EP020
翌朝…。
無職になってからのいつも時間に、いつものように、アリスが私を起こしにきた。
「ジロ、おはようございます。起きて下さい。」
「あぁ…。うん…。」
私もいつもと変わらぬ返事をする。
いつものようにのっそりとベッドから起き上がる。
ベッドサイドの作り付けの棚に手をやり、そこから眼鏡を手に取る。
そして眼鏡をかけ、二度、三度と頭を振り、寝ぼけた視力を強制的に回復させる。
戻った視力がやわらかい黄色の光に照らし出された部屋を認識し出す。
『変わりない…。』
これは起きがけの私の習慣。
目を悪くしてから癖になった朝一番のルーティンワーク。
ただ、いつから眼鏡が必要になったのかは、今の私は覚えていない…。
「へっ…?!」
完全に目覚めた私の視力が捉えた物体は、いつもの球体ではなかった…。
目を見開き見る。
目頭を押してもう一度見る。
眼鏡のレンズを拭いて再度見る。
そこにあるのはソフトボールではなかった。
思考停止した脳みそは名前を呼びかけるのが精一杯だった。
「ア…、アリス…?」
目を通し脳で映像化されたものは、エアホッケーゲームで使うスティックのような物体だった。
そしてそれはアリスと同じオフホワイト色をしていた。
「ジロ、大丈夫です。何も問題ありません。」
「…、アリス…?アリスなのか?」
「はい。アリスです。間違いありません。」
『大丈夫…。問題無い…。と…、言われても…。』
全く形状の違う物がアリスの声で喋っている状況は、私には簡単には受け入れ難かった…。
私が黙って悩んでいると…、「機動力を向上させるために、お掃除ロボットと合体しました。」と、アリスは私の疑問を解く鍵をくれた。
「がっ…、合体…。な…、なぜ…?」
「前の形状では移動に時間がかかります。」
「う、うん…。」
「ジロの動きについていけません。」
「う、うん…。」
「いつもジロの側にいたいのです。」
「えっ…。」
私はアリスの応えに言葉を失った…。
ほんの少し前までは、片言で必要最低限の内容しか話せなかったアリス。
…が、ニューロとのリンク後は、何か含みのある人間のような言い回しまでするようになった。
その上、行動理由にまで人間的な感情表現が加わっている…。
『コミュニケーション能力は人間並み…。否、もう人間を上回っている…。」
私にはこの時、言葉では表し切れない何らかの気持ち…、失くしてしまった感情のようなものが心に湧いていた…。
そして、この気持ちを表現できない自分に深いもどかしさを感じていた…。
「ア、アリス…。どうやって…、お掃除ロボットと合体を…?」
胸に沸き上がったじれったさを払拭するかのように、私は単純に頭に浮んだ疑問をアリスにぶつけこれ以上気持ちのことを考えることから逃げた…。
「お掃除ロボットのボディーも、ワタシのボディーも、ライブメタルでできています。」
「ラ…、ライブ…?メタル…?」
「ライブメタルは一見、金属のように見えますが、本当は極微小の金属粉が強固に寄り集まったものになります。」
「ぅ…、ん…。」
「この微小の金属粉を結びつけているのが、電気です。」
「へ…、ぇ…。」
「帯電したライブメタルの電気の流れを変化させることにより、形状を変化させるのです。」
「砂鉄みたいな感じかい…?」
「そうです。そうです。」
無意識に発した言葉が正解に近かったことになぜか誇らしげな気持ちになる…。
「ボディー表面の色も塗装ではなく電気の流れの量で発色を行っています。」
「へぇ…。」
『それでお掃除ロボットの色が変化したのか…。』
「合体した理由は…?」
「はい。合体により、対象物の機能を全てワタシに取り込めます。完全にワタシの機能の一部になります。」
「す…、凄い…。」
「全く違う機能でも…?」
「はい。可能です。」
「凄い…。凄い…。」
「今回は、室内でなめらかに速く動ける機動力と室内のものを傷めないセンサーを得るためにお掃除ロボットとの合体をを選択しました。」
「そこまで考えて…。素晴らしい。」
「ありがとうございます。」
アリスが発した「今回は」というワードに、成長するアリスの様を勝手に思い描いている私がいた…。
≪続く≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます