EP021

お掃除ロボットと合体した新生アリス。

その機動力には、目を見張るものがあった。

私の歩く速さに、遅れをとることなくついてくる。

滑るようになめらかに音もたてずについてくる。


アリスが言うには、

球体だった頃のアリスは、体内の重心移動によって転がることで移動していたそうだ。

移動速度を上げられる機能はなく、あくまで慣性の法則によってコロコロ転がり動いていただけだったそうだ。

それが、お掃除ロボットと合体したことで自走できる機能を獲得した。

その上、移動しながら床掃除までも行う。

確かに、

駆動部分は元々お掃除ロボットなのだから掃除して当たり前と言えば当たり前のことなのだが…。


自宅のバリアフリーの室内においては、アリスはどこにでも素早く移動できるようになった。

そしてそれは、アリスの言葉通り四六時中、私の傍に一緒にいることを可能にした。

リビングで寛いでいても、ダイニングで宅配弁当を食していても、風呂に入っていても、トイレで用を足していても、アリスはいつも私の傍にいた。


私には、そのアリスの行動は、不快なものではなかった。

それとは真逆の心象を持っていた。

ただ、その心象が何かと問われても…、どうしても今の私にはそれを表現できる言葉が思い当たらなかった…。

ただ、心の中に色が戻ってきたような…、そんな感じはした。













アリスが変体して2週間ほど経ったある日。

アリスは、欲しいものがあると告げてきた。


「何だろう?」

「ギヤやビスや電線や様々な形のスチール類です。」

「ん?どうするんだい?」

「ワタシの物理的保全と一部動作機能のアップデートのためです。」

「アリスが自ら?」

「はい。ワタシのプログラムに組み込まれています。」

「想像もつかない…。手もないのに一体全体どうやるんだい?」

「今回のは細かな部品だけなので、ライブメタルを線毛のように動かして作業をします。」

「線毛…?」

「線毛は、人間の鼻や気道になどに生えているたくさんの毛状の細胞です。」

「それで?」

「人間の体は、線毛を波打つように動かして異物を排除するするのです。」

「うん…。」

「それに習って、ワタシはライブメタルの表面を線毛のように動かして部品を移動させるのです。」

「凄い!!!アリスを作った人は、まさに天才だ。」

「…。」














アリスの欲した物品は、やはりアリスが自分自身でオーダーし、それは翌日には全て揃った。


「ジロ、これらの梱包を全て解いて、ワタシの指示通りに置いてもらえますか。」

「うん。」


全ての物品が揃ったその夜、アリスはパントリーで私にこう頼んできた。


私は梱包を解きながら、アリスに1品1品確認させ、アリスの指定する場所にそれらを配置していった。


ある部品は円盤部分の上に…。

ある部品はアリスの足下に…。

またある部品はアリスの周辺に…、と…。





パントリーでアリスの指定通りに全ての物品の配置が終わると、「ジロ、ここから出て行って下さい。明日の午後まで絶対ここに来ないで下さい。」と、命じられた。


「…、…、うん…。分かった…。」


この時私は、何かアリスに拒絶されたような感じを受けた…。

その印象は言いしれぬ重い気分になって、私の心を押し潰そうとする…。

そのせいで重たくなった私の体…。

深く沈んだ私の気持ち…。

それらをを無理矢理動かして、私は寝室に向かうしかなかった…。














翌朝…。


私はいつもアリスが起こしてくれる時間よりも早く目覚めていた。

否、寝ていないのかもしれない。

昨夜のアリスのに言いしれない心持ちを抱いたままだった。


いつも私の側にいたアリス…。

そのアリスに距離を置かれた…。


アリスがやろうとしていることは、私には知る由もない…。

想像もつかない…。

メンテナンスだと言う話だった…。

…が、ここにいないでくれと命じられた…。


作業に私が邪魔なことは、今の私でも理解はできる…。

私が傍に居ても何も手伝えないことも、今の私だって分かっている…。

分かっている…。

なのになぜか、言葉にできない鉛色の思いが私の胸を一杯にする…。


心細く…。

心許ない…。

不安定で…。

落ち着かない…。


一晩中…、

そして朝を迎えた今も…、そんな胸中だった…。






『午後まで…、長いな…。』





午後をベッドで待つ間も、無意識にアリスのことを考えてしまう…。

想像できるわけがないのに…、アリスを…、アリスの考えを…、想像してしまう…。

そうしても何も安らがないのに、同じようなことばかりに思いを巡らせてしまう…。

そうすればするほど、重い何かに押しつぶされそうになるのに…。

そんな出口の見えない思考の結果…、私は何がなんだが、もう分からなくなっていた…。





今の私は、ベッドから出ることが、怖かった…。





≪続く≫

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