあったな。
まぁ、先程の話から人間との交流はないようだし、俺の情報が伝わることはないだろう。
なのでもうその心配はなさそうだが……気を付けないとな。
そんな反省をしている俺に、彼女は辺りを見回すとこう返してきた。
「(別に妨害なんてしないわよ。それに貴方、妨害を懸念するぐらいの期間はここに滞在するつもりなのよね?だったら食糧はどうするつもり?見た限りでは食事を取った形跡はないし、持ち歩いているようにも見えないけど)」
「それは……」
ゴブリン?を使って実験するつもりなのだが、それを言うと俺はここで取れる食材に関して何の知識もないということがバレてしまう。
なので言い淀んでいると……俺が危惧した通り、スケルトンは隙ありと言わんばかりに提案してきた。
「(私もこの姿になる前は普通に食事を取ってたし、魔物狩りで森へ入ったときは食材の現地調達もやってたのよ?ここに居てもいいのなら色々と教えてあげてもいいんだけど?)」
「お前が事実を教えるとは限らないだろ。毒のあるものを食わせて
「(そんなことしないわよ!私は常に正しくあろうとしていたし、自分の利益のために人を殺したりはしないわ)」
「そう言われてもな。初めて会う奴をまったく疑わないわけにはいかないだろ?」
「(それは……)」
今度はスケルトンが言い淀む。
俺の言葉自体は当然のことだと思ったのだろう。
しかし、彼女は何かを思い出したようでこんな質問してくる。
「(あっ!私のこと知らない?沢山人助けをしてたし、それなりに有名だったんだけど)」
「それはその姿になる前のことだろう?見たことがなければ知るはずもない」
そもそもこの世界に来たばかりの俺が知っているわけがないのだが、その点は伏せておくつもりなのでこう返した。
「(それはそうだけど……)」
再び言い淀むスケルトン。
そんな彼女に俺は自分が元々この世界の住人であったことを装うため、名前を聞けばわかるかもしれないと言ってみる。
「というかお前の名前は?有名だったんなら聞いたことがあるかもしれないが」
「……」
そう聞くと彼女は腕を組み、顎に手を当てると何かを考えるような仕草をする。
顎に手を当てている腕の骨が胸の辺りから結構離れているのは……ああ、生前はその位置まで
そんな推察をしていると彼女は組んでいた腕を解き、筆談で俺の問いに返答してきた。
「(貴方は人里に出るつもりなのよね?だったら教えられないわね)」
「そのことに何の関係が?」
「(実際に困っていたはずの村の人が従わされた以上、私がこんな姿になった原因はどこかの権力者である可能性が高いわ。そうなるとこうして私が存在し、人との会話も可能であることをその権力者が不都合に思うかもしれないのよ)」
「まぁ、罠に嵌められてこうなってるんだし、それを画策した奴にバレると不味いだろうな」
「(ええ。今の私は弱いし、逃げようにも権力者なら数を揃えて来るでしょうから)」
人気があったであろう彼女を始末したことになるわけで、それが俺から他の人に伝わり、最終的にその権力者が糾弾される可能性はなくもない。
その権力者の地位にもよるし、悪い噂が広まる程度で済むのかもしれないが……その人物が最悪の事態を憂慮すれば早急に始末しようとするだろう。
「その点で疑問なんだが、お前が骨になった時点で目的は果たしたって判断されたのか?他にも骨になって動き回るやつはいないのか?」
骨として動く存在が他にもいるのならこうして人と接触する可能性があり、それを予測できていれば粉々になるまですり潰しているはずではないだろうか?
それを疑問に思い聞いてみると、こんな答えが返ってくる。
「(あぁ……魔物のスケルトンならいるけど、あれは人がそうなっているわけじゃないから)」
「そうなのか。ならお前が骨になっただけで死んだと判断されたのもわかる話だな」
人間が魔物になるということはないようで、だからこそ実行犯はそれ以上動くことがないと判断したのだろう。
とにかく、自分の存在を黒幕に知られたくないと俺に名前を教えることを渋った彼女だったのだが、一応大丈夫な可能性もあると言い出した。
「(まぁ30年も前のことだから、貴方から私のことが伝わったとしても同じ名前の別人だって無視されるかもしれないけどね)」
「30年!?それじゃ名前を聞いても俺は知らないな、そもそも産まれてないし」
「(見た目からそうだろうとは思ってたわ。でも大人から聞いたことぐらいはあると思ったのよ)」
「なるほどな。でも俺は遠い土地から来たからどっちにしろ知らないぞ」
ガクッ
俺の言葉に力が抜け、肩を落とすスケルトン。
「……」
30年も1人か。
気の毒ではあるが、だからこそ俺を同じ目にと考えている可能性を拭いきれない。
「(仕方ないわね。じゃあ……私は行くわ)」
なのでここでの滞在を諦め、そう書いて立ち去ろうとするスケルトンを見送ろうとするも……俺はそれを引き止めた。
「待て」
「?」
振り返った彼女が首を傾げて疑問の意を表すが、俺はそんな彼女に提案する。
「お前……肉体を取り戻したいと思うか?」
「っ!?」
「(可能なの?それ)」
俺の提案を聞いたスケルトンはそう聞いてくる。
「上手くいくとは限らないし、今度こそ本当に死ぬかもしれない。まぁ、前提としてこれが上手くいくかだが……」
そう答えると俺は川の向こうに置いてきていた黒い玉の数々を回収し、それを包んでいた上着を開封する。
「(魔石?それで何を?)」
あぁ、これは魔石というのか。
となれば、その名前からするとこの中にあるのは魔力かな?
それはそれでいいとして。
俺は傍に控えているゴーレムを指して聞く。
「お前を捕らえていたこいつが何だかわかるか?」
「(あぁ、それは気になってたんだけど……それ、ゴーレムだったりするの?)」
「さあな。俺も作れるようになって初めて見たんでね」
「(へぇ、ということは魔法で?)」
「わからん。偶然できるようになっただけだからな」
魔石に続いて魔法の情報も出てきたが今は脇に置き、出した魔石の1つを核にとあるゴーレムを作成する。
「まぁ、それはいいとして。俺は指定した物を材料にゴーレムを作れるんだが、形を自由に変えられてな」
ヒュヒュヒュヒュヒュッ
「おー……これもアリだったか」
上手くいったことに少々驚くが、完成したゴーレムを見て上手くいったことに安堵した。
その表面は黒く、なんとか片手で持てるほどの球体で……そう、これは魔石を材料にして作ったゴーレムだ。
全てが1つにまとまると思ったのだが、核としての魔石だけは独立していて別物という扱いらしい。
その他の一体となった魔石は内包していた魔力もまとまっており、これで魔力の総量は大きくなっているはずだ。
大きさについても、昨夜に倒したゴブリン?の指揮官が持っていた少し大きめの魔石を使ってみたところ……ゴーレムの作成・変形・行動・回復の速度が上がっていたので、大きくなるほど出力が上げられるのだろう。
そんな魔石のゴーレムをスケルトンに差し出し、俺が考えていた"肉体を取り戻す方法"を説明する。
「俺がゴーレムとしたものは、攻撃を受けたりすると核になっている魔石の魔力を使って回復する。つまり、お前を俺のゴーレムにして回復させることができれば肉体も回復するのかもしれない」
「(それは貴方がゴーレムとして作ったものだけではないの?)」
「いや、見てみな」
スケルトンの疑問に俺はそう言うと、近くに転がっていた拳大の石を別の石をぶつけて割ってみせる。
ガッ
そしてその石に魔石を触れさせてゴーレム化し即座に回復を試みた。
すると割れた石は割れる前の状態に戻ったので、よく見えるように浮かせてみせる。
フワッ
「このように、元あった物もこうして現状のままゴーレムとして操れるし、壊れた物をゴーレムにして回復させれば直せるってことらしい」
「(そんなことが……でも、失われているものまで治せるのかしら?物なら材料があれば直せそうだけど)」
「ゴーレムが回復に使うのは魔力だけだ。その際に別れた部位や追加の材料を必要としているところは見ていない。見てみな」
そう言って俺は直した石の片割れだった部分を拾ってスケルトンに見せる。
「(ああ、それが残ってるってことは既に失われた部分も元に戻せるのね。でも……それが上手くいったとして、私はゴーレムのままじゃないの?)」
「そこは魔石を回収すればゴーレムではなくなるはずだ。魔石は体内に埋め込んでおくわけじゃないし、この石みたいに表面で触れさせておくだけであれば回収も容易だぞ。ほら」
そう言うと先程ゴーレム化した石の表面に接触している魔石を摘み、石のゴーレム化を解くとその石は地面に落ちる。
ガッ
その光景を見てスケルトンは首を横に振った。
「(魔石の回収をしても身体に穴が残ったりしないのはいいのだけど、その回収自体を貴方がやってくれるかという不安があるわ)」
「あぁ、その可能性はあるか。そこは信用してもらうしかないが……まぁ、初めて会った相手だし難しいか?」
初対面の相手を完全には信用できない。
そういった意味の発言は先ほど俺が彼女に言ったところである。
形を自由に変えられることも教えたし、何なら身動きを取れない形にして俺との関わりを持てないようにする可能性を考えてもおかしくはない。
そんな彼女が不安を抱く一番大きな理由を口にする。
「(そもそも、どうして私の身体を取り戻そうと?)」
まぁ、目的がわからなければ自分をどうするつもりなのかと不安になるのは当然か。
なので俺はその疑問に答える。
「別にお前を気の毒に思ったとか、そういうただの善意ってわけじゃない。肉体を取り戻せば
「(それは元からそのつもりだったけど……でも私が肉体を取り戻して、生きていることを吹聴されたくないからと貴方を始末する可能性もあるわよ?)」
「そこは交換条件といこうじゃないか」
「(交換条件?)」
「ああ。俺は必要以上に目立ちたくはないんでね。だからお前が俺のことを誰にも言わないのなら俺もお前のことを口外しない。どうだ?」
「……」
俺が出した条件にスケルトンは少し考えると、その答えを土に書く。
「(ダメね)」
彼女がここでの滞在を求めた際の、俺の答えをそのまま返される。
「え?何でだよ。いい条件だと思うが」
好条件のはずの提案を何故拒否するのかと思って聞いてみると……彼女は拒否する理由を書き出した。
「(こちらに都合が良すぎるわ。30年前の姿に戻るとすれば若い姿のままでいる私を私だと思う人はいないかもしれないし、30年経った姿だとしても容姿が相当変わっているでしょうからそうは気づかれないと思うの)」
「はあ。つまり……自分のことを言い触らされても信じられないだろうから、自分はその約束を反故にできるってことか?」
「(そうよ。それに、そもそも食べられる物を教えるのと失った肉体を取り戻すのでは大きく釣り合いが取れてないから、交換条件としては認められないわ)」
どちらも命に直結する内容だとは思うのだが、それでは自分の利益が大きすぎると考えたらしい。
有名になるぐらいは人助けをしていたようだし、常に正しくあろうしていたと言うほどの公平性を持っているのだろう。
それで肉体を取り戻せるかもしれないという話を断るのは、最早"拘り"と言ってもおかしくはなさそうだ。
まぁとにかく、何か別の条件を出せばいいということだろうか?
んー……あぁ、そうだ。
魔石を多く使うことになるので、その補充でしばらくはここに滞在するだろうし……
「だったら食糧の調達やその他の細々した世話でもしてもらおうか」
ピタッ
追加で出した条件に一瞬動きが止まるスケルトン。
彼女が食料の調達をし、俺が魔石を目当てに魔物を狩ろうと考えたのだが……何かおかしかったか?
そう思っていると彼女はすぐに動き出し、その答えを少し乱れた文字で返してきた。
「(わかったわ)」
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