EP002

翌日の休日は予定した通りに予約しておいた病院へ行った。


ひと月に一度は受診している定期検診だ。

いつものように薄汚れた白い自転車をこいで病院へ向かう。





病院では、いつもの先生に簡単な診察を受け、いつもと同じ問診を受け、それに答え、診断を聞く。

診断結果は、覚えてしまうほど何度も聞かされた内容…。


「悪化も良化もしていない…。」

「経過観察…。」






病院の受付で診断書をもらい、その足で市役所へ向かう。


いつもの窓口で順番を待つ…。

私の番号がモニターに映し出される。

私は診断書を携え、窓口に映し出されているモニター内の女性にそれを提出する。


「高橋さん、まだ更新時期じゃないから、診断書を提出しなくても大丈夫ですよ。」


…、いつもと同じ注意をされた。


私も更新日がまだまだなのは分かっていた。

それは証明書にしっかり記載されているから。

なのに、分かっていても同じことをやらかしてしまう…。














なぜ同じ過ちを繰り返すのか分からないまま、市役所を出て帰路につく。


時刻はもう夕刻。

病院へ行く日は、決まって帰る時間がこれぐらいになってしまう…。


『夕食を調達しなければ…。スーパーに寄っていこう…。』


休日はいつも、近所のスーパーで夕食を調達することにしている。


そう思い、薄汚れた白の自転車に跨りペダルを踏むが進まない…。

ハンドルが、車体が、ふらつく…。


薄汚れた白の自転車を降り、スタンドをかけ観察する…。


『なにも変わりない…。』


チェーンを見る。

赤茶色く錆てはいるが、問題はない。

黒い樹脂製のペダルを手で回す。

カラカラ音はするが、問題はない。

前輪のタイヤを触る。

白っちゃけた黒いタイヤは擦り減っているが、問題はない。

後輪のタイヤを、…、問題あり…。


『空気が入ってない…。』


後輪のタイヤを手で回す。

鈍く光るガラスが刺さっていた。


『パンクだ…。』














こういう時は…、

…。

こういう時は…、

…。






思い出した…。

スーパーの中にある自転車屋に頼むんだ。


元々、帰る途中でスーパーに寄り夕食の買い物をするつもりだった。

偶然にも、好都合。

得心し、安堵できたので、パニックになることなくスーパーまでパンクした薄汚れた白の自転車を押して行けた。














スーパーに着くと直ぐに自転車屋に薄汚れた白の自転車を預けた。

パンク修理を依頼した。


修理時間の間、私は当初の目的通りスーパーで夕食の買い物をした。

自転車のタイヤのパンクの件で疲れたのか、菓子パンや甘いお菓子や、紙パックのカフェオレ以外に無意識のうちに甘い缶チューハイも買い物カゴに入れていた。


酒は飲むのだが、率先して飲む方ではない。

しかし、があるとなぜか飲んでしまう。














夕飯の買い物を済ませ、レジで精算をした後、薄汚れた白の自転車を預けている自転車屋に寄った。


「高橋さん、できてますよ。」


白っちゃけた紺色のツナギを着たいつものおやじさんから声をかけてくる。


「パンクの修理だと駄目そうだったから、チューブを新しいのにしときましたよ。それにタイヤも擦り減ってて、これも新しいのに交換しといたよ。あと、前輪も合わせて交換しといたよ。」


私は白っちゃけた紺色のツナギを着たおやじさんの話に相槌を打つしかできなかった。


「で、今日は、チューブの交換と工賃。タイヤの交換と工賃。これが前後まえうしろだから…。』


白っちゃけた紺色のツナギを着たおやじさんは楽しそうにレジを打っていた。


「しめて、1万2000千円で…、消費税で…、1万と…、3千200百円だね。」


その声とともにレジの引き出しが勢いよく開いた。














「高橋さん。もうぼちぼち買い替えない?こんなレトロな自転車。もうパーツも無いし…。高くついちゃうだけだよ…。」


白っちゃけた紺色のツナギを着たおやじさんが遠くで何か言っている。

言葉は耳に入っているが、内容は全く入ってこない。


「え…、っと…。」


私は一瞬、なにも考えられなくなっていた。

と言うのも、今現在、そこまでのお金を持ち合わせていないからだ。

夕食の買い物の残金が、7千円と少し。


『酒など買わなければ…。』


そう考えたところでもとより、そこまでのお金は財布には入っていなかった。


『どうすれば…。どうすれば…。』


こんなにパンクの修理にお金がかかるとは思っていなかった。

前に修理をお願いした時は2千円ほどだったと…。

私の思い違い…。

とにかく、支払いを…。

スーパーの中にATMが…。


『いけない…。』


兄から、決めた日以外のATM使用は禁止されていた…。

あの日の出来事以来…。


『兄!』


そう言えば、「急に金が入り用になったらこれを使いなさい。」と言われ、持たされているものがあった。


それを財布から恐る恐る出しおやじさんに差し出す。

白っちゃけた紺色のツナギを着たおやじさんは笑顔でそれを受け取るとカードリーダーに当て、私に返してきた。


「いつも、ありがとうね。」


と言う、白っちゃけた紺色のツナギを着たおやじさんの言葉とともに、私の薄汚れた白い自転車は戻ってきた。





≪続く≫

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