第2話 ゴーレムってやつか?

気が付いたら異世界と思われる森にいた俺。


ここが異世界であろうという予想を強調した存在であるゴブリンらしき存在に襲われ、予想よりは高かった奴の身体能力に苦戦していると……突如、拾っていた黒い玉を核にして土で出来た人型の何かが作り出された。


人型ではあるが、顔や髪などの細かい部分は表現されていない。


とりあえず土人形とでも表するのが適切だろうか?



「……」


「ギギ……」



俺と似た背格好の土人形は直立したままであり、動く気配はないのだが……ゴブリン?はを警戒する。


俺の「人手が欲しい」という要望に応じて顕現したようにも思えるが、これは一体何なのだろうか?


その土人形の中から俺が持っていた黒い玉を感じられ、それと自分が繋がっている感覚もある。


もしかして……と、俺がその土人形について考察しようとしたとき、ゴブリン?が動き出した。



「ギギッ!」


バッ



奴は土人形が動くことはないと判断してか、それを無視して回り込むように俺へ向かってくる。



「くっ!」



それに対し、俺が防御手段を欲すると……土人形は即座に動き、俺の前に立ちはだかった。



ズザッ


「っ!?」


「ギッ!?」



動き出した土人形を警戒してか、ゴブリン?は動きを止めると再び後ろに飛んで距離を取る。


少なくとも、今ので奴はこの土人形の存在を無視できなくなったか。


であれば、後は土人形が今後も俺の意思に従ってくれるかだが……



「……」



右手を上げろ。



スッ



おっ。


土人形は思った通りの位置に右手を上げ、警察官のように敬礼のポーズをとった。


何なら右手だけではなく、足まで含めて俺が思い描いていた通りの姿勢である。


先ほど俺とゴブリン?の間に割って入ったことから、俺の意思に応じて動くのではないかと考えていたがその通りのようだ。


それを確認できた俺は土人形に指示を出す。


あいつを思いっきりぶん殴れ。


ゴブリン?を標的にしてそう指示を出すと……その瞬間土人形は高速で動き、ほぼ同時にが弾ける音を発した。



ビュッ!バシャッ!



俺は水っぽいその音がした方に目を向ける。


すると……右手を前に突き出した土人形が立っており、頭部が消失したゴブリン?の身体が力なく崩れ落ちるところだった。




一先ず危険が去ったと安心し、俺は現状の確認をしておくことにする。


ゴブリン?はおそらく死亡した。


彼が普通に人権を持つ存在であったら申し訳ないが、襲われたこちらとしては知ったことではないと割り切ろう。


害虫以外の動物を殺したことはないので気分は良くない。


まぁ普通に肉を食べて生きてはいたので、それを考えると勝手な感覚ではあると思うがな。


で、予想以上の素早さと腕力を発揮した土人形のほうだが……四つん這いにさせている。


それには理由があった。


俺の指示通りに動くことは確認できたので安心していたところ、こいつの核となった黒い玉の反応が小さくなっている気がしていたからだ。


その反応が小さくなる感覚自体は土人形が作成されている時点からあり、おそらくは作成に動作、そして形状の維持に黒い玉の力を消費しているのだと思われる。


四つん這いにさせているのは形状の維持について調べてたからで、二足歩行よりは四足歩行のほうが黒い玉の力を温存できるように感じられた。


おそらく、形状の維持には体勢の維持なども含まれていてそれに黒い玉の力が使われており、より安定感のある体勢のほうが黒い玉の消耗を抑えられるのだろう。


あくまでも感覚の話ではあるので間違っている可能性もあるが……何の指標もなく運用はできないので、一旦はこの感覚が正しいものとしておく。


ここまでのことを踏まえて俺は推察する。


もしかして、こいつはゴーレムってやつか?


ゲームなどではいろんなタイプが存在していたが……まぁこれも似たようなものだろうし、役に立つのなら何でもいいな。


とりあえず今後も使っていくつもりなのでそのまま四つん這いにさせておき、俺は再びゴブリン?に目を向ける。


こいつが握ったままの太い枝を回収し、自分で使うためでもあるが……それより重要なのはこいつから感じる黒い玉の存在だ。


土人形……ゴレームの核になったであろうものと同じような物だと感じており、その通りであれば回収しておきたいからである。


消費された黒い玉の力が時間などで回復するのならばいいのだが、そうとは限らないのでその場合に備えてスペアをと考えたのだ。


ただ、そうなるとこのゴブリン?の身体を切り開かなければならないわけで。


奴の身体から流れ出ている液体は赤く、おそらくは血液だと思われるが……何らかの害があるかもしれず、なるべくなら触れたくはない。


洗い流す水もないしな。


そこで俺はゴーレムを見る。


こいつにやらせるか。


刃物などはないので力任せになってしまい、黒い玉の力を無駄に消費しそうではあるが仕方がない。


あぁ、適当な石でも割らせて刃物代わりに……って、それはそれで黒い玉の力を使ってしまうか。


俺が作ろうとすると石を割る回数も増えるだろうし、そうなるとそれだけ音が出ることになってゴブリン?やそれに近しい存在がまたやって来そうである。


ゴーレムがいるので1体だけなら構わないのだが、複数で来られると対応できないだろうからな。


……ん?


もしかすると、ゴーレムは複数を作成して操ることができるのか?


2体だけでも同時に操るのは難しそうだが……まぁ、今は眼の前のゴブリン?から黒い玉を回収するか。


そう考えて俺はゴーレムに指示を出し、奴が持っていた太い枝を持たせて黒い石の存在を感じる胸部に突き刺させる。



ドズッ!グチチチチ……



突き刺された枝がそのまま横に皮や肉を割いていき、胸部の中央よりやや左の位置から黒い石が姿を表した。


当然ながらゴブリン?には何の反応もないが、やはり気分は良くないのでゴーレムにさっさと回収させる。



グチュッ、スッ……ポタポタポタ……


「……」



ゴレームが赤い液体を滴らせながら、手に持った黒い玉をこちらへ差し出した。


俺が指示した通りではあるのだが、やはり害があることを危惧して接触を躊躇させる。


なのでその辺の葉っぱで黒い玉に付着した血液を慎重に拭き取り、最後にタオル生地のハンカチで拭き上げた。


これで奴の血はほとんど拭き取れたかな。


残っていてももう乾いたようだし、触れてもすぐにどうにかなるということはないだろう。


そう判断してその黒い玉に触れてみると……体の中を駆け巡るような感覚はないが、やはりゴーレムに使ったものと同じようなものだと感じられた。


ならばと複数のゴーレムを運用できるのか試してみたいところではあるも、ゴーレムは動いていなくても核となった黒い玉の力を消費し続けている。


割と細かい動作までさせられることから2体だけでも同時に操るのは難しそうだし、無理だった場合は交互に動かして移動させなくてはならなくなるのでその分だけ無駄に黒い玉の力を消費してしまう。


ゴブリン?が仲間を呼ぼうとしたことから同類のものが複数存在する可能性もあり、今後再び遭遇する可能性を考えると無駄に消費するわけにはいかないのだ。


というわけで……新たに入手した黒い玉はハンカチに包んで仕舞っておくことにし、とりあえずは川を探すことにする。


帰宅途中で少し喉が渇いていたのもあり、このままこの森を彷徨う可能性を考えると水を確保しておくべきだ。


その川の水が飲めるとは限らない。


だが、飲めなかったとしても大抵は川の近くに人里があるはずで、そこでここが何処なのかを確認することはできるだろう。


しかし……ゴブリン?やゴーレムを作って操れる力など、元いた場所にはなかったものがあった以上は別世界としか思えない。


そうなると元の世界で俺はどうなったのかという疑問が湧くのだが、あの状況からいって無事では済んでいないだろう。


戻ればまたあの男に狙われる可能性もあるし、こちらに留まったほうが……いや、たった今襲われて危険な目にあったんだから元の世界のほうがマシだよな。


やはり当面は元の世界に帰ることを目標に動くとしよう。


そう決めた俺は血の匂いで寄ってくるような存在を警戒し、すぐにその場を離れることにした。

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