EP019

「ジロ。宅配ボックスに荷物が到着しました。」

「えっ…。あっ…。分かった…。」


『何か買ったっけ…。』


玄関に向かいながら私は思い出していた。

そして思い出した。


『宅配ボックスに着いたのは、多分、昨日アリスが選んだお掃除ロボット…。』


私は急ぎ、宅配ボックスに向かった…。













置き配されていた段ボール箱は、すこぶるコンパクトだった。

その箱の表面には、ごちゃごちゃしたものが何も印刷されておらず、至ってシンプルなものだった。

本来、送り状が貼られているスペースにはバーコードが印刷されたシールが貼られているだけ…。

発送会社も受取人も書かれていない。


『合ってるのかなぁ…。』


誤配を心配しながらも慎重に段ボール箱を開け中を見る。

すると、緩衝材に保護された直径30センチほどの分厚い円盤状の物体が現れた。


『間違ってはいなさそうだ。』


私は緊張から解放され、送られてきたを具に見る余裕が持てるようになれた。













その分厚い円盤はツヤ消しの白色で塗装されており、一見するとデコレーションされていないホールケーキのように見えた。

そして、そのホールケーキ以外は、何も同梱されていなかった…。

充電器も…。

取扱説明書すらも…。


『…。』






「ジロ、お掃除ロボットのスイッチを入れて下さい。」

「えっ、スイッチ???」


ホールケーキの入っていた箱の中を注意深く探っている最中に、急にアリスに声をかけられ、心底慌てた…。


『ど、どこだ…。』


けど、このお掃除ロボットのスイッチは探すまでもなかった。

ツヤ消しの白色のボディー側面…。

そこに赤色で描かれた電源ロゴマーク…。

一目瞭然だった。


『ここに触ればいいのか…。』


取扱説明書が同梱包されてなかったため、一瞬躊躇するが、さほど深く考えることなく小さな円に触れてみた。


ピポッ。


ホールケーキは小さな電子音を立て、電源ロゴマークを黄緑色に変色させた。












「充電開始。」

「えっ…?」


スイッチを入れた途端、ホールケーキが喋り出した。

ホールケーキの上面には【START CHARGING】の黄緑色の光文字が浮かび上がり、円の縁に沿って流れ始める。


「えっ!?充電…。」


充電器なんて段ボール箱の中には入っていなかった…。


『入れ忘れか…?』


いったいどうすれば…。

などと悩んでいた矢先、「ジロ、この家はワイヤレスで充電できます。安心して下さい。」と、私の気持ちを察したように、アリスが言葉をかけてきた。


『ワイヤレス充電…?…?…?』


そう言えば、この家のどこに置いていても、スマホのバッテリーは勝手に充電されていた。

電動シェーバーも、電動歯ブラシも、いくら使ってもいつでも使える。


『そういうものだと思っていた…。』


今、気づいた、「この家が、勝手に充電してくれていたんだ…。」ということに…。


これも以前の私が設計したのか…。

今の私には、そんな考えは微塵も浮かばない…。














「ジロ、ワタシをお掃除ロボットの上に置いて下さい。」

「えっ…?お掃除ロボットの上に…?」

「はい。お願いします。」


改めて、この家の凄さに感心していると、現実に引き戻すかのようにアリスが声をかけてきた。

この時のアリスの言葉の意味を、この段階では私は全く分かっていなかった。


この場合はとにかく、アリスの言う通りにした…。





私はアリスを両手で優しく持ち上げ、言われた通りに充電中のホールケーキの上にそっと置こうとした。

その時、ホールケーキの上面の中心が少し窪んだように見えた。


『えっ?』


お掃除ロボットのボディーは、電源ロゴマーク以外はツヤ消しの白一色である。

だから、目の悪い私には、お掃除ロボットの細かなディティールまでよく見えてなかったかもしれない…。

それに、お掃除ロボットの金属製のボディーが変形するはずもない…。


私のそそっかしい錯覚と思いつつ、アリスをホールケーキの窪みの上にそっと置いた。

不思議なことにホールケーキの上面の窪みは、アリスの球体の曲面にジャストフィットだった。


『たまたま…。』


私はこんな些細なハプニングを、単なるラッキーと捉えていた…。













「ARISハ、CLEANING ROBOT CORD NUMBER ○○○○○ト、連携シマシタ。」

「えっ!!」


突然のアリスの声で私は驚いた。

それも音声は現在のアリスのものたが、口調はニューロと連携する前のアリスのものだった。


「だ、大丈夫、アリス?」

「…。…。…。ジロ、どうかしましたか…。」


返ってきたその声は、今のアリスのものだった。

私はホッとした…。

体から力が抜けた…。

虚脱した…。





ぼんやりした頭の中で、私は、アリスについてまだまだ知らない面があることを再認識していた…。





≪続く≫

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る