第31話 □ 夜魅の秘密

□ 夜魅の秘密




夜魅は、黒衣者とは違う組織の《暗殺部隊の特殊兵器》だと判明した。その判別は、夜魅から、落ちた手帳に書いてあった。


そこに記載されていた内容は、S級ランク識別が刻印されていた。


暗殺部隊ではなく、特殊兵器という点が今回の肝になる。


表向きの国ができない闇の仕事を受け持つとされている。


影の権力。それが、暗殺部隊だ。


つまり、この手帳には、暗殺部隊の刻印が記載され、備考欄に《特殊兵器》と記載されている。


そして、その手帳の中に、1枚の写真が挟まっていた。そこには幼い頃の夜魅と仲良さそうに夜魅の頭に手を当ててなでている男の子。


推測するに、大牙との戦いで話していた夜魅の兄であろう。髪のと瞳の色が一致していたため、なんとなく沿う感じた神夜。


 だが、写真のことが気になったが、そのことより優先する情報があった神夜は深く考えず《暗殺部隊の特殊兵器》という事実だけで頭がいっぱいだった。




―――恐らく……―――。




現実世界(リアルワールド)では、裏組織がこの仮想世界(データワールド)に夜魅を潜入させたことになる。


 理由はわからないが、恐らく薬学絡みの任務を受け、夜魅はこのデータワールドに来たのであろう。神夜はそう思った。


 そんなことを考える神夜とは、裏腹に、夜魅は自由に遊び始めた。


夜魅の腕は、薬学の開発した悪魔化する液体の効果で、腕が元通りに治っていた。


その腕で、気が抜け油断していた霧咲の鞘から刀を抜き取る。


(―――私の刀が奪われた‼―――)


 ―――ゾクッ―――。


 


霧咲は、そう感じた次の瞬間、夜魅の刀が振り下ろされた。




「…」




「⁉」


「‼」


夜魅は刀で、遊び始めたのだ。


「この刀かっこいい‼」


 夜魅は、キラキラした目で刀を眺めては降って、眺めては降っての繰り返し。


「気が済んだだろ・・・もう、その刀を鞘にしまってくれ」


「貴方喋れる鞘なの⁉」


「そうだ。わたしは……」


 夜魅は、嬉しくなったのか、興奮を抑えきれず、刀をぐるぐる回して遊び始めた。


 すると、今度は鞘が欲しくなったのか鞘を奪おうとする夜魅。


「刀を主に返すのだ」


「すごい! 鞘が喋ってる! ははは!」


 その声を聞いた神夜は、一言つぶやく。


「夜魅が笑うと、敵意がないようだが、不気味だな……」


「ほら! もいいでしょ! 夜魅かえしなさい!」


「嫌だ!」


「え? 私の刀なのよ! 換えしなさい!」


「夜魅! 貴方ね!」


 その時だった。


草むらの方から、1本の銀色の矢が、霧咲目がけて飛んできた。


その殺気にいち早く気づいた神夜が、霧咲を押して、銀の矢を交わした。


 すると、頭上の空間から、小さなゲートが出現し、そこから、金色の矢が霧咲目掛けて、飛んでくいる。


「祇那‼ 避けろ‼」


 霧咲に声は届いていたが、既に金の矢は、霧咲の頭上の近距離。


 流石に、避けられる距離ではない。


「キーン‼」


 金の矢を弾き飛ばしたのは、霧咲の刀。


 そう、つまり、夜魅が、霧咲を助けたのだ。


「記憶がないはずじぁ……」


「名前も何もかも忘れているみたいだけど、体で覚えた刀の振り方はわすれていないみたい!」


 夜魅は、まるで、別人のように霧咲の危機を救った。


「なんであんたがそいつを守ってるの⁉」


 その光景を見てとっさに出てきたのは、見覚えのある顔。


襲撃の黒幕は、赤坂水紅だったのだ。


「バサッ!」


赤坂は、まずいと思ったのか、草むらから、上半身だけ出していた状態から、姿を隠すために、草むらに身を隠したが、手遅れだろう。


赤坂は異次元転送ゲートを草むらの奥に開いた。


「今だ!」


 すかさず、次元転送ゲートに入ろうとした赤坂よりも、早く、次元転送ゲートに入り込むことに成功した。


入り込めた空間には、宇宙のような空間が広がっており、カラフルな色の着色が際立つ無尽蔵な空間。その空間の神夜の背後から、赤坂の金と銀の矢が飛んでくる。


だが、意外にも神夜は、銀の矢を交わすことに成功した。


今までは、こんな素早い動きを捉えることができなかったが、今の神夜には、見て取れる動きになっていたのだ。


―――これが、プラチナの心臓の力なのか、理由はわからないが、そんな気がする―――。


ここまで反応できるとはと神夜はプラチナの心臓の力を実感する。


「あっ!」


 だが、その後神夜は、次元の足場に立っていたが、周囲や地面そのものがゆらゆらと歪んでいるため、安定して、立つことがままならない。


攻撃を避ける動作と、不自由な空間に足を取られてしまった。


だが、動きが見えるからと言って体がついてくるかは別問題だ。


それを狙っていたかのように、綺麗に、神夜の頭目掛けて金の矢が飛んできた。


「キーン!」


 夜魅から、刀を返してもらい霧咲が神夜の前に立ちふさがった。


「あなた、ホント邪魔ね!」


「そんな攻撃私には効かないわよ」


 そう、一言ゆうと、ニヤッとドヤ顔をかます。霧咲。


「何よこいつ! やっぱり、この女は気に食わないわ!」


 赤坂は何故か、霧咲のことが気に食わないらしく、苛立っていた。


 奇襲を受けたのも初めに霧咲だったため、初めは戦闘能力が高い相手を倒そうとしていると感じたが、なにか違う。


「―――赤坂落ち着け―――」


 どこから、ともなく、白夜の声が空間に響いた。


「・・・」


「・・・」


「⁉」


「⁉」


神夜と霧咲が気づいた時……。


なんと、神夜と霧咲は次元の外に追いやられていたのだ。


「なんなの⁉ 私さっき次元ゲートの中にいたはず……」


 霧咲は、面食らったような表情を浮かべ、キョトンと立っていた。そして、神夜も同じである。


 2人は、この状況に、困惑していたが、現状の外の空間を目にして行くことで、次元の中ではなく、次元空間の外に追いやられたことに気づき始めた。


―――まさか、これが、白夜の能力は時間停止なのか、これはもしかすると、いや……もしかしなくても、最強の能力じゃないか⁉―――。


「この能力……チート級ね……」


「あんた、白夜につきまとうのはやめなさい! もう、白夜と合わないで!」


 驚きを隠せない2人を目の前に、ゲートが閉じた。


 一瞬の出来事に神夜と霧咲は呆然と立ち尽くす。


 理解できないが、女の嫉妬というやつだろうか。


 神夜もそうだが、霧咲も面食らったように立ち尽くす。


「・・・」


「・・・」


「・・・?」


 その要素を不思議そうに夜魅が眺めていた。


 少しすると、神夜は何かに気づいた。


「次元転送ドアが、あったじゃないか!」


「そうだったわね。でも……」


 その考えは、良いけど、という雰囲気を醸し出し霧咲は言葉を続けた。


「行ける場所は行ったことがある場所しか……」


 なるほど、霧咲がなぜ、次元転送ドアで敵の本拠地に行かない理由がわかった。つまり、敵の本拠地をしらないから行けないのだ。


「行ったことがある事が前提だったか……」


「⁉」


 神夜は、気づいた。


「夜魅なら、黒衣者本部に行けるかもしれない!」


「もしかしたら、記憶がなくても、その場所に行ったことがある事が条件であれば、可能かもしれないけど……記憶をなくしている状態で可能かどうかは、わからないわ……」


「私⁉」


「試しに、霧咲の家に戻ったら、試してみよう!」


「わかったわ」


「私がドアを開ければいいの?」


「そうだよ」


「うん」


 早速3人は、霧咲の家に帰り、試しにドアを開けてみる。


すると、マグマの世界がドアの向こうに現れた。


「なんだ! こんな所まで、データワールドにあるのか!」


 神夜は驚いたのと同時に、夜魅が行ける世界は、ランダムだということがわかった。


 次に次元転送ドアを開いたときには、空中の都市、つまり、浮遊している、浮遊した都市の崖付近に次元がつながったのだ。


「ここは、なんなんだ・・・」


「私はここに来たことがあるの?」


「扉が開く時点で、夜魅の記憶から、ランダムに開かれているのよ。本来は頭の中で強く思った場所に行けるはずなんだけど、記憶がないのならランダムになっているみたいね」


「つまり、これをひたすら続けていけばいつか、夜魅がいた黒衣者の拠点につけるってことだよな」


 ひたすら扉を開けては締めて、開けては締めて、を繰り返し、様々な場所に繋り、霧咲が知らない所にも、多く繋がった。


 そんな中、神夜の修行と霧咲の修行を兼ねて、桜が舞い散る広大な広場にランダムに繋がったことがきっかけで、そこを鍛錬の場所にした。


 理由は、単純で、桜の花びらが、舞い落ちているのを的確に、刀で真っ二つにする練習を霧咲が行う。神夜は、その花びらの舞い落ちる先を予測し、的確に撃ち落とす練習をしていた。


 そう、訓練場として活用したのだ。


神夜は、自らの能力の力で、身体的な動体視力や予測できる時間の引き伸ばしにつながらないかと練習しているのだ。


 実は、プラチナの心臓のおかげか、視力と、判断能力が向上したため、軽い攻撃は以前より見えるようになっていたのだ。


 そのメリットを活かそうと、日々霧咲に戦い方を訓練してもらっていた。


 


    ◇◇◇




ある時、ロンドンの町並みの広場に出ることができた。


「ここもはずれね。まさか、ロンドンまで、データ世界で行けるとは思っていなかったわ」


 霧咲は扉を閉めようとした。


その時だった。


「カー」


「⁉」


 霧咲は自分の記憶から何かが引っかかった。


 その記憶が蘇るのと同調しているようにまぶたを大きく開く。


 この声は、カラス。


 そう、霧咲は、カラスに思い当たる点があったのだ。


霧咲は、そのカラスを凝視して一言。神夜にお願いをする。


「蒼麻くん、あのカラスを狙って撃ち落としてくれない?」


 そう言うと、本気で斬りかかる気迫を全身から、オーラを発して、構え始めた。


「え⁉ 自分で、やればいい……」


「お願い……」


「わかったよ」


「バン!」


 カラスを一翼撃ち落とす。


《GAME OVER》


 カラスは地面に「ドサッ」と落ちると、青白い粒子とともに、空に消えて良いった。


 だが、霧咲が見ていたのは、カラスではなく、カラスの周囲だ。


「ビンゴだわ! 霧雨‼」


 そう言うと、霧咲は、刀で技を繰り出す。


 そう、カラスは、倒したのだが、カラスを撃った後に、無数の青白い粒子が傷口から、飛び散った1つ1つがカラスに変身していたのである。


 つまり、この光景は、あの時、霧咲のプラチナペンダントを、盗んだカラス。


すなわち、普通ではないなにかの指示で動く使い魔的存在。


 薬学が死んだ今、このカラスを使う黒幕は黒衣者一度。


 ―――つまり、このロンドン都市こそが、黒衣者の拠点だ―――。


「カーカーカー!」


 複数のカラスが、霧咲の攻撃で落下し、消滅。


あるものは、攻撃を避け、霧咲と神夜に襲いかかってくる。


「バン! バン! バン!」


 霧雨で、撃ち落とすことができなかったカラスを神夜が撃ち落とす。


神夜は霧咲の鍛錬で、訓練を重ねてきていたため、データ人間達やカラスなど、ある程度のレベルの敵であれば、勝てるような技術が身についていた。


「ありがと、蒼麻くん、でも、ここからが本番よ!」


 そう言うと霧咲は、空を睨み付け一言。


「出てきなさい! 蒼麻くんは、騙せても、私は騙されないわよ!」


「これは、貴方には見えているとは、はは」




   ◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る