第14話

「ユーフィーイ?」

「ミャ?」


 ラナが他のところで遊んでいて、ユフィが暇そうな時に話しかける。

 まずはラナが田んぼの植物を持ってくることがありそうなのか、魔法の傾向がどうなのかというところからだ。


「ミーミャ」

「あ、そうなんだ!」


 ユフィが「多分持ってくるとしたら樹だよ」と言ったので、素で驚いた。そっか。持って来れないパターンがまだあったか。


 あれ、どうしよ。流石にラナは特別に専用のスペース用意してあげた方が良いかな。ユフィだって専用の米畑があるわけだし。いや、でもユフィはもともと少し特別だしな。常連さんからすると、後から来た新参が専用スペースを貰うのは気に障るかもしれない。

 

 そこら辺を聞いてみると、「聞いてみたら?」とだけ。私から常連さんに聞いてみないとだな。

 もしラナ用に樹を植えるスペースをとると考えると、家の拡張も含めて考えなきゃかもだ。畑と違って収穫を終えたタイミングでひと段落するわけじゃないもんね。いや、でも樹を一本植えるだけならまとまったスペースなくてもいけるか?ユフィの畑の横に少しだけ空いてるとこあるし、そことか。


 一通り考えてから、脱線していたことに気付く。こっちも大事なことだけどね。


 しかしながら、防水魔法についてはユフィも分からないそうだ。でも「全く気にしてなさそうだからなぁ」と期待値は低め。残念ながら私も同じ意見だ……ぐぬぬ。


 続けて人間関係、もといミルス関係を聞いてみる。水辺派と陸地派は疎遠なのかどうかや、直接触れると問題がある子たちとの関係だ。黒と赤の子以外にも、触れると痺れる子や熱い子がいたりする。


 答えはなんとも曖昧で、「仲の良いやつらもいる」「お互いの気持ちや努力次第じゃない?」という感じ。とてもユフィっぽい回答なんだけど、今はもっとしっかりした答えが欲しい。


「そうかもだけど……!」


 と、もどかしい気持ちをぶつけながらユフィをモフる。この!この!気持ちよさそうにしおって!可愛いやつめ!


 精一杯モフり終わったところで、黒と赤の子の心証を聞いてみる。「あーそういう話」などと、もろもろ察せられてしまったけどユフィに隠し事をし続けるつもりもないので構わない。予想通り「まあ、別に」という返事を貰う。ユフィと比較的仲の良いミルスって、トロピみたいな大型種が多い印象。あと人と一緒に住んでるミルスには気を掛けてる。それ以外は無関心なのかなって。


 一日の作業をこなしていく際に、黒と赤の子が視界に入ると気になってしまう。いつも通りな気もするし、寂しそうにも見える。


 ふと、そういえば名前付けてないなぁと思った。


 ここまでガッツリ関わっているのに名付けてないのは私としては珍しいかもしれない。いや、頭の中で勝手に呼んでるだけだし、付けるべきでもないんだけどね。

 とはいえ一度考え始めちゃうと止まらない。黒と赤って色は格好良い色の組み合わせとして珍しくはないと思うんだけど、思い浮かぶ名称みたいなのはないよなぁ。そのまんま、色の名前から捻りだすしかないかな。


 あれこれ考えて、ノクルということにした。我ながら考えすぎてよく分からない方向になって語感で決めたところがあるので、覚えていられる自信がない。

 ノクル、ノクル。ノークール?おっと、気付かないうちに他の意味が混じっている。本人に言ったら怒られそうだ。でもおかげで覚えていられそう。


 それはそれとして、ラナ用にスペースを確保することの是非を常連さんに聞いておく。一番心配なのはトロピだ。体の大きさに相応しく一番心が広そうなミルスだけど、ユフィ曰くこの子は樹も植えるタイプのミルスだ。ラナが植えるとなったら自分も植えたいかもしれない。


「モフォ。モフォフォ」


 二つ返事で許可を貰った。植えたくなったら森の方に自分で十分に植えているらしく、問題ないみたい。森に自分で植えてないラナの方が特殊なわけだもんね。

 モモやマルナスも問題なさそうだし、気にし過ぎだったかな。まあ確認して悪いという事もないだろうし、あとは場所の確認をするだけ。ただし、今すぐラナに許可するかというと微妙なところだ。


 何せ、ノクルとの関わりがより薄くなってしまうかもしれない。ノクルは田んぼタイプなわけだし、ラナが樹を植えても手伝えそうにない。それはちょっと気の毒。


 うーむ、難しい。趣味が違う二人の仲を取り持つことの難しさよ。



「という感じなんですけど、なんか良い方法ありません?アイリスちゃんも」


 何か良い方法はないものかと、ミサキさん宅へ訪ねに来た。ミサキさんは私なんかよりよっぽど頭が良いし、アイリスちゃんもユフィよりこの手の話に詳しいかもしれない。


「恋のキューピッドだね!良いねー!」

「そうかもなんだけど、わりとしょんぼりな状態だからなんとかしてあげたくって」


 私も少し前までは微笑ましく見てただけだったけど、茶化すような感じじゃなくなってしまった。もうちょっとお気楽な感じだと助かったんだけどなぁ。


「ミルスの恋路としてはどうなんだ?」

「んー、人と変わらないんじゃないかな。こういう風に誰かが協力してあげるってことは少ないけど、それ以外はミルスによってそれぞれって感じ。住処や習性が噛み合わなくても、好きになったら頑張ったりはするね。もちろん合っていた方が好きになること多いと思うけど。あと、一度くっついたら離れることはまずないかな」

「へぇー。……ユフィと違って分かりやすい」

「あはははは!ユフィは大概だからね!どれだけのミルスが泣かされてきたのやら!」

「ユフィってモテてたの?」

「そうだよー。強くて頼もしかったし、仲間想いだからね。でも告白されても『へぇー、ありがとね』みたいな!」

「わーお」


 そんなこと言われてお終いだったら泣いちゃう。恐ろしい……。

 でもそっかー。ユフィはモテモテだったんだなぁ。私から見ても頼もしいもんね。ドンと構えてるというか、安心感がある。

 ……今みたいなときは役に立たないけど。


「だからリコっちの仲間になったときは、ひと騒動あったんだよー。特定の相手を作らないと思ってたところへ、いきなりリコっちが来たわけだからね」


 私が最終的な勝者だったとは。……あの時は人とミルスの関係が問われている時で、そんなことまでとても気付かなかったな。


「でもユフィだったからこそ、リコっちへの文句も跳ね除けられたんだと思う」

「ふふふ、ユフィはリコの王子様だったんだな」

「ちょっとやめてよ!」


 なんだか恥ずかしい。顔が熱い。


「わ、私のことはよくってね!?」


 今はノクルの恋路の話でしょうが!


「しかしまあ、聞いた感じではラナ?の方があまりに脈なしというか、無反応に思えるな。その黒と赤の子を応援してやりたい気持ちがあったとしても、もう一方の気持ちを無下にするわけにも行くまい」


 そういえばラナは未だにここに来たことがない。というか町にほぼ降りて来てない。


「それはまあ、そうなんですけど。ラナもよく分からんのですよ」


 ユフィは色恋沙汰や人間関係に疎いところがあるかもしれないけど、ラナは何から何まで疎いというか。


「過程はどうあれ、人間に寄り添う時点で変わり者なのだろうしな」

「ん?」


 ミサキさんの発言に、アイリスちゃんが何か物申したそうだ。


「アイリスちゃん的には違うの?」

「んー……リコっちが人間側かっていうとね?」

「そっち?」


 変わり者って部分じゃなくて、私の方?私はミルス側の人ってよく言われるけど、そんなにか。


「つまりリコの仲間になることは、ミルスとしてはおかしなことじゃないと」


 あ、そういうことになるのか。え、そうなの?


「そう思う。もともとユフィ傘下のミルスがいたわけだから、似たような状況かなって。リコ&ユフィ傘下、みたいな」

「そんなことなってたんだ!」


 知らない内にボスの片棒を担がされてる!


「私としても仲人であるリコは特別だと思っていたが、それほどだったか」

「他の仲人にも会ったことあるけど、それとは別だなって。リコっちは仲人というよりもミルスだよ」


 なんだって。そっと自分の頭に触る。ケモミミは生えてないよね。尻尾もない。


「ふふ、はっはっは。なるほど、気付いたら耳が生えてそうなほどにはミルスなのだな」

「ちょっと!」


 別にミルスになったところで困りはしないけど、普通に人として生活してるよ!


「すまんすまん。ともかく、ラナとやらがリコの元にいることは何の不思議もなく感性も一般的な範疇であると」

「そうそう。町を避けてるのも人に寄り添おうとしてない証拠だと思うし」

「となると、今度はリコの立場が怪しいのではないか?リコへ恋心を寄せている可能性もあるわけだ」

「えー、それはない……と思うけど」


 甘えん坊ではあるけど、私に限った話じゃないし。


「何にせよ、私たちはラナというミルスについて知らなさすぎるな。リコもあまり話し合ってはいないようだし、直接本人に聞いてみるのも良いんじゃないか」

「頑張れリコっち!」


 むむ、助けを求めたつもりだったけど、結局私が頑張らなきゃか。難しい……。

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