第30話 □ 和解と決別

□ 和解と決別




「祇那、ありがとう」


「別に、君に死なれたら、迷惑だからよ」


 先程の動揺とは裏腹にツンツンした態度を取る霧咲。


「それでも、ありがとう」


「あと……玄芳くんだっけ? 神夜くんを最終的に助けたのは、玄芳くんだから、感謝は玄芳くんにいうのね」


「暁斗……お前……」


「勘違いをするなよ……。俺も本気でお前を排除したいわけじゃないんだ……。ただな、元の世界で持っていてくれれば、また一緒に平和な日常に戻れるんだ」


「そうだな、ありがとな! 一緒に元の世界に帰ろう!」


「・・・」


「どうした?」


「それは無理だ……蒼麻」


「何でだよ!……もうこの世界にいる必要がなくなったんだろ! お前も元の生活に戻りたいはずだ!」


「蒼麻……無理なんだよ……俺は……元の世界にもう戻れない」


悔しそうに、苦しそうに拳を作り、顔を歪ませ下を向く暁斗。


「⁉」


「俺は……俺な……データワールドから出られないんだよ……。元々はこの世界で生まれた薬学の実験体だ……」


神夜は思い出す。暁斗が現実世界に戻れない理由を。


「・・・俺は……このデータ―ワールドを基準に、世界をデータ化する・・・蒼麻・・・賛同してくれるか?」


「それは・・・」


 神夜は顔を歪ませ下を向く。


「賛同しないなら、また敵対することになる……。今度は本気の敵意を向けることになる……俺が平和に行きていくにはこの計画を実現しないと行けないんだ」


「違う方法はないのか? データワールドとリアルワールドが共存できる世界は本当にないのか⁉」


「できたとしても、確実に差別が生まれ、リアルワールドの支配下に置かれる未来しか、データワールドにはない……。それがどれだけ生きづらく、酷な道になるかを考えたことがあるか?」


「・・・」


「俺は……お前と共に帰れない」


「暁斗……」


「そして、あの狼が計画で必要なんだ……。悪いが持っていく……」


「待て! あいつは俺の仲間だ!」


「すまない……。このエネルギー量がないと、俺の計画は実現できない……。いや……もう組織の計画か……」


そういうと、黒服2人がどこからともなく現れた。


「⁉」


「後は任せた……№Ⅰ、№Ⅱ」


「OK~」


「了解よ」


すると黒衣を着たフードの女は、フードの男の肩に手を触れ瞬間移動した。


暴走している大牙の近くに瞬間移動したのだ。


「なんだ‼ 瞬間移動か⁉」


「違うよ、あれは時間を止めただけだ」


暁斗はそういうと、真剣な顔になり、神夜に問いかける。


「本当に来ないんだなぁ」


「ああ、今いる仲間も、大切にできない恩知らずには、なりたくない」


「・・・そっか・・・」


黒衣のフードを被ると、神夜と真逆の方向へ歩む。


 暁斗はガンソードを解除し、解除した青白い粒子を再度構築し、ブラックカーペットを生成した。


 生成したカーペットは、暁斗が足を一歩出すのと同じスペードで上に行く階段が一弾ずつ生成される。


「これでお前とはまた敵対した者同士だ」


そういうと、悲しげな背中を見せた。


その歩先は、時限転送ゲート。


どこからともなく、フードを深くかぶった女が、無数の色に変化する異次元空間を出現させ、その中に暁斗は消えていった。


女のほうが、次元空間を操る能力者であろう。


その証拠に、何か動作をして、何かの力で維持しているように見えた。


もう一人の男は、先ほどの瞬間移動に見えた時間停止能力だろう。


神夜がであった「№Ⅲ」と「№Ⅳ」とちがい、こちらからは、見えない時間停止能力。


恐らく、周囲の時間を停止する能力だろう。


★†「№Ⅰ」「№Ⅱ」【青衣白夜】と【赤坂水紅】


 すると、フードをかぶっている男が大牙を見て驚いていた。


「お前あのときの白い狼!」


そのフードの男は、恐怖を抱いているのか基地元が震えているが、すぐに冷静さを保ち少しだけ体制が後ろに寄っていいたが、体の軸を中心に戻す。


おそらく、大牙の容姿に恐怖感があるのだろう。


見た目はただの狼だが、白くてでかい。つまり、それで驚くのは無理もないが少し大げさな気もする。


 だが、少しだけのけぞる体制からすぐに体制を戻し、意識を目線の先に集中させた。


「やはり俺たちをまた殺しに来たか……人食い」


 フードの男は一度自分が食われた家のように凄まじい恐怖と、恨みに秘めた様な視線で大牙を見る。


 大きな狼の姿に恐れたのではない。


大牙が過去になにか男に対して恐怖を抱かせる事があったような口ぶりだった。


「お前たちなど知らんぞ」


 大牙は迷いもなくそう言い放つ。


「ウソつけ! 俺の体を食いやがったじゃないか!」


 少し声が高ぶる。


 男の発言からはとんでもない人食い狼の証言。


 それでも、フードの男は大牙に敵意を向けているのか食い下がらない。


「わしわ人を食わん…。 食わなくても生きれる魂なのだから」


「ウソつけ! 赤坂も食ったじゃないか!」


「まぁいいお前をどうするから決まっている」


「⁉??」


 いつの間にか、大牙はカプセルの中に閉じ込められていた。


 何が起こったのか、誰にも分からない間に閉じ込められた。


近くにいる男の仲間たちは顔色人使えず、当然のように表情を変えていない。


 おそらく、このフードの男の力なのだろう。


暁斗はその青衣を見て、幼い頃の出来事を思い出す。




―――たしか、あのときから、俺達の歯車が違ってしまったのだろう―――。


 暁斗はそんなことを心に思い、自分の記憶を引き出した。


「・・・」


「・・・・・・」


場所は倉庫の廃墟……。


幼い頃の暁斗は隠れている。


薄暗い足場に何が落ちてているかもわからない場所で。


その中でも、はっきりとシルエットだけは感じ取れる。


「・・・・・・」


 幼き暁斗の瞳に映し出されたのは、暗がりでも確認できる大きな男。


黒い大男。


いや、大男というにはあまりにも規格外の巨大な体だ。


「ガリッ! プッ! 何だ!子供なのに頭蓋骨は柔らかくないのかよ、食えねーなぁ、まあいい、小学生にならないぐらいがちょうどいいんだけどなぁ。 骨は食えないが肉は美味だなぁ~」


 暁斗の前には、子供の頭部。髪の毛は長く、赤い髪と周辺の赤い何かで赤く染まっていたが、暗くてよく見えない。


 いや、よく見えないのではなく、よく見たくないといったほうが正しいだろう。


暁斗は恐怖で、足が震えて力が入らなくなってしまった。


「ガクガクガクガクッ コトンッ!」


そのまま、力をなくした膝から地面に崩れ落ちた。 


暗がりでも、廃墟の中に潜むガラスが、ネズミのしっぽに引っかかり、動く。


隠れていた少年の目から写ったガラスの向こうには不気味な大男。


ガラスにはちょうど、その大男らしき規格外の人物が写っていた。


だが、その姿を見るやいなや、更に暁斗の脳裏には異様な言葉が浮かび上がる。


―――黒鬼。


そう、男、いや、そのものの頭には2本の黒い角がついていたのだ。そう、まさしく、黒い顔をしており、その姿は鬼。


「んっ! 誰だ!?」


丸い球体のようなものをちょうどガラス付近に黒鬼は投げつけた。


「チュッ!」


 それを、ギリギリで交わしたネズミが飛び上がり、瓦礫の中から姿を現した。


「……」


 暁斗は息を殺して、恐怖で過刻みに震える足を抑えながら、必死息を潜めていた。


「なんだ・・・・・・残念・・・・ネズミか・・・子供だったら良かったのによ~まだ腹減ってるからもう少し探しに行くか」


「ドスンッドスンッドスン……」


 黒鬼がその場をあとにして数分ぐらいか、恐怖で動けないでいたが、時間が立つに連れ、動けるようになった暁斗。


子鹿のような足で、その場で立ち上がり、黒鬼が投げていた丸いボールのようなものを手にとった。


「なんだコレ……ん?」


 よく見ると青い髪のけ、青衣の頭部である。


「わぁぁぁ!!!」


「ガシャン!!」


 そのままが、ガラスの破片が積まれている、ゴミ溜めに、転げ倒れた暁斗はガラスの破片やゴミの尖った物体にむすに刺されて地が体中からダラダラと流れ出る。


 だが、あまりの恐怖と衝撃的な状況下に、痛みは感じず、ただただ、現実を受け入れられないまま、その足で、現場をあとにし、研究所に一人であるき始めた。


 やがて、暁斗の姿を見た研究員たちはその異様な姿と手に持っていた。ゴミ袋に入った丸い物体を取り出した。


そこからは、想像通り、現場はパニックになったが、日頃そういった実験をしているのか数分で冷静さを保ち、暁斗に現場を聞き、そのまま、病院に搬送されたが、搬送というよりはバラバラ遺体を運んだようなものだ。


しかし、二人の脳は無事だったため精神をデータ化する実験体として親が泣きながら書類にサインしているのを横目で見る暁斗。


 だが、ユイツ脳だけは無事だったため、その後、2人の脳だけを特殊な液体で管理し、それをデータ世界に送信することで、データ世界で再び命を吹き替えした男の子と女の子。


 そう、この二人こそ、今現在この世界にいる青衣と赤坂だ。




―――それでデータ化して蘇ったのがナンバー。


暁斗は過去の出来事を思い出しながらそんなことも考えていた。




―――でも、あの黒い鬼は?


―――青衣と赤坂が入り込んだ小屋は何だったのか。


―――なぜ白い狼が黒鬼に変化したのか。


―――なぜ、二人は黒鬼ではなく、狼が自分の敵だと思っているのか。




暁斗はそんなことを思いながら、冷静にその場で思考したが答えはわからなかった。


 


★†「№Ⅰ」「№Ⅱ」【青衣白夜】と【赤坂水紅】


一方その頃、フードの男は大牙をカプセルに入れた状態で怒りをぶつけていた。


「俺たちの肉体を食いやがって!」


「なんのことだ!」


その球体は薬品のカプセル形状に変化して、透明カプセル化した。


カプセルが封印のような役割を果たしているようだ。


透明なカプセルは、青色と白色に変化。


その後、どんどん小さく圧縮していく。


大牙を閉じ込めた、カプセルは、ズボンのポケットに入るくらいの小ささになり、フードの男に回収された。


「大牙! 俺の影に戻ってこい! 大牙!」


「ふっ……残念だが、このカプセルに閉じ込められたら、どんな力があっても干渉できないよう担っている」


 その男の服が風にあおられフードが取れる。


「お……お前は⁉」


フードの顔は、なんと、データ人間化してた時に、知り合いのようにふるまっていた。


青衣白夜(あおいびゃくや)。


次元を広げていた女が自らフードを外す。


青衣白夜が№Ⅰの黒衣者で、まさかの、№Ⅱが、赤坂水紅(あかさかみく)だったのだ。


だが俺は、こいつらのことを知っているが、この記憶は、本物だろうか……。


なぜ知り合いだったかも思い出せないが、今、神夜が確かに知っている顔だった。


★†


だが、あちらの2人は神夜の事を知らないような顔ぶりでこちらを見ていた。


つまり、俺が見ていたのは暁斗の記憶で構成された世界で、その世界の中のデータ人間が、今回神夜が見ていたクラスメイトということになる。


やはりこれは、俺が見たのは暁斗の記憶の中に俺が入っているという感じだろう。


データ人間にさせられるNPC化している時の記憶が恐らく暁斗の過去で構成されているのだと感じる神夜。


つまり、復活した青衣白夜と赤坂水紅には今回初めて出くわす事になるのだ。


神夜は今一番あり得る現状として一番可能性が高い仮設を立ててとっさに現状を把握した。


そんな時、何もないはずの空間が歪む。


その歪みから、確認できたのは人の形をした透明なシルエット。


そのシルエットは徐々に実態がはっきりとし始めて、姿が確認できるようになった。




―――新城作⁉―――。


―――……うそだろ……なんで新城が……―――。




「もし、邪魔をしたのなら、君を敵と認識しないといけなくなる。それはできるだけ避けたいからね」


そう言うと作は、次元のどこかに消えて行く。


「またな」


「ちょっと待ってくれよ! おい! 作‼」


 作だけは俺のことを知っているようだった。


―――俺の事を認識しているということは……―――。


つまり、本物の可能性が高い。


そう感じた神夜は必死に3人を止めようとする。


「ウィーン‼」


ゲートの中に3人は進んでいき、ゲートが閉じられた。


「おい‼ 待ってくれ‼ 大牙を返せよ‼ おい‼」


「なんだよ……意味わかんねえよ……戻る世界が無いだって……じゃあどうすれば……」


その瞬間、四人が立ち去ったのと同時に、息を潜めていた人影が、神夜に襲いかかってきた。


「ははは‼ 死んだふりをして正解だったな‼ まさか、少年が、核となるエネルギーそのものを宿すとは‼ 生き返ったばかりだがまた死んでもらうぞ‼」


「!」


「お前を書くにすれば、祇那と美彩が仲良く暮らせる世界が構築できるのだ‼ 当初の計画よりも、もっと良いじゃないか‼ はは‼ 少年よ!」


「私の愛のために死ねぇぇ‼!」


「⁉」


その一瞬の出来事だった。


神夜が、振り返ったときには、なんと薬学は、両断されており、赤黒い粒子を放ち、消えていった。


「こんな形で、敵討ち……するとわね……」


霧咲祇那の目標である復讐をここで果たした。


その時、薬学の記憶が刀をとうして流れ込む。


「⁉」


 祇那は、目を大きく開けながら硬直してしまった。


理由は、とんでもない事実を薬学の記憶を通して見てしまったことが原因である。


実は、始まりは霧咲祇那が描いていた復讐のストーリーとは少し違っていた。




そう、真実の始まりの記憶だ。




薬学は、妻も娘が死亡した事を受け入れられなかった。


当然薬学にとっては愛する家族だったのだ。


その後、薬学は精神崩壊し、娘を蘇生させるため、自ら実験体になった。


これが、本当のサイエンティストの内情……天才でも、悪意でもなく、ただ会いした人を取り戻すために……。


そして、薬学は唯一生き残り、助かった自らの娘にある制御薬を飲ませ組み込むことになる。


「私を恨み殺しに来るのだ……その頃には、私は行かれた科学者担っているだろう。だが、この家族への愛は本当だ……もし、私を殺せないなったときには、私を殺せる人格を埋め混んでおくよ……いつか、その人格と対話できる用になったら、仲良くするんだぞ・・・パパからの最後のお願いだ。聞いてくれるか? 祇那?」


「いやだ……」


「パパを困らせないでくれ、パパが望んでいることなんだ・・・いいね・・・もうひとりの祇那もわかったね」


「うん・・・」


「わかった・・・」


 そういった後薬学は、独自に開発した目標を達するまで、眠れない呪いの薬品を一気に飲みをす。


「パリンッ!」


「ふは、ふは、ふぁぁぁははははは―――ーー‼ 私の愛は正義だ‼」




 こうして、「優しかった愛」を志していた薬学から「狂った愛」に変化した薬学の誕生だ。


 その後、本当の祇那が、真実を知った時、父親である薬学を殺せなくなった時止める安全装置(絶対に自分を殺してくれる)として、AI(人工知能)を埋め込む事になる。


 とんでもない事をしでかした父親の原動力は愛出会った。


霧咲は、データワールドの空を見て、やるせない気持ちを胸にいだき大粒の涙をこぼした。




   ◇




そう、今見た光景は、裏の祇那と薬学の記憶だ。


表の祇那は記憶を薬学に書き換えられているのだ。


「もうひとりの私には悪いが、薬学の望み通り、約束は果たした。いいか、神夜、今聞いたことは、もうひとりの私に話すなよ」


「何がなんだかわからないが・・・わかったよ」


そう言うと、裏の祇那から表の祇那に戻り、今後の行く末について話し始めた。


「で……神夜くんはどうするの、これから」


当初の目的は果たせなくなった神夜には、目標がなくなっていたが、新たな目的が生まれた。


「決まってるだろ……助けに行く」


「誰を?」


「大牙に決まってるだろ」


 霧咲は、決まっているという表情で神夜に笑顔を見せた。


「そうこなくっちゃ! 助けに行きましょう!」


「よし、決まりだな!」


「ここまで一緒に行動してるんだから、もう名前でいいわよ! 神夜くんのことも、蒼麻くんって読んでもいい⁉」


「だな、好きなように読んでくれ! 俺も、祇那って呼ぶよ!」


こうして、神夜蒼麻と霧咲祇那二人の目標は、大牙奪還に決まり、データワールドで新たな目的ができた。




決意した二人の背後でうごめく人影。




その影は夜魅。


髪色が変身後の黒髪ロングで毛先が青のまま。


その夜魅が、起き上がったのだ。


大牙にふっとばされていて、気を失っていただけのようだった。


神夜は、先程手に入れたシークレットモードをきどうして、相手がどのような動作をするか予測ルートを読み取ろうとした。初めての試みだ。


神夜は、今、習得したアルゴリズムの選択肢を探したが、先読みできない。


―――夜魅の行動が先読みできない⁉ この力の使い方はあっているのか⁉―――。


霧咲は、戦闘隊背で鞘から、刀をいつでも抜ける状態に体制を一瞬で整える。


(おかしいわ……いつものような殺気が感じられない……どういうこと⁉)


「・・・」


「・・・」


「あなた達は……」


「誰?」


頭を傾げる夜魅。


なんと、夜魅の記憶がなくなっているようだった。


「え~と、夜魅……。自分のことは覚えてるよな⁉」


「よ・み・?」


「本当に記憶をなくしているようね・・・」


「どうしよう・・・」


 2人は、頭を抱えた。


「このまま、味方として、一緒に行動するのは、まずいよ!」


「でも、このまま方って追いて、黒衣者に回収されて、また、凶暴な悪魔化にされたりしたら大変だよ!」


「どうするか……」


「どうしょう……」


「敵になると危険だから、今度こそ、仲間にしておかないか??・・・いいかなぁ⁉」


「まぁ・・・今は、それが最善の策ね」


 霧咲は渋々提案を受け入れた。


こうして、神夜達は、記憶をなくした夜魅を今度こそ味方に迎えた。


神夜は自分の腕を一度切り落とした相手だったが、今は記憶がないのだ。思うところは色々あるが今は大牙の事を最優先に考えた神夜。


今後、二人の目標は、「大牙の奪還」である。


2人の行く末が聞き待った後、夜魅の服から、何かが落ちた。


「ん? これは……??」


 神夜の目に飛び込んできた内容は衝撃的な情報だった。


 その重要な情報が記載されている手帳を夜魅が落としたのだ。


「どうしたの? 蒼麻くん??」


「世界の均衡を保つ観測者……だと……」


 ここに来て夜魅が何者かがはっきりした。


 狂っている祖先の蘇りだけだと思っていたら、なんと、蘇りし者で構成された観測者という組織のメンバーだったのだ。


 そして、その手帳には「生産数№5」と記載されていた。つまり、№ということは、夜魅のような存在が少なくとも5人入るという裏付けとも捉えられる。


 仮想世界で蘇らせた物が黒衣者という組織の一員になり、現実世界で、蘇った者のことを観測者……。


 新たな組織が浮上してきたことにより、神夜の頭の中で脳みそがフル回転し、情報の分析を初めた。


 霧咲は、冷静にその手帳を見て一言。


「この手帳が本物であれば、薬学の背後にいた黒衣者とは、関係がない。つまり、別の組織である可能性が高いわね……。これは、驚いたけど、私の過去の記憶では、薬学の研究所の研究員は白衣をきていたんだけど、スーツとサングラスをしている姿を度々見つけたわ……。確か夜魅は、そいつらにつれてこられていたから、関係しているのは、間違いないわね」


 神夜は、この現状で点と点が繋がり、1つの結論へとたどり付いた。


―――霧咲が始めに行っていた祖先ってことでなっとくしてたけど、祖先を蘇らせて、現実世界(リアルワールド)で、活動している団体があったとは……仮想世界(データワールド)にくるまで、何も知らなかった……―――。


そんなことを真剣に話している背後から、夜魅が、神夜の方を掴む。


―――ゴクリッ―――。


一瞬にして、緊張が走る。


「・・・それ・・・」


 ―――ゾクッ―――。


 霧咲も思わず、夜魅を警戒する。


先程まで、敵対していたのだから、当たり前の反応だろう。


「・・・それ私の?」


 その言葉で、緊張が一気に解けた。


―――ビビった……記憶が戻ったかと……―――。


「旬をしっているか」


「しゅん?」


―――一応は、記憶がないとしていいんだよなぁ……―――。


「あぁ~知らないなら良いんだよ……」


 ―――記憶があればすぐに始末されるような秘密を知ってしまったからな……――――。


 そう、記憶がある夜魅だった場合には即消されるレベルの情報だろう。




   ◇◇◇


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