第23話 異形の影

 誰かに体を強く揺さぶられている。もう朝なのか。


「ほら、早く起きて!」

「んあ?」

「寝ぼけてないで、さっさと!」


 まだ寝ていたいのに、布団を無理やり引っぺがされる。一応、私の方が30歳くらい上なんだぞ。


「昼まで寝てたい」

「魔王を倒すんだったら、1分1秒が大事だよ?」

「よくそんなに元気でいられるな。ナリーも寝るの遅かったろ」


 眠い目をこすりながら、ゆっくりと体を起こし、ぐぅーっと伸びをする。そして、近くのテーブルに置いていた眼鏡をつけ、ナリーと目を合わせる。彼女はもうすでに身支度がすんでいるようだった。


「おはよう」

「あぁ......、おはよう」

「早速だけど、今日この町を出ようと思うの」

「えっ、なんでまた急に」

「理由は二つ。一つ目は、魔王復活が近いという噂があるの。半年前からおとなしかった魔王軍が動き始め、四天王自ら戦場に赴くということも増えてきた。昨日のデス・レオンもそうね」

「まだ復活はしてないんだな」

「40年前に魔王は勇者一向によって倒されたのだけど、数年前に魔王軍が発足。わからないことが多いけれど、おそらく、魔王復活のための魔力を集めているんでしょうね。実際、死の毒の池の被害者と思われる冒険者2名はまだ見つかってない。きっと、魔王復活の糧に」

「まじか、デス・レオンも姑息なことをするんだな」


《補足ですが、ナリーやその他被害者を見る限り、死の毒には運動機能を著しく低下させる機能があると思われます》


 確かに、ヘキサウラムのメンバーも、それほどダメージは追ってなかったはずなのに毒を食らったものはみな動けなくなり、その場に倒れこんでしまっていたな。生きたまま冒険者をかっ攫うのにうってつけなわけだ。デス・レオンのステータス的にあまり表立って動けないというのもあるだろうが。


「二つ目は、すでに隣町、リマイン町に怪しい事件が起こっているの」

「どういうことだ?」

「ギルドに来てみればわかるよ」


 そう言うとナリーはギルドの方へと向かってしまった。すごいな、私よりも魔王討伐に躍起になっている。彼女がすでに身支度を終えていたのは、早朝から一人で先にギルドに行っていたからなのか。そんな早くから起きて、睡眠時間は取れているのか?まるで同じ人間とは思えない......。

 私はまだ頭が回っていないなか、小走りでナリーの後についていった。


 ギルドに入ると、さすがに早朝だからか、カウンターのルーシーと見たことない小柄な子供らしい女の人がいた。


「あら、おはようございます、数隆さん」

「あぁ」

「おやおや、そやつが数隆と申すのか」


 ギルドに入るなり、小柄な女性がこちらへと近づいてくる。よく見ると耳がとんがっているし、言葉遣いも子供っぽくない。


「確かにそこそこ強そうじゃな。しかし、例の魔物の方が何倍も強そうじゃった。本当にこやつとナリーが四天王を倒したというのか」

「はい。ほかの冒険者もそう言っていますし、この二人ならやりかねません」

「そうかそうか、懐疑的なルーシーでさえそう言うか。おっ、そうだ。申し遅れていたな。余はゼタ、リマイン町の町長兼ダンジョンの管理者をやっておる」


 ダンジョンか。なんだかおもしろそうな場所だな。


《リマイン町は昔からダンジョンで栄えている町です。ダンジョン内には特有の危険な魔物が存在しますが、様々な武器や魔道具を手に入れられます。さらに、最初に最深部に達した人にはさらなる報酬も用意されています》


「最近また新たなダンジョンが見つかったのじゃが、今日の早朝、異様な魔物がダンジョンの中に入っていくのを見たんじゃ。こんなことは滅多にない。余は様子を見ようと近づいたが、あまりにも邪悪なオーラを纏っていたものですぐに逃げてしまった」

「それが例の魔物ということですか」

「そうじゃ、ナリーにはちょうどここまで説明してたな。問題はその魔物の正体と目的じゃ。まず、奴らの目的はダンジョン最深部の報酬であることは明らかとみてよい。ダンジョンの最深部にはそれぞれ違った初回攻略報酬が用意されておるんじゃがなぁ。参ったことに、そのダンジョンの報酬は『願いを一つ叶える』といったものなんじゃ」

「願いを!?」


 ナリーが興奮し、体が前のめりになっている。しかし、願いを叶えられるというのは私も驚いた。これ以上ない報酬であるとともに、これが魔王軍の手に渡るとなると相当厄介だな。


「ダンジョンの最深部の報酬といえば、この世に一つの装備や魔道具が一般的。しかしその報酬が何かは、攻略されるまでわからないことじゃないんですか?」

「普通の人にはな。しかし、ダンジョンの入り口の壁にはダンジョンに関する情報が古代文字で書かれていたりするんじゃよ。余は冒険者たちのお楽しみのためにいつも秘密にしているだけじゃ」

「そうだったんですね」

「じゃがナリーの言う通り、ダンジョンの初回攻略報酬は人間用の装備や魔道具が多いもんで、到底魔物が欲しがるものとは思えない。確実に報酬が分かってダンジョンに向かっていった。そのような自我を持ち、異様なオーラを放つ化け物......」

「ゼタさんは、そいつが四天王の一人とみているわけですね」

「ごもっとも」


 ナリーの話も踏まえると、やつの目的はおそらく魔王の復活。しかし、デス・レオンに引き続き手口が姑息だなぁ。私はもっと正々堂々と戦うものだと思っていたが。


「ダンジョンのおかげか、わがレマインの戦士は王都クオシェントの次に強いと思っておる。しかし、現在は冒険者の安全のためにA級だろうと一般人の出入りを禁止しておる。余はそこで捜索をお願いできる頼もしい冒険者を探していたんじゃが、ちょうど四天王を倒した冒険者がこの町にいると聞いて飛んできたんじゃ」


 ゼタはキラキラした緑色の石をいくつかちらつかせながら私たち二人の方を見る。


「その石は!」


 ナリーはその石をうらやましそうに見つめる。


「そう、転移石じゃ。一度行った場所に転移することができるダンジョンの有名な魔道具の一つ」

「転移石は消耗品ではあるものの高く値が付くはず......。それをそんなに持っているなんて」

「余もときどきダンジョンへと自ら赴くからな。みな余のことを小さいからと見くびるが、余は冒険者でいうところのA級、下手すればS級の実力はあると思っておるぞ」


 S級!?デス・レオンほどではないが、それでも私たちよりかははあるかに強い。そんな彼女が近づくこともできなかった魔物がダンジョンに入っていったのか。


《人間と魔物とでは強さの尺度が多少異なりますが、おそらくゼタはマスターの十数倍のステータスと推測》


「どうじゃそなたら、余の依頼を引き受けてくれないかね。内容は魔物の正体を暴くこと。もう遅いかもしれないが、攻略報酬にたどり着く前に魔物のことを阻止してほしい。報酬は金貨10枚、そして阻止に成功できれば、攻略報酬を自由にしてよい」

「金貨10枚!?」

「願いをかなえられる!?」


 私たちはその報酬内容にすっかりくぎ付けとなっていた。ナリーの方を見ると、彼女も私の目をまっすぐ見つめていた。どうやら意見は一致しているようだ。


「わかりました。その依頼、引き受けましょう」

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