第2話 夕暮れの再会-哀愁-

 私は、今日も一枚の写真を引き出しから取り出して、窓越しに差し込む夕日へとかざす。

 白黒の中、袴姿で、髪を結った二人の少女が並んでいる。

 ただ一枚だけ残された貴女と私の写真だ。

 それは遠い昔、まだ貴女も私も女学生の頃、写真館で、仲の良い姉妹だと嘘を言って、恋人である事を隠して、撮ってもらった写真だった。

 「大事な妹の入学祝なんです」

 私よりいくらか背も高く、大人びて見えた貴女はそんな事を言いながら、写真館にいる間だけは、「姉」のふりをしてくれたものだった。

 その時の少し照れくさい気持ちさえ、夕日の中、この写真を見つめていると、鮮やかに色づき、蘇ってくるようだ。


 ‐もう、貴女が先立って何年が過ぎただろう。

 今、貴女に再会出来るすべは、この、遠き日に撮った白黒写真を見つめる事以外にはない。

 夕日にこの写真をかざして、眺めると、いつも私の瞳には、不思議なものが映る。

 私が、嬉しい事を語りかければ、白黒の中、貴女も嬉しそうに笑っているように見えた。

 そして、私が悲嘆に暮れて話す時には、白黒の中の貴女もまた、何処か、悲しみの表情を浮かべているように、確かに見えるのだ。

 

 それは、遠き日の思い出と、貴女がもういない事への哀愁。そして、写真を照らす夕日。それらが合わさり、見せた悪戯でしかないと、もし私の話を誰かが聞けば、きっと言うだろう。

 しかし、私の瞳に映る貴女が、白黒の中。そして写真を照らす、薄橙色の夕日の中でだけは確かに、私の気持ちに応えるように、今もまた貴女が共に微笑み、共に悲しんでいる事を決して、私は疑わない。


 夕日が完全に沈み、空を照らすものが月星だけになる時刻には、貴女の写真はまた、語りかけても、応える事はない、一枚の白黒写真に戻る。

 時間にすればほんの僅かな、束の間の貴女との再会だ。

 しかし、再び夕日が空を染める頃、私はこの写真を窓から差す日の光にかざすだろう。 

 夕暮れのひと時でも、この写真があるなら、私はまた、何度も貴女と再会する事が出来るのだから。


 大事に引き出しの奥にしまって、私は、日の落ちた部屋の中、一人、言葉を口にする。

 「次の夕暮れに、また会いましょう」

 

 

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