第20話 面白いお嬢様だねぇ



 冒険者登録。そして私たち三人での冒険者パーティー登録が完了した。

 もらった冒険者カード。これは身分証にもなっていて、冒険者ギルドでの依頼、報酬の受け取りなどに使えるのだとか。


 身分証……いや、私は冒険者ですって意味では免許証のようなものなのかな。意味は同じだけど。

 前世では、私は免許を取ることのできる年まで生きられなかったからな。なんか、こういうの嬉しい!


「それでは、説明は以上になります。他にご質問等なければ、早速依頼を受けますか?」


「受けます受けます!」


 依頼、という言葉に私は飛びついた。


 ついに、ついにだ。待ちに待った、冒険者……その依頼!

 冒険者登録したばかりの私たちは、Dランクから始めることになる。Dランクがやることのできる依頼は、先ほどキャンちゃんさんが言っていたように比較的簡単なものに見える。


 ちなみに、この冒険者カードは今は白色だけど、ランクが上がるにつれて色が変化するらしい。

 Cランクが赤褐色、Bランクが銀色、Aランクが金色とのこと。オリンピックかな?


 そしてSランクは、なんと虹色なのだと。すごいよね。


「えぇと、薬草採取、街のお掃除、迷子探し……」


 依頼書を一枚一枚見て、セルティーア嬢が読み上げていく。


 うーん、私としてはモンスターと戦ってみたかったけど……まあ、いきなりそれは早いか。

 まずは冒険者として、経験値を稼がないとね! ゲームみたいにレベルアップできるのかはわからないけど!


「簡単な……いえ、危険のないものにしましょう」


 横から、リーシャーが声をかけてくる。


 リーシャーからすれば、冒険者になることもあまりいい気はしていないはずだ。危ないことなんて以ての外だ。

 それでも、さっきウゼーノにやったみたいにリーシャーなら、ある程度のモンスターも倒せそうな気はする。


「ま、どっちみち最初のうちは危険のない依頼しか受けられないよ」


「……シャル様、まさか本気で冒険者として生きるつもりではないでしょうね?」


 リーシャーが声を落として、私に聞いてくる。

 これは、お嬢様のいっときのお遊び……そう思ったりもしたのだろう。


 だけど、私があんまりに本気だから、改めて聞いてきたのだ。


「本気だよ。私ずっと、冒険者になりたかったんだから」


「……そうですか」


 私の答えを聞いて、リーシャーがどう思ったのかはわからない。

 呆れてしまったのか、それとも……?


 横目でちらっと見ると、リーシャーは少し笑っている……ような気がした。


「……ごめんね、リーシャー」


「え?」


「なんか、流れるままにこんなところに連れてきちゃってさ」


 思えば、セルティーア嬢に冒険者になろうと誘われて……そのとき、リーシャーも含めて賛成した。私が勝手に。

 結局、リーシャーの意思は確かめないままに、今日だって冒険者ギルドに一緒に来てしまった。


 私は、ずっとリーシャーと居たいと思っている。リーシャー本人にだって、その気持ちを伝えた。令嬢じゃなくなっても……冒険者になっても、一緒に居たいと思ってる。

 ただ、それは私個人の気持ちだ。リーシャーがそこまで想ってくれているのかわからない。


「……本当、今更ですね」


 するとリーシャーは、軽くため息を漏らした。

 でも、そのため息は……呆れというよりも、なんだろう。どこか、慈しみを感じさせるような?


「私も、シャル様がどこ居ようと……なにをしようと、共に居るつもりでしたよ」


「リーシャー……!」


「それでも、まさか冒険者などとは思いませんでしたが」


「ぐぅ……」


 リーシャーの気持ちは嬉しい一方、リーシャーの言葉が突き刺さる。


 そりゃ、私が冒険者になりたいって話したの婚約破棄されたその日のことだしなぁ。

 もっと前から話していれば、理解を示して……くれたかは、微妙なところだね。


「お二人とも、この依頼はどうでしょうか?」


「ん?」


 と、私とリーシャーが話している間にも数々の依頼書を見ていたセルティーア嬢が、一枚の依頼書を見せてくる。

 私たちが話している間、なんだか選ばせてしまう形になってしまったな。申し訳ない。


 セルティーア嬢が見せてくれた依頼書の内容を、リーシャーは目を皿のようにして見ていく。

 そんなに食い入るように見なくても……


「……えぇ、これなら問題ないでしょう。シャ……モミジさんはもちろん、セルさんにも危険は少ないかと」


「あっはは、リーシャーさんは心配性なんですねぇ」


 依頼内容を確認し、オーケーを出すリーシャーの姿を見て、キャンちゃんさんが微笑ましそうに言う。

 リーシャーが心配性だと言っているが、心配性どころじゃない。過保護だ。


 当然、私たちの正体には気づいてないわけだから。過保護の理由も分かっていないんだろうけどね。


「それでは、この依頼をお願いします」


「はい」


 依頼書を受け取り、キャンちゃんさんもまたその内容に目を通していく。

 そして、依頼内容を確認し大きなハンコを押す。そのあとには、『受注済み』と書かれた文字が。


 なるほど、受付嬢がこうやって依頼を受注して、それを冒険者がこなしていく。

 それが成功したか失敗したかで、また対応も変わるわけだ。


「依頼には、それぞれ期限が設定されています。その期間内に、依頼を完了してください。依頼が完了したかどうかは、それぞれ記載してある方法で証明していただきます」


「はーい。ちなみに、完了した依頼が期限を過ぎしちゃったら?」


「期限を過ぎた時点で、その依頼書は無効になります。無効になった依頼を達成しても、報酬はお支払いできませんのでご注意ください」


 そっかそっか、それは気をつけないとね。せっかく依頼をクリアしたのに、報酬がもらえなかったら事だ。


 そして、私たちはセルティーア嬢の選んでくれた依頼をこなすために、早速椅子から立ち上がる。

 期限は三日だけど、そんなに待ってられない! 今から行っちゃおう!



 ――――――



 ……新人冒険者モミジ、セル、そしてリーシャー。三人で冒険者登録、そしてパーティー登録を行った彼女たちは、初めての依頼をこなすべく冒険者ギルドから出て行った。


 三人の新人、それもそれが揃って美女揃いとなれば周りからの注目は必至だ。

 冒険者ウゼーノに絡まれていたことや、その一連の流れからも注目を集めていたことに間違いはないが……


 三人を見送ったキャンは、受注した依頼書を見つめつつ、冒険者登録を済ませた新人……モミジの冒険者登録書をもう片方の手に取った。


「しっかし……冒険者モミジって、これ……」


 その顔を見て、思わずため息を漏らした。

 そしてそれは、彼女だけではない。あちこちの冒険者から、笑い声が響く。


「なあ、さっきの冒険者ってもしかして……」


「あぁ、間違いないな」


「なんだって冒険者なんかに?」


 やはりみな、気づいている。

 キャンもまた、改めて彼女の顔を見ながらつぶやいた。


「まったく、相変わらず面白いお嬢様だねぇ……シャルハート様は」


 ……冒険者モミジ。その正体は、みんなにバレバレであった。

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