第4話 中央市街地区を行く
馬車10台が横並びに走ってもなお余裕がありそうなルゼン大通りは、多種多様な国籍の人々で溢れている。
したがってルゼン大通りには、人間や獣人、ドワーフ、エルフなど、多種多様な人種が集まり賑わっていた。
そんな街の賑わいが寂れた馬車の壁を突き破って鼓膜を震わせる。
戸鞠鳥とまりは馬車の窓から通りの様子を眺め、その活気の熱が立ち昇る人々を嬉しそうに見つめていた。
通りを行き交う人々の表情は、商売で忙しそうであったり、洋服屋のショーウィンドウを覗いて羨ましそうであったり、美味しそうなレストランを見つけて浮足立っていたり様々ではあったが、共通してどの顔にも悲壮感は存在しなかった。そして、そこにはたしかに幸福が満ちていた。
ガタン、ゴトンと、道の
戸鞠鳥とまりは外を見ながら言った。
「いい街だね。みんな楽しそうだ」
紙束の資料に何やら書き込んでいたハロンも、戸鞠鳥とまりにそう言われて、目を細めながら窓の外を見た。
ギラギラと輝く太陽が、突き刺すように窓から光を注いでいる。
「そうか? どいつもこいつも欲望にまみれた顔してるだろ」
ハロンはそう吐き捨てるように答えたが、その表情に
相変わらず無表情のまま、戸鞠鳥とまりは流れていく景色を目で追う。
「希望を持つことはいいことだよ。将来に不安があると、人はどんどん
戸鞠鳥とまりの目は人の歴史を物語っていた。それは希望も絶望もすべてを含む。ハロンは戸鞠鳥とまりの背後にある何かしらの歴史の重みを感じ取り、それが何なのか少しばかり考えていた。
窓から入り込んだ透き通った風が、戸鞠鳥とまりの髪をさらう。
それから馬車は、中央市街地区のさらに中枢へ向かってしばらく走った。
街の中央にそびえ立つ『
「それでボクたちはどこへ向かってるの?」
その言葉を聞いたハロンは、資料から視線を上げると「今更か」と呆れた顔をした。
「第一級調査団の本部だ。あそこならハインツェルの調査結果が集まっているし、機密情報を誰かに盗み聞きされる心配もない」
それからすぐに「あまり行きたくない場所ではあるが」とハロンは付け加えて言った。
戸鞠鳥とまりは「なるほどね」と納得して頷き、それからさらに今更な質問を重ねる。
「だけどさ、そもそもボクみたいな部外者に機密情報を漏らしていいの? ハロンのクビが飛ばない?」
ハロンは首を横に振る。
「それは問題ない。というか、たとえザラド爺から頼まれたとしても、許可がない限りは俺が機密情報を漏らすことはない」
「ふうん。じゃあ許可が出たんだ。凄いね」
「いや、厳密には許可が出たわけでもない」
戸鞠鳥とまりの首を傾げる。
「どういうこと?」
「団長からの命令だ。お前を連れてこいって」
「命令? なんで?」
「俺も知らない」
「団長さんの名前は?」
ハロンは「本当に何も知らないな」と再び呆れた目線を戸鞠鳥とまりに向けてから渋々と答えた。
「フラル・ハイロック。我らが第一級調査団の団長であり、黄路華の六法剣の一つ『ハイロック家』の次期当主だ」
その人物とは出会ったことはなかった。しかし、同時に懐かしさを感じていた。
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