第6話 "異物"と見られないように
「ん、ファァ………………ハァ」
初日の夜が明け、浅い眠りから目を覚ました俺は周囲の光景を見て溜め息をつく。
前方には川と森、後方には岩壁だ。
昨日のことが夢か何かで、起きたら病院のベッドとかであって欲しかった。
まぁ……それはそれで、面倒なことにはなってたんだろうけどな。
昨夜はあれから二度の夜襲があり、幸いどちらも10体以下のゴブリン?達だった。
最初の夜襲と同じように全滅させることができ、追加で17個の黒い玉を入手している。
消費した分もあるが、合計だと30個以上手に入れることができたわけだ。
ついでに俺は結構な量の鉄を入手していた。
どこからかと言えば……ゴブリン?達の死体からだ。
人間と同じように血が赤いのならその中には鉄分も含まれているのではないかと考え、それをゴーレムの材料として抽出できるのなら……と実行し成功したのである。
合計で200gにも満たないほどにしかならなかったので小さめのナイフにしておいた。
木製のグリップにはめ込んであり、別の長い棒と接合すれば一応は槍としても使えるだろう。
ゴブリン?の血から抽出するだけならともかく1つの鉄にまとめるのはコストが高かったので、少量にも係わらずいくつもの黒い玉を消費してしまった。
力を使い切った黒い玉は消えてしまうのだが、あれはどこへ行っているのだろうか?
それはさておき。
これで武装していることが一目でわかり、人里の治安が多少悪かったとしても絡まれ難くはなっただろう。
そして鉄の抽出ができたことから塩分の抽出もできるのではないかと思いつき、こちらはゴーレム材料として収集するだけでよかったのでそこまでのコストは掛からなかった。
後は食糧があれば良かったのだが、少なくとも動物の類は見ていない。
水を飲みに来る可能性もあっただろうに……まぁ、襲撃に来たゴブリン?達があれだけ騒いでいたら近寄らないか。
さて、こうしていくつもの黒い玉を確保すると、その全てが全く同じというわけでもないことがわかった。
大きさはともかく、それが内包する謎の力には量の多寡があるようだ。
2個や4個のときには気づかなかったが、それは同じぐらいに感じるほど差がなかったからだろう。
特に16体で来ていた中の指揮官らしき個体のものはそれ以外のものより少し大きく、明らかに力の量が多かった。
倒した後に死体を火の着いた薪で照らして見た限り、外見の違いはあまりなさそうだったが……まぁ、油断しないように気をつけよう。
で、これだけ黒い玉があるのなら人里を探してもいいかと考えた。
しかし、あんなにゴブリン?が襲ってくる世界となると、人類もそれに対応し得る力を持っている可能性がある。
万が一揉め事になる可能性を考慮すると、手持ちの戦力ではまだ心許ない。
簡素ながらも武器を手に入れたことで変に喧嘩を売られることはないだろうが、別の要素で絡まれる可能性は残っているからな。
その要素とは……服装だ。
俺が着ているのは元の世界の物であり、これがこの世界では存在し得ないものであれば奇異な目で見られるか最悪奪われかねない。
流石に替えのない状況で奪われて裸にされるのは嫌だし、それにゴーレムを使って抵抗したことが原因で治安維持を担う立場の存在に捕まるのはもっと嫌である。
逆に、替えさえあればこの服をくれてやって穏便に済ませてもいいぐらいではあるのだが。
人里ではある程度の人間関係が構築されているだろうし、自分達とは違う"異物"には冷たい反応を示す可能性がある。
奇異な目で見られるだけならともかくこの服を着ている俺自身に目を付けられる可能性もあり、製法などの技術を聞き出すために拷問でもされるのは全力で避けたいところだ。
そんなわけで衣類を作りたいのだが、普通に布を作るとなれば植物から繊維を取り出して糸にしなければならないはず。
俺なら繊維をゴーレムの材料として収集できるだろうし、布どころか服にまで出来るかもしれないので自作することを考えたのである。
問題はどの植物から繊維を集めるかという点だが、昨日のことを考えると樹木からというのはコストが高い。
となれば草だな。
しかし俺にその辺の知識などないので、数種類の草から種類ごとに分けて繊維のゴーレムにすればいいか。
黒い玉が足りるといいが……まぁ、どうせまたゴブリン?は襲ってくるだろうし、勝てれば補充もできるだろう。
衣類を作るのは無駄遣いというわけでもないので、ある程度は黒い玉を使い込んでもいいはずだ。
人間、衣食住は大事だしな。
そう思うと同時に腹が空腹を訴える。
ぐぅぅ……
衣食住のことを考えたらこれか。
まだ耐えられなくはないが……まぁ、繊維を集めながら食糧も探してみるとしよう。
ザッ、ザッ、ザッ……
ズン、ズン、ズン……
ズザザザザ……
しばらくして、食糧になりそうな動物は見当たらなかったが、3種類の草から結構な量の繊維を確保できていた。
結構な量と言うだけあって抱えて動き回れるほどでもなく、球体にして転がらせているが微妙に邪魔である。
繊維のゴーレムは全部で4つになっており、護衛用の土ゴーレムを合わせれば5体となっていた。
土のゴーレムは護衛というだけあって戦闘になれば動き回るので、それに連動して動いた繊維のゴーレムが敵からダメージを受けては黒い玉の力が回復に費やされてしまうので困るんだよな。
なのでそれとは別に、俺に追従するだけの指示を出すと……護衛のゴーレムとは連動せず、ひたすら俺について来るようになった。
どうやら、予め指示を設定しておけば可能な限りそれを実行し続けるようだ。
指示とは区別するために、こちらは"命令"ということにしておこう。
俺が指示を出せばそちらが優先されるので、命令と言うには優先度が低いのだが……まぁ、そちらは"優先命令"として俺が理解していればいい。
それで、だ。
食糧となり得る動物も探すため、なるべく視界を遮らないようにと繊維のゴーレムは圧縮しているが……いよいよ邪魔な大きさになってきた。
それによって転がらせる力がより必要となり、黒い玉の力はその消費量を増大させている。
草から繊維を回収するのは木を製材するよりコストは掛かっていないが、それでも節約できるのなら節約すべきだろう。
とはいえ、黒い玉の消耗を抑えられる手段となると……俺が自力で運ぶにしても量が量だし、今以上に邪魔になる。
箱や鞄を作っても持ち運べる程度の大きさじゃないし、一旦戻って"何処か"に仕舞っておくか。
フッ
そう考えた瞬間、繊維のゴーレム達は突然姿が見えなくなってしまった。
えっ?どこ行った?
大量に持っているというわけでもない黒い玉の力を消費して集めた繊維だ、それがなかったことになるのは精神的にきつい。
なので焦って辺りを見回す俺だったが、1体たりとも繊維のゴーレムは見当たらず。
すべて失ってしまったのかと気が抜けてどっと疲れが出てきたので、一旦落ち着いて冷静になろうと鉄のナイフを先端につけた槍を杖にして一息つく。
「フゥ……ん?」
落ち着いてみると妙な感覚がある。
集めた繊維が傍にあるという確信が。
「……?」
キョロキョロ
再び周囲を探すもやはり見当たらず。
このままでは埒が明かないので、とりあえずは繊維のゴーレム達からその内の1体へ俺の前に現われろと命令してみる。
すると……
フッ
「うわでた」
望んでいた通りのものが現れ、ならばと再び
そうして別のゴーレムでも何度か試してみた結果……これはアレだ、異空間に物を入れておけるやつだ。
あり得ないと思ってその可能性を自然に頭から除外していたが、ゴーレム自体があり得ないのだしすべての可能性はあると思っておいたほうがいいな。
どうやらゴーレムしか仕舞っておけないらしく、しかし逆に言うとゴーレムでさえあれば仕舞っておけるようだ。
更には仕舞っている間に黒い玉の力が消費されることもないようで。
ということは……事前にゴーレムを作っておき、不意打ちとして出すこともできるわけだな。
ふーん、便利じゃないか。
倉庫……いや、黒い玉の力は使うが中で形状を変えられるようだし"
確か、倉庫との違いは中で整備もやることだった気がするし。
しかし……最初に作ったゴーレムの時点で、移動時に消費する黒い玉の力を減らしたいとは思っていたはずだ。
そのときに仕舞っておけなかったのは、"仕舞っておきたい"という意識がなかったからか?
別の可能性として、この力が成長したのかもしれないな。
タイミングは不明だが、心当たりとしてはゴブリン?達を倒したことが挙げられる。
ゲームのようにレベルアップでもしたのか?
まだ確定したわけではないが……そうだった場合、今後は積極的にゴブリン?のような敵性存在を狙うべきだろう。
あれらを狩る職業の人がいればその人達もレベルが上がっていて高い可能性があり、そうなると自衛が可能な程度のレベルにはしておいたほうがいい。
言いがかりで階段から突き落とされた身としては、相手が人だろうといきなり襲われる可能性をどうしても考えてしまうからな。
そう思っていると……そのゴブリン?達の黒い玉を感知する。
数は多いというほどでもなく、感知している限りでは5体だけだ。
少し暗くなってきた気がするな。
もしかして、あいつらの主な活動時間は夜なのか?
夜襲のことを考えればあり得るな。
まぁ……聞いても答えてはくれなそうだし、経験を積んで把握するか人に聞いて確かめるしかないだろう。
そう考えると俺はポケットから黒い玉を取り出し、こちら向かってくるゴブリン?達への迎撃準備を始めた。
あれから何度かの戦闘を終え、俺は昨夜の野営地へ帰還しようとしている。
合計で何体倒した?
黒い玉がポケットに入り切らず上着を風呂敷代わりにしてるぐらいなので、少なくとも100は超えてるんじゃないだろうか?
呼吸をする相手に有効な昨日の手が通用して良かったな。
その結果黒い玉の収支は現時点で大きく黒字になっているが、しかし動物の類は殆ど見ていない。
もしかして、あのゴブリン?達が狩り尽くしていたりするのか?
それでいい獲物がいなくなったところに現れた俺を狙ってきているとか……あり得るな。
くっ、俺の獲物を掻っ攫うどころか俺まで獲物にするとは。
まぁ、今のところは問題なく返り討ちにできているので、どちらかと言うとあいつらのほうが獲物になっているのだが。
にしても……どうするかな、食糧。
川魚にチャレンジしてみるか?
あの川に魚がいるのは昨日の時点でわかっていたし、毒性に関してはゴブリン?に食べさせてみればいい。
人よりも毒への耐性は高いのかもしれないが、明確な毒性があるのならそこは避けて食べるかもしれないし。
などと考えているうちに川の近くまで戻ってきたところ、俺が焚き火をしていた場所に
人種は不明で、年齢や性別もわからないな。
いや、立ち姿からすると女に見えなくもない。
しかし、ああいった姿勢の男もいなくはないよなぁ。
さて、こんなに断定できないのには理由がある。
それは……
「ゴブリンの次はスケルトンか。あれは呼吸しないだろうし、とりあえずはゴーレムを近づけて様子見といこう」
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