影の中で君をしる。

私が魔法少女になってから、まだ2日しか経っていない。

それなのに、この身体の重さと胸の痛み。


「行こう、りおん。次の影喰いだ。」

灰色の猫が、いつものように当然の顔で言う。


「……どこ?」

「すぐ近くだよ。人が影を食われかけてる。」


私は魔法少女の姿に変わり、ため息を吐いた。

もう二度と味わいたくない痛み。でも、これが私に残された生き方なんだ。


影喰いは駅前の薄暗い光の中に潜んでいた。

地を這うように伸びる手足。

口のない顔がこちらをじっと見ている。


戦いに来たはずなのに、背筋が凍りつく。

矢を放つ。けれど、体が鉛のように重い。


(くるしい……!)


「ぐ……っ……!」

頭の中で痛みが爆発する。

視界が滲む。——倒れる、その瞬間——


「——危ない!」


誰かが飛び込んできて、私を引き寄せた。

柔らかい体の温かさ。


見上げると、少女の大きな瞳がこちらをじっと見つめていた。


「……君、大丈夫?」


(誰……?)


影喰いが迫る。

その時、彼女は迷わず立ち上がった。


「私がやるから、見てて。」


彼女の声は優しかった。

でも、その声の中に、芯の強さがあった。


彼女の手のひらから淡い光が広がる。

影喰いはまるで時間が止まったように動かなくなり、静かに消えていった。


「……あんた……」

「うん。魔法少女だよ。」

彼女は振り返って、微笑んだ。


私の胸が、ざわついた。

——なんで。どうして。


彼女が近づいてきて、そっと私の手を取る。

「ねえ、怪我してる。ちょっといい?」


光が私の体を包む。

痛みが引いていく——けど、彼女の額には汗が滲んでいた。

「……やめて!」

私の声が震えた。


「大丈夫だよ。」

彼女は大きく笑みを浮かべる。

あんなに苦しいのに痛いのに。

「大丈夫じゃないでしょ!」


「なんで……なんでそこまで——」


「君を……守りたいと思ったから。」

彼女は、当たり前のことのようにそう言った。


心臓がひどく痛む。

——怖い。


「……あなた、名前は……?」

彼女は答えた。


「天音なぎさ。」

「なぎさ……。」


「君は?」

「佐々本りおん。」


彼女の手を握ったまま、私は初めて心の奥が溶けていくような感覚を知った。


影喰いの最後の囁きが耳元で反響する。

「お前もいずれ……影になる……」


私はその声を振り払おうとするけど、彼女の手の温もりが残る。

それだけが、今、私を繋ぎ止めていた。

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