第14話 黎明との接触
南シナ海上空、ヘリコプターが低空で静かに飛行していた。中にはディア・ハリントンと、彼女を送り届けるシンガポールの特使が乗っていた。ヘリコプターは指定された海域で停止し、黎明が用意した無人潜航機にディアを引き渡す計画が進行していた。
「本当に行くのか、ディア?」
シンガポール特使が不安げに尋ねた。
「もちろんよ。」
ディアは微笑みながら答えた。「真実に触れるには、どこへでも行く覚悟があるわ。」
特使は小さくため息をつき、ヘリコプターの乗降口を開けた。そこには、黎明から派遣された無人潜航機が浮かんでいた。小型のカプセル型で、1人が乗り込むだけのスペースしかない。
「準備が整った。」
特使が短く言うと、ディアは迷いなく無人潜航機に乗り込んだ。
黎明艦内では、ディアの到着に向けた準備が進められていた。風間悠馬は艦橋で、進行状況をモニター越しに見つめていた。
「無人潜航機が艦へのドッキングを開始しました。」
通信士が静かに報告する。
「よし、ディアを迎え入れろ。」
風間の指示に、艦内の乗組員たちは緊張感を漂わせながら動き始めた。ディアを迎える部屋はあらかじめ限定され、監視カメラが設置されていた。
数分後、ディアが艦内に到着すると、藤崎玲奈が迎えに出た。
「ディア・ハリントンさんですね。こちらへ。」
ディアは周囲を観察しながら静かに頷いた。
「想像していたよりもずっと静かね。」
藤崎は軽く笑みを浮かべたが、それ以上は何も言わず、彼女を応接室へと案内した。
応接室でディアが待っていると、風間悠馬がゆっくりと現れた。彼は無表情のまま、彼女の正面に座った。
「ようこそ、黎明へ。」
風間は短く言った。
「ありがとう。あなたが直接会ってくれるとは思わなかったわ。」
ディアは落ち着いた声で答えた。
「あなたの目的は明確だ。だが、こちらにも条件がある。」
風間はディアをじっと見つめた。「私たちの意図を正確に伝えると誓約した。その誓いを守る覚悟はあるか?」
ディアは一瞬言葉を探したが、すぐに力強く答えた。
「もちろん。そのためにここに来たのだから。」
風間はしばらく彼女を見つめた後、少しだけ頷いた。
「では、始めよう。我々の目的、そして世界に伝えたいことを話す。」
風間は静かに話し始めた。
「黎明はただの潜水艦ではない。私たちは、国家を超えた平和の象徴を目指している。武力による支配ではなく、対話と信頼による秩序の構築だ。」
ディアは興味深そうに聞きながらメモを取っていた。
「それを実現するために、これまでの行動に至ったのね?」
風間は短く頷き、続けた。
「戦わずして力を示す。それが、我々が目指す道だ。だが、それを理解する者は少ない。だからこそ、あなたのような人間が必要だ。」
「私を信用するの?」
ディアが尋ねると、風間は少し間を置いて答えた。
「まだわからない。ただ、可能性には賭ける価値がある。」
その頃、艦内では乗組員たちの間で不安が広がっていた。
「ジャーナリストなんて危険だ。彼女が情報を悪用したらどうする?」
若い技術士官の山下が声を上げる。
整備士の木崎が静かに答えた。
「艦長の決断を信じるしかない。彼がこの艦をここまで守ってきたのは、無意味じゃないはずだ。」
「それはわかってる。でも……。」
山下の言葉は続かなかった。
対話の中で、ディアは核心を突く質問を投げかけた。
「でも、風間さん。あなたたちが目指す秩序が、今の国際社会に受け入れられると思う? 米国も中国も、あなたたちを脅威と見なしているわ。」
風間は冷静に答えた。
「受け入れるかどうかは彼ら次第だ。我々はただ、選択肢を提示しているに過ぎない。」
ディアはその答えに一瞬沈黙し、やがて微笑んだ。
「あなた、面白い人ね。でも、伝えたいことは十分わかったわ。」
ディアとの対話を終えた風間は、艦橋に戻りながら呟いた。
「これが世界にどう響くか。それを決めるのは、私たちではない。」
一方で、ディアもまた、自分が手にした真実をどう伝えるべきか考えていた。彼女の次の行動が、黎明の未来を大きく左右することになる。
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