第22話 特別講義「異世界転移」

「<助手アシスタント>は、異世界からこの世界へと転移した私をサポートするためのスキルなんだ」

「えっ、異世界!?」


 眠そうだったナリーは目をまん丸くして声を荒げ、はっと我に返っては自分の口を手でふさぐ。壁の薄い格安宿では、結構隣の部屋のしゃべり声が聞こえる。隣の部屋も冒険者だろうから、宴の余韻でまだ起きている可能性は高い。しかし、今は体感深夜2,3時なので大きな音を出さないように配慮しなければ。


「あぁ、信じてもらえないかもしれないが、つい最近私は女神から魔王討伐のために、<素数プライム・ナンバー>と<助手アシスタント>スキルを授かり、この世界に召喚された」

「魔王討伐......」


 ナリーは2年間一人で冒険者をやってきたという孤独があった。いや、なんなら彼女は生まれてから今までずっと、呪われたステータスのせいで人に避けられる、人を避けるの人生を歩んできた。そんな彼女が、出会って間もない私に心を開いてくれた。だからこそ、彼女をこれ以上孤独を味わってほしくないし、彼女を見捨てたくなかった。かといって私についてきたら、魔王や四天王との戦闘は避けられない。私はこの孤独と危険の天秤に、知らず知らず悩まされていた。


「つまり、私についてくれば、いずれ魔王と戦うことになるだろう。今日のこと以上の脅威が待ち受けているかもしれない」

「ふーん」


 ナリーはベットに座りながら、じっと無表情で足元の方を見つめ、指でシーツに円を描いている。それがどんな感情を表しているのか、全くわからない。


「だからその、」

「私があなたとパーティーを組むのをやめる、と言うとでも思ってたの?」

「えっ」

「私は広大なこの世界をもっと知りたくて冒険者になったのよ!女神?異世界?魔王討伐?最っ高に面白そうじゃん!!」


 ナリーは熱い眼差しでこちらを見つめてくる。確か彼女はそういう理由で冒険者になったと、今朝話してくれていたな。だとしたって、命を懸けられるほどの覚悟がすぐにできるものなのか?


「それにいくら常識破りのカズタカでも、一人で魔王を倒せるとは到底思えない。基礎ステータスが低すぎるせいで、素数を掛けてもなおB級冒険者程度だし」


 まだ巨大な素数とは出会えておらず、自分でもこのままでは魔王に手も足も出ないとはわかってる。四天王デス・レオンも、私のスキルと相性があまりにも良かっただけにすぎない。この先、より強い敵がどんどん現れるだろうが、それに合わせて十分な素数に出会えるかどうかは完全に運任せである。


「そのうえ、仲間にするならだれだっていいわけじゃない。あなたのスキルやステータスは私以上に特異だよ?下手に晒せば忌み嫌わせるかもしれないし、悪用されるかもしれない。だから、カズタカのことを良く知っていて、強くて、賢くて、お互いを信頼できる人が必要だよね」


 ナリーは自分のことを指さしながら、にっこりと微笑む。あぁ、全くその通りだ。ナリーには私が必要だと勝手に思い込んでいたが、その逆も同様、私にもナリーは欠かせない存在である。ナリーは私が前々から求めていた旅の仲間の条件にピッタリ当てはまる。しかし、魔法が使えるから、素数を理解してるからといった合理的で冷徹な理由ではなく、もっと、もっと深い所にある何かが、ナリーを手放したくないと私に思わせる。


「そうだな、私は今までバカみたいなことで悩んでいたようだ。改めて、私の旅に付き添ってくれないか」

「もちろん、こちらこそ!」


 ナリーはベットから立ち上がり、私と強く握手する。彼女とならどんな難題も乗り越えられると、この瞬間確信できた。


「じゃあ、今日はもう遅い。」

「うん、おやすみ」

「あぁ......、おやすみ」

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