第36話
仲人の仕事が入って、公園に行く。
すっかり公園は新しくなっていて、予定通りに木々を生やして置くスペースが増えてる。
ただ……。
「あー」
どうしよう。恐らくミルスの植えた木がある。
あの襲撃のせいか公園内のミルスも結構入れ替わっちゃってるし、ルールが伝わってない子がいるんだ。しばらく人が来なかった影響で、タダ飯食らいと呼ばれるらしいこの公園の常連ミルスも森へ帰って、そのまま帰って来てない子が多い。思ったよりも大事な役割を果たしてたんだ。
町からしたらこの公園は重要な場所だけど、ミルス側からすると遊び場の一つでしかないからルールとかあんまり気にしない子がいるのも不思議じゃない。
仕事自体はいつも通りに、ミルスが依頼者をあしらって終わった。正直こんなことしてる場合じゃないかもしれないんだけど、どうすれば良いのか考えてたら仕事の時間だったし、そのまま終わってた。上の空で対応しちゃったかも。
「すいませーん」
「はい?なんでしょう」
「ミルスが植えたっぽい木があるんですけど……」
管理局に行って、報告する。
「ええっと、新たに増えた木とは違うので?」
「あれは魔法で生やした木で、一応は普通の木ですね」
そうなんだよね。今までこんなことなかったから、多分みんな知らないし分からない。ミルスの植物って言っても、私の農園に植えてあるやつってくらいの認識しかないと思う。
「念のため確認するんですが、リコさん、ですよね?」
「はい」
「どうすれば良いか教えて頂いても良いでしょうか」
「絶対早く処理した方が良いんですけど、どう処理するのが正解なのかは植えたミルス以外は分からないかもしれません」
「失敗したらどうなります?」
「私の畑で暴走した時の……あ、でもあれは草だから、もっと酷いのかな?」
単純に大きさが大きければ、その分影響は大きくなりそうだ。
「暴走とは、廃草の件と同じということですか?」
「まあ、そうですね」
町の方まで生えまくった暴走の事件のことだ。当たり前のようにその草が地面という地面から生えて広がった。草の条件に合わなくなったら自然と収束したし、人的被害や建物への被害はなかったんだけど、インパクトは中々だった。
「放っておいても同じことになるということですか?」
「可能性は低いんですけど、かもしれません」
最近公園に来てなかったから、いつから植えてあるのかも分からない。少なくともその間は大丈夫だったんだから、すぐにどうこうなるってことはあんまりなさそう。
「正常な手続きな上で植えてあるという可能性はありませんか?」
「えーと、全面的に禁止してあったはずですよね?」
「分かりました。少々お待ちください」
そう言った職員さんは、何かの装置を操作した。
それでもって、聞きなれないもの凄い音が鳴り響いた。
「ッ!」
耳が痛い。
「あっ、大変失礼しました!そうか、耳が良いんですね。申し訳ありません!」
「あー、いえ、平気です」
私はジンジンするけど、音は外に向けたものだから普通の人なら建物内ならちょっとうるさいだけだ。自分が分からないなら気を使うのも難しいと思う。
「というか、これは何でしょう。非常警報とは少し違いますよね」
「ええ、これは注意報です。使うのはもっぱら警報の方ですから、この町では初めてかもしれません」
「注意報?」
「はい。リコさんの発言はこの町にとって重要なものですし、僕はこれを樹侵爆撃レベルの可能性ありと判断しました。緊急対処、避難の必要があると思います」
え。……いや、でもそうなのかな?……そうかも。
「何も聞いてない!何事だ!」「モンスターは確認出来てません!」「なになに!?」「公園以上なし!」「西部警戒塔異常なし!」「何ですか!?」
ワンテンポ置いて、職員が集まってきた。
「リコさん!?」
私の存在に気付いたスミレさんが声を上げた。
「リコさんからの警告か!」「何があった!」
他の職員さんも気付く。
「公園内にてミルスが植えた樹木を発見したとのことです。暴走の危険ありと教えていただきました」
「なぜ!……いや今はそれどころではない、対処法は!」
「植樹したミルスと同一個体の発見及び説得です。その個体を探す方法は我々にはないかと」
みんなが一斉に私を見る。心臓がキュッとなった。
「ひっ、え、えっと、ミルスに聞いてみますね」
「何事だ!」
ミサキさんとアイリスちゃんが飛び込んで来た。
「今はお静かに」
局の中で偉そうな人がミサキさんに待ったをかけ、話を続ける。
「リコさん、我々に出来ることは?」
「え、その、分かりません」
「分かりました。ではすぐにミルスと話をして頂いても?」
「は、はい」
「ではお願いします」
「護衛行きます!」
「よし、任せた」
すっごく物々しい。必要なことなのかもしれないけど、怖い。
「リコさん、行きましょう」
護衛に立候補した人はすごく優しい声で、外へ促した。
外に出たところで、ユフィが跳んできた。すっごくホッとする。必要なことなのかもしれないけど、まさかいきなりこんなことになるなんて。
「護衛の任を預かりました。必要ならお供を続けます!」
「ミャ」
「えと、大丈夫です」
「了解です!」
まだこの人は何もしてないけど、すぐに建物内へ戻った。よく分からないけどすっごくテキパキしてる。
「ミャ?」
「えっと、公園内にミルスの木があって、危ないかもって言ったらこうなった」
「ミャー……」
「それで、植えたミルスがいるか調べたり聞いたりしたいんだけど、どうすれば良いかな?」
一瞬だけ思案顔をした後、ユフィは私を掴んで家の方へ走った。
すぐに家に着いて、ユフィが大きな声でモモを呼ぶ。
「ピィ?」
「ミャミミミャミャ、ミミャミャーミャ」
かつてないほど喋ってる!と関係ないことを思った。手順が多いし普段は使わない言葉が多いから、しょうがないけどね。
「ピピピィー、ピ」
「ミャ」
今度は私とモモを魔法の手で掴んで乗せて、また町へ。行ったり来たりで大変だ。
公園に着いたら、モモが息を吸って――
おっと。耳を塞ごう。
ピィー!
思ったより小さかった。でもこの声はすごく透って、遠くまで聞こえると思う。
呼びかけに答える声があったみたいだけど、少し時間がかかる。ちょっと待たないとだ。
なんか後ろに気配を感じたので見てみると、公園の外でこちらを警戒して見ている人たちがいる。
やっぱりこれって、仲人やってる場合じゃなかったね。私自身の失敗も含まれている感じがしちゃってドキドキする。私の家しかない農園と、町の中、横?じゃ大違いだ。
少し経って、クリーム色した可愛い狼っぽいミルスが走ってやって来てそのままひれ伏した。
「アルゥルァル!」
「ミャミャ」
案の定、ルールを知らなくて気楽に植えて行ったみたい。必死に謝ってる。ただ、樹木の方はそこまで危険なものじゃないらしく町へ被害が及ぶことはなさそうだ。良かった。
「とりあえず、この状態解除して良いんだよね?」
と確認して、良さそうだったので警戒してる人たちの方へ行く。
ピョンとモモが背中のリュックの上に乗って来たけど、気にせず向かう。
「あの」
「ひぇっ」
「え?」
「失礼、こいつはちょっと緊張でおかしくなってまして。どうされました?」
「町の方へ被害が及ぶことはないって確認できたみたいですから、安心して良いですよーと」
「おお、ありがとうございます。一安心ですね。では最低限を残して撤収させます。経過を見るために人をそちらへやっても構わないでしょうか?」
「ピ」
「そう?えっと、ダメなんだそうです。何かあったらまた私が言いに来ますよ」
何か独自のルールに引っかかる感じだったのかな。誇りとかの関係で、怒ってるところや怒られてるところを見られたくないのかも。
「かしこまりました。私は引き続きこちらにいますので、何かあればよろしくお願いします」
「分かりました」
公園に戻るとさっきのミルスがいなくなっていた。どうやら使い走りにされたようで、処理用にノクルを呼んでくるみたい。
「ピィ」
「はーい、ありがとうね!」
モモの役割は済んだので、もう帰るそうだ。
緊張感も薄れて、のんびりユフィと公園で待つ。いつもの公園の様子とは違って、ほとんどのミルスが引っ込んじゃったから不思議な感じ。
「ノン」
「あら、こんにちは」
「ミャ」
スミレさんと仲の良い薄紫色の子だ。まだこの公園の近くにいてくれているみたい。
「ノノンノ」
「ミミャ」
二人が話を始める。内容は要するに、改めて公園のルールを周知して欲しいというもの。この子なりには他のミルスに教えていたみたいだけど、追い付かなかったんだって。
この子は公園の常連さんかもしれないけど、だからと言って立場が他のミルスより上なわけじゃない。話を軽く聞いちゃうこともある。
それに、この子が周りに教える仕事に就いているわけでもなんでもない。こうやって公園のことを心配してくれているだけでありがたいことだ。
最初に言っていたルールを覚えている子が減って、一度空気感が変わっちゃうともう難しかったみたい。ミルスの社会も大変だー。まあ、人間に合わせたルールがある公園だからこそなのかもしれない。
「アルゥル!」
「ナーン」
クリーム色のミルスがノクルを連れてきた。ついでにラナもいる。
「ノンノ?」
「ナナー」
元常連さんのノクルはやっぱりこの子と知り合いだったみたいで、声を掛けられてる。
「ミャ」
でもとりえあず、さっさとこの木を撤去しようとユフィが急かす。
あれなんだよね。根本的に、人間のための行動をしようと思ってるのってユフィだけ。他のミルスは全然気にしないからこういうことが起こるし、何か協力することがあっても「ユフィに言われたから」ってことでしかない。
気にしてくれてる薄紫色の子も暇だから協力してくれているだけで、他に関心事があったらそっちを優先しちゃうんじゃないかな。
ユフィに言われてノクルが木の方へ。ラナも一緒に行き、アドバイスをしてる。木についてはラナの方が分かるのかもしれない。生まれつきの性質の違いなのかもしれないけど、ラナが教えているって光景はすごく珍しい。立派になったなぁ。
ノクルが溶かし始めても、特に木が動き始めることもなく。ジュワジュワと溶かされていって、最後には黒い液を残して消えちゃった。
「終わり?」
「アールァ」
「はーい。じゃあ私は伝えて来るねー」
諸々が終わったことをさっきの人に伝えて戻ってくると、ノクルとラナ、薄紫色の子を残してユフィたちはいなくなっていた。
「ナゥ」
同じようなことが起こらないよう早速周知しに行ったらしい。
ノクルたちは話を続けていて、とても仲が良さそうだ。「食事が減ったなんて、ただの技術不足よ」なんて講釈をしている。ノクルはタダ飯食らいとしてのレベルがとても高いらしく、代表選手のような扱いだ。なんだかなぁ。
そうした話をしている最中も、ラナにせがまれると丸っこいフォルムになるし、そのまま転がされている。
流石に叱った方が良いんじゃないかと思うけど、ノクルは気にせず話し続けている。若干薄紫色の子が引いている気がしなくもない。これもノクルが提唱するサービス精神というものなのかな……。
この話をもう少し聞いていても良いのだけど、気になることがあったので私もお暇することにした。
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