第3話 ゴーレムの仕様確認と川発見
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
ザザザザザザザザ……
俺の足音と共に、四つん這いのゴーレムがその体勢に合った足音を鳴らす。
見た目は大人がハイハイでもしているようで微妙だが、それを気にしている場合ではない。
俺は人里を目指し、とりあえずは川などの水場を探しているところである。
ゴブリン?に襲われ、そのときに作成できたゴーレムによって倒すことはできたが……あれが最後だとは限らない。
そんなわけで俺は警戒しつつ急いで川や人里を探すも、見つけたのは二人組のゴブリン?だった。
ガサガサッ……ザザッ
「ギッ?」
「ギギッ!?」
「……」
2体のゴブリン?の前へ二足歩行に戻したゴーレムを進ませ、俺は離れた場所から黒い玉の反応で様子を確認する。
ゴブリン?達は茂みから現れたのがゴーレムだったことを以外に思ったのか、特に行動を起こさず様子を見ているようだった。
ゴーレムだというだけでは敵や獲物だという判断をしないのだろうか?
だとしたら好都合なのだが……
さて、一対一でもやり合いたくないゴブリン?が複数で居る所へ、わざわざゴーレムを差し向けたのには理由がある。
奴らが俺の方へ向かってきていたからだ。
先ほど倒した奴も結構遠くから俺に向かってきていたし、連中には俺を察知できる何かがあるのだと思われる。
そうでなければ遠回りして回避したかったのだが、向かってくるのであれば対応するしかないだろう。
遠くからこちらのことがわかるのであれば、逃げるのに合わせて追ってくるだろうしな。
そんなわけで接近させたゴーレムだが……ゴブリン?達はそのゴーレムを無視し、俺の方へ移動を始めた。
ふむ、連中はゴーレムの核になっているあの黒い玉へ向かってきているわけではないようだ。
先程のゴブリン?が俺に接近してきたのは、あの玉を拾ったことが原因なのではないかと思ったんだけどな。
そうなると連中は俺自身を感知して向かってきていることになるが……俺から変な匂いでも出てるのか?
スンスン……
特にそういった匂いは感じられないが、こういうのは本人が自覚できないとも聞くしなぁ……
まぁそれは後だ、今は向かってくるゴブリン?達に集中しよう。
とはいえ、やることは決まっている。
ガサガサ……
「ギギッ」
「ギッ」
「……」
まだ声は微かにしか聞こえない距離だが……俺を挟み打ちにするためか、連中は二手に分かれることにしたようだ。
ならばと俺は一方にゴーレムを向かわせ、もう一方に向けては先ほど追加で手に入れた黒い玉を飛ばす。
ヒュンッ、ズズズズズ……
「ギッ!?」
突如、眼の前で作成された2体目のゴーレムにゴブリン?は驚いて足を止めた。
それをチャンスだと思い攻撃指示を出す。
「……」
「……?」
「……?」
特に行動を起こさないゴーレムに俺は頭を傾け、ゴブリン?も不思議そうな雰囲気を出していた。
え、やっぱりゴーレムは2体同時に操れないのか?
仕方ないとはいえ、ぶっつけ本番はこういう事があるから厄介だ。
やはり事前に試せるのなら試しておくべきなのだろう。
よくよく探ってみると……2体目のゴーレムとは1体目とのような繋がりを感じない。
これがないと指示はできないのか?
そう考えた俺は1体目のゴーレムに集中し、そちらに近いゴブリン?を始末させようとする。
俺とゴブリン?達との距離はそれなりに縮まっているので、1体目に連携して2体目のほうも足止めぐらいしてくれれば……
ヴンッ
ばしゃんっ
そう思いつつ1体のゴブリン?を仕留めさせ、そのままもう一方へ向かわせようと目を向ける。
すると……
「ギギィッ!」
「……」
「あれ?」
何故か2体目のゴーレムはゴブリン?の前に立ちはだかり、その進行を妨害していた。
「ギィッ!」
ドンッ
ゴーレムは苛ついたらしいゴブリン?に殴られるも、動じることなく奴の進行妨害を続ける。
殴り返せと指示を出すが……動かない。
どういうことだ?
ガサガサ……ザザッ
指示に従ったり従わなかったり……よくわからないゴーレムの指揮権について考えている間に1体目のゴーレムが合流し、2対1になったところでゴブリン?が逃走を図る。
「ギギッ!」
バッ
あっ、不味い!
逃走を許して大勢の仲間を連れて来られたりすると困る。
なのでゴブリン?を逃がすなと1体目のゴーレムに指示を出すと……それに合わせて2体目のゴーレムも動いた。
ザッ、ズザァッ
ザザッ
「グギギ……」
2体目のゴーレムに回り込まれ、1体目のゴーレムに背後を取られたゴブリン?が悔しげな声を漏らす。
これは……まぁいい、ゆっくり調べるのは後だ。
そう考えた俺は1体目のゴーレムに指示を出し、2体目のゴブリン?を仕留めさせた。
新たに2つの黒い玉を手に入れ、1体のゴーレムと共に移動を再開する。
ゴーレムの数が減っているのは……1体目のゴーレムがゴブリン?を仕留めたと同時に崩れ去ったからだ。
なんとなく感じてはいたが、それまでの行動で減っていた黒い玉の力が尽きたらしい。
そこで2体のゴブリン?から黒い玉を回収しなければならなかったので、試しに2体目のゴーレムへ指示しようとすると……1体目のゴーレムと同じような繋がりが発生した。
おそらくだが直接指示を出せるのは1体までで、2体目以降は1体目に連動させる形であれば動かせるのだと思われる。
うーん……親会社と子会社のような、組織的な運用になるのか?
その場合は俺が最上位の存在になるのだろうが、性格的にはガラじゃないんだが。
まぁこんな状況だし、気にしてる場合じゃないか。
そうして新たに仕様を発見すると、俺は2体目のゴーレムでゴブリン?達から黒い玉を回収した。
さて、ゴーレムの仕様について気になるところはまだまだあるが、今の目的は川……引いては人里を探すことである。
なので再び四つん這いにさせたゴーレムと共に進んでいると、僅かながら水の流れる音が聞こえてきた。
サー……サー……
音だけでその規模は測れないが、近場の空気に水気を感じないところからそこそこの距離があるはずだ。
その上で音が聞こえているのであれば、それなりに大きな流れがあるのではないだろうか?
だとしたらその流域に人里がある可能性は高く、この土地についての情報が手に入るかもしれない。
そんな期待を胸に歩を進めるとその音は徐々に大きくなり、空気に水気が増していることも感じられるようになってきた。
そうして辿り着いた川は……小川というほど小さくはないが、大河というほど大きくもなかった。
ザーーーッ!
音はデカいが……そんな川は幅が10mほどで、水深は1mぐらいに見える。
石が転がっている河原は川を挟んで双方にあるが、こちら側のほうが少し狭いだろうか。
そしてあちら側は河原が広く、その向こうは岩壁になっていた。
見える範囲ではそれが川に沿うようにずっと続いているが、一体どういう地形なんだ?
まぁ、目的は人里を探すことだし……と河原に出てみると、薄暗い森の中にいたせいで気づかなかったが日が落ちかけているようだった。
まだ暗いというほどではないが、今から川を下って人里を見つけられるだろうか?
見つけられるとは断言できないな。
そして人里が見つからない可能性がある以上、野宿をしなくてはならない可能性もあるわけで。
野宿をするのであれば、なるべく準備を整えてからのほうがいいだろう。
仕方ない、今夜はここで……いや、こちら側ではゴブリン?に襲われたんだし、川の向こう側で夜を過ごすことにしよう。
そう決めた俺は川を渡るため、まずは害のある存在の有無を調べようとゴーレムを川へ入れて様子を見ようとした。
ザブッ
「っ!?ヤバッ!」
ザバァッ!
俺は一歩川に入ったゴーレムをすぐに引き上げさせる。
それは……ゴーレムが川に入った途端、核となっている黒い玉の力が急激に消費され始めたからだ。
え、何だ?
ゲームみたいに属性的な弱点でもあるのか?
そう考える俺だったが、引き上げさせたゴーレムの川に浸かっていたはずの足を見てあることに気づく。
濡れていない。
これは……修復に黒い玉の力を使った結果、その原因が排除されたということのようだ。
土で出来たゴーレムなのだし、水に溶けてしまうことがダメージになるのかもしれない。
となれば、水の中に居続けるとダメージを受け続け、その回復のために黒い玉の力を消費し続けてしまうのではないだろうか?
あり得るな、気を付けないと。
弱点がわかったのは悪いことではないが、こうなるとどうすべきかを考えなくてはならない。
ゴーレムを置いて行くか?
だが川の向こうでも襲われる可能性はあり、その際に直接指示を出せるこいつが遠くにいるのは都合が悪い。
向こう側で新たにゴーレムを作成し、今あるゴーレムと連携させる形で俺の護衛をさせることもできそうではあるが……その場合は2体とも黒い玉の力を消費することになる。
実質護衛として使えるのは1体だけになるし、待機時間の分だけ黒い玉の無駄遣いになるわけだ。
しかし向こう側には土が見えず、そうなると何処からゴーレム用の土を調達するのかという問題がある。
まぁ、露出している石の下に土がある可能性はありそうだが……試してみるにしてもここにいるゴーレムをどうにかしないと。
うーん……あ。
ゴーレム、元の材料に戻せないか?
作り直すとなれば作成時のコストが余計にかかるが、ここで指示の中継局として棒立ちさせておくよりは無駄にならないだろう。
主な目的は黒い石を回収して再利用することなので、俺はゴーレムから黒い石を排出させる形で素材へ戻そうとする。
するとゴーレムはその場にしゃがみ込み……
ポトッ
と、何故かお尻から黒い玉を排出した。
排出の仕方は特に指示をしなかったが……人型なので人間なら、という俺の常識を汲み取ったのかもしれない。
まぁ、次からは別の場所から排出させるとして。
黒い玉を失ったゴーレムは次第に崩れていき、最終的にはただの土の山になった。
任務ご苦労。
そうして、俺は次に川を渡る手段を考えることにした。
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